第55巻・第2号(2003年) 

目次

特集1 工学とバイオ


特集に際して

「工学とバイオ」特集に際して
藤井輝夫



研究解説

マイクロ流体デバイスのバイオ分野への応用
藤井輝夫


In vitro臓器モデルとヒト環境応答評価への利用
酒井康行・迫田章義


分子認識素子として細胞表面に存在する糖転移酵素
畑中研一


生体系から人工系へ−光誘起エネルギー移動系の設計
赤坂哲郎・荒木孝二


遷移金属錯体を用いた窒素固定
溝部裕司・清野秀岳


バイオキャタリストの活性制御
立間 徹・小森喜久夫



研究速報

糖類(トレハロース)の細胞内凍結抑制?
白樫 了


生体分子モータを用いたハイブリッドナノ搬送システム
横川隆司・竹内昌治・昆 隆英・大倉玲子・枝松正樹・須藤和夫・藤田博之


神経電位計測用フレキシブルシリコンプローブアレイ
赤松直樹・鈴木隆文・.満渕邦彦・藤田博之・金 範竣・竹内昌治


長期計測のためのフレキシブル神経束内電極
三井美絵・鈴木隆文・大倉典子・満渕邦彦・竹内昌治


イメージベースト生体内変位場同定
吉川暢宏・中本与一・桑水流理


脳動脈瘤における脳血管形状の血行力学に与える影響の検討
篠崎賢太・大島まり


Image-Based Simulation における脳血管のパラメトリックな形状変形
一條裕紀子・大島まり・吉川暢宏


血流シミュレーションにおける流入条件の与える影響の検討
坂井洋志・大島まり・小林敏雄



特集2 都市基盤安全工学国際研究センター(lCUS/INCEDE)


特集に際して

巨大都市の安全性向上をめざして
魚本健人



研究解説

非破壊試験を活用したコンクリート構造物の劣化診断の高度化
魚本健人


Towards a Model Code for Concrete Structures in Asia-Role of the ICCMC(英文)
Sudhir MISRA



研究速報

コンクリートの熱特性を活用した既設構造物の品質評価に関する研究(1) −コンクリートの熱特性値と塩化物イオンの見かけの拡散係数の関係−
加藤佳孝・小根澤篤志


電力供給量の変動を利用した浸水被害の推定に関する基礎的検討
秦 康範・目黒公郎・高橋健文


Urban Flood Risk Analysis using Distributed Mathematical Model:A Case Study in Yom River Basin Thailand(英文)
Dushmanta DUTTA・Srikantha HERATH


Building Detection in Urban Areas by Fusing High-resolution Satellite Images and Airborne Laser Scanning Data(英文)
Tao GUO・Yoshifumi YASUOKA


異なる時期に観測した航空機レーザスキャナデータを用いた都市近郊の樹林計測
瀬戸島政博


TERRA/ASTERデータを利用した都市の熱環境の分析
越智士郎・中村匡伸・竹内 渉・安岡善文



研究解説

市街地火災における燃焼モデリングと火の粉の飛散性状のCFD解析
黄 弘・大岡龍三・加藤信介・林 吉彦・大竹 宏



調査報告

既存不適格建物の耐震補強奨励制度の検討
吉村美保・目黒公郎・高橋健文



アブストラクト


特集1 工学とバイオ


「工学とバイオ」特集に際して

藤井輝夫



マイクロ流体デバイスのバイオ分野への応用
藤井輝夫



In vitro臓器モデルとヒト環境応答評価への利用
酒井康行・迫田章義

 細胞は,人体を構成する各階層の中で独自の生命体としてみなせる最小単位であり,遺伝子・タンパクレベルの現象をより高階層の生理学的意義のある応答に伝達するプロセスにおいて,重要な位置を占める.そこで当研究室では,ヒトin vitro培養細胞からなる臓器モデルを用い,やや基礎的な利用から非常に具体的な利用をも想定した新規のデバイスとしての開発を進めている.それらについて,周辺動向をも踏まえながら概説する.


分子認識素子として細胞表面に存在する糖転移酵素
畑中研一

 本来は細胞内の小胞体やゴルジ体に存在して,糖鎖の合成を担当している『糖転移酵素』というタンパク質が,細胞表面に顔を出して,分子認識素子として働いている様子を解説する.典型的な糖転移酵素の働きを説明し,三箇所を同時に認識することから非常に優れた認識素子であることを解説する.また,3T3-L1線維芽細胞の表面にはガラクトース転移酵素が多数存在しているのに対して,HeLa細胞の表面にはガラクトース転移酵素がほとんど存在していないことを示し,ウリジンを有するポリスチレンに対する3T3-L1の接着がガラクトース転移酵素を介した可能性について考察する.


生体系から人工系へ−光誘起エネルギー移動系の設計
赤坂哲郎・荒木孝二

 生体有機分子は,細胞や組織中で複雑に組織化された構造を取り,エネルギー伝達や情報処理など極めて高度な機能を示す効率の良い分子システムとなっている.生体機能のエッセンスを抜き出し,生体系が示す高度な機能を人工系で実現するために,我々は入出力シグナルに光を用い,光誘起エネルギー移動系の設計をおこなってきている.本稿では,クロモフォア間の光誘起エネルギー移動を制御する分子スイッチング素子の開発に向けた我々の最近の研究について述べる.


遷移金属錯体を用いた窒素固定
溝部裕司・清野秀岳

 窒素は生体にとって必須であるが,窒素源として豊富に存在する大気中の窒素分子はきわめて安定で,これを原料とする工業的アンモニア合成は,エネルギー多消費型のプロセスである.これに対して,窒素固定能を有する細菌のニトロゲナーゼとよばれる酵素の活性部位には,モリブデン,鉄,硫黄からなる複雑なクラスター骨格が存在し,このサイトで常温常圧で窒素分子,水素イオン,および電子からアンモニアを生成している.その組成や構造を範としながら,遷移金属とその配位子の巧みな設計によりモデル錯体を合成し,それを用いたニトロゲナーゼ反応をめざす研究は,省資源・省エネルギーを可能とする次世代触媒開発の基礎となるものである.


バイオキャタリストの活性制御
立間 徹・小森喜久夫



糖類(トレハロース)の細胞内凍結抑制?
白樫 了

 糖類は高い親水性と生体親和性があることから,凍害防御剤として知られている.とりわけ二糖類であるトレハロースは,細胞膜や生タンパクと干渉することで,高い耐乾燥・凍結能力をもつことが明らかになってきた.本研究では,生理的浸透圧のトレハロース水溶液が細胞に及ぼす効果を,細胞内凍結や細胞外氷晶とのメカニカルストレスの観点から実験的に推定した.その結果,細胞外のトレハロースは,細胞内凍結を抑制する可能性があること,比較的広い冷却速度の範囲で細胞を圧迫しないこと,が推定された.


生体分子モータを用いたハイブリッドナノ搬送システム
横川隆司・竹内昌治・昆 隆英・大倉玲子・枝松正樹・須藤和夫・藤田博之

 我々は,ATPにより駆動する生体分子モータを用いて,マイクロマシーニング技術により製作した微小構造を搬送することに成功した.用いた生体分子モータは,微小管・キネシン系及びアクチン・ミオシン系という二つのリニアモータである.まず,PDMSを用いたソフトリソグラフィ技術によってレール分子のパターニングを実現し,特定領域でのモータ分子の駆動を可能にした.さらにレール分子の上を,モータ分子を付着させた微小構造が搬送される様子を観察した.


神経電位計測用フレキシブルシリコンプローブアレイ
赤松直樹・鈴木隆文・.満渕邦彦・藤田博之・金 範竣・竹内昌治

 生体の行動発現は神経電位の伝達から起こる現象であり,その工学的見地からの解析は非常に興味深いものである.本研究では,活動中の生体において,低侵襲で安定した神経電位計測のため,フレキシブル基板を持つ微小剣山型電極を,MEMS技術により製作した.ポリイミド薄膜をスピンコートしたシリコンウェハに,DeepRIEを用いてプローブアレイを形成し,多チャンネル剣山型を実現するとともに,電極基板の柔軟性を向上させた.また,パリレン樹脂でコーティングすることで基板−電極間の接着強度を高めることができた.


長期計測のためのフレキシブル神経束内電極
三井美絵・鈴木隆文・大倉典子・満渕邦彦・竹内昌治

 自律神経信号の安定した長期計測を目標に,柔軟かつ神経束への刺入が可能なフレキシブル神経束内電極を試作した.フォトリソグラフィ技術を用いて,フレキシブルな75μm厚のポリイミドフィルム上に,神経束への刺入可能なrecording sites(4チャンネル)と神経束に接するground site(1チャンネル)からなる神経束内電極を設計,作製した.作製した神経束内電極の評価実験として,ラット坐骨神経において急性計測を行い、感覚神経信号を計測した。また神経束への刺入実験で``かえし構造"の有効性を確認した。


イメージベースト生体内変位場同定
吉川暢宏・中本与一・桑水流理

 生体材料の数理モデル化を精度よく行うにあたり,X線CTと材料試験機を融合した試験システムより得られる,負荷前後の三次元ボクセルモデルから,生体内部の変位場を同定する方法を検討した.負荷前のボクセルモデルを写像関数により仮想的に変形させ,実際の負荷時のボクセルモデルとの誤差を最小化するとの逆問題を設定する.写像関数に含まれるパラメータを変数として,誤差最小の最適解をSCE-UA法にて探索する.提示した手法の有効性を試験片を用いた例題で検証した.


脳動脈瘤における脳血管形状の血行力学に与える影響の検討
篠崎賢太・大島まり



Image-Based Simulation における脳血管のパラメトリックな形状変形
一條裕紀子・大島まり・吉川暢宏



血流シミュレーションにおける流入条件の与える影響の検討
坂井洋志・大島まり・小林敏雄




特集2 都市基盤安全工学国際研究センター(lCUS/INCEDE)


巨大都市の安全性向上をめざして
魚本健人



非破壊試験を活用したコンクリート構造物の劣化診断の高度化
魚本健人

 現在,都市基盤の重要な資産である既存コンクリート構造物の安全性が問われているが,これらの構造物を維持管理するためにはより高精度な非破壊検査を利用することが必要である.しかし,現在使用されている手法ではその精度は必ずしも十分でなく,新しい考え方に基づく手法の開発が不可欠である.本文では,既存コンクリート構造物の劣化診断を高度化するためにどのような非破壊検査が必要で,現在どの程度まで検査できるかを概説する.


Towards a Model Code for Concrete Structures in Asia-Role of the ICCMC(英文)
Sudhir MISRA



コンクリートの熱特性を活用した既設構造物の品質評価に関する研究(1) −コンクリートの熱特性値と塩化物イオンの見かけの拡散係数の関係−
加藤佳孝・小根澤篤志

 コンクリートの物質移動特性は耐久性能を支配する重要な要因であり,これまで多くの研究がなされている.しかし,既設構造物のコンクリートの品質(例えば水セメント比など)を定量的に把握することが難しいため,既設構造物の物質移動特性を予測する手法が無いのが現状である.そこで,我々は非破壊試験を活用して既設構造物の物質移動特性を定量的に評価する手法を開発することを目的としている.本研究は,この研究の基本的な情報を収集することを目的として行ったものであり,コンクリートの熱特性と塩化物イオンの拡散係数の関係を,実験および解析的に検討したものである.


電力供給量の変動を利用した浸水被害の推定に関する基礎的検討
秦 康範・目黒公郎・高橋健文

 近年,日本各地で水害が多発しており,都市部における水害のリスクは年々高まっている.本研究では,2000年東海豪雨災害を対象として,都市水害による被害と電力供給量の変動の関係について分析し,電力供給量の変動を利用した都市水害の評価手法の有効性について検討した.その結果,電力供給量が浸水被害を反映することが示されるとともに,実際の浸水被害と比較して良好な結果が得られ,電力供給量の変動を利用した都市水害の評価が可能であることが示された.


Urban Flood Risk Analysis using Distributed Mathematical Model:A Case Study in Yom River Basin Thailand(英文)
Dushmanta DUTTA・Srikantha HERATH


 様々な可能なシナリオのための危険分析は,適切な洪水リスク管理システムの設計にとって不可欠である.数学的なモデルは有効に危険分析のために使用することができる.分配された物理的に基づいた水文学のモデルは,GISを備えた研究エリアおよび容易な統合に空間の異成分が存在したと思うそれらの能力により洪水危険分析のための最も適切なモデルであると考えられる.この論文では,都市の洪水危険分析のために設計された分配された数学的なモデルを使用して,タイのYom Basinにある都市のエリアの洪水危険分析の事例研究を示す.


Building Detection in Urban Areas by Fusing High-resolution Satellite Images and Airborne Laser Scanning Data(英文)
Tao GUO・Yoshifumi YASUOKA



異なる時期に観測した航空機レーザスキャナデータを用いた都市近郊の樹林計測
瀬戸島政博

 都市とその周辺との環境の調和や防災対策を考える上で,都市近郊の代表的な樹林として里山が注目されている.このような里山の管理や利活用を進めていくうえで,里山を構成する樹林に関する多岐にわたる面的な空間情報が必要とされる.
 本研究では,落葉前後に観測した航空機レーザスキャナによる面的なデータを用いて地盤高と樹頂高を計測し,その結果を現地実測データと比較照合した.これにより航空機レーザスキャナによる地盤高,樹頂高,樹高の計測精度を把握した.さらに,落葉前後の樹頂高を面的に捉えたDSMを用いて落葉広葉樹林の林分構造の把握について検討した.


TERRA/ASTERデータを利用した都市の熱環境の分析
越智士郎・中村匡伸・竹内 渉・安岡善文

 衛星リモートセンシングデータを用いて,植生のヒートアイランドの緩和効果を定量的に把握するための手法を提案した.人工衛星TERRAに搭載されているASTERデータを利用して,地表面温度を推定するとともに,気象データから気温分布マップおよび風速マップを作成し,これらを用いて顕熱分布マップを90メートルのメッシュサイズで作成した.顕熱分布と植生指標(NDVI)の関係を,東京地域の13の街区において分析したところ,2002年8月10日午前のデータから,NDVIを0.1上昇させることで約90W/m2の顕熱量削減効果があるとの結果を得た.


市街地火災における燃焼モデリングと火の粉の飛散性状のCFD解析
黄 弘・大岡龍三・加藤信介・林 吉彦・大竹 宏

 燃焼反応を考慮した市街地火災気流予測モデルを構築し,火災時の火の粉の飛散性状を予測した.予測するには,火災時の気流を圧縮性流体として取扱い,ファブル平均を使い,高レイノルズ数型標準k- 乱流モデルを用いた.解析した結果,火の粉の飛散は熱上昇気流の強さに大きく影響され,熱上昇気流が大きいとき,火の粉が飛ばされやすくなり,単棟火災よりも2棟火災のほうが火の粉が多くかつ広く運搬されると推論できる.


既存不適格建物の耐震補強奨励制度の検討
吉村美保・目黒公郎・高橋健文




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