生産研究

第５４巻・第３号（２００２年）　

目次

アブストラクト

特集　ERS（耐震構造学）

特集に際して

ITのモノづくり技術貢献への限界
中川威雄

研究速報

マイクロEDMにおける電極消耗
増沢隆久・蔡　曜陽・藤野正俊

　放電加工において，工具の磨耗に相当する電極消耗特性は，加工精度および電極寿命の点から重要である．しかし，マイクロＥＤＭにおいては，その測定が困難なために，放電回路パラメータや電極材料によって，消耗状態がどのように変化するか明らかにされていない．本研究では，実際にマイクロ加工を行い，微細電極の画像データからその特性の概要を明らかにした．

研究解説

押出成形と射出成形における可塑化過程モデル
龍野道宏・横井秀俊

　加熱シリンダ内におけるプラスチックの可塑化過程は，実験・理論の両面から解析され，押出成形に対応する定常的可塑化過程の理論はCAEにまで発展を遂げてきた．一方，射出成形は本質的に非定常現象であり，そのため，押出成形理論の適用は困難で，過渡的現象を的確に捉えた実験解析に基づく新しい理論解析が必要となっている．本稿では，加熱シリンダ内現象の可視化解析手法の概略と押出成形に関する可塑化過程のモデル化研究を紹介した後，押出成形における非定常現象，さらに射出成形の可塑化過程に関する最近の研究について順次解説する．

研究速報

押出成形におけるダイリップ部可視化装置の開発
横井秀俊・那須　哲・室富昭広

二焦点レンズを用いたシリコンウェーハの厚み測定
上村康幸・谷　泰弘・渡部　和・佐藤壽芳

　大口径ウェーハを片面の平面研削盤上に真空チャックし研削後のウェーハのTTVを0.1μｍ以下の精度でオンマシン測定したいという要求がある．本論文では，ウェーハのTTVをチャック面の溝に影響されず高精度にオンマシン測定するために，二焦点レンズとシリコンウェーハを透過する赤外光を使用した方法を提案した．
　この方法では，ウェーハの厚みに対応した裏面と表面からのピーク間距離を対物レンズの移動距離から測定して，ウェーハの厚みを算出した．厚み測定において必要となるウェーハの屈折率は、二焦点レンズを使用して算出することができる．さらに，二焦点レンズの焦点間距離を利用すれば、対物レンズの実移動距離を少なくでき，厚みの高精度測定が可能である．

研究解説

変形加工による組織制御とデジタル・ローリング・プラットフォーム
柳本　潤

　形状の創成と内部機能の創出は，素材・素形材の製造における最も重要な課題であって，これらを同時に最適化するためには，加工条件の設計と合金の成分設計との一元化が必要である．実験的なアプローチのみではこの目的に達することはできないため，内部組織制御に利用できる一元化理論が要求されてきた．今後は，材質形成理論の発展と材料ゲノムの解読を両輪としてデジタル・ローリング・プラットフォームに発展していくであろう，変形加工による組織制御理論を解説する．

研究速報

並進方向に非拘束な自由度を持つ真空対応静電浮上装置の試作
新野俊樹・塚本英隆

　筆者らは真空環境下での摩擦の問題の解決法として完全非磁性かつ無摩擦化が可能な静電浮上を提案しており，これまでに質量440gのアルミ円板の浮上に成功している．本報では，静電浮上の搬送装置等への展開の次の段階として，並進方向に非拘束な自由度を有する静電浮上装置（静電レール）による質量117gの浮上体の浮上が報告される．さらに補助装置の低価格化のために，増幅器と比較的安価な直流高電圧電源とを組み合わせた電圧印加方法が試みられ，浮上に必要な増幅器出力が2100Vから900Vまで低減された．

超音波モータによる超高真空対応回転導入器
－真空中での速度－負荷特性および真空特性－
高橋俊一・森田　剛・新野俊樹

　筆者らは，超高真空中での回転運動発生源として，超音波モータに着目し，回転導入器を開発している．本報ではすでに試作した回転導入器の共振状態を改善し，予圧を2.6Nから11.7Nに増大可能とした結果，大気中での最大トルクは5.5mNmから34ｍNmに改善されたことが示されている．また，真空中での動特性を調べた結果，真空中での駆動に対する問題点が明らかになった．更に，回転導入器を真空容器に取り付けた状態でベーク処理を施し，3×10-7Paに到達．その後， 24時間以上の連続駆動を達成した．

研究解説

自己組織化単分子膜のマイクロマシニングヘの応用
金　範�纊Ε⑤燹．�絅泪鵝Ε罐襯殴鵝．屮襯�

研究速報

リモートパワリングによるマイクロアクチュエータの駆動.
竹内昌治

　マイクロアクチュエータへの選択的無線電力供給について検討した．マイクロマシン技術を利用して，受信側に平面コイルと櫛形静電アクチュエータを一体化した受信機を製作した．受信回路の負荷抵抗が100kΩ以上のとき，出力電圧を45V程度得ることが可能で，アクチュエータを無線で駆動させることができた．また，受信側の共振周波数を異なる値に設定した場合，送信機の周波数を変化させることによって，選択的にエネルギーを供給できることを示した．

原子間力顕微鏡における探針のねじれ固有振動を用いた可視化手法
河岸孝昌・星　泰雄・加藤　篤・川井茂樹・川勝英樹

　原子間力顕微鏡において，せん断ピエゾ素子によりカンチレバーのねじれ固有振動数f0（446kHz）でカンチレバー付け根を加振し，ロックインアンプによりフォトダイオード出力のf0における振幅と位相のマッピングを金表面上のパターニングしたチオール系自己組織化単分子膜について行った．また，像のコントラストと励振振動数の関係を調べるために励振振動数を10kHz，f0±5 kHz，550kHzに変化させ，振幅像や，位相像の比較を行った．f0±5 kHzの励振振動数で，振幅像や位相像において概ねコントラストの反転が見られ，粘性による局所的なQ値の変化や，振動数シフトによる振幅変化の影響が大きいということが分かった．

一般投稿

研究解説

水処理プロセスの改善に向けたバイオアッセイの利用
金　範洙・酒井康行・迫田章義

現在，深刻な汚染が懸念されている環境水に対してバイオアッセイによる毒性評価が適用されようとしている．本論文では，前半で環境汚染の状況を有害物質管理の側面から概説する．後半では，それら有害化学物質の有効な処理手法として導入が進められている酸化処理において，特に処理過程において新たに生じる有害化学物質に着目し，様々な処理操作条件における総括の毒性削減効果を簡単な数理モデルを基にして予測した試みを紹介する．本手法は，バイオアッセイを適用した適切な水環境管理に役立つと期待している．

調査報告

既設30年以上のコンクリート建築物の劣化調査
宮本一成・高羅信彦・林田博明・西村次男・魚本健人

　コンクリート構造物の品質等は，昭和47年に建築基準が改定され，構造安全性や耐久性が大幅に改善された．ゆえにそれ以前の検査データの蓄積は，今後信頼性の高い検査を確立するために欠かせない．そこで本報告では、既設30年以上のコンクリート構造物を対象として，築年数の影響および非破壊検査試験の有効性についてまとめた．その結果，コンクリートの品質は施工された年数により大幅に異なり，また複数の非破壊検査法を併用することにより信頼性のある診断を可能とすることが分った．

研究速報

吹付けコンクリートの特性に関する基礎的研究(19)
－吹付けコンクリートの粒子速度が吹付け性状に及ぼす影響－
石関嘉一・西村次男・魚本健人

　吹付けコンクリートの吹付け速度を解析する目的で，高速度ビデオカメラを用いてノズル先端から噴出するコンクリートを撮影し，吹付けコンクリートの可視化画像を画像処理することによって，吹付け直前のコンクリート速度分布を計測することができた．その結果，吹付け条件の違いによりコンクリートの速度分布および速度の乱れに大きく影響することが確認できた．また，速度および吹付け距離の違いにより吹付けコンクリートの施工性に大きく影響を及ぼすことが確認できた．

吹付けコンクリートの特性に関する基礎的研究(20)
－トンネル施工現場における吹付けコンクリートの強度特性－
大野俊夫・細川佳史・石関嘉一・西村次男・魚本健人

　吹付けコンクリートの強度はコンクリートの材料・配合や施工条件，岩盤条件など様々な要因に影響されるが，合理的な支保設計を行うためにはこれらの影響を定量的に把握する必要がある．今回，実際のトンネル現場で吹付け距離や圧送空気流量を要因として吹付け実験を行い，初期強度や練混ぜコンクリートの供試体及びパネル型枠と岩盤に吹き付けた後のコアについて長期強度試験を行った．この結果，初期強度や長期強度に及ぼす吹付け距離や圧送空気流量，コア採取部位の影響，吹付け作業による強度低減率などを明らかにした．

吹付けコンクリートの特性に関する基礎的研究(21)
－トンネル施工現場における吹付けコンクリート施工時の圧送性－
藤井　剛・細川佳史・石関嘉一・西村次男・魚本健人

　吹付けコンクリートの圧送性を管理するための方法を見出すため，コンクリートの練混ぜから吹付けコンクリートの圧送までの各種実験データに基づき，吹付けコンクリートの圧送性に影響を及ぼす要因を分析した．その結果，フレッシュ性状と積算電力の関係，圧送空気流量やスランプと管内圧力との関係等が明らかになった．

吹付けコンクリートの特性に関する基礎的研究(22)
－ニューラルネットワークによる吹付けコンクリートの品質推定手法の現場適用性－
細川佳史・西村次男・魚本健人

サーモグラフィー法によるコンクリート構造物の検査手法の開発
高羅信彦・魚本健人

　近年，コンクリート構造物の点検は主に目視で行われているが，交通規制等の問題から構造物を破壊せず簡便に検査できるサーモグラフィー法が注目を浴びている．現在ではタイルの剥離検査等に用いられており，コンクリート構造物に生じたひび割れ部の検査に応用した例は殆どない．また現状における問題点として，現場においては熱画像から欠陥部を評価する際，熟練した調査員でも，非常に困難となるケースが多い．そこで本研究ではひび割れ角度の簡易的な推定手法について検討を行った．

24年間供用した鉄筋コンクリート壁高欄の劣化・耐久性調査
渡部聡子・魚本健人

　昭和52年に供用した鉄筋コンクリート壁高欄を対象として，シュミットハンマー法による圧縮強度の推定やコア採取による中性化深さ等の劣化状態の調査を行った．
　目視観察の結果，コンクリート表面のセメントペースト分が欠損していた．しかし圧縮強度は設計基準強度を満足し，配筋は密であり鉄筋腐食も起こっていなかった．これより主な劣化原因は中性化であると推測された．
　既往の中性化速度式より算出した中性化深さと比較検証した．

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