生産研究 2000年1月号

第52巻第1号
(生産研究は、生産技術研究所の研究紹介誌として、毎月1回発行する)

目次

巻頭言

年頭所感 坂内正夫

特集:乱流の数値シミュレーション

研究解説

流体騒音解析の現状と今後の課題
加藤千幸

数値気候モデルによる関東地方の都市気候解析
―建物のalbedoの変化による影響―

金 相?(王進)・村上周三・持田 灯・大岡龍三

研究速報

ESとk−εモデルを結合する試み
―チャネル乱流への適用―

半場藤弘

0方程式RANSモデルを用いたLESの壁面モデルの構築
―チャンネル流による検証―

小林克年・谷口伸行・小林敏雄

回転球殻内乱流ダイナモ
―磁場エネルギーが運動エネルギーに卓越する機構―

加藤浩文・横井喜充・吉澤 徴

円管内旋回乱流の数値解析における非線形k−εモデルの問題点
西島勝一

回転系Rayleigh-Benard対流における乱流ヘリシティー生成機構
小山省司

数値コロモゴルフスケールを用いたSGSモデルの改良
―第1報 モデルの導出―

張 会来・谷口伸行・小林敏雄

数値コロモゴルフスケールを用いたSGSモデルの改良
―第2報 数値検証―

張 会来・谷口伸行・小林敏雄

SGS乱流応力、及び乱流スカラー流束輸送方程式の生成項に着目したLESモデリング
―第一報 渦粘性モデル、渦拡散モデルの構築と差分法による評価―

坪倉 誠・小林敏雄・谷口伸行

SGS乱流応力、及び乱流スカラー流束輸送方程式の生成項に着目したLESモデリング
―第二報 浮力効果の考慮と不安定成層チャネル乱流における評価―

坪倉 誠・小林敏雄・谷口伸行

LESによる斜流ポンプ内部流れの非定常解析
―第一報 解析手法―

加藤千幸・清水勇人・向井 寛・岡村共由

CTを利用した脳内血管流れの数値解析
鳥井 亮・大島まり・小林敏雄・谷口伸行

Two Way Couplingによるチャネル固気混相乱流のLES
雷 康斌・谷口伸行・小林敏雄

バーナ拡散火炎の数値シミュレーション
―乱流拡散火炎LES解析手法の構築―

弘畑幹鐘・伊藤裕一・坪倉 誠・谷口伸行・小林敏雄

簡易圧縮生LESによるサーマルキャビティー内の自然対流解析
白石靖幸・加藤信介・村上周三・石田義洋

生成された変動風を流入境界条件とする2次元角柱周辺流れのLES
飯塚 悟・村上周三・持田 灯・土屋直也

揮発性有機化合物の放散・吸脱着等のモデリングとその数値予測に関する研究
―室内濃度分布計算における吸脱着面のモデル化と数値解析―

山本 明・村上周三・加藤信介

人体の熱的順応を考慮したアダプティブ空調による空調エネルギーのCFD解析
金 泰延・加藤信介・村上周三

対流・放射・湿気輸送連成解析による緑地の温熱環境緩和効果の検討
吉田伸治・村上周三・持田 灯・大岡龍三・富永禎秀


ESとk−εモデルを結合する試み
―チャネル乱流への適用―

半場藤弘

 LES(large eddy simulation)とレイノルズ平均モデルを結合して高レイノルズ数のチ ャネル流の計算を行った。壁近くでは3次元格子を用い1方程式サブグリッドモデルを 計算し、壁から離れたところでは1次元格子を用い標準k-εモデルの計算をした。二 つのモデルを接続するために二つの格子系の一部を重ね合わせた。得られた平均速度 分布は対数則とよく一致し、また壁近くの乱流エネルギーは壁から離れた領域の乱流 エネルギーと滑らかにつながることが示された。

0方程式RANSモデルを用いたLESの壁面モデルの構築
―チャンネル流による検証―

小林克年・谷口伸行・小林敏雄

 LESの計算負荷を低減するための試みの一つとして壁近傍のモデル化が挙げられる.この手法は壁近傍での格子解像度が粗いことを前提に,No-Slip条件のときのように壁近傍でのメカニズムを忠実に再現することを放棄し,その代わり壁面での壁面剪断応力は,壁面モデルを用いてできるだけ精度良く求めるものである.これまでに適応されてきた壁面モデルとして,平板境界層流れ,チャンネル流などの壁近傍において,圧力勾配がゼロのときに成り立つ壁法則が挙げられる.これに対し,Balaras et al.,Cabotは壁近傍を境界層方程式によりモデル化する手法を適用している.本研究ではこの2つの手法とNo-Slip条件を用いてチャンネル流の検証を行った.2つの壁面モデルはNo-Slip条件よりも半分の格子数で,主流方向平均速度に関して良い予測結果を得ることがわかった.

回転球殻内乱流ダイナモ
―磁場エネルギーが運動エネルギーに卓越する機構―

加藤浩文・横井喜充・吉澤 徴

 地球外核のような回転球殻におけるダイナモ作用を、乱流の統計理論に基づいて考察した。本研究で提案したダイナモ過程では、強いα効果のもとで、無力場配位に近い磁場が生成される。このような磁場配位と、クロスヘリシティと結合した磁気歪みテンソルの働きによって、対流のカラム構造は安定に存在し得る。また、クロスヘリシティ効果のために磁場と速度場が揃い、磁場エネルギーは飽和する。そして、磁場エネルギーが運動エネルギーに卓越する状態が実現する。さらに、トロイダル磁場はポロイダル磁場よりも10倍程度強いと評価された。

SGS乱流応力、及び乱流スカラー流束輸送方程式の生成項に着目したLESモデリング
―第一報 渦粘性モデル、渦拡散モデルの構築と差分法による評価―

坪倉 誠・小林敏雄・谷口伸行

 本報においてはYoshizawaらにより提案された手法を用いて、SGSスカラー流束、及び 外力として浮力を考慮した場合のSGS応力、並びにスカラー流束のモデル化を行った 。第一報においては、スマゴリンスキーモデルに替る等方型渦粘性モデルとして既報 において提案したモデルの、Re=590(チャネル摩擦速度とチャネル半幅)のチャネル 乱流における有用性を示した。またSGSスカラー流束モデルとして新たな渦拡散モデ ルを導出し、チャネル乱流におけるパッシブスカラー場に適用し、その有用性を示した。

SGS乱流応力、及び乱流スカラー流束輸送方程式の生成項に着目したLESモデリング
―第二報 浮力効果の考慮と不安定成層チャネル乱流における評価―

坪倉 誠・小林敏雄・谷口伸行

 第二報においては浮力の影響を考慮したSGS応力並びにSGSスカラー流束のモデル化を 行った。ここではSGS応力、並びにスカラー流束の輸送方程式に対して、浮力による 効果を含んだ生成項に対して時間スケールを乗じてモデル化を行った。モデルに含ま れるモデル係数については前報に引き続きダイナミックモデルの手法を用いた。得ら れたモデルを不安定成層チャネル乱流に適用し、DNSの結果に対して浮力効果を考慮 しないモデルと比較したところ、得られた統計量に明らかな改善が観られ、提案した モデルの有用性が示された。

バーナ拡散火炎の数値シミュレーション
―乱流拡散火炎LES解析手法の構築―

弘畑幹鐘・伊藤裕一・坪倉 誠・谷口伸行・小林敏雄

 本研究では火炉内の拡散燃焼場の高精度な予測手法の確立を目指し、乱流拡散火炎のLES解析手法の構築を行った。燃焼モデルには保存スカラ量を用いたFlameletPDFモデルを採用し、低マッハ数近似方程式の解析手法に密度変化を考慮した3次精度ルンゲクッタ法を提案した。バーナ拡散火炎を想定した同軸噴流拡散火炎に対して検証計算を行なった結果、今回提案した解析手法で非定常な乱流拡散火炎が安定に解析できることが示された。

生成された変動風を流入境界条件とする2次元角柱周辺流れのLES
飯塚 悟・村上周三・持田 灯・土屋直也

 LES(Large Eddy Simulation)の工学的応用において、流入境界での風速変動(流入変動風)の生成手法の開発は最大の課題の1つであり、近年では流入変動風の生成に関する研究事例が多く報告されている。本研究では乱れ強さが2%と6%の2種類の流入変動風を波数空間の3次元エネルギースペクトルをターゲットとするLeeらの方法(1992)を用いて生成し、これらを流入条件とする2次元角柱周辺流れのLES計算を行い、流入変動風が流れ場に及ぼす影響について、実験結果との比較に基づき検討した。

人体の熱的順応を考慮したアダプティブ空調による空調エネルギーのCFD解析
金 泰延・加藤信介・村上周三

 人体は環境変化に対する生理調節、行動調節を行っており、室内の環境がある程度変化しても着衣調整をはじめとする自発的な温熱環境調節により、不快感を感じることなくその環境に順応する特性があると言われている。このような人体特性を空調設備の設計に活用すれば、環境制御範囲を相当緩やかにしても温熱環境に関する不満足性を増大させることなく空調運転エネルギーの削減を計ることが可能と考えられる。本研究では、以上のような人体の環境順応性(アダプティブモデル)を仮定して、室内環境制御目標を緩和した場合の室内空調エネルギー削減効果、人体の温冷感指標であるPMV値を目標値に保つための人体の着衣調整等を、室内空調システム制御を組み込んだ対流・放射・湿気の輸送連成解析手法を用いて解析する。


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