生産研究 1999年6月号

第51巻第6号
(生産研究は、生産技術研究所の研究紹介誌として、毎月1回発行する)

目次

小特集:バイオテクノロジー

研究解説

生物に学び分子レベルで電子、光子を探る
大月 穣・荒木孝二

研究速報

Perception of the Vehicle Pass-by Noise on Different Road Surfaces
Anna PREIS・Mutsumi ISHIBASHI・Hideki TACHIBANA・Yasuo OSHINO

重金属ストレスによるイネカルス破砕物中のフィトキレチン誘導
小野由紀人・吉田章一郎・渡辺 正

生体凍結保存における誘電損率の応用
白樫 了・白 香蘭・西尾茂文

バクテリオロドプシンの分子配向制御と光電応答
入江 拓・佐賀佳央・渡辺 正

環境水及び化学物質の複合毒性に関する定量的評価の試み
庄司 良・大村佳子・酒井康行・迫田章義・内海英雄・鈴木基之

バクテリオロドプシンを用いたピコ秒光パルスの電場自己相関測定
芦原 聡・Kestutis Jarasiunas・岡田佳子・志村 努・黒田和男

インドシナ半島における森林伐採が降水に与える影響に関する研究
鼎 信次郎・沖 大幹・虫明功臣


生物に学び分子レベルで電子、光子を探る
大月 穣・荒木孝二

 光合成反応中心や呼吸系に見られる電子伝達系は、単一光子、単一電子に応答し処 理をする、自然がつくり出した生体分子の配列体からなる分子デバイスである。これ らを観察し、原理を学ぶことによって、人工的に分子レベルで電子や光子を操ること のできる人工分子デバイスを作ることが私たちの夢である。分子に基づくデバイスは 、半導体に基づくデバイスとは異なる特徴を備え、互いに相補的な役割を果たすようになるだろう。

Perception of the Vehicle Pass-by Noise on Different Road Surfaces
Anna PREIS・Mutsumi ISHIBASHI・Hideki TACHIBANA・Yasuo OSHINO

 3種類の異なる性状をもつ道路における自動車走行騒音の音圧暴露レベルを測定した。2つの走行速度(高速:80km/hおよび中速:50km/h)における、二種類の自動車(普通乗用車および大型車)から発生する車内外の騒音を録音した。それぞれの実験条件から得られた試験音について、ラウドネス、シャープネス、フラクチュエーションストレングスなどの心理音響物理量を計算した。最後に、聴感評価実験により、被験者に騒音の類似性を判断させた。以上の物理的解析および聴感評価実験の結果から、路面性状の違いによる騒音の大きさの違いについて、音圧暴露レベルに基づく評価と心理音響パラメータに基づく評価が一致するかどうか、また、それらの評価が被験者の判断とどの程度の相関をもつかについて調べた。

重金属ストレスによるイネカルス破砕物中のフィトキレチン誘導
小野由紀人・吉田章一郎・渡辺 正

 重金属ストレス下で植物が合成するフィトキレチン(PC)の機能解明を最終目的に、イネカルスから粗抽出したPC合成酵素によるPCのin vitro合成を逆相HPLCで調べた。CdとCuはPC誘導挙動に明確な差があり、また両者の共存がPC合成に抑制作用を示すことが明らかになった。

生体凍結保存における誘電損率の応用
白樫 了・白 香蘭・西尾茂文

 冷凍食品をはじめとする凍結保存された生体(食品)を、解凍後も必要な機能を保つ様にするためには、均一且つ急速な解凍が望ましい場合が多い。本研究では、解凍対象である生体が80%以上水分を含んでいることから、氷の複素誘電率を周波数50Hz-5MHz、温度-60度から-2度の範囲で測定し、1次元熱伝導モデル計算により、均一急速解凍に与える影響について考察した。結果、誘電損率が温度に対して単調減少であるような周波数が均一解凍には望ましく、3MHz、5MHzでその傾向が見られることが分かった。

バクテリオロドプシンの分子配向制御と光電応答
入江 拓・佐賀佳央・渡辺 正

 バクテリオロドプシン(bR)の分子配向を制御してSnO2電極上に固定化し、その光電応答を調べた。光照射の瞬間と照射終了の瞬間にのみ発生する一過性の光電流の極性はbRの分子配向に依存せず、光電流強度のみが分子配向に依存した。プロトン放出側が電極表面を向いた場合は、取り込み側が電極表面を向いた場合より光電流強度が大きくなった。この結果から、bRの分子配向制御がbR固定化電極の高感度化に寄与する可能性が示された。

環境水及び化学物質の複合毒性に関する定量的評価の試み
庄司 良・大村佳子・酒井康行・迫田章義・内海英雄・鈴木基之

 様々な化学物質によって汚染されている環境水の毒性評価についてバイオアッセイの利用が望まれている。本研究では、細胞生存率試験で180種類の化学物質と河川水の毒性を評価し、得られた用量作用曲線を定式化した。更に、2成分または多成分系の複合毒性を、構成成分の定式化された用量作用曲線の組み合わせによって表現することを試みた。一部の例外を除いて概ね高い相関性で毒性を表現することができた。本手法を発展させることで、環境水のバイオアッセイ評価から、リスク削減に必要な情報を得ることができると考えている。

バクテリオロドプシンを用いたピコ秒光パルスの電場自己相関測定
芦原 聡・Kestutis Jarasiunas・岡田佳子・志村 努・黒田和男

 生体材料であるバクテリオロドプシンを用い、モードロックNd:YAGレーザーのピコ秒光パルス(波長532nm)の電場自己相関測定を行った。自己回折配置において強度グレーティングを用いた測定と偏光グレーティングを用いた測定を行い、それぞれが良好に機能することを確かめた。バクテリオロドプシンは試料の作製が容易であり、可視域の広い範囲で高感度に応答し、また偏光グレーティングの記録が可能であるため、電場自己相関計の材料として非常に有用である。

インドシナ半島における森林伐採が降水に与える影響に関する研究
鼎 信次郎・沖 大幹・虫明功臣

 1951--94年のタイの月観測降水量データを分析し, タイの水資源の長期変動傾向を調べた. その結果, 9月に特に顕著な傾向--長期減少傾向--を発見した. これはこの数十年タイで進行してきた森林伐採によるものであろうと考え, この仮定に基づいた地域気候モデルによる「森林伐採」数値実験---タイ東北部を森林あるいは草地と仮定した---を行った.数値実験は8月と9月の対比という形式で行った. 数値実験結果では確かに9月は森林伐採によって降水量が減少しており, 観測事実と良く対応することが確かめられた.

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