生産研究 1999年3月号

第51巻第3号
(生産研究は、生産技術研究所の研究紹介誌として、毎月1回発行する)

目次

巻頭言

成果の上がる共同研究への期待 中川威雄

特集:プロダクション・テクノロジー

研究解説

人機能支援工学の構築と生産分野への展開
木内 学

研究速報

バルク金属とピン・フィン材との半溶融接合
(半溶融接合に関する研究・2)

木内 学・柳本 潤・杉山澄雄

バルク金属と粒子・繊維との半溶融接合
(半溶融接合に関する研究・3)

木内 学・柳本 潤・杉山澄雄

マイクロカプセルを利用したラッピング砥石によるメカノケミカル研磨
榎本俊之・谷 泰弘

金属粉末を添加したレジンボンドダイヤモンドワイヤ工具の開発
榎本俊之・谷 泰弘・神田雄一

ゲート流量計の開発
横井秀俊・金藤芳典

大型三次元可視化金型によるボスキャビティ樹脂流動挙動の解析
松田 元・横井秀俊

共回転定式化による板圧延の有限変形弾塑性FEM解析
柳本 潤・木内 学・王 飛舟・中野昌則

Microstructure Simulation in Hot Open Die Forging
by Using the Incremental Formulation(Preliminary Report)(英文)

柳本 潤・木内 学・杉山 澄雄・柳田 明・オスバルド=ロペズ=ヒメネズ

棒鋼圧延時の結晶粒粗大化機構の解析
(熱間圧延時における金属材料内部組織変化に関する研究 ― V)

柳本 潤・劉 金山

レーザダイオードの戻り光の計測への応用に関する研究
福田智史・クリストフ=ゴーレキ・ドミニク=ブーション・星 泰雄・川勝英樹

結晶格子を基準としたリニアエンコーダ
星 泰雄・川勝 英樹


人機能支援工学の構築と生産分野への展開
木内 学

 人間の諸機能・諸能力を支援し、人間に新たな力と可能性を与えることを目指す「人機能支援工学」の開拓が進められている。「人機能支援工学」が取組む課題は、いずれも人間にとって必然的な意義を有するものであり、得られる結果は普遍的価値を有する。よって、人間社会の「調和」と「共生」を実現する基盤工学の一つとしてこれからの発展が期待できる。生産技術や製造業の閉塞感に悩まされている今、かかる新しい視点に立つ「工学」「技術」を大きく構築し、育てていかなくてはならない。

バルク金属とピン・フィン材との半溶融接合
(半溶融接合に関する研究・2)

木内 学・柳本 潤・杉山澄雄

 半溶融金属には、材料内部に液相成分を含有するため硬さが自由に調整でき、かつ、他の金属あるいはセラミックス粒子との接合性に優れるなどの特長がある。本研究では、これらの特長を利用し、アルミニウム合金のバルク材にピンおよびフィン形状の各種金属材料を多数本(枚)接合させる問題に取り組み、その可能性ならびにバルク金属の接合温度および温度保持時間などの条件が接合強度におよぼす影響について検討した結果を示す。

バルク金属と粒子・繊維との半溶融接合
(半溶融接合に関する研究・3)

木内 学・柳本 潤・杉山澄雄

 筆者らが提案している半溶融接合法は、半溶融状態にあるバルク金属(一方の被接合材)の適度な軟らかさを利用し、これに他方の被接合材を挿入または圧入し冷却凝固させて接合する方法である。本研究では半溶融状態にあるA2011バルク材に、セラミック粒子、セラミック球、金属球、金属ファイバー等を接合(積層)させる場合、について検討した結果を示す。

マイクロカプセルを利用したラッピング砥石によるメカノケミカル研磨
榎本俊之・谷 泰弘

 この論文はアルミニウムや銅などの軟質金属の鏡面仕上げを可能にするラッピング砥石を提案する。パーフルオロポリエーテルオイルはアルミニウムに対してトライボケミカル反応を示す。そこでこのオイルをカプセル化しラッピング砥石に内包させ、加工点に供給することにした。ラップ加工の結果、除去能率および仕上げ面粗さが向上した。また工作物表面を分析した結果、トライボケミカル反応が生じていることも確認された。さらにこの結果がシリコンウェーハの加工においても適用できることを示した。

金属粉末を添加したレジンボンドダイヤモンドワイヤ工具の開発
榎本俊之・谷 泰弘・神田雄一

 半導体デバイスの生産性向上やコスト削減のためシリコンウェーハが大口径化するにつれ、シリコンインゴットの切断技術としてワイヤソー方式が従来の内周刃方式に取って代わりつつある。しかし現行の遊離砥粒方式は作業環境が悪く生産性も低いため、その欠点を補うべく固定砥粒ワイヤ工具が開発された。ただし電着ワイヤ工具はコスト面に、レジンボンドワイヤ工具は耐摩耗性・耐熱性に依然課題を抱えており実用化に至っていない。そこで、金属粉末を結合剤樹脂中に添加したレジンボンドダイヤモンドワイヤ工具を開発しその切断特性を評価した結果、特に破断ねじり強度や加工面粗さの向上といった良好な結果を得たので、ここに報告する。

ゲート流量計の開発
横井秀俊・金藤芳典

 射出成形における金型内樹脂流動挙動を解明するためには、射出過程でゲート部を通過する樹脂の流量を動的に計測することが重要である。本研究では、ゲート着磁法に基づいたゲート流量計の開発を試みた。ピックアップコイルおよび鉄芯、永久磁石から構成されるゲート流量計が、ゲート部に設置されている。樹脂に混練された磁粉が、ランナ内で着磁される。着磁された樹脂がゲート部を通過する際に、誘導起電力がピッアップコイルに発生する。この起電力を計測することによって、ゲート部での樹脂挙動を定量的に把握することができる。

大型三次元可視化金型によるボスキャビティ樹脂流動挙動の解析
松田 元・横井秀俊

 大型三次元可視化金型により、ボス形状キャビティにおける板面部およびボス内部の樹脂充填挙動の2方向同時観察を行い、ポリプロピレン、ポリスチレンでの充填パターンの比較検討を行った。その結果、ボス部充填時に生成される分岐流による板面部での樹脂速度低下、ボス部充填完了直後の板面部での樹脂速度上昇、さらに、その後、板面部からボス深さの1/3〜1/2にかけての領域に樹脂の流路が形成されることなど、両樹脂に共通して特徴的な現象を確認した。

共回転定式化による板圧延の有限変形弾塑性FEM解析
柳本 潤・木内 学・王 飛舟・中野昌則

 圧延加工等における弾塑性FEM解析では、一般に速度形定式化が採用されているが、この定式化は増分サイズに様々な制限を与える必要があり、解析効率があまり良くない。これに対し、1ステップでの増分を大きく取り、解析効率を上げることを目的として、回転を除いた変形に対してひずみ、および応力を計算する方法、すなわち共回転定式化が提案されている。本報では共回転定式化を導く過程ついて簡単に触れ、この定式化に基づいた2次元板圧延についての計算を行い、本定式化の特性を確認した結果を示す。

Microstructure Simulation in Hot Open Die Forging by Using the Incremental Formulation(Preliminary Report)
柳本 潤・木内 学・杉山 澄雄・柳田 明・オスバルド=ロペズ=ヒメネズ

 鋼の熱間加工において、加工中ならびに加工後のオーステナイト粒径の分布と、製品の硬さ・靱性などの機械的特性とは強い相関関係がある。本研究では、丸棒鋼を想定し、熱間自由鍛造における材料の内部組織(オーステナイト粒径)予測に関する研究を、動的/静的再結晶現象の増分式を用い行った。加工中の動的/静的再結晶の判定は、Zener-Hollomonパラメターを用い行った。定圧縮率(56%)での、経過時間に対するオーステナイト粒径分布の変化について解析結果と実験結果を比較し、検討を行った。

棒鋼圧延時の結晶粒粗大化機構の解析
(熱間圧延時における金属材料内部組織変化に関する研究 ― V)

柳本 潤・劉 金山

 本文には、増分形内部組織予測モデルを用いて、棒鋼圧延時の結晶粒粗大化の原因を検討した結果を示す。静的再結晶と結晶粒の粗大化の関係を分析し、静的再結晶率と静的再結晶粒径を用いた結晶粒の粗大化の判断因子を提案した。また、三次元塑性変形解析システム(CORMILL System)により、温度−内部組織変化の連成解析を行い、軽圧下時での結晶粒の粗大化を確認した。加えて、複数パスサイジング圧延について、ひずみの累積効果を検討した。

レーザダイオードの戻り光の計測への応用に関する研究
福田智史・クリストフ=ゴーレキ・ドミニク=ブーション・星 泰雄・川勝英樹

 レーザダイオードに、その出射光の10-5から10-8程度のわずかな光量を戻すことにより、レーザの発振状態が変化する。これにより、光を戻している反射面の光学的特性や、変位を計測することが可能である。このような研究は1980年代より行われている。本研究では、わずかな戻り光に対してレーザが反応することを応用して、数10nmから100nm程度の、小さいターゲットの変位を計測する。微小物体の変位計測に適した条件を把握する。将来的にはナノメータオーダの機械振動子にレーザ戻り光式変位計をその変位検出に用いる予定である。

結晶格子を基準としたリニアエンコーダ
星 泰雄・川勝 英樹

 結晶格子の規則正しい原子のならびは、汎用性の高い長さの基準として用いられる可能性を有する。本研究者らは従来より走査型トンネル顕微鏡(STM : Scanning Tunneling Microscope)を用いた比較測長の研究を行ってきたが、本報では原子間力顕微鏡(AFM : Atomic Force Microscope)を用いたリニアエンコーダの実現方法について報告する。接触モードAFMで大気中における雲母を観察した結果、AFMカンチレバーのねじれ信号が非常によく結晶格子の規則性を表していることを確認した。AFMによる方法は高速の走査に対しても比較的安定で、ねじれ信号から変位の方向も得られるという利点がある。


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