生産研究 1999年2月号

第51巻第2号
(生産研究は、生産技術研究所の研究紹介誌として、毎月1回発行する)

目次

研究速報

2次元パイエルス・ポテンシャル中のらせん転位の運動
枝川圭一・鈴木敬愛

α線トラック・エッチング法によるMo中のBの可視化
斎藤秀雄・森 実

磁気式通行券データを利用した高速道路旅行時間演算方法に関する研究
大場義和・上野秀樹・桑原雅夫

都市内高速道路における合流部交通容量の決定要因分析
マジット サルビ・桑原雅夫

兵庫県南部地震の被害分析
―その10 建築年代を考慮した木造建物被害に基づく灘区の地震動分布―

村尾 修・山崎文雄

面架橋セレニド配位子を有するルテニウム三核クラスターの合成とその構造
溝部裕司・土岐健一・桑田繁樹・干鯛眞信


2次元パイエルス・ポテンシャル中のらせん転位の運動
枝川圭一・鈴木敬愛

 2次元パイエルス・ポテンシャル中のらせん転位の熱活性化運動を調べた。熱活性化過程における転位の鞍部点配置及びそのときの活性化エネルギーを求める方法を定式化した。この方法を応用して、bcc格子中の<111>らせん転位の運動を(111)面に単純な3回対称のパイエルス・ポテンシャルを仮定して調べた。計算結果はbcc遷移金属の塑性データの特徴的な点をよく再現している。

α線トラック・エッチング法によるMo中のBの可視化
斎藤秀雄・森 実

 モリブデン(Mo)中のボロン(B)可視化は熱中性子照射(10B(nα)7Li)によって明らかにした。Bは結晶粒界またはマトリックス相に偏析し、B濃度を変えてB量の頻度分布を観察するとB濃度の低いものよりも高い方が結晶粒界三重線近傍または母相中に均等に分布していることが分かった。

磁気式通行券データを利用した高速道路旅行時間演算方法に関する研究
大場義和・上野秀樹・桑原雅夫

 本研究は、高速道路を対象に料金所にて使用されている磁気通行券から得られるデータを使用し、旅行時間を演算する方法の開発を行ったものである。まず、旅行時間データの特異点(PA、SAに立ち寄った車や平均的な速度から大きくはずれた速度で走行していると思われる車両の旅行時間)を除去する方法を提案した。次に、演算値の信頼区間をサンプル数と関連づけて分析した後、サンプル数の少ない区間における旅行時間の演算方法を考察した。最後に、フィールドデータを用いて、提案した方法を検証した。

都市内高速道路における合流部交通容量の決定要因分析
マジット サルビ・桑原雅夫

 本研究は、首都高速道路の合流部の交通容量を車両感知器データに基づいて実証的に分析したものである。まず、単路部交通容量と比較した結果、合流部容量は一般的に低いことがわかった。また、合流部容量は、合流車線のテーパー長とは相関が見受けられたが、加速車線長との相関、および合流する2方向の縦断勾配差と合流容量との相関はあまり明確には現れなかった。さらに、2方向の交通量の割合と容量との関係を分析した結果、2つの交通量がバランスすると容量が低下する傾向が観察できた。以上の検討は、本研究の中間的な結果であるので、今後より長い期間の感知器データを用いて以上の結果を確認する必要がある。

兵庫県南部地震の被害分析
―その10 建築年代を考慮した木造建物被害に基づく灘区の地震動分布―

村尾 修・山崎文雄

 兵庫県南部地震についての強震記録は、地域の地震動分布を求めるに充分なほどは得られていない。山口・山崎は、強震記録と建築研究所がまとめた建物被害データを用いて、阪神地域の地震動を推定した。しかしそのデータには建築年代の区分がないため、推定された地震動は地域による建築年代ごとの建物分布の影響を受けていると思われる。本研究では、神戸市の建物被害データに基づく建物被害関数を用い、建築年代を考慮した地震動の再推定を行った。その結果、建築年代ごとの建物分布の影響による推定誤差の少ない高精度の地震動を推定することができた。

面架橋セレニド配位子を有するルテニウム三核クラスターの合成とその構造
溝部裕司・土岐健一・桑田繁樹・干鯛眞信

 ルテニウムカルボニルクラスター[Ru3(CO)12]を過剰のセレンおよび トリベンジルホスフィンとトルエン中還流条件下で反応させることに より、面架橋したセレニド配位子を2つ含む新規なルテニウム三核ク ラスター[Ru3(m3-Se)2(CO)6{P(CH2Ph)3}3]を合成できることを見出し、その構造の詳細を単結晶X線解析により、また溶液中での挙動 をNMRにより明らかにした。


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