生産研究 1999年1月号

第51巻第1号
(生産研究は、生産技術研究所の研究紹介誌として、毎月1回発行する)

目次

巻頭言

年頭所感 坂内正夫

特集:乱流の数値シミュレーション(NST)その15

研究解説

電場効果によるプラズマ乱流熱輸送の抑制
横井喜充・吉澤 徴

環境緩和効果を総合的に組み込んだ新しい3次元樹木モデルの開発
―屋外環境共生空間の数値解析―

吉田伸治・村上周三・持田 灯・大岡龍三・富永禎秀

研究速報

圧縮性一様剪断乱流の圧力揺らぎの効果
半場藤弘

3次非線形k-εモデルによる外壁が回転している円管内旋回乱流の数値解析
西島勝一

振動翼まわりの流れ解析
伊藤裕一・谷口伸行・田中和博・小林敏雄

燃焼器内乱流場のラージ・エディ・シミュレーション
(燃焼室内の保炎器形状の違いによる検討)

高 相普E小林敏雄・谷口伸行・大塚雅哉・池川昌弘

一般曲線座標系における非圧縮性乱流数値解析に適した差分スキーム
―第6報 修正コロケート格子系差分スキームの4次精度化とチャンネル内乱流による一般座標系差分スキームの検証―

小垣哲也・小林敏雄・谷口伸行

LESによるエンジンポートの数値解析
張 会来・小林敏雄・谷口伸行

数値シミュレーションによる脳血管内流れの解析
鳥井 亮・大島まり・小林敏雄・谷口伸行

ダイナミックSGSのG方程式燃焼モデルによるチャンネル内予混合乱流燃焼LES
朴 南燮・小林敏雄・谷口伸行

One Way Couplingによるチャネル固気混相乱流のDynamic LES
雷 康斌・谷口伸行・小林敏雄

対流・放射・湿度輸送と空調システム制御の連成シミュレーション
―作用温度一定条件での空調負荷の評価

金 泰延・加藤信介・村上周三

乱流境界層を対象としたLESのための流入変動風の生成法に関する研究
―流入変動風生成時のパワースペクトル、クロススペクトルの再現精度が計算結果に及ぼす影響―

近藤 宏二・持田 灯・村上 周三・土谷 学

都市火災伝搬における火の粉飛散の数値解析
白石靖幸・加藤信介・村上周三・吉田伸治・林 吉彦

CFD解析による受動喫煙性状の検討
林 立也・加藤信介・村上周三・曽 潔


環境緩和効果を総合的に組み込んだ新しい3次元樹木モデルの開発
―屋外環境共生空間の数値解析―

吉田伸治・村上周三・持田 灯・大岡龍三・富永禎秀

 市街地空間の気流・温熱環境予測に適合可能な新しい3次元樹木モデルの開発を行った。本モデルでは、@樹木の流体力学的影響 (風速低下と乱れの増加)、A樹木による放射減衰の効果、B樹木からの潜熱発生を含む熱収支の影響の3つの環境緩和効果を組み込んだ。次に、開発した3次元樹木モデルを用いて、市街地空間内における樹木の気流分布への影響や温熱環境の緩和効果について検討した。

圧縮性一様剪断乱流の圧力揺らぎの効果
半場藤弘

 一様剪断乱流のDNSを行い乱流マッハ数による成長率の減少の機構を考察した。減少の直接の原因は圧力歪み相関項の変化によりレイノルズ応力の非等方性が変わり、エネルギー生産項が減るためである。そこで圧力歪み相関項に強い関連を持つ圧力分散の発展方程式について調べた。乱流マッハ数によって圧力スペクトルの分布が異なり、散逸項の大きさの違いができることがわかった。また統計理論を用いて圧力分散散逸項と圧力膨張相関項のモデル化を試みた。乱流場の非定常性が圧力膨張相関項を通じて圧力揺らぎを大きくすることが示された。

3次非線形k-εモデルによる外壁が回転している円管内旋回乱流の数値解析
西島勝一

 統計理論的に導出された、歪み速度テンソルと渦度テンソルに関わる3次非線形渦粘性表現k-εモデルを提起する。このモデルを、外壁が回転している直円管内の発達した旋回乱流の解析に適用し、結果を実験値や2次および通常k-εモデルによる解析値と比較検討する。その結果、旋回乱流の特性再現にとって、3次の項が重要な役割を果たしていることを明らかにする。

振動翼まわりの流れ解析
虫明功臣

 昆虫や小型の鳥などのまわりの流れのような比較的低Re領域では、積極的にはく離させ、それによって発生する渦により高い揚力を得ているということが近年の研究によりわかってきている。そこで本研究ではこのRe領域に注目し、ピッチングによる影響を調べることを目的とし、ピッチングする翼まわりの流れを数値解析を行うと同時に、シュリーレン可視化装置による可視化結果との比較を行った。これにより、フローパターンや渦発生数においてよい一致が見られ、また、翼からのはく離渦が大きな流体力をもたらすことがわかった。

燃焼器内乱流場のラージ・エディ・シミュレーション
(燃焼室内の保炎器形状の違いによる検討)

伊香賀俊治

 本研究はLESによる燃焼器内流れ、特に保炎器形状の違いが燃焼流れに及ばす影響を調べたものである。計算は2つのケースに対して行われ、まず一般曲線座標系格子を用いて円盤型の保炎器を対象として行った。また、円筒座標系格子による円盤型保炎器の前面に45°の切断面を持つ形状に対しての計算を行い、その2つの結果の比較を行った。本計算のレイノルズ数は5000であり、スマゴリンスキーモデルを用いた。その結果、保炎器の形状の違いは保炎器背面の再循環領域の大きさに影響を及ばすことがわかった。また、本研究の結果に対しては可視化手法を用いて燃焼器内乱流挙動の体系的な検討を行った。

一般曲線座標系における非圧縮性乱流数値解析に適した差分スキーム
―第6報 修正コロケート格子系差分スキームの4次精度化とチャンネル内乱流による一般座標系差分スキームの検証―

小垣哲也・小林敏雄・谷口伸行

 本報では、第5報において構成された一般座標系における修正コロケート格子系差分スキームの空間4次精度化を紹介するとともに、一般座標系におけるスタガード格子系および修正コロケート格子系差分スキームの実際の非圧縮性乱流場への適用例として、平行平板間内流れのDNSを行い、格子の不等間隔・非直交性による解の影響を調査した。その結果、修正コロケート格子系差分スキームは、レイノルズ応力収支式の圧力ひずみ相関項の計算精度が改善されることによって、統計量の信頼性が向上するとともに、計算格子の非直交性の影響を受けにくい優れた特性を持つことがわかった。従って、複雑形状乱流場に対する一般座標系における非圧縮性乱流数値解析手法として修正コロケート格子系差分スキームが最も適している。

ダイナミックSGSのG方程式燃焼モデルによるチャンネル内予混合乱流燃焼LES
朴 南燮・小林敏雄・谷口伸行

 多くの実用燃焼流れでは層流火炎片 (laminar flamelet regime)モデルが成り立つとされる。この場合、予混合燃焼の火炎面 は未燃ガスと既燃ガスと分ける無限に薄い面 として扱うことができ、火炎面は火炎の存在を示す変数Gの輸送方程式によって表現できる。本研究では、実用燃焼に対するLESの計算手法の確立を目的として、G方程式のdynamic SGS燃焼モデルを用いてチャンネル乱流に対する予混合乱流燃焼のLES計算を行い、解析手法の詳細および解析結果 について示す。計算はチャンネルの中心部から壁へ向けて火炎が伝播する非定常の予混合燃焼流れを対象として、チャンネル内予混合乱流燃焼のLESを行い、反応率モデルに基づく燃料の質量分率輸送方程式を解いたDNS結果と比較した。G方程式のダイナミックSGS燃焼モデルによる乱流火炎速度の予測はDNS結果とよく一致した。

One Way Couplingによるチャネル固気混相乱流のDynamic LES
雷 康斌・谷口伸行・小林敏雄

 固気混相乱流解析において汎用性の高い数値解析手法としてのLESを位置付けるため、One Way Couplingによるチャネル固気混相乱流のDynamic LES解析が行われた。計算Re数は、摩擦速度とチャネル半幅で定義した180であり、流体計算のSGSモデルは、Dynamic Smagorinsky Eddy Viscosity モデルを用いた。固体粒子の運動は、希薄固気混相流に限るため、重力と抗力しか考慮していない。LESの計算結果から、乱流中の固体粒子が特有領域に集積する現象が再現され、粒子の平均速度と乱れ強度は、DNSの計算結果(Rouson and Eaton, 1997)と定性的に一致することが分かり、固気混相乱流におけるLESの有効性を確認された。

乱流境界層を対象としたLESのための流入変動風の生成法に関する研究
―流入変動風生成時のパワースペクトル、クロススペクトルの再現精度が計算結果に及ぼす影響―

近藤 宏二・持田 灯・村上 周三・土谷 学

 本論文は、生成した流入変動風と風洞実験のクロススペクトルマトリクス(空間相関)の一致度が、乱流境界層のLES計算結果に及ぼす影響について調査した。ここでは、2種類のクロススペクトルマトリクスを目標値として生成した流入変動風を用いて、平板乱流境界層のLES計算を行った。その結果、空間相関を精度良く再現した場合、流入変動風を用いたLES計算から求めた統計量は、規定した目標値を満足することができた。しかしながら、空間相関の一致度が悪い場合、計算された統計量は、目標値を満足できなかった。

都市火災伝搬における火の粉飛散の数値解析
白石靖幸・加藤信介・村上周三・吉田伸治・林 吉彦

 都市火災伝搬は、主に火炎からの熱放射と火の粉飛散による「飛び火」により生ずる。本研究は、火の粉飛散による飛び火現象の物理モデルを作成し、建物周辺気流のCFD解析と連成させて都市火災伝搬を解析する。火の粉の風による飛散は、火の粉がある程度小さく、通常の粉塵飛散と同様に見なせる場合及び見なせない場合に関して検討を行う。今回の検討結果は都市火災の飛び火による延焼危険度を実時間予測するシミュレーション手法の基礎となる多くの実用燃焼流れでは層流火炎片 (laminar flamelet regime)モデルが成り立つとされる。この場合、予混合燃焼の火炎面 は未燃ガスと既燃ガスと分ける無限に薄い面 として扱うことができ、火炎面は火炎の存在を示す変数Gの輸送方程式によって表現できる。

CFD解析による受動喫煙性状の検討
林 立也・加藤信介・村上周三・曽 潔

 タバコ煙の健康へのリスクは広く認められており、特に室内で非喫煙者が喫煙者のタバコ煙を吸引する受動喫煙は社会的にも大きな問題となっている。本研究は、この非喫煙者の受動喫煙性状を室内気流の詳細なCFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)シミュレーションに基づき解析するものである。受動喫煙現象を詳細に評価するには、人体の熱放散による周辺上昇流や喫煙者の呼気による流れなどを再現する人体モデルを組み込んだ室内気流シミュレーションが必要となる。本報では、発熱し、呼気を吐出する人体モデルを配置した室内において、タバコ煙の拡散性状を、呼気の呼出風速、人体距離、換気・空調方式などを変えて解析し、このタバコ煙が隣接する非喫煙者呼吸域に与える影響を検討する。


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