生産研究 1998年11月号

第50巻第11号
(生産研究は、生産技術研究所の研究紹介誌として、毎月1回発行する)

目次


X線を使って物質の磁性を探る(生研公開講演)
七尾進

ラジアルタービンの動翼内流れの三次元数値解析
(第1報,動翼内二次流れに与える翼端隙間の影響について)

土屋直木・吉識晴夫

ラジアルタービンの動翼内流れの三次元数値解析
(第2報,翼端隙間近傍の流れとタービン効率について)

土屋直木・吉識晴夫

ウエーブレット解析を用いたレール波状摩耗検出手法に関する研究
須田義大・奥村幹夫・銭倍麗・小峰久直・岩佐崇史・曄道佳明

Al-Li合金にトリチウム吸蔵した水素の連続昇温脱離測定の研究
斎藤秀雄・野川憲夫・森実

プレストレストコンクリート用FRP緊張材の特性(17)
高温環境下におけるアラミド繊維の引張強度特性

魚本健人・西村次男・加藤佳孝

高性能AE減水剤の化学構造と流動作用効果の基礎的研究 その(3)
粒度調整セメントに対するポリカルボン酸系分散剤の分散効果

大田晃・魚本健人

吹付けコンクリートの特性に関する基礎的研究(7)
EPMAを用いた吹付けコンクリート中における急結剤の濃度分布(その2)

荒木昭俊・岡田喬・西村次男・魚本健人

吹付けコンクリートの特性に関する基礎的研究(8)
配合要因が強度特性に及ぼす要因の効果についての分析

小林裕二・西村次男・魚本健人

吹付けコンクリートの特性に関する基礎的研究(9)
フレッシュ性状の変化が施工性及びリバウンド特性に及ぼす影響

荒木昭俊・西村次男・魚本健人


ラジアルタービンの動翼内流れの三次元数値解析
(第1報,動翼内二次流れに与える翼端隙間の影響について)

土屋 直木・吉識 晴夫

 ラジアルタービン動翼内は,翼端隙間領域も含めると複雑な流れ場となることから,内部流れについては未だ解明されていない部分が多い.そこで本研究では,翼端隙間領域を含めた流れの三次元数値解析を行い,内部流れを明らかにすることを試みた.計算手法は有限差分法による解析で,領域を複数の計算空間に分割するマルチブロック法を用いた.計算対象としてはLDVで内部流れが計測されたタービンを選び,実験結果との比較を行った.翼端隙間ありとなしの結果を比較したところ,翼端隙間が動翼内二次流れに大きな影響を与えていることがわかった.また,動翼内二次流れの発生機構についての考察を与えた.


ラジアルタービンの動翼内流れの三次元数値解析
(第2報,翼端隙間近傍の流れとタービン効率について)

土屋 直木・吉識 晴夫

 ラジアルタービンの翼端隙間流れの様子はほとんど明らかになっておらず,研究は始められたばかりである.そこで本研究では,翼端隙間領域を含めたラジアルタービン動翼内流れの三次元数値解析を行い,隙間幅による翼端隙間流れの変化とタービン効率に与える影響について調べた.計算手法は有限差分法による解析で,領域を複数の計算空間に分割するマルチブロック法を用いた.翼端隙間近傍の流れ場の様子は隙間幅によって大きく変化することが明らかになった.また,クリアランス幅を減少させていくとある隙間幅で大きな効率上昇が得られることがわかった.


ウエーブレット解析を用いたレール波状摩耗検出手法に関する研究
須田義大・奥村幹夫・銭倍麗・小峰久直・岩佐崇史・曄道佳明

 本研究は鉄道レールに発生した波状摩耗を,客観的かつ効率的に検出する方法を開発した.そのため,高速軌道検測車を用い,軸箱上下振動加速度を記録した.解析手法として時間―周波数を同時に行えるウエーブレット解析を導入した.その結果,発生した波状摩耗の位置と周波数範囲を検出できた.さらに簡単なモデル化により,軸箱上下振動加速度の振幅から波状摩耗波高を推定するシステムを開発した.検出結果を実際のレール上の波状摩耗発生状況と検証すると,非常に良好な結果を得た.


Al-Li合金にトリチウム吸蔵した水素の連続昇温脱離測定の研究
斎藤秀雄・野川憲夫・森実

 Al-Li 合金は軽量新素材として航空機および宇宙開発への利用に期待されていると同時に水素脆化が問題である.この水素脆化現象としてAl-Li 合金の遅れ破壊等が見られ,水素の影響を定量的に調べる必要がある.この際水素の放射性同位元素であるトリチウム(3H) を利用して陰極電解チャ−ジ法によって合金中に導入した.導入後はラジオガスアナライザ−法およびトリチウム透過電顕オ−トラジオグラフィ法によって解析した.


プレストレストコンクリート用FRP緊張材の特性(17)
高温環境下におけるアラミド繊維の引張強度特性

魚本健人・西村次男・加藤佳孝

 本研究では,一方向繊維強化プラスチックロッドを構成するアラミド繊維2種類を用い,常温20℃と,高温環境下(温度40℃,80℃,湿度60±2%)における耐化学薬品性劣化促進試験(アルカリ溶液,塩酸水溶液および純水)を行い,浸漬試験後の強度,SEM観察および赤外分光分析により劣化性状を明らかにした.その結果、テクノーラ繊維は,塩酸水溶液および水酸化„ヌ田愕:ぢ溶液では,環境温度が高くなる従い,また,材齢の進行にともなって劣化することが明らかとなった.一方、ケブラー繊維は,いずれの溶液においても浸漬材齢の進行ならびに環境温度が高くなるに従い、テクノーら繊維よりも著しく劣化し強度低下することが明らかとなった.


高性能AE減水剤の化学構造と流動作用効果の基礎的研究 その(3)
粒度調整セメントに対するポリカルボン酸系分散剤の分散効果

大田晃・魚本健人

 ポリカルボン酸系高性能AE減水剤には,ポリカルボン酸系分散剤や分散保持成分等が配合されており,この分散剤が結合材粒子を高度に分散することにより,高減水性や高流動性が得られる.分散剤が分散性を示すには,結合材粒子表面に吸着し,立体的な保護膜を形成することによると考えられている1),2).そこで,ポリカルボン酸の分散性に影響を及ぼす保護膜の厚さに関係するポリマーの水溶液中での広がりと溶出イオンの関係に着目し,粒度を調整した各種セメントの溶出イオン量,ポリカルボン酸分子の吸着量と大きさの関係を検討した.その結果,分散性と関係するポリマーの水中での広がりが,硫酸イオン等の影響を受けている事が認められた.


吹付けコンクリートの特性に関する基礎的研究(7)
EPMAを用いた吹付けコンクリート中における急結剤の濃度分布(その2)

荒木昭俊・岡田喬・西村次男・魚本健人

 水セメント比を変化させた吹付けコンクリート中における急結剤の濃度及び混合性をEPMA(電子線マイクロアナライザー)を用いて評価した.その結果、水セメント比が小さくなると急結剤濃度のばらつきが増加した.これは,水セメント比が小さくなることでコンクリートの粘性が増大し,脈動を起こしたことが原因と考えられる.また,このような急結剤濃度のばらつきにより,吹付けコンクリート中で大きな濃度差が生じ,強度特性にも影響を及ぼしたと考えられる.


吹付けコンクリートの特性に関する基礎的研究(8)
配合要因が強度特性に及ぼす要因の効果についての分析

小林裕二・西村次男・魚本健人

 本報告は,コンクリートの配合におけるさまざまな要因が湿式吹付けコンクリートの硬化品質(強度特性)に及ぼす要因の効果についての情報を得ることを目的に,実験結果をもとに分散分析をおこなった結果についての報告である.分析の結果,材齢3時間の初期強度に最も影響を与えるのは、急結剤添加率であり,ついで,細骨材率,高性能減水剤添加率,水セメント比も影響を与える要因であり,また,材齢28日の圧縮強度については,急結剤添加率が最も影響を与え,ついで,単位セメント量,高性能減水剤添加率,細骨材率も影響を与える要因となることがわかった.


吹付けコンクリートの特性に関する基礎的研究(9)
フレッシュ性状の変化が施工性及びリバウンド特性に及ぼす影響

荒木昭俊・西村次男・魚本健人

 吹付けコンクリートの施工は,コンクリートのフレッシュ性状の違いにより施工性が変動し,リバウンドへ大きく影響する.本研究では,コンクリート配合が施工性に及ぼす影響を明確にし,また,吹付けコンクリート中の粗骨材量を評価することで,リバウンド量との関連性について考察した.その結果,積算消費電力値でコンクリート粘性を評価すると,粘性が高いコンクリートほど配管の脈動が激しくなり,バウンドの増大を招く.また,ノロ発生量は,単位ペースト量が増加すると(本実験結果では、390kg/m3以上)リバウンドの増大を招く.吹付けコンクリート中の粗骨材量は,通常ベースコンクリートに比べ小なく,粗骨材量が少ないほどリバウンドが増大する傾向がある.


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