- 兵庫県南部地震をめぐる地震学研究のいくつかの話題
須藤研 兵庫県南部地震は地震工学者のみならず地震学者にも強烈な衝撃を与えた。それはこの地震を予知出来なかったという敗北感にとどまらない地震学研究者の存在意義を自らに深く問いかけるものであった。短期地震予知はここしばらくは不可能との認識が一般的となった。従来地震予知研究・事業の外にいた研究者は地震は一地学現象として知的関心の対象であって、地震研究に防災という社会的要請を過度に課すべきでないとの主張を強めた。これはこうした研究が地震予知の日陰に長く置かれてきたことへのいわば恨みつらみへの反映でもある。本論では現在の地震学の関心を概観する。
- 兵庫県南部地震の被害分析
―その7 GISを用いた西宮市の建物被害分析―
山口 直也・山崎 文雄 兵庫県南部地震による西宮市の建物被害について,GISを用いて町丁目単位で建物の構造・建築年代に関して,面的な分析を行った.その結果,被害の大きな地域の分布は,どの構造についても似たような分布になっており,また同じ構造間では,建築年代が古くなるほど,同じ地域における被害は大きくなることが確かめられた.また,表層地盤と建物被害の関係について調べたところ,表層地盤によって被害の大きさに違いが認められた.
- 兵庫県南部地震の被害分析
−その8 伊丹市の建築物被害−
杉浦正美・山崎文雄 兵庫県南部地震に関する詳細な被害データを収集し、被害原因の分析を行った。本報告では、伊丹市において、構造種別や建築年代などのデータと、被害との相関について検討を行い、また、建物被害の地理的分布の特徴を考察した。その結果、全体の被害量が小さいために傾向は不明瞭なものの、同様な手法で報告した周辺市と同様に、いずれの構造種別でも建築年代が古いほど被害率が高い傾向が見られた。
- 1995年兵庫県南部地震によるマンホールのずれについて
小長井一男 著者らは神戸市東灘区に広がる住吉川、芦屋川の扇状地で下水道マンホールのずれの調査を行った。これらのマンホールはコンクリートリングを積み上げただけの構造なので、地盤の変形を物語る痕跡が残されていると考えたからである。その結果数十cmにもおよぶずれが生じたリングも数多く見出され、これらは阪神淡路大震災のゆれの激烈を物語っている。
- 山地で起こった直下型地震
―1997年5月13日鹿児島県北西部地震のずれについて―
小長井一男 1997年5月13日の鹿児島県北西部地震は、計測震度システムの採用を告げた気象庁告示第4号以降、初めて震度6弱に至る強い揺れを生じさせたものである。しかし被害の全体像の報道は震度の割に"軽微"であったという印象が強く、速報性が強く求められる防災情報としての計測震度と被害の実感との乖離が議論されることにも繋がった。しかしながら、余震域から推定される断層破壊面は集落から離れた出水山地の直下であり、ここで発生した多くの斜面崩壊は、このあたりでの地震動の強さを暗示している。この地震による墓石変状の調査結果をもとに、山地で起こった直下型地震の揺れの強さを考察する。
- 災害状況に応じた最適避難誘導のための基礎研究
原田雅也・目黒公郎安全な都市空間や構造物をつくるためには,「構造的な強度」だけでなく,「利用者の避難安全性」を確保することが不可欠である.特に利用者が施設内の地理に不案内である場合には,避難しやすい構造であることと効果的な避難誘導を行うことが重要となる.そこで我々は,災害環境や避難誘導の影響,さらに利用者一人一人の個人特性を考慮できる避難シミュレーションモデルを構築し,災害状況に応じた最適な避難誘導法のあり方を探っている.このモデルは,計画段階の施設ではより安全な空間設計を実現するためのツールとして,既設施設では効果的な避難誘導の方法を検討するためのツールとして利用できる.
- 滑り支承を用いた戸建て住宅用免震装置の開発
矢口大輔・藤田隆史 地震時の災害において、建物本体の被害のみならず家具等の転倒による被害が多数発生している。そのため戸建て住宅用免震に対する要求が近年高まっており、各種技術の開発が進められている。筆者等は、低コストかつメンテナンスが容易である特長を有した免震装置を開発し、その免震特性について住宅モデルによる実験を行った。使用した材料はモノキャストナイロンを基本にしたものであり、摺動材料として優れた特性を有している。各種地震波による加震実験の結果、室内に置かれた家具の移動や転倒を防ぐ事が可能であることが確認できた。
- 簡略な単軸構成式を用いた梁要素による免震鋼棒ダンパーの大変形弾塑性解析
宮村倫司・都井裕・土師利昭 鋼材の繰り返し載荷時の挙動はバイリニア型の構成式では正確には表せない。本論文では、骨格曲線をバイリニア型、履歴曲線をRamberg-Osgood型とした簡略な単軸構成式を提案する。次に、この構成式を大変形に対応した連続体退化型チモシェンコ梁要素に組み込む。開発した要素により、免震鋼棒ダンパーの大変形繰り返し弾塑性解析を行う。この解析では境界部の滑りの影響が大きいため、この部分のモデル化についても簡単に述べる。構成式と滑りの定数を実験結果に合うように同定することにより、鋼棒ダンパーの力学的な性質が明らかとなった。
- 圧電シェルの分割分布アクチュエータによる振動制御
桜井宏・半谷裕彦 弾性シェルの全面に分布圧電センサ層とアクチュエータ層が貼られた、単純支持された積層圧電シェルにおいては、逆対称の振動モードのセンシングと振動制御が、不可能となることが指摘されている。しかし、分布センサとアクチュエータを分割配置することにより(分割分布センサとアクチュエータ)、これらの問題は回避される。本研究は、アイソパラメトリックの退化シェル要素を「圧電シェル要素」に拡張した有限要素法により、分割分布センサによるセンシングのメカニズムを説明するとともに、全面アクチュエータによる振動制御と比べ、分割分布アクチュエータでは、良好な振動制御の効果が得られることを示す。
- 土留め構造物の地震時挙動に関する模型実験(その2)
古関潤一・ユールマン ムナフ・龍岡文夫・舘山勝・小島謙一・佐藤剛司 剛な一体型壁面を有するジオテキスタイル補強土壁、重力式擁壁、もたれ式擁壁および片持ち梁式擁壁の模型を用いて水平加振実験と傾斜実験を行った。形式が異なるこれらの擁壁の耐震性と裏込め地盤中に生じたすべり面の角度の実験値を、震度法を用いた安定計算による計算値と比較した。また、補強領域において生じるせん断変形が補強土壁の耐震性に及ぼす影響について検討した。
- 鉄筋コンクリート構造の破壊現象を簡単なモデルで高精度に解析する手法の提案
目黒公郎・Hatem Tagel-Din 地震による人的被害を軽減するには,構造物の崩壊に至るまでの破壊挙動の解明が不可欠であることは,阪神・淡路大震災の例を出すまでもなく自明である.しかし依然として,構造物の設計や建設に関わる業界の破壊現象(特に原型を留めないほどの崩壊)に対する注意が十分だとは思えない.簡単なモデルで破壊現象を高精度に再現できる手法がないことが,大きな理由の1つと考えられる.ここでは「崩壊に至るまでの破壊現象を,簡単なモデルで高い精度に解析する」ことを最終目標として,現在開発を進めている新しい非連続体解析手法を紹介する.
- 柱梁溶接接合部の高速載荷試験
大井謙一・高梨晃一・嶋脇輿助・近藤日出男・張暁光 阪神淡路大震災では鉄骨構造の溶接接合部に破断現象が多く見られた。その原因としては歪み速度や寸法効果などの影響が考えられる。本研究では主に鉄骨構造溶接接合部の破壊現象に対する載荷速度と温度の影響を検討することを研究の目的とする。具体的にはまず柱はり接合部における梁端部の溶接接合部を出来るだけ実物に近い形で実現するために、一端を溶接接合部、他端を自由とした片持ち梁を製作して、載荷を行う実験である。実験では振幅、周波数、溶接方法、温度をパラメータとし、準静的と動的(最高100cm/sec程度)繰り返し載荷を行い、破壊性状の差を検出するものである。
- 半剛接架構の地震時挙動に及ぼす耐震要素による付加軸力変動の影響
大井 謙一・林 暁光・嶋脇 與助・扶 正宇 本論文では耐震要素による梁の付加軸力変動の影響を調べるため、耐震要素として仮 想ブレースを加えた剛柱門型ラーメンモデルに対して単調載荷実験、繰り返し載荷実 験およびオンライン地震応答実験を実施した。柱梁接合部のディテールにおいて、ス プリットティー金物による半剛接合とアングル金物による半剛接合の2種類を使用し た。オンライン地震応答実験では、部分構造法を用いたハイブリッド地震応答実験シ ステムを適用し、変動軸力を考慮した場合と無視した場合の計4ケースの実験を実行 した。実験結果を通じて、半剛接合骨組の全体応答に対する梁の付加軸力変動の影響 を検討した。