- 計算流体力学・研究と実用のギャップ
小林 敏雄 計算流体力学が市民権を得てから20年になる.この間の発展の歴史を解析例を混じえて紹介している.特に,非圧縮性高レイノルズ数の乱流解析を中心に,Reynolds Averaged Navier-Stokes Equation型モデル,Large Eddy Simulation, および Direct Numerical Simulation の意味,課題を説明し,工業の場に現れる乱流現象の解析手段としてのk−εモデルとLarge Eddy Simulationの応用例を示すとともに,今後,広い分野で非定常乱流場の解析の必要性が増すこと,そのツールとして Large Eddy Simulation が有用であることを振動角柱における流れと振動の干渉現象や空気力学騒音を例にとって述べている.なお,これは1996年6月6日の研究所公開の記念講演の概要である.
- 未踏の光−テラヘルツ光へのアプローチ
平川 一彦 電気信号と光波の中間の周波数帯に位置するテラヘルツ領域は、その発生および検出における技術的困難さから、現在まで未踏の周波数領域として残されてきた。しかしながら、近年の半導体量子ナノ構造中の超高速トンネル現象やフェムト秒レーザ技術の進展により、テラヘルツ領域が次第に我々の手の届くところになりつつある。本講演では、テラヘルツ/フェムト秒領域の物理現象とそれを応用したエレクトロニクスの発展と展望について、最近の我々の研究成果も含めて述べる。
- 持続可能社会を実現するために,エコデザインをどう具体化するか
山本 良一 地球環境容量の限界について整理した後、環境破壊、資源枯渇化の現状について述べている。問題の根本的解決のためには、従来の工業デザインの考え方にライフサイクル・アセスメントの概念を取り入れたエコデザインの考え方を徹底させ、環境容量の枠内での製品開発、産業経済活動を行うことが重要であると主張している。
- 巨大化するアジアの都市そのモニタリングとモデリング
尾島 俊雄 20世紀の東京はアジアの帝都として、その前半は軍事的戦略拠点として、後半は経済侵略の中心として、今日の巨大文明都市を築いた。その反面で都市人口の増大と環境破壊をもたらしたことも事実である。そうした状況をモニタリングし、21世紀に向け、地球環境に順応し得る東京の姿をモデリングすることによって、東京以上のスケールで躍進し続けているアジアの都市のあり方を考え、インターネットのホームページでアンケートを行う。
- 時を遡る波−位相共役光学−
黒田 和男 覆水を盆に返せるか?残念ながらそれはできない相談であろう。
しかし、全く不可能というわけでもない。過去に戻すことを時間反転というが、力学や電磁気学など物理学の基本法則は時間反転に対して対称にできている。すなわち、運動をしているある物理系に対し、時間反転操作を行うことにより、その物理系がとった過去の状態に戻すことができる。位相共役は、光や音波といった波に対する時間反転の一手段であり、伝播によって生じる波面歪みの補正などユニークな応用が考えられている。
研究解説
- 0.1μm薄膜SOI MOSFETのデバイス・プロセス設計と特性評価
高宮 真・更屋 拓哉・トランデュエット・田中 剛・石黒 仁輝・平本 俊郎・生駒 俊明 0.1μm薄膜SOI MOSFETの設計・試作を行った.チャネルイオン注入(BF2)のエネルギーをSOIと埋め込み酸化膜の界面にピークがくるよう設計することによりパンチスルーストッパの形成とチャネルのドープを1回のイオン注入で実現した.この簡便なプロセスにより均一ドープの場合と比較し短チャネル効果が抑制できることをシミュレーションにより示し、ゲート長0.095μmのSOI MOSFETの動作を確認した.
研究速報
- コンクリートの凍結融解性状に関する基礎研究
−モルタルの伸縮挙動と内部空隙の凍結状況−
岡本 修一・魚本 健人 コンクリートの凍結融解による劣化機構の基礎資料を得るために、凍結融解時の伸縮状況および、ビデオ・マオクロスコープによる空隙の凍結状況観察を行った。その結果、モルタルの伸縮状況は飽水度に依存するが、断面観察の結果、飽水度が大きいものほど気泡内の氷晶量が多く、凍結時に膨張挙動を供試体では、完全に内部を氷晶で充填されたものも多く見受けられ、氷の成長できる空間が内部水量に対して少ない場合には巨視的な膨張につながることが確認できた。さらに、飽水度の大きな供試体では、周辺部分に細かな氷晶を有する細骨材が数多く確認でき、凍結融解による相対動弾性係数の低下の一原因として、骨材の周辺部分の微少破壊である可能性を示唆しているものと思われる。
- 広域ネットワーク交通流シミュレーションモデルSOUNDの開発
桑原 雅夫・吉井 稔雄・森田 綽之・岡村 寛明 道路の新設や交通規制の変更、あるいは車両の誘導を行った場合に、交通状況がどの様に変化するのかを評価するため、交通状況の変化を精度良く予測することが求められている。そこで本研究では、広域な道路網を対象として、時間的に変化する交通状況を精度良く再現できるシミュレーションモデルSOUND(a Simulation model On Urban road Networks with Dynamic route Choice)の開発を行った。