生物活性炭による浄水処理に関する研究の現状と課題
王 建中・迫田 章義・鈴木 基之
水道水の水源となる水域の富栄養化や水質汚濁の進行に伴い、これま での浄水処理のみでは安全でおいしい水道水の供給が困難になってき ている。 そこで、水道水の満たすべき水質を確保するために、オゾン 処理や粒状活性炭吸着処理などの高度浄水処理の導入が各地の浄水場 で進められている。高度浄水処理のひとつである生物活性炭(Biological Acti vated Carbon;BAC) 処理は処理能力とコストとの面で最も注目されているが、 いくつかの問題点があると言われ、未だ我が国では本格的な実用化には至って いない。本報では我が国および海外諸国における生物活性炭による浄水処理に ついての研究を整理し、今後の研究課題について考察した。
培養神経細胞の形態変化を指標とした農薬類の毒性評価
鈴木 基之・三島 浩・酒井 康行・迫田 章義
神経組織由来であるラットのPC12細胞は、in vitroで神経成長因子を投与することによって、高度な分化状態と考えられるニューロン様の神経繊維ネットワークを形成した状態へと移行する。そこで、環境汚染物質の迅速な生体影響評価系を確立することを目的として、神経特異毒性を持つ農薬をモデル環境汚染物質とし、神経繊維ネットワークの形態変化を定量的に測定した。指標のひとつとして細胞体と神経繊維ネットワークの面積の和の変化に注目し、既存の細胞数を指標とした毒性試験法および他の細胞系での結果と比較した結果、本手法より、迅速に神経毒性が評価できることが示された。
濃度に逆らい分子を運ぶ−アフィニティ・スイッチング機能 を持つキャリアを用いた機能輸送モデル系の構築
荒木 孝二・李 成吉
基質を濃度の低い側から高い側に輸送する能動輸送は、基質選択性の高さとともに生体膜輸送系が示す高度な機能の代表的な例である。ここでは、基質との親和性(affinity)を取り込み側と放出側で変化させ売る機能性キャリアを設計・合成するというaffinity-swi tchingの概念に基づき、光およびpHを駆動力とする人工液膜系での能動輸送を実現した最近の研究について解説する。
導電性ポリマーを用いるバイオセンサー
鈴木 一路・吉田章一郎・渡辺 正
バイオセンサーハ生体素材の持つ高度の分子認識機能を利用した物質センサーであり、医療、食品工業、環境計測など広い分野での応用が期待されている。最近、導電性ポリマーを用いて酸化還元酵素を電極上に固定した電気化学バイオセンサーが注目されており、電子メディエーターの同時固定、電極−酵素間の直接電子移動などこれまでの固定化法になかった特徴を持つ。本稿ではこのようなセンサーの研究小史、計測原理などを解説し、著者らがこれまでに実施してきた研究の一部を紹介する。
New X-cut Lithium Niobate Optical Modulator with Velocity andImpedance Matching
Ales Filip and Yoichi Fujiii
位相速度およびインピーダンスの整合を同時に行うための新しい構造をもつニオブ酸リチウム変調器を提案し、解析的に検討を行った。厚いコプレーナ型進行波形電極間に配置したリッジ型導波路において、マイクロ波の実効屈折率2.1、特性インピーダンス50Ωで整合がとれる。3つのタイプが提案され、最初のタイプは、リッジ領域の間の溝中の酸化シリコンバッファ層に電極が支えられる構造で、二番目と三番目のタイプは抵抗率が高く、誘電率が低い薄膜の上部または下部に電極をつけた構造である。厚い電極が薄膜で支えられる場合、最良のデバイスでは、3dBでの電気的帯域が144GHzで駆動電圧が6.4Vであることがわかった。
分子機能材料の研究動向
加藤隆史
財団法人生産技術研究奨励会による三好研究助成を受けて、英国およびフランスで、液晶材料を中心とした分子機能材料のヨーロッパにおける研究動向についての調査を、1995年7月10日から30日にかけて行った。訪問先は、ストラスブール材料物理化学研究所(CNRS)、シェフィールド大学、リーズ大学、ケンブリッジ大学、ハル大学および、第2回材料の化学に関する国際会議、第5回強誘電性液晶国際会議である。液晶などの研究に関するさまざまな有益な情報を得ることができた。ヨーロッパは欧州連合(EU)の発足とともに、共同研究体制をさらに強化しており、人材交流の活発さや、Interdisciplinaryおよび Multidisciplinaryということが実際に機能していることに対し、強い印象を受けた。いくつかの大学の研究者との共同研究について計画を練ることができた。
立ち上がりの鋭い方形通過特性光フィルタ
黄 登山、藤井 陽一
マッハツェーンダ型光フィルタの通過特性は、正弦関数状になっている。これを多段縦続接続すると、狭帯域化できるが、阻止帯域特性を改善することができない。多段縦続させた各カプラの結合長さが、二項分布する場合は、均一分布より阻止特性改善できるが、通過帯域幅はひろくなる。本報告では、結合長が二項式分布になるようにした多数のカプラを用いて、多数のマッハツェ−ンダ型フィルタを結合し、さらに、マッハツェ−ンダフィルタ部には遅延ループを付加し、これによる共振的周波数特性を利用して、立ち上がりの鋭い方形通過特性光フィルタができることを提案し、その特性を解析し、応用システムの構造を検討する。
並行プログラムのインタラクティブ視覚化への投機的計算の応用
舘村純一
並行プログラムは、実行の流れが複数あるためにその実行の様子が理解しにくい。このためプログラムの実行を視覚化する技術が研究されている。大規模なプログラムを視覚化する場合には、大域的な情報の把握を支援しながらユ−ザの要求する詳細情報を抽出する手法が大きな課題となり、ユ−ザの視点の移動に対してダイナミックに適応しながら情報を抽象化する機能が重要になる。本研究では、インタラクティブ情報視覚化処理に投機的並列実行を導入することによりダイナミックな視覚化の応答性を向上する手法を提案する。
ばらつきを考慮したコンクリート打撃音の振幅の評価
伊東良浩、魚本健人
コンクリート打撃音は、剥離や内部の空洞などがその結果、打撃音の振幅のばらつきは健全な部分では正規分布し、不健全な部分を含んでいれば、ばらつきの程度が異なるために正規分布しないことがわかった。そしてこのような振幅のばらつきを考慮して異常の判定を行う方法を考えた。
プレストレストコンクリート用FRP緊張材の特性(10)
−内陸および海洋環境下に暴露した各種FRPロッドの引張特性−
魚本 健人、西村 次男
一方向強化された各種繊維補強プラスチック(FRP)ロッドを取り上げ、異なった環境条件下(内陸部暴露、海洋環境下暴露)で実験を行い、塩分、紫外線、乾湿の繰り返しならびに温度変化などが各種FRPロッドの引張強度におよぼす影響について明らかにした。その結果、GFRPロッドの海洋暴露を除くと、内陸部および海洋環境下暴露においていずれのロッドも強度低下することが明らかとなった。また、強度低下に影響する要因については、今後繊維およびマトリックスそれぞれについて詳細に検討していく必要がある。
コンクリート構造物の耐久設計に関する基礎的研究(1)
加藤 佳孝・吉沢 勝・魚本 健人
土木学会において提案されている「コンクリート構造物の耐久性設計指針(試案)」は、新設構造物の耐久性向上を目的としたものであり、既設構造物の補修・補強のための耐久性診断、または残存寿命予測とは全く別のものとされてる。そこで、この設計手法を用いて既設構造物の補修までの期間が予測可能であるかを確認し、さらにニューラルネットワークを用いて感度解析を行うことにより、各項目の耐久性に関する影響度を定量的に評価し、提案されている試案の問題点に関して考察を行った。