酸化チタン光触媒について、8月30日付け朝日新聞be(business)に掲載されたコメントについて


 「この程度の量や時間で何か重大な影響が起きるとは考えられない。むしろ有機物分解の途中で予期せぬ猛毒物質を発生しないかが心配だ」というコメントについて捕捉します。
 まず、これは一時間近くに及ぶ取材に基づく、記者の方の作文であり、記者の方からも「一般の方に理解できるように、と少々意訳しました」とのコメントをいただいております。

 私が取材の際に申し上げた主な点は、下記の通りです。

空気中に拡散する活性酸素などによる影響
・私たちのグループでは、酸化チタンから何らかの反応性物質(活性酸素など)が気相に出てきており、それがさまざまな有機物を分解する「非接触酸化反応」を引き起こすことを明らかにしました(最初に研究を始めたのは、私が以前所属していた藤嶋研究室です)。しかし、通常の室内の紫外光強度より二桁以上強い紫外光を照射しても、固体上の単分子層(酸化チタンから10μmほど離れたもの)を分解するのに数分〜数十分かかります。すなわち、反応は極めて遅く、反応性の物質は、ごくわずかしか出ていないといえます。
・酸化チタンからの距離が離れるほど(10μm→2mm)、この反応は遅くなります。つまり、反応性物質の寿命はあまり長くないと考えられます。
・酸化チタンと有機物の間に水があると、上記の反応はさらに遅くなり、観測できない程度になります。
・人間の皮膚や粘膜には水が付着しており、特に皮膚には、ケラチンなどの有機保護層もあります。
・上記のことから、空気を介した、活性酸素などによる人体への影響はほとんどないと考えられます。万一反応種が皮膚などに到達しても、水の層のために反応性が抑えられ、皮膚が特に乾燥していたとしても、ケラチンなどが分解されることにより、反応種は消滅するものと思われます。

直接接触する場合の影響
・酸化チタンのタイルなどに直接、手などが接触する場合も、接触している部分には光があまり照射されません。
・光照射している部分から、酸化チタン表面を伝って反応性物質が拡散してくるものの、これもかなり遅い反応であり、長時間接触しているのでなければあまり問題にはならないと思われます。
・ただし、肌に直接触れるシャツに酸化チタン光触媒が固定されている場合などのように、太陽光などの比較的強い紫外光を浴びながら長時間接触するような場合、問題が起こらないかどうか、メーカーが事前に十分調べるべきでしょう。(当研究室では、個々の製品に関する情報は収集していません。メーカー等にお問い合わせ下さい。)

中間生成物による影響
・また、有害物質などを分解する際、最終的には無害な二酸化炭素になる場合が多いのですが、その途中で、より有害な物質を生成しないという保証はありません。これについては、空気中などに存在しうる各物質に関し、その反応中間生成物をメーカーなどが十分検査・分析し、安全性を確認する必要があるでしょう。なお、私は「猛毒」という言葉は使わなかったと思いますし、特定の物質を想定して発言したわけでもありません。あくまで一般論として、検査しない限り有害物質生成の可能性を否定できないことを指摘したのみです。この点については、光触媒のみならず、有害物質分解型のあらゆる空気清浄器等について該当することです。(当研究室では、個々の製品に関する情報は収集していません。メーカー等にお問い合わせ下さい。)
・光触媒に吸着剤を組み合わせるという方法もあります。そうすれば、有害物質が中間生成物として生じたとしても、それが吸着されたまま二酸化炭素にまで酸化されれば、人体に害は及ばないことになります。これについても、吸着しやすい物質としにくい物質がありますので、完全に安全だと断言はできません。