11.
アセチレンに1分子のHClが付加してできた生成物の塩化ビニルAは,Bのような極限構造との間で共鳴安定化されている。
この分子にさらに1分子のHClが付加する反応を考えるわけだが,HClはH+とCl−に分かれるという前提に異論はないだろう。
さて,極限構造式は反応点を予想するのに大いに役立つ。Bの極限構造式は左側の炭素原子上に負電荷がある。これに対してH+が結合してCのようなカチオン種が生じると考える(実際にそのような反応中間体を経由することがすでに知られている)。
左側の炭素はマイナス性を帯びているため,Cl−ではなくH+と結合する,というところがポイントである。(実は,この段階ですでに生成物が何になるかが決定されている)
あとは,残ったCl−が結合すれば生成物となるが,このときに,単純にCのプラスの電荷を帯びたCl原子とCl−の間に結合を作ったDのような生成物を考えてはいけない。Clの結合手が3本出ており明らかにおかしい。そうではなく,Cの別の極限構造であるEを考え,これにCl−を結合させて,Fの構造とするのが正しい。
このようにして,(1,2-ではなく)1,1-ジクロロエタンが生じる。