平成27年度有機化学I(有機反応化学既修者対象,2年A1ターム 月3限・木2限)

・本年度の講義は終了しました。試験は11/16(月)3限に行います。1311号室で受講していた人の試験室は1311号室です。
・11/9(月)から有機化学IIが開講します。クラス分け・教室は以下の通り: 応化・化シス―1331(応化・藤田教授),化生―1311(化生・新谷准教授)

準教科書的書籍:ウォーレン「有機化学第2版」(東京化学同人)本講義で主に扱うのは上巻の2,3,4,7,8,13,14,16章。
(参考:ウォーレン「有機化学」初版では,対応する章は上巻の2,3,4,7,8,11,16,18章となります。)
大きな主題は”酸と塩基””有機化合物の構造決定””立体化学”の3つ。
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工藤からのメッセージ:
有機化学は他人に教わるものではありません。自分で会得するものです。教科書の読破(できれば原書)と自ら手を動かすこと,これがなによりの勉強法です。 本講義関連の質問はこちらまで(講義期間中でなくとも歓迎します)。

9/24 講義開始時点での有機化学の理解度を調査する目的でquizを行った。quizの解答例はこちら(その1その2)。問題別正答率はこちら
分子の表記法,頻出の略語,原子論・結合論の復習を行った。講義で用いたpptの写しはこちら

[講義終了後『水素のイオン化ポテンシャルは,13.6 eVのはずで,1.31 eVというのはおかしいのではないか。』との質問を受けました。ご指摘の通りで,講義中に示した数値の正しい単位はMJ/molでした。お詫びして訂正します。ちなみに,1 MJ = 10.364 eVなので,H(1s), C(1s), C(2s), C(2p)はそれぞれ,13.6, 296, 17.8, 11.3 eVとなります。これらの正しい値を用いれば,炭素のsp, sp2, sp3混成軌道のエネルギー準位が2sと2pの準位の間に入っていることが確認できます。]

9/28 電気陰性度,結合長,結合エネルギー,分子軌道法について解説し(4章),ついで有機化学における構造決定法の紹介を行った(3章)。講義で用いた資料はこちら
10/1 有機化学における構造決定法の解説を行った(3章)。講義で用いたpptの写しはこちら。演習問題を配布した。解答例はこちら
10/5 ウォーレン5章の求核剤・求電子剤・巻き矢印について簡単に復習した後に,7章の非局在化の話に入り,アリル系まで説明した。
Quizについて:問題はIR,13C NMRからの化合物同定。b問題の2問正解者2%,1問正解者22%。可能な構造として-CH=CH-OHのような部分構造をもつものを書いた答えがかなり多くありましたが,基本的にはこの構造は不安定で存在できません。ケト-エノール互変異性により-CH2-C(=O)-に変わってしまうためです。
10/8 ウォーレン7章の続きの解説を行った。芳香族化合物を有機化学工業的見地から概観した。

(前回フォロー:1,3-ブタジエンのs-transとs-cisのエネルギ差は16 kJ/molでした。単結合周りの回転のエネルギー障壁が30 kJ/molなので,s-cisの不安定性は意外と大きいですね。)
(前回フォローその2:共役と共鳴。共役は,構造式を書いたときに多重結合が単結合をはさんでつながっているさまを指していうことば。なお,アリルカチオンやアリルアニオンについて,「これは共役カチオン(アニオン)であり・・・」という言い方をするかどうかはグレーです。感覚的にはあまり聞きませんが,間違っているともいえないと思います。共鳴は,電子(対)の所在が複数の極限構造(寄与構造)の平均として表わされる様子を指していう言葉です。)
(前回フォローその3:VSERP則の日本語訳:原子価殻電子対反発則 )

質問がありました。
下記Aの化合物も18π系だし,存在してもよさそうだ。こんなのはあるのか?(答)あります。コロネンという慣用名です。
ちなみに30π系のヘキサベンゾコロネン(B)もあります。また,コロネンのベンゼン環の縮環を切ったCはヘリセンといい,水素同士の反発のために同一平面状には来られず,らせんになります。鏡像体は同一ではなく,不斉炭素がないにもかかわらず,この化合物はキラルです。

A  B HBC.jpg  C               
    
     
10/15 ウォーレン8章(酸・塩基)を解説した。講義で用いたpptの写しはこちら。配布資料:pKa値,化合物のHOMO, LUMO,5章の演習問題。演習問題の一部を理解度チェックに使用した。次回講義時に返却予定。演習問題の解答例はこちら
10/19 ウォーレン8章(酸・塩基)の続きを解説した。安息香酸の解離に関する置換基効果について解説し,Hammettのσ値について説明した。8章の演習問題を配布した。演習問題の解答例はこちら
10/22 ウォーレン8章(酸・塩基)に関する補足を解説した(Hammettのσ値,HSAB則など)。講義で用いたpptの写し(Hammettのσ値に対する諸物性・反応速度のグラフ)はこちら。次いで,ウォーレン13章(プロトンNMR)について解説を,カップリングによるピークの分裂の話題まで行った。

講義時間中に示すことができなかった置換酪酸のpKaは以下の通りです。(ちなみに酪酸は先日まで皆さんを悩ませたあのイチョウの実のにおい成分)
CH3CH2CH2COOH (4.9)  > CH2ClCH2CH2COOH (4.52) > CH3CHClCH2COOH (4.05) > CH3CH2CHClCOOH (2.86)
10/26 ウォーレン13章(プロトンNMR)の続きを解説し,次いでwebspectraのサイトでいくつか実習を行った。酸塩基に関するquizを実施した。次回講義時に返却予定。問題3についての説明はこちら。プロトンNMRに関する演習問題を配布した。解答例はこちら。NMR独習用のすぐれものサイトはこちら
10/29 ウォーレン14章(立体化学)の解説を行った。プロトンNMRに関するquizを実施した。ウォーレン14章の演習問題ならびに過去の内容に関する補充問題を配布した。14章の解答例はこちら。補充問題の解答例はこちら

講義時間中に指摘された,命名法の間違いについて。ご指摘のとおり,主骨格の語尾を間違えていました。ただしくは,(5E,7Z)-undeca-5,7-dienoic acidです(nが落ちる)。ちなみにC=Cが一つしかなければ,(E)-undec-5-enoic acidのようにaも落ちます。
 
11/2 ウォーレン14章(立体化学)の解説の続きならびに16章(立体配座解析)の解説を行った。プリント裏面の演習問題の解答例はこちら
11/5 (最終回)16章(立体配座解析)の解説の続きを行った。これまでの説明の補足を行った。使用したpptの写しはこちら


【参考】有機化学関連の有用なサイト

1) 有機化合物命名法に関して
有機化学 plus on web (PDF, 33 pages)。このサイトは命名以外にもスペクトルの説明(含・演習),小テストなどもあって,初学者にはかなりよい。
http://pub.maruzen.co.jp/book_magazine/yuki/web/
Wikipedia IUPAC命名法
http://ja.wikipedia.org/wiki/IUPAC%E5%91%BD%E5%90%8D%E6%B3%95

2) 有機化合物のpKa一覧
Bordwell pKa table
http://www.chem.wisc.edu/areas/reich/pkatable/index.htm

3) 芳香族化合物などの電子分布(静電ポテンシャル)図
Phil Baran lab’s HP
http://www.scripps.edu/baran/heterocycles/
の中から“•Patrick Lam's Electrostatic Potential Maps”を選ぶ

4) 分子軌道計算(主として半経験的分子軌道法)
winmoster(最初だけ登録必要。学生は無料)
http://winmostar.com/jp/
Avogadro(英語)
http://avogadro.openmolecules.net/wiki/Main_Page

5) 分子モデル表示
rasmol (英語)
http://www.bernstein-plus-sons.com/software/rasmol/

6) 構造式描画
Chemsketch(英語)
http://www.acdlabs.com/resources/freeware/chemsketch/

7) タンパク質構造データベース
Protein data bank
http://www.rcsb.org/pdb/home/home.do

8) 化学データベース(学内のみ)
Scifinder 
https://scifinder.cas.org/
詳しくは東大図書館のHPに情報あり
http://www.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/manual/SFS/sfw_usreg.html

9) 有機化合物のスペクトルデータベース
ただいろいろな化合物のスペクトルを見るだけでも大変勉強になります。
http://sdbs.riodb.aist.go.jp/sdbs/cgi-bin/cre_index.cgi?lang=jp

10) スペクトルによる有機化合物同定の演習
UCLAのサイトですが,英語できなくても大丈夫です。
http://www.chem.ucla.edu/~webspectra/

上記は一例で,他にもいろいろあります。Web上で検索してみるとよいでしょう。

[番外編](有機)化学にまつわる最新情報など
化学者のつぶやき 
http://www.chem-station.com/blog/


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