6.
塩化ビニルAはBのような寄与構造との間で共鳴安定化されている。
この分子に1分子のHClが付加する反応を考えるわけだが,HClはH+とCl−に分かれるという前提に異論はないだろう。
さて,共鳴の寄与構造は反応点を予想するのに大いに役立つ。Bの寄与構造は左側の炭素原子上に負電荷がある。これに対してH+が結合してCのようなカチオン種が生じると考える(実際にそのような反応中間体を経由することがすでに知られている)。
左側の炭素はマイナス性を帯びているため,Cl−ではなくH+と結合する,というところがポイントである。(実は,この段階ですでに生成物が何になるかが決定されている)
あとは,残ったCl−が結合すれば生成物となるが,このときに,単純にCのプラスの電荷を帯びたCl原子とCl−の間に結合を作ったDのような生成物を考えてはいけない。Clの結合手が3本出ており明らかにおかしい。そうではなく,Cの別の寄与構造であるEを考え,これにCl−を結合させて,Fの構造とするのが正しい。
このようにして,(1,2-ではなく)1,1-ジクロロエタンが生じる。
7.
出発物質は右端の炭素に結合したHが省略されているが,分かり易くするためにa)の構造では明示的にそれを示した。1当量の塩基では,より酸性の高いOHのプロトンが引き抜かれる。
なお,b)のジアニオンに対して1当量の+性を帯びた反応相手Y+を作用させてから水を加えて反応を停止させると,生成物は以下のZとなる(より不安定なアニオンが先に反応するため)。
もちろん,a)のモノアニオンにY+を作用させれば生成物はWとなる。
このようにして化合物のつくり分けが可能となる。