試験問題模範解答

 

1.        

1)      ラセミ体の結晶に関する術語で,ラセミ化合物はエナンチオマーの対が繰り返し単位となって構成されているアキラルな結晶で,一つの結晶中には両エナンチオマーが同数含まれている。これに対してラセミ混合物は個々の結晶が一方のエナンチオマーのみからなっているキラルな結晶であり,(+)体結晶と(-)体結晶の量が同じなので巨視的にみるとラセミ体となっているもの。自然界におけるラセミ体の結晶は前者が圧倒的に多い。後者は優先晶出法による光学分割ができる可能性をもつ。また,融点,溶解度,IRなどの測定により,ある化合物がラセミ化合物とラセミ混合物のいずれであるかが分かる。

2)      タンパク質主鎖内部の規則的水素結合に基づく二次構造のひとつ。右巻きのらせんであり,n番目のアミノ酸残基のN-H(n+4)番目のアミノ酸残基のC=Oの間での水素結合が連続することで形成される。その際,N-HおよびC=O結合の向きはらせん軸にほぼ平行。また,このらせん構造は大きな双極子モーメントをもつ。

 

2.        

1)x: S, y: R

2)5 HzであったのはA2(分子模型とKarplus曲線より)HAHC値の予想値6 Hz (5-8の範囲は可)

3)

 

 

 

4)[お詫び:この問題は,与えた分子骨格に間違いがあり,正しくは下のものでした。大変失礼しました。このため,本問は加点法により採点しました。これも含めて全部正解すると100点を超えますが,実際の最高得点は100点未満でした]

(正しい分子骨格) 解答

3.       Z−エノラートはO-とメチルがシスの関係にあるエノラートである。このエノラートとベンズアルデヒドとの反応はいす型6員環遷移状態を経由して進行する。このいす型6員環遷移状態でベンズアルデヒドのPh基がエクアトリアル方向に出たものはsyn体を,アキシャル方向に出たものはanti体をそれぞれ与える。前者の方が立体障害が小さいため,エネルギー的に有利である。その結果,syn体が優先的に得られた。(図は省略)

4.        

1)  (省略)

2)  (図省略)アキシャル配座は,ブタンのゴーシュ配座様の相互作用が2つ生じる。このため,エネルギー差は0.9 kcal/mol×2 = 1.8 kcal/molとなる。

3)  図省略するが,トランス体は2つのメチルがエクアトリアル位にあるもので,シス体は1つのメチルがエクアトリアル位,1つがアキシャル位にあるもの。トランス体は2つのメチル基間のゴーシュ相互作用0.9 kcal/mol。シス体はそれに加えて1つのアキシャルメチル基の1.8 kcal/molがあるため,合計2.7 kcal/mol。その差は 2.7 – 0.9 = 1.8 kcal/mol

  

5.        

1) 光学分割,不斉合成のいずれか一方を書けばよい。

2) d l表記法の説明は省略。図の化合物はl体。

3)  下記のうちのいずれか1つ。

  1)立体化学の分かっている反応のみを用いて立体が既知の化合物に誘導して,旋光度を比較する

  2)立体化学の分かっているアルコール(またはアミン)とのエステル(またはアミドもしくは塩)に誘導し,その結晶をX線結晶構造解析で調べる。

  3)重原子をもった化合物と反応させるか,重原子アルカリ金属の塩にするなどしてから,X線結晶構造解析において異常分散を測定する。