平成12年7月12日 | |||||||||
えっ!研磨パッドがなくても鏡面加工ができちゃうの!?うそ! 研磨の達人も驚いた! 「研磨布不要の鏡面研磨技術」 -複合粒子研磨法の開発- | |||||||||
東京大学生産技術研究所 東京大学生産技術研究所谷教授の研究グループでは,従来にない新しい鏡面 研磨加工技術を開発した.仕上げ研磨加工では研磨布という工具が使われてい るが,開発された研磨加工方式では,研磨布の代わりにメディア粒子が添加さ れ,粒子と砥粒の複合作用により研磨が行われる.複合粒子研磨法と名付けら れ,現状の研磨加工の常識を覆す画期的な加工法として半導体ウェーハ加工や 液晶ガラス等の超精密鏡面加工に大きな変革をもたらす可能性がある. | |||||||||
○超精密加工における在来研磨工程の問題点 半導体ウェーハや液晶ガラスの製造においては工作物表面を極めて平滑にかつダメー ジを与えずに仕上げる必要があり,最終工程として研磨加工工程は欠くことができない. 研磨加工では,図1に示すような研磨盤で,工作物を定盤に押し付けて,砥粒を加工液 に懸濁させたスラリーを工作物と定盤の間に供給しながら,定盤に回転運動を与えて工 作物を加工する. 定盤には研磨パッドと呼ばれる研磨布が貼り付けられている.研磨布はポリウレタン 等の樹脂でできており,適度な弾性と気孔を有する.この弾性や気孔のおかげで砥粒を 保持したり,加工液を工作物と定盤の間に適度に供給したりして適切な研磨加工が実現 できる. 研磨布は加工を繰り返すうちに劣化して加工能率が低下する.さらに研磨布の劣化は 工作物端面のだれなどを引き起こして形状精度を悪化させる.そこで,劣化した研磨布 | |||||||||
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は図2のようにコンディショニングという 回転砥石による作業により再生される.劣化が激しいときには新たな研磨布に貼り替 | ||||||||
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えられる. 特に研磨布の貼り替え作業は,工作物の形状精度を確保するためにも非常に重要であ り,極めて高度な熟練が要求される.このように,研磨布のメンテナンスには多大なコ ストが支払われているのが現状である. 一方で半導体ウェーハや液晶ガラスは生産性向上のために年々大型化しており,加工 機も追随して大型化している.無論,加工機の大型化は研磨布の大型化を引き起こし,そ のコンディショニングや貼り替えの手間は製造コスト削減の大きな足枷となっている.
○複合粒子研磨法の概要 そこで,あえて研磨布を使わずにポリマー粒子を添加しながら図3(b)のように硬質の 定盤のみで研磨したところ,従来の研磨加工と同様に鏡面を得ることができた. ここで硬質の定盤と工作物が接触して工作物が損傷してしまうことが考えられるが,弾 性体であるポリマー粒子を適量添加すれば,工作物を弾性保持して定盤との接触を避け ることが可能とわかった.また,粒子が適当にスペーサとして働くため,研磨布による 加工と比較して加工抵抗は低く,切りくずや凝集粒子が排出されやすいために大きなキ ズ(スクラッチ)もほとんど生じない.さらに,研磨布による通常の加工では,研磨布の 弾性により工作物端面のダレが生じやすく形状精度が悪くなりがちであったが,本加工 法では厚さが数mmある研磨布に比べてポリマー粒子の粒径は10μm程度と1/100以下で あるため微小うねりやダレが少なくなる. 加工特性の制御はポリマー粒子の種類や粒径,添加量等で比較的容易に可能である.な によりも加工特性が安定しており,研磨布の貼り替えや修正が必要ないために比較的難 しいとされていた研磨加工の自動化が容易に行える可能性がある.
◎複合粒子研磨法のまとめ @従来の研磨法より高い加工能率が得られる. A摩擦抵抗が少なく研磨機の動力が少なくてすむ. B従来の研磨法より形状精度が優れる. C加工特性の長期安定性が得られる. D切りくずの排出がよく,スクラッチが少ない. E研磨布を貼る熟練作業から解放される.
<問い合わせ先> 東京大学生産技術研究所 谷 泰弘教授 TEL 03-3402-6231 内2225 FAX 03-3475-4663 e-mail: tani@martini.iis.u-tokyo.ac.jp
注:本研究につきましては,砥粒加工学会ABTEC2000(9/12〜14,関西大学),精密工学 会秋季学術講演会(10/7〜9,名古屋工業大学)にて発表する予定です. | ||