鎌倉大仏のデジタル化に成功

―― 文化遺産のデジタル化に向けて ――

東京大学生産技術研究所・株式会社キャドセンター

 

概要:

東京大学生産技術研究所・池内研究室と株式会社キャドセンター(浜野美行社長)は共同で鎌倉大仏のデジタル化に成功しました。レーザーで距離を測定する最新の距離センサーを用いて鎌倉大仏を複数方向から測定し、部分距離データを得ました。これらの部分距離データを繋ぎ合わせるソフトウエアを開発し、デジタル大仏を作成しました。デジタル大仏をサイバー空間で測定することにより、大仏の座高、胸囲、外周といった各種の諸元を得ました。さらに、デジタル大仏をもとにDVDコンテンツを制作しました。


鎌倉大仏

↓デジタル化


デジタル大仏

デジタル化:

レーザーで距離を測定する最新の距離センサーを利用して、高徳院の許可のもとに、鎌倉大仏の周囲から20枚弱の部分距離画像を得ました。これは拝観客を避けて、夜間約1週間ほどの時間をかけて行ないました。地上からレーザーが届かない部分については、足場を組みその上から計測を行ないました。これにより得られたのは、レーザーが当った部分の3次元座標データ群です。これらのデータ点を繋ぎ合わせて、微小な三角面の集まりであるメッシュデータに変換しました。各方向から計測されたデータは、大仏の肩部や腹部といった部分データ面として得られます。自動的にこれらの部分データ面の関係を調整するソフトウエアを用いて各データの相対関係を決定しました。この際、誤差の集積を防ぐため、全ての方向からの部分データを同時に位置合わせする手法を新たに開発しました。さらに、この相対関係を用いて各部分データを貼合わせるソフトウエアを用いてデジタル大仏を得ることに成功しました。図にこの各部分の処理を示します。


測定


距離画像


位置合わせ


統合

 

諸元の測定:

デジタル化した後にこのデータに基づいて大仏の断面形状を得るソフトウエアを用いて大仏の諸元を得ました。断面を表わす平面をデジタル大仏と同じ空間に置きます。デジタル大仏の構成要素で各微小三角形がこの平面と交わるか否かを調べます。交差する場合、この交線を先の平面上に記録して行くことで、断面形状が得られます。例として大仏を横切るような平面での大仏の断面図を示します。この断面形状から大仏の周長、胸囲、座高等の諸元を得ました。これによれば、大仏の座高は11.4m、胸囲が16.8mであることがわかりました。これと平行して、断面の厚さを超音波計測器で測定し、胴回りではその厚みが現在まで信じられていたよりかなり薄い、20-30mmであることもわかりました。また、これらの断面線を重ねて表示することにより、大仏の等高線図(コンター図)も容易に得られました。

大仏の断面図と周長の計測

横方向から見たコンター図

デジタルコンテンツの制作:

デジタル大仏を使ってCG映像を作成し、DVD作品を制作しました。この作品において、創建時の木造大仏や、そのしばらく後に銅で作られた金箔の大仏をCGで復元して映像化しました。また、創建時の大仏殿については、「大仏様(だいぶつよう)」という建築様式で想定復元しました。鎌倉大仏の外部と内部をレンジセンサーで計測して得られた厚みを持ったCG表現も、これまで実現されることがなかったものです。この作品は、残された歴史資料が少なく謎に包まれた鎌倉大仏をメインテーマとして、CG映像を随所にまじえながら、源頼朝から現代に至る鎌倉大仏の歴史をつづり、鋳造のプロセスなどもわかりやすくビジュアル化、そして、現状診断へのデジタル大仏の活用をはじめとして、レンジセンサーやデジタル化技術がこれからの大仏の保存・修復に果たすべき役割と社会的貢献を明らかにしようとしたものです。

レンジセンサー計測風景‐1
レンジセンサー計測風景‐2
点群データ:頭部
点群データ:全体
銅造大仏復元CG‐1
銅造大仏復元CG‐2
銅造大仏復元CG‐3
大仏の断面CG
大仏殿復元CG

展望:

文化遺産のデジタル化は次の3つの面で非常に重要であると考えています。

1)デジタル化により、劣化、焼失、破損、紛失に対する強力な対応手段となります。

2)サイバー空間での表現を用いて、文化財の各種の諸元の測定やデータ修復が文化財をいためることなく可能になります。

3)一般のユーザがインターネットやデジタルテレビ等の手段で家庭から容易に各種の文化財に接することができます。

今後は、この手法やセンサーをより良い精度の高いものへと改良したいと考えています。とくに、今回は形状データだけでしたが、これを色彩まで含めたデジタル化へと進めたいと考えています。また、より多くの文化財のデジタル化を考えています。特に、ぜひやってみたいテーマとして、奈良の大仏のデジタル化があります。鎌倉の大仏と奈良の大仏のデジタル的な比較検討など興味がつきません。

OSやインターネット等の基本ソフトウエア技術では、日本はアメリカに少し水をあけられているような気がします。一方において、今後の技術開発の主戦場はこういった基本ソフトの開発ではなく、俗にアプリケーションと呼ばれる周辺技術の開発に移って行くと思われます。その中でも、この基本ソフトの上にどのようなコンテンツを展開するか、そのための技術は何かを考えこれを開発することは戦略的に非常に重要であると考えます。

日本にはアメリカや世界に誇れる多くの文化遺産が存在します。この優位性を生かし、文化遺産のコンテンツ化を容易にする技術を開発し、日本の文化遺産のデジタルコンテンツ化を図れば、日本のソフトウエア技術の優位性を取り戻せるだけでなく、日本の優れた文化遺産を世界に向けて発信できると思います。こういった考えから、この方向の研究を進めてゆくつもりです。

以上

 

連絡先:

東京都港区六本木7−22−1

東京大学生産技術研究所

池内研究室

Tel: 03-3402-6231(Ex 2380)

FAX: 03-3401-1433

Email: ki@iis.u-tokyo.ac.jp

東京都渋谷区千駄ヶ谷1−7−16

株式会社キャドセンター

高瀬 裕

Tel: 03-3470-8701

FAX: 03-3470-8705

Email: takase@cadcenter.co.jp

付記

 

デジタルアーカイブ事業:株式会社キャドセンター

株式会社キャドセンターは、池内研究室との共同研究を続けながら研究成果の実用化を推し進め、文化財のデジタルアーカイブ事業を積極的に展開していきます。国内外の世界遺産、国宝、重要文化財、史跡など広範な文化財を対象として、建造物、大きな彫刻、遺跡、庭園、産業遺産などの大規模な文化財をレンジセンサーで計測し、そのデジタル化、データベース化を進めます。さらに、これらのデジタル化された文化財のデータを活かして、コンピュータ・グラフィックスやバーチャル・リアリティのコンテンツ制作を行ない、多様なメディアに活用し、教育、観光、出版、研究など広範な分野への利用をめざします。

また、この技術の適用対象としては、文化財の他にプラント・大規模建築・土木構造物などの現況データ取得とその増改築・防災などへの活用をはじめ、多種多様な利用へ発展することが予想されます。