IIS NEWS 1998.6. 1, No. 52


IIS TODAY

 *  第5部助教授 プライス・アンナ

 プライス・アンナさんは、遠いポーランドからやってきた本所唯一の女性教授総会メンバーです。ポーランドのポズナンにあるアダム・ミツケビッチ大学で哲学を教えている夫と16歳の息子、ミュージカル学校に通う9歳の娘の4人家族ですが、今は東京で一人暮らしをしています。
 専門は環境音響学で、人間心理に及ぼす音の影響に関する研究を行っています。音響モデルによる音の評価と人間の感性による音の評価との関係を調べるのが主な研究内容で、本所の研究環境についてはたいへん満足しているそうです。
 本所に来るまでの日本についての印象は、黒沢の映画に登場する重苦しい雰囲気のけんかが好きな背の低い人々が住む国。街中のあちこちにけんかをする人々がいるであろうとのイメージを持っていたそうで、日本に着いた時は黒沢映画に写った日本と実際の日本との大きなギャップに大変驚いたそうです。今は、日本の生活にもなれ、刺身、寿司、天ぷらなど日本の食べ物が大好きな和食党。5月にはポーランドから家族皆が日本に来ることになっており、この記事が出版される頃は家族皆と楽しい時間を過ごしておられるはずです。
(林 昌奎)

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REPORTS

 * 第2回産学連携に関する報告講演会開かれる

 去る3月19日(木)午後1時より、本所第1会議室において、産学連携に関する報告講演会が開催された。この報告講演会は、産業界と大学との結びつきを更に緊密にし、今後の産業の発展に資することを目的として開催されるもので、昨年に続いて第2回目の会合である。産業界からの参加者は68名であった。
 プログラムは、鈴木基之所長(当時)の挨拶に続き、坂内正夫教授(当時)による本所における産学連携に関する報告、安井至センター長による国際・産学共同研究センターの活動の報告、及び、岡野達雄教授による生産技術研究奨励会の産学連携の新しい取組についての報告、提案があった。つづいて、生産技術研究所および国際・産学共同研究センターで行なわれている注目される研究例の紹介として、小長井一男教授による「地震と構造物の寿命」、工藤徹一教授による「ソフト化学による機能材料の創製」、最後に武田展雄教授による「知的材料・構造システムにおけるヘルスモニタリング」についての講演が行われ、それぞれ参加者の強い関心を引いた。
(広報委員会・委員長 黒田和男)

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 *  永年勤続者表彰式

 平成10年度の東京大学職員永年勤続者表彰式が4月13日に山上会館で行われ、蓮實総長の祝辞の後、本年度被表彰者81名を代表し田尻珠眞さん(医学部附属病院分院)に表彰状と記念品が授与され、また、塩野 寛さん(施設部企画課)が謝辞を述べた。
引き続き催された祝賀会では、坂内所長、井手ノ上事務部長を交えて、それぞれの20年間を思い語りつつ、和やかなうちに散会した。なお、本所の被表彰者は下記のとおり。
(人事掛長 小池嘉弘)


第2部 文部教官 助手 野 口 裕 之
第2部 文部技官 上 村 光 宏
事務部 文部事務官 総務課情報普及掛長 布 施 典 明

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 *  マイクロマシンの日仏共同研究ラボに高い評価−3年の研究期間更新に合意−

 本所とフランス国立科学研究センター(CNRS)は、マイクロマシンをターゲットに共同研究ラボを3年前に設立した。集積化マイクロメカトロニクスシステム研究ラボ、通称LIMMS(リムス、代表:藤田博之教授、パトリス・ミノチ客員研究員)では、現在10名のフランス人研究員が、本所で共同研究を行っている。助教授クラスとポスドクの研究員が1〜3年間滞在して、マイクロマシン技術を身につけることが目的である。
 CNRSの他の研究所と同様に、LIMMSも成果のレビューと今後の運営への助言を得るため、定期的な研究評価が義務づけられており、今年の3月16日に恵比寿の日仏会館で、第3回目の評価委員会を開催した。評価委の座長はCNRS工学部門長のJean-Jacques Gagnepain博士と東北大の江刺正喜教授が務め、委員はフランスの研究所所長クラスや日本の大学・企業のマイクロマシン研究者が務めた。3年間のラボ全体活動から各々の研究者の最新成果にいたるまでを一日で発表した。多数の論文発表を初め、極めて活発に研究活動を行い優れた成果を挙げていると、高い評価を受けた。今年で第1期(3年)の終わりになるが、さらに第2期(3年)を行うことで合意した。
(第3部 藤田博之)

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 *  奨励会に産学連携支援室が誕生

 生産技術研究奨励会は、1952年に設立されて以来、生産技術研究所を中心とした国内外の研究機関を対象として、研究活動の助成や支援を行ってきております。これらの幅広い活動に対して、特定公益増進法人としての認定を受けています。 
 このたび、技術移転や企業との共同研究をさらに推進するために、産学連携支援室を設けました。室長として、前東芝研究開発センター所長付の藤原立雄氏(58)をお迎えしております。藤原氏は東芝でビデオ、オーディオなどの開発を手がけ、電子事業本部技師長や記録媒体事業推進部長のほか、機材部品開発・試作センター所長などを歴任しております。
 研究と教育は大学の2本の柱となっていますが、最近、「産学連携」が3本目の柱として浮上しています。生研では、民間企業との共同研究が活発におこなわれていますが、企業と大学の将来へ向けての新しい関係を築くことも産学連携支援室の役割となっています。
 産学連携支援室は車庫棟2Fの共通-4に開設しました。ミーティングのできるスペースも確保してありますので、日時にかかわらず藤原氏へ相談を持ちかけに訪ねて下さい。その話し合いのなかから、産学連携の望ましい姿が表れてくることを期待しています。
 なお、産学連携支援室の開設に伴い、奨励会の事務局は共通-1に移っています。
(奨励会常任理事 半谷裕彦)

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NEWCAMPUS

 *  第T期研究棟完成へ 所長・坂内正夫

 生研の第T期工事が5月の末にいよいよ完成の運びとなりました(写真)。新キャンパスの一画が形あるものとして出来上がりますことは、新たな教育・研究の展開を企図する生研の構成メンバーにとりまして極めて意義深いものであり、これを記念すべく6月26日に内覧式を行う計画を進めております。さて、第1期の研究棟の南隣では、既に第2期分の根切り(掘削)工事が順調に進行しつつあります。また4月27日、28日には第3期の前半に該当する研究室への施設部のヒヤリングが行われ、さらに移転に関わる予算措置が次第に具体化されつつあるなど、新キャンパスの整備はいよいよ実務的に多忙を極める段階に入ります。これらが滞りなく進行し、生研の移転を早期に実現させるためには、「3極構造」という全学的な方針に沿った、生研、先端研の整備計画の経緯と今後の進展(生研ニュース50号)を所内外の方々に改めてご理解いただくことと併せて、様々な事態に迅速かつ適切に対応していくことが欠かせません。今後とも皆様方のより一層のご協力をいただきたくお願い申し上げます。

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SnapShots

 * 3月20日・停年退官記念講演会


 * 4月24日・大学院学生歓迎会






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PERSONNEL

 *  新任のご挨拶

第1部 客員助教授 畔上 秀幸

 本所から豊橋技術科学大学に移って12年になりました。本年度から客員助教授としてお世話になることになりました。生研時代は渡邊先生の下で延性破壊を支配する力学量について研究して参りました。豊橋に移ってからは、境界値問題の定義された領域の幾何学的形状を設計対象にした領域最適化問題の統一的な解法を提案したり、思春期女子に多発する脊柱の変形疾患、特発性側彎症、の成因を力学的見地から解明することなどを行ってきました。前者は数学の専門家、後者は整形外科や比較解剖学の専門家のご共同を得て成し遂げられた研究です。本所での新たな出会いに期待しております。どうぞ宜しくお願い申し上げます。


第2部 講師 鈴木 高宏

 4月1日付けで本所第2部に着任いたしました。この春に本郷の機械情報工学専攻吉本・中村研究室にて学位を取得したばかりです。専門はロボティクス(Robotics)で、中でも非ホロノミックシステムと呼ばれる系の制御です。これは動力学構造の非線形性により、例えば少ないモータでより多くの関節を動かす可能性をもつ系で、その中でも宇宙ロボットや自由関節を持つアームの制御について研究してきました。今後は、多数のロボットが非線形構造をもって機械的または情報的にリンクされた多ロボット系の挙動の制御や、カオスのロボットへの応用について研究して行きたいと考えています。今後ともよろしくご指導の程お願い申し上げます。


第3部 講師 染谷 隆夫

 4月1日付けで第3部の講師に採用して頂きました。これまでは、ナノメートル寸法の半導体微細構造を作製して、新物性の探索やその光デバイス応用に関する研究に取り組んで参りました。今後は、さらにワイドギャップ半導体も研究の対象に加え、次世代を担う新しい光デバイスの開発に力を注いでいきたいと存じます。これらの新デバイスが生産技術研究所における他分野の最先端研究にも活用され、そして様々な用途が開拓されていくようがんばります。今後とも何卒よろしくお願い致します。


第3部 講師 松浦 幹太

 4月1日付けで第3部の講師となりました。情報セキュリティ技術や数理的な最適化技術を背景として、次世代の健全な社会情報システムに貢献することを目標に研究を進めています。特に最近は、電子商取引のようなビジネス指向のアプリケーションにも研究促進情報ネットワークのような学術指向のアプリケーションにも興味を持ち、両者で学際研究の重要性を痛感しております。その意味でも、生産技術研究所のバラエティ豊かな研究風土に感謝し、新たな分野を開拓することで恩返しをしたいと考えております。今後ともよろしくお願いいたします。


第5部 教授 安岡 善文

 4月1日付で国立環境研究所地球環境研究センターから転任いたしました。専門は計測工学で、環境研では、パターン情報処理を利用した環境の計測と評価手法の研究を行ってきました。近年は特に、衛星や航空機からのリモートセンシングによる地球環境観測の研究を進めています。環境保全の研究は、地域レベルにせよ地球レベルにせよ、"やらなくてはならない、待ったなしの研究"であり、産官学が協力して研究を進める必要があります。生研では昔から異分野間の研究交流を進める自由な気風が強いということで、環境研究の分野でもすぐれた研究が行われてきました。その一員として、今後いっそう身を引き締めて頑張りたいと思います。 



AWARDS

 *  受賞

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INFORMATION

最新の情報は、生研ホームページ・イベント情報で御覧になれます。

 *  生研公開近づく

 来る6月4日(木)5日(金)の二日間は生産技術研究所の公開です。例年通り、100近い研究室の公開や研究グループの紹介と講演会を行います。また、今年は期間中に中学・高校生を対象にした研究室見学も予定しています。講演会の講師と題目は下記の通りです。

6月4日(木) 11:00〜 11:50 第4部 七尾  進 教授
「X線を使って物質の磁性を探る」 
13:00〜 13:50 第5部 藤井  明 教授
「住まい方の文化」 
14:10〜 15:00 第1部 高木堅志郎 教授
「音が見える」 
6月5日(金) 11:00〜 11:50 第2部 西尾 茂文 教授
「伝熱における制約を打破する試み」 
13:00〜 13:50 第3部 桜井 貴康 教授
「半導体集積回路(VLSI)の挑戦」 



PLAZA

 * 日本滞在雑感

LIMMS / CNRS
ブルーノ,ルピウフル(BRUNO Le Pioufle)


 日本に滞在しているフランス人研究者にとって最も興味をそそる一面は、人々の仕事のやり方とも言えます。評判に違わず実働時間の長さは印象的ですが、もちろんその態度は、とても熱意のあるものです。たとえ夜遅く迄働いても、それが仲間同志で和む良い機会にすらなるのです。この活気は、終電後であろうと日祭日であろうと変わりません。"団体精神"は極めて重要です。いつも同僚の誰かが時間を割いて生研の外の日本を発見させてくれようとしています。だから我々外国人はここにいるのでしょう?
 生研の外の日本。まず初めは日本料理です。
 東京生活を6カ月経た今も新しい味の発見の連続です。和食は限りなくバラエティに富んでいます。新参者にとって、時にその値段に度肝をぬかれることもしばしばですが...(私のお財布は、初めての六本木の寿司屋さんでの苦い経験を今も忘れていません!)
 生研の外の日本その2。それは同僚とのパーティです。もしカラオケでしめくくろうものなら人前で歌うことを知らない一フランス人は、それこそ恐るべき(かつ楽しい)経験を味わうこととなります。近所の墓地でのお花見もやはり驚きと言えました。自分のすむ街での日常生活も日本滞在の面白い一面です。まずはミステリアスな漢字との奮闘でしょう。外国人にとって基礎といわれる200字の漢字、片っ端から容赦なく忘れてゆく新しい漢字。しかし日々の辛く長い語学学習と引き換えに、少しずつ街の"片隅"が見え始めます。例えば、ずっと謎に包まれていた職人さんが営む工房や、解読できないメニューが怖くて入れなかった小さなレストラン等々。
 あまりせっかちに、理解したり判断しようと焦ってはいけません。驚きを素直に受け入れさえすればこの国を愛さずにはいられません。
 異国情緒を感じる機会は、絶え間なくやってきます。道の両側で同時になり始める携帯電話、小さな5匹の犬を一度につれ歩くかわいいお嬢さん、愛想良く誠実な"いらっしゃいませ"、京都−瞑想の禅寺と抹茶。
 しかし最も心を引きつけるもの、それは行き交う人々の落ち着き払った穏やかなまなざしです。それは土曜日の渋谷の群衆の中にあっても、終りのない長い電話待ちの列にあっても変わりません。フランス人ならば全く違う振る舞いをするはずです。
 いいえ、結局、私が最も魅かれるのは、どんなに長い仕事の一日の終りにあっても私達を助けてくれようとする、日本人同僚達の優しさといえましょう。

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FRONTIER

 * 光で分子をたてる・ねかす・まわす

 第1部/材料界面マイクロ工学研究センター 酒井研究室

  液体中では分子は配列も向きもバラバラでかつ揺らいでおり、この不規則な構造が液体を特徴づけている。液体分子相互の、あるいは分子内部の運動を調べるためにはこのバラバラな状態にちょっとした秩序を持ち込み、これが再び失われてゆく、いわゆる緩和過程を調べることが一つの有効な手段である。いろいろな自由度のうちの一つ、「分子の向き」を制御し分子を自由に立てたり寝かしたりまわしたりできれば、液体分子の配向・回転に関する重要な情報が得られる...というか単純に楽しい。
 最近我々の研究室では、光を使って分子の向きを制御し分子配向緩和を観察する新しい手法を開発した。その方法は至って簡単である。分子の形が異方的であるとき、例えば長細かったり平べったかったりすると、分子の分極率もそれを反映して異方的なものになる。ここに電場を加えると分極率の大きな軸が電場に平行になるように分子が配列する。我々の方法ではこの電場として偏光の制御された連続レーザーを用いる。縦偏光では分子は立ち、横偏光では分子は寝る。偏光を回せばそれに追随して分子も回転する。検出にもレーザーを使うことで微小な分子配向の変化を感度よく検出することができる。図はある種の液体が温度に伴ってその分子配向のしやすさが変化する様子を示している。高温側から温度を下げていくとどんどん配向しやすくなっていき、終いにはある温度で発散する。実はこの温度以下では分子の向きは全部揃ってしまって、液晶と呼ばれる状態になる。
 近年の光エレクトロニクスの発達はめざましく、レーザーの偏光状態を高速でスイッチする程度のことは朝めし前である。これを利用して分子を起こしたり寝かしたりする周期をどんどん速くしながら分子の動きを見ると、分子の寝起きの善し悪し、いわゆる配向緩和が観察できる。この過程は例えば液晶出現のメカニズムを探る上で非常に重要な情報を与えてくれる。この他にも光は様々な得意技を持っている。例えばレーザー光は高い干渉性を持っており、いくつかのレーザー光を液体中で交差させることによってサブミクロン程度の分子配向周期構造を作ることも可能である。実際、液晶ではnmというミクロな分子配向とミクロンオーダーのメゾスコピックな流体力学的流れの結合が弾性的配向緩和という不思議な現象を演出していることが知られており、レーザーによって作られる空間格子はこのような現象を解明するのに大変役に立ちそうである。
 我々の研究室ではこのように光・超音波・液面さざなみなどの波動現象を通して物質のミクロな世界を覗く新しい手法の開発とその応用を目指している。測定装置はすべて自家製オリジナルというのが自慢で、現在も「不均一系における波動の弱局在を利用した不透明体の内部構造観察手法」や、「近接場光を用いた極薄領域の動的光散乱」など怪しげな装置がごろごろしている。興味のある方は是非お気軽にお出かけ下さい。

(図)液晶性物質6CBの等方相における光力−定数の温度依存性
 

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 *  新任の挨拶

 広報委員会生研ニュース部会のメンバーがこの4月に一新しました。昨年度の部会メンバー8人のうち継続は2人だけ、他は全てフレッシュな新メンバーです.これまでの生研ニュースとの継続性に不安はありますが、過去の慣性力にとらわれない「何か」ができそうな雰囲気も大いに感じます。読者の皆様の声を最大限に反映し,その「何か」を具体化していきたいと思います.
(部会長 目黒公郎)

 


 

 *  編集後記

 新年度を迎え心も体もリフレッシュしたいのに、昨年度からの仕事がまだ終わらない私ですが、生研ニュース部会メンバーは4月から大きく入れ替わりました。継続メンバーは目黒新部会長と私の2人だけで、早々と継続メンバーとしての責任も感じるようになりました。今年は、本所の駒場Uキャンパスへの移転に関連する動きが本格的になりそうで、情報発信源としての生研ニュースの役割に一層努力していきたいと思います。
(林 昌奎)