IIS NEWS 1995. 12. 1 No. 37


IIS TODAY

dot  第5部 藤森照信  助教授

Photo1 「ああ,この人が。」そう思われた読者も多い事と思う。そう,建築探偵こと藤森照信先生は建築関連記事の執筆では当代屈指の売れっ子として知られている。新聞・雑誌からの原稿依頼は引きも切らず,現在も約20の雑誌に連載記事を書かれているとか。 普段何気なく見過ごしている街の風景。その中にある大切なものを専門家だけでなく一般人にも庶民感覚で分かりやすく説明し,街づくりや建築保存の大切さを啓蒙していく。この活動に対する反響が大きく,日本各地から,建築保存や街づくりの相談が絶えず,東奔西走非常に多忙な毎日を送っていらっしゃる。
 「僕は生研における文化の1%だよ」と高らかに笑っておっしゃった。なるほど,執筆,出版活動を通して,研究成果をダイレクトに社会へ広めて行くというスタイルは,生研にあっては極めてユニーク。 建築探偵の活動は日本国内に留まらない。最近は上海や香港など,ヨーロッパ人が作ったアジアの街並みの調査研究を手掛けておられ,中国,韓国,台湾等との協同調査報告書が近々出るそうである。
 「生研ニュース?よく読んでるよ。俺なんかより美人の秘書さんでも出したら。」笑いと冗談の絶えないお人柄もいたって気さくな庶民感覚に溢れている。 (Kawaken)

生研ニュースホームページへ



REPORTS

../Image/Dot  ひとあじ違う千葉実験所公開

Photo2Photo3
左:外国人参加者も熱心に説明に聞き入る。(第2部 木下研展示にて)
右:ジオテキスタイル補強盛土工法の説明に聞き入る来所者

 さる10月6日,千葉実験所公開が行われた。通常は2年毎の開催ということになっているが,昨年は研究実験棟の新営工事のため繰り延べになったので,3年ぶりの開催である。薄曇りの天候であったが,428名にのぼる来訪者があった。六本木キャンパスとは異なり,緑の中に実験棟が点在する田園的なキャンパスなので,子供連れの近隣住民の姿も目立った。また,岡本瞬三先生をはじめとする8名の名誉教授の先生方や多数の生研OBの方々もお元気な姿を見せられ,新営成った研究実験棟など最近の千葉実験所の発展ぶりをご覧になった。各実験棟で各研究室が張り切って展示・公開実験を行い,鈴木生研所長のほか事務部からも28名の応援をいただいた。公開終了後の反省会では,虫明実験所長から「今後とも六本木地区での生研公開とは一味違った千葉実験所公開にしていきたい」との抱負が語られた。2年後がまた楽しみである。(大井謙一記)

生研ニュースホームページへ

../Image/dot 定着した技術発表会多彩な内容と熱のこもった討論

Photo4 ようやく猛暑も一段落した9月14日(木)、本所の技術発表会が第一・第二会議室において開催された。平成4年にスタートして今年で第4回を数え、技術官を中心とした実行体制も確立し、本所の年中行事の一つとして、しっかりと定着してきた印象を受ける。
 今年は各研究部、共通施設、センター、事務部から計17件もの発表があり、WWWの利用、プラスチック成形、量子ドットの作製、植物成長促進物質の合成、地震と建物、旋盤の使い方、経理システムなど、総合工学研究所としての本所の特徴を反映した極めて多様な技術的課題について、終日熱のこもった発表と討論が行なわれた。参加者は、技術官を中心として100余名を数え、所外からの参加者も数多く見られた。第一部・西島技術官を中心とする実行委員会では、今回の技術発表会の成果、反省点などに関する総括をすでに終えており、次年度からのより一層の成熟が期待される。(Y. T. )

生研ニュースホームページへ

../Image/dot 外国人研究者懇談会開催される

 10月18日に所長の主催で恒例の懇談会が開かれた。外国人研究員8名、鈴木所長、事務部長、木村室長と国際交流室員が出席し、昼食を兼ねて懇談が行われ、研究や日常生活について意見が交換された。狭い研究室に詰められたたくさんの実験機器に驚いたという感想、日本語の文献を手軽に翻訳できないかという要望や、日本語の習得が難しい、教授以外の研究室のメンバーと話ができないなどコミュニケーションの問題が話題に上がった。国際交流室では今後も外国人の方々の要望を聞き、できる限りの援助をしていきたいと考えている(Snap Shots に写真)(国際交流室)

生研ニュースホームページへ

../Image/dot  千葉実験所 Outline

 1949年,千葉にあった東大第2工学部内に生産技術研究所が生まれ,1962年生研の六本木移転に伴い,旧キャンパスは生産技術研究所千葉実験所として生まれ変わった。当初は日本の高炉製鉄技術を支えた試験溶鉱炉等(*)が設置されていたが,社会の要請と工学の発展に応じ,レーザーミリ波実験施設,高電圧実験設備,さらには地震による構造物破壊機構解析設備,免震装置を備えた試験住宅など多種多様な実験設備が順次設置されており,工学実験施設のメッカとして知られている。
 ここ数年は,年間約30研究室が40〜50件の研究テーマを掲げて研究を展開している。平成7年度には3,767平方mに及ぶ研究施設が新営され,研究基盤整備の画期となった。新棟では先端素材の加工,特殊ビーム溶解炉等の実験研究が活発に進められている。
 (*:生研ニュースNo.33,34のIISタイムトラベル参照)(Kawaken)

生研ニュースホームページへ

../Image/dot  生研ニュース on インターネット

Photo5 生研ニュースの読者の方々は,巷で話題のインターネットと如何におつき合いでしょうか.前号でもレポートしたように,生研のWWW (World Wide Web)サーバーは整備され,電子版生研ニュースも http://gauss.iis.u-tokyo.ac.jp/IISNEWS /IISNEWS.html で御覧頂けるようになりました.この度,インターネットの特徴である双方向コミュニケーションを最大限利用すべく,生研ニュースに関するご意見ご質問をE-Mail :iisnews@iis.u-tokyo.ac.jp で受け付けることになりました.生研ニュースをより充実させるため,建設的なご意見をお待ちしております.(N.Y.)

生研ニュースホームページへ


PERSONNEL

../Image/dot   転任のご挨拶 

工学系研究科土木工学専攻教授  龍岡文夫  元第五部教授

Photo この10月1日から,事情により所属が上記のようになった。しかし同じ大学であり,また2年前から学部二,三,四年生の授業をやってきたし,研究担当として生研で研究を続けさせて頂いている。指導している学生も,生研で研究している。それで,不連続の感覚があまりない。18年前,建設省土木研究所から生研に移った時は,激しい不連続を感じた。
 20年近い生研での生活は,私にとってほぼ理想的な研究環境であった。入りと出を経験したので,このことが良く実感できる。多くの方も,生研の特長を,他所との比較で是非確認して頂きたい。
 生研では,多くの方々に本当にお世話になりました。これからもお世話になりますので,よろしく御願い致します。

生研ニュースホームページへ


SnapShots

../Image/dot 9月4〜7日

Photo6学内レクリエーション 「テニス」の部
於:農学部
Aチーム:1部トーナメント準優勝
Cチーム:2部トーナメント4位入賞

../Image/dot 9月12日

Photo7弥生会ボーリング大会
於:品川プリンスホテル
団体優勝:事務部(975点)
男子個人優勝
大場琴也(事務部:327点)
女子個人優勝
馮小平(第3部:246点)

../Image/dot 9月14日

第25回麻布消防署管内自衛消防活動競技会
於:都立青山公園
参加:近藤日出夫技術官、西川功技術官、中山晋事務官(第5部)
Photo8Photo9

../Image/dot  10月18日

外国人研究者懇談会
昼食を食べながらのなごやかな懇談風景
Photo10

生研ニュースホームページへ


AWARDS

../Image/Dot  受賞

生研ニュースホームページへ


INFORMATION

../Image/dot  第9回生研学術講演会 ”安全への工学的アプローチ”

 近年、地震などの自然災害への対応、製造物責任法の施行などに関連して、工学者の安全に対する基本姿勢が問われている。工学のさまざまな分野における安全に対する基本的な考え方、そして、安全への具体的な工学的アプローチについて、討論を行い、今後、工学者としてどのように安全の問題を考えていけばよいかを探りたい。

日時:平成8年1月29日  月曜日  13:00 〜 16:00
場所:生産技術研究所   第一、第二会議室

タイトルと講演者

地震に対する建物の安全性の考え方
東京大学生産技術研究所教授  岡田恒男

情報と安全(電子通商/電子現金を例として)
NTT情報通信研究所  理事・所長  安田浩

科学物質の安全
東京大学工学系研究科教授  田村昌三

自動車の安全
(財)日本自動車研究所所長  井口雅一

製造者の環境と安全に対する責任
三菱化学(株)取締役環境安全部長  松田光司

問い合わせ先:東京大学生産技術研究所  庶務掛(Tel : 03-3402-6231 内線2005)

生研ニュースホームページへ


PLAZA

../Image/dot  スタンフォード大学にて

第2部   助手  大島まり

Photo   スタンフォード大学は、私が初めての海外一人旅で訪れた一番最初の所だった。日本以外の大学を見学するのも初めてだったが、その時の広く、美しい大学キャンパスの強烈な印象は今でも鮮明に覚えている。将来、このような所で勉強できればと思ったが、現実に実現して、今年四月より、文部省若手在外研究員としてスタンフォード大学機械工学科に留学している。
  キャンパスの美しさもさることながら、スタンフォード大学を選んだ一番の理由は、有限要素法の分野での第一人者である Hughes 教授のもとで研究をするためである。 Hughes 教授は、固体から構造解析、そして私の研究課題でもある数値流体力学と、連続体力学を全般とした巾広い分野で研究を活動的に行っている。流体の分野をとっても、効率的な数値解析アルゴリズムの開発などの基礎研究から、血液流れの解析などの応用研究と興味深い研究を行っている。最近では、複雑形状での乱流解析にも力を入れはじめ、その一環として、私は非圧縮性流体のLES (Large Eddy Simulation) の研究に携わっている。写真にも見られるように研究室のメンバーも、アジア、ヨーロッパ、南アメリカからの大学院学生や客員研究員と大変国際色豊かで、活発なディスカッションができ、とても良い刺激になっている。しかし、計算機環境は生研の方が恵まれているように思う。私の所属している機械工学科の Divison of Applied Mechanics では SUN の EWS (Engineering Workstation) が中心であり、スーパーコンピュータへのアクセスやポスト処理のためのGWS (Graphic Wordstation) の使用が自由にできないのが、唯一の難点である。
  今年のノーベル物理学賞は、スタンフォード大学の Martin Perl 教授が受賞した。このようなアメリカの頭脳そして、最先端技術の研究におけるリーダー的存在のスタンフォード大学で、短い期間ではあるが、勉強できることは大変貴重な経験である。帰国後は、これらの経験を生かして研究はもちろんのこと、他の面でも還元できればと思っている。

生研ニュースホームページへ

../Image/dot  鵬程万里の地・中国紀行   

施設掛  技官  酒井清武

Photo11  財団法人生産技術研究奨励会の海外派遣助成金を頂いて9月25日から9月29日まで、大連理工大学、中国鉄道科学研究院を訪問させて頂きました。
 25日は、台風一過のうだるような日差しのなか、もちろん初めての海外出張で朝から興奮気味。成田空港で帰国する若い董姉妹と旅は道づれと話しが込む(やった、今日はついてる)。
 ”・・・大連行きは、1時間40分遅れます。”のアナウンス!
世の中そう甘くないと試練が降りかかるが、さらに董姉妹と楽しく話す内に出発だ。(CAの国際便は遅れるのが当たり前とのこと・・安心)
  約4時間のフライトで大連に到着の予定、予定は未定と到着時間が20分、30分と過ぎていく内に何やら大勢の日本人客からざわめきが聞こえてくる。董さんがスチュワ−デスに訪ねれば、”大連は雷と大雨で視界不良の為北京に到着する”との返事。
 次の試練は、日程を根本から覆す一大事。北京に着けば完全無欠の役人天国、中国人と間違われて大迷惑、初めての海外で右往左往しながら出国し、80人前後の乗客とバスに乗り北京市物価局培訓中心に午前0時頃到着。着いてみれば日本とは大違いで公衆電話がない、受付の1台の電話は国内しか掛けられない。
 26日早朝、北京市郊外順叉県の農村にいることが分かり一人で周りを散策すると ”称好”と声がかかる(ここでも間違われてる)。すかさず”称好”と笑顔で返事をすれば心はすっかり中国人。
 ”プ−””プ−”と音のする方を見れば、多くの人達があちこちで平気な顔で車を止めながら悠然と道路を横断している。嗚呼、やっぱりここは大人の国中国と妙に感じいる。顔は中国人の自分もためせば、警笛や運転手の形相に気圧され思わず走り渡ってしまった。董さんと連れ立って露店を覗き”油条”という揚げパンのような熱々の物を食べる、これをお粥に入れて食べてもおいしいそうである。他の露店では、果物を味見代わりに無料で頂いたがまだ早生で美味しく無かった。そうこうしている内に昼食になり、塩分の多いメニュ−に食欲も減退気味、水が欲しくて注文すると有料である。私は、空港で両替するつもりなので全部日本円しか持たず困っていると大連在住のご婦人が100元程寄付して下さった(何とも感謝、感謝)。ここで物価中心で働いている子に話しを移すと、彼女たちの年齢は17才〜24才、若く、明るく、かわいい子たちでした。新聞の募集に応募し、春先から秋口まで住込で働いているそうです(給料はいくら聞いても教えてくれませんでした。)40〜50人の若い女の子とたった2人の男性(支配人と調理人)で運用されていました。各人の仕事は、フロア−の清掃、受付等など細かく分かれていて自分の仕事のみを責任もってするということが徹底されていました。親達の服装に比べ彼女たちの服装は、日本の女の子達と余り変わらず、親達がそこにお金を掛けているという話にもうなずけます。夕方には大連空港到着、そんなこんなの董さんとの珍道中も終わりをつげる時がきました。ここからは、孔先生、韓先生、龍岡研の佐藤さんにお世話になりっぱなしで、熱烈歓迎。翌日は、早朝より研究室の視察、キャンパス問題及び国有財産管理方法等の打合せで夕刻には北京に到着。
 28日は、午前中より中国鉄道科学研究院の周先生と国有財産管理方法及び防犯体制等の打合せを行い、若干の場所を観光。翌日早朝の便にて帰国の途につく。
 これからいかれる方のために一言
  1.お金は両替しておく。
  2.パスポ−トはコピ−して違う場所に持っていること。
  3.現地の人と間違われないようにする(各手続きをする時)。
  4.日程は、十分余裕をもった方がいい。

生研ニュースホームページへ


FRONTIER

../Image/dot  複雑流体の新しい相分離様式

第一部 田中 肇

TANAKA 複雑流体とは、高分子・ゲル・液晶・コロイド・界面活性剤など大きな内部自由度をもつ分子を含む液体・溶液の総称で、その特徴は、階層的な構造とそれに起因したゆっくりとしたダイナミクスにある。このように表現すると、単なる“のろまな分子”のあつまりと思われるかもしれないが、のろまであることが決定的に重要であることを、相分離を例にとって紹介したい
 相分離という現象は、一相に混ざり合っていた混合物が温度などの変化により2つの相に分離する現象で、合金・ガラス・半導体・高分子などのあらゆる物質において共通に見られる。この現象は、古くから様々な材料の構造の制御に用いられてきた。身近な例では、サラダドレッシングをよく振った後の液滴が段々大きくなる過程が、まさに相分離による粗大化の過程である。このような相分離現象は、これまで、合金系のように原子が相互に拡散しあうことにより2つの相に別れる場合(固体モデル)と、流体系のように流れによって物質が高速に運ばれる移送の過程が拡散に加えて重要な働きをする場合(流体モデル)の2つに分類されると信じられてきた。“固体モデル”の典型的な例は、半導体・金属・ガラスなどでみられ、“流体モデル”に属するものとしては、液体混合物の相分離が該当する。高分子を含む複雑流体もその例外ではなく、その相分離は“流体モデル”により記述されるというのが通説となっていた。
Photo12 しかし、われわれは、最近、従来の固体・流体モデルで記述できない特異な相分離現象を見出し、この現象の本質が、この混合系を構成する2種類の分子(内部自由度の大きなのろまな高分子鎖と小さなすばしっこい溶媒分子、ラーメンの麺とスープの関係)の動的性質が著しく異なること(動的対称性の破れ)に起因していることを明らかにした。この特異な相分離現象が高分子溶液系に限らず、粘弾性的性質の大きく異なる2つの成分からなる系において普遍的に見られる現象であると期待される。最近では、ゲルの収縮時に現れるパターン・発泡高分子(皆さんお馴染みの発泡スチロールなど)のパターンなど、世の中に見られる柔らかい物質が作るネットワーク構造の起源は、ほとんどの場合上に述べた粘弾性効果にあるのではないかと考えている。この新しいタイプの相分離の本質が、相分離の速度と各相の力学的性質の間の粘弾性緩和現象にあることから、われわれは、この相分離現象を、粘弾性相分離現象と名付けた。
 それでは、この新しい相分離をつかった新しい材料の構造制御は可能なのであろうか?この相分離を使うと、少数相は孤立相を形成するという従来の常識に反し、少数相が互いにつながりあったネットワーク構造(写真参照)や、大きさのそろった高分子の微小球を形成できる可能性がある。複雑流体は、名前のとおり複雑な系であるが、複雑さの中にまだまだ新しい興味深い(単純な)現象が潜んでいそうな気がする。(第1部  田中 肇)
 

生研ニュースホームページへ

../Image/dot  編集後記

千葉実験所の新営実験棟を訪ねると,足下に試験溶鉱炉の跡がタイムカプセルにでも入れられたように埋めこまれてディスプレイされている。同心円上に重なったパターンが,先達の情熱の上に新しい世代の息吹が重なり発展して行く生研の歴史を年輪のように感じさせる。本年も色々なことがあった。所長交代,新センター発足,第三者評価,千葉の新営等々。全国的には,地震,AUM,戦後50年, … 。1995年もあとわずか。21世紀の足音が聞こえてくる。まずは,飲みすぎ食べ過ぎに注意して健康な新年を迎えよう。(K. K.)