固体表面を観る −21世紀を支える機能材料の創成に向けて−
  材料表面・界面状態を原子レベルで明らかにする新キャラクタリゼーション法の開発

[新計測評価法開発の波及効果]
 政府予算の社会的・経済的効果を財政弾性率(乗数効果)で評価することは良く知られている通りです。科学技術予算の科学と技術に及ぼす効果をどのように計れば良いのでしょうか。
 科学技術分野の研究の効果は、基礎研究、応用研究いずれの場合でもその成果が他の研究分野へどの程度大きな波及効果を及ぼすかで計ることが出来ます。その効果を数値化出来る場合には、まさに乗数効果と同じ意味になります。
 それぞれの研究成果の社会的影響の大きさに重点をおいて評価を行うことで知られているものにノーベル賞があります。実は計測評価法の分野で多くのノーベル賞が授与されているのです。その理由は、あらゆる現象、物質、生体の本質と実態を明らかにするうえで、計測評価法が必要不可欠であり、科学と技術の進歩に大きく貢献するからです。

[材料表面・界面状態を知ることの意義]
 材料表面・界面の状態と構造を知ることの意義の一例として、下記の諸分野における基礎研究、開発研究、応用技術の開発において特に有用であることを指摘できます。
「材料分野」
  • ナノ構造材料(超薄膜、超細線、超微粒子構造等の物性的特徴を活用した新材料等)
  • ナノ構造デバイス(超LSI、量子効果デバイス、光デバイス、次世代型新デバイス等)
  • 有機無機ナノ複合材料(非線形光学素子、光化学ホールバーニング素子、分子分離 素子、バイオアクティブナノ複合材料、バイオミネラリゼーション、高分子-金属ナノ粒子触媒、ナノ半導体微結晶光触媒等)
「環境分野」
  • 完全リサイクルプラスティック(リユース、リビルド、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル等が容易なプラスティック実現のための易解体性、易分離性、易分解性等を備えた素材等)
  • 排ガス浄化触媒(窒素酸化物分解触媒、炭化水素分解触媒、スス分離・分解触媒等)
  • 有害物質・有害紫外線検出センサー(発色式簡易検出法、吸収式簡易検出法等)
  • 環境微粒子の生体影響(環境微粒子の起源解析、環境微粒子の表面汚染物質検出等)
「その他」
  • 生産技術分野(原材料品質管理、製造ライン管理、製品管理、故障解析等)

[本プロジェクトの特徴]
 本プロジェクトは日本学術振興会の未来開拓学術研究推進事業として平成10年度より5年間の予定で推進されています。その内容の特徴は、新しい計測評価法を装置化し、種々の基本的測定を行うとともに、重要度の高い応用研究を行うことです。その詳細は以下の通りです。

「新しい固体表面・界面解析評価法の特徴」
  1. 新原理「光電子回折」を用いた独創的な新しい計測評価法です。
  2. 固体表面の電子状態(元素・化学結合等)と原子の配列(3次元構造等)を同時に明らかにできます。
  3. 固体の極表面と少し深く埋もれた界面の情報を区別して検出できます。
  4. 固体表面を非破壊で、その場測定できます。

「新しい装置の特徴」
  1. 新原理「光電子回折」を用いた世界初の実用的測定装置です。
  2. 実験室規模の小型装置で、シンクロトロン放射光施設並の性能を出すことが できます。
  3. 新規性が高く、かつ独創的な多くの新技術(特許申請中)を使用しています。
  4. 種々の材質と大きさの試料を測定対象とすることができます。

「得られる情報」
  1. 結晶表面・界面の原子配列の規則性:表面ならびに界面原子が規則的に配列しているか、またはアモルファスかが解ります。
  2. 超薄膜の3次元構造:数原子層程度の薄膜の組成と3次元構造(異種原子の相互配置、格子定数、格子歪み等)が解ります。
  3. ヘテロ接合界面の界面構造:界面の構造や相互拡散の有無、化学結合の有無等が解ります。
  4. 固体表面への吸着構造:吸着原子・分子の吸着位置や相互配置ならびに化学結合の方向等が解ります。
[最近の研究成果]
(1) 強力X線源の開発
軟X線領域において、シンクロトロン放射光の水準を超える強度(1×1012 photons / sec 以上)の小型強力X線光源を開発しました。この光源は実験室に設置できかつ特定の目的に専用出来るので、「ラボラトリー放射光光源」とも呼べるものです。
(2) 角度-エネルギー分布同時検出型電子分光器の開発
角度分解型で、固体から放出される電子のエネルギースペクトル(エネルギー分解能 0.1 eV、スペクトル範囲 1500 eV以下)と角度分布(角度分解能1°、角度範囲 極角 0°- 90°)を同時に測定できる電子分光器を開発しました。
(3) 光電子・オージェ電子ホログラムの精密測定
上記の装置を用いて、固体の中の原子から発生する電子線ホログラムを高角度分解能で精密に測定しました。また、理論計算との比較により、これらのホログラムがもたらす情報を明らかにしました。

[今後の展望]
  1. 上記の装置により高精細度の光電子ホログラムを短時間で測定し、本装置の基本性能が世界最高レベルであることを実証します。
  2. 平成12年度前半には高性能試料調製室を作成し、システムを完成させる予定です。
  3. 平成12年度の後半から、半導体表面多層薄膜ならびに酸化物表面多層薄膜等の産業界において興味を集めている材料系において本システムの性能を評価します。
  4. 材料のナノ加工技術の一つである収束イオンビームを用い、その加工性能の向上に関する研究を推進します。
  5. 超薄膜作成技術、単原子層エピタキシャル技術、有機無機ハイブリッド界面作成技術等、基礎ならびに応用分野において注目されている材料創成技術に関し、基礎的な知識データ・情報を明らかにする研究を推進します。
  6. 本プロジェクトにより開発したホログラム解析用プログラム等は、完成後広く一般に公開します。


[本件に関する問い合わせ先]
東京大学生産技術研究所 4部 二瓶研究室
 電話  :03−3402−6231内線2448または2449
ファックス:03−3403−4407
電子メイル: nihei@iis.u-tokyo.ac.jp
ホームページ:http://www.iis.u-tokyo.ac.jp/~nihei/nihei-j.html


図1:多波長X線発生装置外観



図2:多波長X線発生装置による発生X線(Al-Ka線)の
スポット(中央緑の蛍光部)
スポットサイズ 0.6mm×3.5mm