生産技術研究所、産学連携の一環として新会社設立
  ― デジタル3次元情報計測システム、スリーラインスキャナーの実用化―

1.会社の概要
生産技術研究所は、研究成果を社会に還元するために産学連携の推進方法を模索してきた。その一環として、11月1日、本研究所教官6名と住友電気工業株式会社(生研奨励会の賛助会社)の共同出資による本格的な産学連携の研究開発・利用推進会社「株式会社宇宙情報技術研究所」を設立した。 生産技術研究所の教官が設立したベンチャー企業としては、前田教授のシリコン製造のアイデアを生かしたベンチャー企業「アイアイエスマテリアル」があり、生研発産学連携ベンチャー企業の第2号と言える。
新会社は、リモートセンシング(遠隔計測)やGIS(地理情報システム)などの空間情報を計測、解析、利用するための新しい技術の研究開発・利用促進、コンサルタントを主たる事業とし、5年後、年商20億円を目指す。 なお、代表取締役社長は、生産技術研究所名誉教授の高木幹雄氏(現東京理科大学教授)、資本金は2億円とし、本社は住友電工東京本社内(港区元赤坂)に置く。
当面の事業対象は、本研究所村井俊治教授の特許技術であるスリーラインスキャナー(略称TLS)の実用化・利用推進である。TLSは、航空機に搭載して地表面を観測する画像センサで、斜め前方、直下、斜め後方の三方向を同時に観測するスリーラインCCDアレーを搭載したカメラシステムにより、地表面の3次元情報及び車両等の移動する物体の移動方向、速度を観測することができる。これらのTLSの機能は、都市の建物、道路構造など3次元情報の抽出、交通量の調査、また、森林地域における樹高、樹木密度の分布計測など、従来は収集することが難しかった3次元情報を極めて高い精度で収集することを可能にする。
今後、宇宙情報技術研究所、生産技術研究所および住友電工の協力関係は、生産技術研究所がこれまでの技術蓄積を生かした研究開発支援を行い、住友電工が産学連携のベンチャー企業「株式会社シンセシス」の運営経験を生かし実用化・マーケティング・会社運営等の支援を行う。具体的には、新会社と生産技術研究所の間では、共同研究契約、委託研究契約に基づく研究協力を中心として支援を行い、また、新会社と住友電工の間では、住友電工から役員を含む社員の派遣、新会社への施設等の提供を中心として支援を行う。なお、出資比率は、生産技術研究所教官10%、住友電工90%の出資であるが、今後、他社の出資を幅広く募り、住友電工の出資比率を下げて行く予定である。
*株式会社シンセシスについて:大阪大学と京都大学の教授、大学院生を主力メンバーとするハイテクベンチャー企業「シンセシス」(大阪府箕面市)が住友電気工業と日本ベンチャーキャピタルの共同出資のもとで、平成10年2月に設立された。 主にシステムVLSI(大規模集積回路)などの研究開発と販売。 
2.TLS(スリーラインスキャナー)について
   −航空写真代替革新技術で、衛星写真解像度を1桁上回る
                    10cm分解能を実現−
従来の航空写真は、スチールカメラによって撮影し現像等の処理により地上画像を得て、写真測量・写真地図・解析図などの目的に利用されてきた。 近年、画像の処理はコンピュータを利用した解析装置によって処理するシステムが出てきて、徐々に主流になりつつある。航空写真の分野でも、同じ傾向が見られ、デジタル写真測量による処理の効率化が望まれている。従来のフィルムをコンピュータで扱えるデータにするためには、スキャナーなどによりデジタルデータに変換する必要があり、多くの手間と専用のハードウェアが必要であった。 本システムは、それらの手間を無くし、撮影時に直接地上画像をデジタルのデータとして記録するものである。  
本システムは、概念図に示すように、スリーラインスキャナー、光ファイバージャイロ・スタビライザー、GPS、データ制御装置、記録装置、モニターで構成される。 ラインセンサカメラに固定された光ファイバージャイロはカメラの光軸の向きを計測でき、これらのデータを基に、アクティブなスタビライザーと連動させて光軸を一定の方向に制御する事ができる。GPSはカメラの位置データを得るばかりでなく、GPSとジャイロのデータをリンクする事によって、カメラの位置を精度よく計測する事が出来るようになる。 これらのシステムの特徴として、次のような点が挙げられる。
・ フィルム等の中間的な媒体を使用しないので、デジタルデータに変えるまでの種々な誤差を最小にする事が出来る、
・ デジタルデータとして直接画像を得る事により、フィルムでは、現像しなければ仕上がりが確認できなかった取得データを、撮影時に撮影した画像をリアルタイムに確認でき条件が代われば即座に対応できる、
・ カメラの位置・姿勢データを得られるので、基準点を配置するなどの手間のかかる作業を最小限にする事が出来る、
などの種々の点が挙げられる。



撮影原理及び基本性能について
TLSは、スリーラインスキャナシステムの略称で、1次元のCCDを進行方向に直角に3本平行に並べて配置している。
カメラは、光軸を鉛直方向に向けることによって、中央のセンサーは直下視の画像、進行方向の前方に配置したセンサーは斜め後方視の画像、および進行方向の後方に配置したセンサーは斜め前方視の画像、3種類の視角の異なる画像を1度に撮影する事ができる。 CCDは、10000素子以上の画素数を持つCCDで構成され一度に全画素のデータを得る為、撮影時、横方向のドットのブレがない。また、進行方向はスタビライザーでブレないようにコントロールされる。これにより、歪みの無い安定した連続画像を得る事ができる。 取得画像は、一定の幅で連続した画像が得られる為、道路や河川などの線状の構造物や地形のデータベースに向いている。 また、データは、デジタルデータで記録される為、直にコンピュータでの解析や表示が可能である。 1km高度からの航空測量で、画像解像度10cm(最高5cm以下)のカラーデジタルデータが提供できる。 この解像度で、1時間に200平方キロメートルの撮影が可能である。 東京都内全域のカラーデジタル撮影を2日で完了できることを意味する。階調は8ビットであり、RGBで24ビットの色調を最終仕様としており、影部の撮影も可能になる。
プロトタイプ機による実績
7500素子CCDを搭載したモノクロ型TLSを試作、実証評価を試みてきた。 最近の撮影例を示す。 高度750mから撮影したもので、人の頭・上半身・下半身の分別が可能であり、白黒画像であるが解像度約10cmの分解能を有していると言える。
今後の展開
・ 平成12年後半にはTLS製品1号機を完成させ、撮影受託、撮影生データ、デジタルオルソ画像、3次元化データ等の販売を開始する。
・ 平成12年4月からは、プロトタイプTLSによるデジタル撮影を利用したマーケットニーズの把握、対応のアプリケーションソフトの開発を進める。
・ なお、期待される具体的なマーケットは、
 −3次元都市データベース(地籍調査、土地台帳作成への応用)
 −国土計画・管理・防災への利用
 −リアルタイムイメージングを利用したITS・道路管制分野での活用(車両速度を面的に計測できる唯一のセンサ)  −宇宙衛星情報の補完的な活用
 −環境モニタリングへの活用
等であり、広範囲な領域での活用が期待できる。
以上
<本件の問い合わせ先>
〒15-38505
東京都目黒区駒場4−6−1
東京大学生産技術研究所 第5部
教授 村井俊治
電話   :03−5452−6406
ファックス:03−5452−6408

〒107-8468
東京都港区元赤坂1−3−12
株式会社 宇宙情報技術研究所
業務部長 伊藤賢一
電話   :03―3423―5901
ファックス:03−3423−5430