小さな振り子で原子を量る
我々の身の回りでは、一定の往復運動をくりかえす、振動子が広く活用されている。例えば、時計の振り子や音叉などが挙げられる。この振動子は、その形や重さの変化に敏感で、少しでも条件が変わるとその振動周期が変化する。例えば、振り子時計の錘の位置が少しでもずれていたり、重さが変化したとする。しばらくすると我々はその時計が進み気味であるとか、遅れ気味であると感じるであろう。

計測の分野でも、これと同じように振動子の振動周期の変化からその質量変化や、その置かれている場の変化を検出するといった手法がとられている。では、この振動子の感度を可能な限り向上させるにはどうしたらよいだろうか。それには、振動子の質量や大きさを小さくすることや、なるべく損失の小さい振動にすることがよい。例えば、蚊が釣り鐘のような重いものにとまっても、釣り鐘の振れる周期の変化を検出することは極めて困難であろう。質量の差があまりにも大きいからだ。が、蚊と同じぐらいの大きさの振り子に蚊が止まれば、たちどころに振動子の周期の変化を知ることが可能であろう。蚊はまだミリメートル大だが、原子や分子が振動子に付いたり取れたりした場合の質量変化を検出するには、余程小さな振動子を用意する必要がある。

本研究プロジェクトでは、様々な方法による、ナノメートルオーダーの機械振動子の作成方法を試みてきた。最近、層状のシリコン基板を用いた作成方法に成功し、安定して10ナノメートルから100ナノメートル程度の振動子を作成できるようになった。今後、振動子の固有振動数、振動の質などを計測し、どの程度の力や質量の変化を検出できるかを明らかにしていく。応用例としては、この振動子を用いて、固体表面と振動子の間に作用する力や質量のやり取りを検出したり、ある特定の物質に反応する薬品を振動子にコーティングしておくことにより、特定の物質の有無や濃度を高感度で検出することなどが考えられる。

第2部 川勝研究室

なるべく小さく、振動の減衰の少ない"振り子"を作成し、それを用いて原子レベルの質量や場を高感度で検出する。写真のものは、約500ナノメートル。振動子の振動部としては、円盤状のものや、深針状のを作製している。

川勝英樹助教授、年吉洋講師、藤田博之教授の共同研究