乱流シミュレーションをはじめてみませんか? −乱流解析のためのフリーソフトウェア公開−
航空機や自動車のエンジン、機体まわりの気流、ビルや橋梁の風、室内エアコン、あるいは、血液や呼吸の流れなど「流れ」は身近なところにも様々に現れます。また、原子炉、火力発電や焼却炉などのエネルギー装置では「流れ」の設計が最も重要な課題の一つです。そのための流れの数値シミュレーションが国内外で精力的に研究開発されていますが、たいていの場合に流れは複雑に乱れた「乱流」になっており、その状況を正確に予測することは難しく、ブレイクスルーが期待されています。生産技術研究所では、「乱流の数値シミュレーション(NST)」研究会を中心に十数年にわたってこの課題に取り組んでおり、特に、最近では、「乱流ラージ・エディ・シミュレーション(LES)」という新たな手法を用いて、機械・エネルギ、建築・都市環境、地球物理・大気流など幅広い分野で成果を挙げつつあります。 乱流LESでは、乱流の時間変動を近似的にではあるが直接予測することができるため、たとえば、乱流火炎の時間変動を解析することができ、信頼性の高い予測法が得られると期待されます。本研究所では、ガスタービン燃焼器、火炉燃焼バーナ、エンジンシリンダ燃焼、などの各種エネルギー機器のほか、火災シミュレーションなどへの研究展開が進められています。また、乱流と干渉する非定常現象の解析も重要な対象であり、配管の疲労破壊などに影響する流体連成振動の数値予測への適用や、石炭燃焼炉などで見られる粒子混相流の乱れ変調の予測などへの適用に取り組んでいます。さらに、最近では脳動脈の非定常血流の解析など医療・生体分野への応用研究にも展開が期待されます。 これらの研究成果として、乱流シミュレーションのための多くのソフトウェアやデータベースが開発されてきました。このたび、その一部をライブラリ化してフリーソフトウェアとして公開しました。乱流シミュレーション法を、専門家ではない技術者や研究者が直接実習し、比較的容易に利用できることを狙っており、新しい設計ツールとしての普及を期待します。

第2部 谷口研究室