2001.12.19

知能ロボットによる熱水地帯観測計画

東京大学生産技術研究所
海中工学研究センター
浦   環  

1.概要

 東京大学生産技術研究所海中工学研究センター(センター長:浦   環 )は1984年より自律型海中ロボット(注1)の開発研究に着手し、これまでに様々な自律型海中ロボット(http://manta.iis.u-tokyo.ac.jp/参照)を開発し、多くの成果を挙げてきました。その結果、海中に展開できる知能ロボットである自律型海中ロボットは、未知の海を観測する新しい手段として実用化の段階にまで至ることができました。昨年度に成功した「アールワン・ロボット(注2)」による手石海丘調査、琵琶湖の湖水環境調査専用ロボット「淡探(たんたん)」の建造と運用、あるいはザトウクジラの追跡実験など、様々なロボットの応用展開が試みられています。
 これらの成果を踏まえて、本年度より新たに5年間の計画で、マリアナ海域などの水地帯を集中的に観測できる新しいロボットを開発し、2003年度からはこれを用いて観測をおこなうプロジェクト「アールツー・プロジェクト(R-Two Project)(注3)」をスタートさせました。
 本プロジェクトの目的は、まず初めに、高度に知能化された信頼性の高いロボットを研究開発し、次いで、これを熱水地帯の連続観測に利用して、熱水地帯で起こっている現象を観測し、新しい観測システムを構築することです。
 このプロジェクトは、日本学術振興会の学術創成研究「深海知能ロボットの開発研究」の一環としておこなわれるものです。

2.計画の概要

 アールワン・ロボット開発で得た技術をそのまま新しいロボット「R2D4」(注)に移行し、短期間で高い性能のロボットを実現して、熱水地帯の観測に用います。R2D4はアールワン・ロボットと同等以上の運動性能、潜航性能、および観測性能を実現します。

 研究は5年計画で、以下のように計画しています。

 2001年度:ロボットの研究開発、設計および製作
 2002年度:ロボットのハードウェアの完成と潜航試験
 2003年度:沖縄トラフなどの熱水地帯の観測
 2004年度:マリアナ背弧海盆などの熱水地帯の観測
 2005年度:マリアナ背弧海盆などの熱水地帯の観測

 熱水地帯については添付図を参照してください。なお、2003年度以降は、鯨類の観測などを並行しておこなうことも考えています。
 研究チームは、工学系と理学系の合同で構成されています。工学系は、東京大学生産技術研究所海中工学研究センターの所属であり、理学系は熱水系の研究者として日本を代表するメンバーです。

氏   名所  属専  門担    当
浦   環 (代表)東京大学・生産技術研究所海中ロボット学研究の総括・自律型ロボットの設計研究
浅田  昭東京大学・生産技術研究所海中音響システム工学ロボット音響システムの研究
藤井 輝夫東京大学・生産技術研究所海中バイオメカトロニクス知的制御の研究
能勢 義昭東京大学・生産技術研究所海中ロボット学深海ロボット機械機能の研究
玉木 賢策東京大学・海洋研究所地球テクトニクス海底下構造の観測研究
蒲生 俊敬北海道大学・大学院理学系研究科海洋地球化学熱水地帯の化学観測装置の研究
藤本 博巳東北大学・大学院理学研究科海底物理学海底磁化構造解析
中村 光一産業技術総合研究所・海洋資源環境研究部門海洋地質学熱水地帯の化学観測装置の研究


3.開発されるロボット「R2D4」の概要と基本的なミッション

1)ミッションの概要

 ロボットは、緯度経度深度で与えられた航路点(Way Point)を逐次通過して、観測をおこないます。サイドスキャンソナーなどを用いて海底面や海底近傍の広域観測をおこないます。その途中で、特異な観測値を得たときには、航路計画を変更して、その地点のより詳細な観測をおこないます。

2)ロボットの特徴

    ・小型軽量(全長4m、空中重量1トン)
        支援船を特定しない
    ・自己完結型
        トランスポンダ設置などの支援が不必要
        高精度位置標定が可能(INSとドップラーソナー)
    ・観測経路のダイナミックな変更
        高度の信頼性と十分な安全対策
    ・ドッキングによるエネルギ補給
        長期間の潜航と情報の授受

3)アールワン・ロボットとの比較

 ロボットは、支援船の機能を多く必要としないように小型軽量化します。ただし、観測用のペイロードスペースは十分に確保します。
 アールワン・ロボットとその主な形状や機能を比較すると、次の表のようになります。

    項目      R2D4        アールワン・ロボット
    全長      4m          8m
    空中重量    1トン         4トン
    最大潜航深度  4,000m         400m
    航続距離    60km          100km
    エネルギ源   リチウムイオン二次電池 CCDEシステム
    最大速度    3ノット         3ノット
    ドッキング   可能          不可能

4)主要な観測用機器

    ・サイドスキャンソナー
    ・インターフェロメトリソナー(精度約1m)
    ・酸化還元電位
    ・磁場
    ・マンガンイオン
    ・pH
    ・濁度
    ・熱流量
    ・酸素

4.期待される成果

 深海から深海知能工学が創生されます。それと同時に、熱水地帯の広域的な活動状況が観測されます。また、熱や二酸化炭素などが海底からどのように海中に放出されているのかが理解され、全球におけるそれらの循環の基礎データが得られます。

5.本件についての問い合わせ先

連絡先: 東京大学生産技術研究所海中工学研究センター
     センター長、教授 浦 環
     〒153-8505東京都目黒区駒場4−6−1
     電  話:03−5452−6487
     ファクス:03−5452−6488
     E-mail:ura@iis.u-tokyo.ac.jp
     ホームページ:http://manta.iis.u-tokyo.ac.jp


注1:エネルギを内臓し、センサ情報を基にして搭載されたプログラムで潜航する無索無人潜水機。AUV(Autonomous Underwater Vehicle)と呼ばれます。
注2:アールワン・ロボットは1996年に最初の本格的な潜航をおこない、1998年には連続12時間37分の潜航に成功しています。
注3:Rは中央海嶺を意味するRidge Systemから来ています。その第一期計画がアールワン・プロジェクトでして、本計画は第二期なのでアールツー・プロジェクトとなります。
注4:D4は最大潜航深度4000mを意味します。


配布資料
1 深海知能工学の創生とミッションの概要
2 観測を考えている熱水地帯
3 二酸化炭素循環を考えるときの海のデータの重要性
4 R2D4ロボットの概念図