2019年度顕彰

 審査ならびに選考結果

 2019年度顕彰は、平成28年度から平成30年度の間に「特定研究奨励助成」を受けた3名と平成29年度および平成30年度に
「三好研究助成」を受けた3名を候補者とし、各候補者が提出した報告書をもとに、2019年8月22日開催の審査会での厳正なる審査の上、
次の1名が選考され、2019年9月11日の理事会において、決定されました。

小林徹也氏(東京大学生産技術研究所准教授)
 『免疫レパートリビッグデータの解析技術の構築とシステ ム免疫学の国際ネットワークの形成』

〔選考理由要旨〕
 
小林徹也氏は、生命医科学分野において、定量的な計測やデータに基づいた生命科学研究の確立を目指した活動を行ってきた。
特に情報の観点から生命現象を捉える研究に体系的に取り組み、確率的な細胞システムが頑健に機能する原理や、生命進化に
おいて情報の果たす役割などを数理的な観点から明らかにした(JSTさきがけ、生物物理若手奨励賞)。またこれらの技術を、概日リズムや
胚発生、細胞の薬剤耐性へと応用してきた。そして現在は、この方法論を免疫学へと拡張した「システム免疫学」に関して精力的に
研究活動を行っている。

 同氏は本会の平成28年度特定研究奨励助成を受け、免疫受容体シーケンスビッグデータを元に免疫細胞の多様性を解析する手法の
開発と応用をおこなった。そしてシステム免疫学の国際的なネットワーク形成を目的として、イギリス・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)に
平成29年3月11日~平成30年3月16日まで1年間滞在した。滞在期間中に、免疫受容体シーケンスデータを低次元空間に射影し、
免疫細胞集団の差異を情報論的に定量化する手法(DECOLD)を開発・発表した。本手法により、ヒト免疫系疾患の一種であるセザリー症候群患者の
症状進行に伴う免疫多様性変化を同定できることが示された。そして、本手法は免疫シーケンスデータに基づく免疫病の理解や制御、リスク予測
のみならず癌関連免疫細胞の探索など、今後広く活用される技術になることが期待される。並行して同氏は、英国においてシステム免疫学を推進する
研究室や研究会、および欧州の関連大学・研究室を歴訪して、システム免疫学に関する日欧のネットワークを構築した。

 帰国後も、関連欧州研究者を日本に招聘して国際ワークショップ2件を開催し、数理モデリングや深層学習を免疫恒常性および免疫学習に
応用する先駆的な成果も加えて発表することで、システム免疫学を牽引する国際的な位置を着実に確立しつつある。そして、本研究を元にする
新たな研究プロジェクトが、新学術領域に採択されるとともに、(株)味の素との共同研究としても結実し、今後、さらに研究の幅が大きく広がることが
強く期待される。

以上のように、同氏が本助成による研究滞在中に上げた成果は、システム免疫学、さらには定量的生命科学分野に大きく貢献するものと高く評価でき、
生産技術の発展に寄与するところが大きい。また、滞在中の成果は、ヒトの免疫疾患の予測や癌免疫法の開発にも繋がっている。よって同氏の成果を
ここに顕彰する。


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