VI. 研究および発表論文


1. 研究課題とその概要
国際災害軽減工学研究センター

PreviousPage
NextPage
第49号 2000年度
2001.8.23


1. 自然災害の科学的, 社会経済的起源の研究(継続)

教授 須藤 研, 助教授 目黒 公郎

客員教授 A. S. Herath, 助手 D. Dutta

 地学現象が人間の経済社会活動に負の影響をもたらすとき自然災害が発現する. この負の影響の大きさは幾つかの変数の関数で表現される. それらは地学現象そのものの大きさ, 経済社会構造, 及び防災施策である. 本研究ではこの関数の構造を解析し, 主として途上国での防災に関する長期的施策の立案に資する.

2. 強地震動の空間分布予測の研究(継続)

教授 須藤 研, 助教授 目黒 公郎

 ある地点での地震動は震源での岩盤の破壊過程と震源とその地点間の物理的性質によって決まってくるグリーン関数が与えられることで数値的に算出できる. しかし地震工学で対象とする地震動はその波長の短さ故に空間的に互いにその様相を異にする. 本研究では存否法, ウエーブレット解析を適用した新しい予測法を開発し, 空間的に密な観測が不可能である途上国での震動予測に資する.

3. 大災害インパクトの計量手法の開発(継続)

教授 須藤 研, 助教授 目黒 公郎, 客員教授 A. S. Herath, 助手 D. Dutta

 自然災害に対して脆弱である国々を主たる対象として, 下記を研究している:

 (1) それぞれが蒙ってきた大災害について, そのインパクトを主として, 死者, 経済損失, 影響範囲でもって分類し, その内部構造を分析する.

 (2) 対象とされたそれぞれの災害について, その歴史的経緯および過程(過去の災害からの教訓, その後の社会環境の変化など)の分析

 (3) 日本国での災害史, 災害対策史とのアナロジーに基づく比較分析

 これらを通じて防災施策が国の開発計画の中でしかるべく位置付けられるべきことを論証することを位置している.

4. 洪水シミュレーションおよび被害推定モデルを用いた洪水軽減評価モデル(継続)

客員教授 A. S. Herath, 助手 D. Dutta

 洪水氾濫シミュレーションモデルを組み込んだ分布型水循環と, 経済的被害推定モデルを開発し, 統合化モデリングシステムを構築した. 本年度は, 生起確率−損失関数(Frequency-Loss Function)がどのようになるかを明らかにするとともに, 軽減対策を導入することによりこの関数形がどのように変化するかについて研究を行った.

5. マルチフラクタルを利用した高解像度降雨時系列の推定(継続)

客員教授 A. S. Herath, 大学院学生 Assela Pathirana

 アジア地域の多くの開発途上国では, 高解像度の降雨データがあまり存在せず, その殆どが日雨量データである. しかしながら, 洪水被害軽減のためには時間雨量データが必要となる. 本年度は, マルチフラクタルモデルを用い, 日本, タイなどアジア地域のいくつかの国で日雨量から時間雨量データに変換することができた. また, PDFカーブから計算に必要なIDFを求めることも出来た. 現在, 空間分布をマルチフラクタルに表現することを研究中で, 日本のデータからそれが可能なことがわかった.

6. 領域スケールでの土砂輸送モデルの開発(継続)

客員教授 A. S. Herath, 大学院学生 Habibur Rahman

 流域スケールでの土砂生産量の推定は, 土地および貯水池管理や洪水災害軽減において非常に重要な課題である. 本年度は, プロセスモデルを開発し, 土砂生産が非常に細かい不均一性(Heterogeneity)に影響されていることがわかった. そこで細かいスケールから現実的な1kmスケールへのスケールアップでの土砂生産量を推定できるプロセスモデルを開発中である.

7. 地域特性と時間的要因を考慮した停電の都市生活への影響波及に関する研究

助教授 目黒 公郎・山崎 文雄, 大学院学生 秦 泰範

 近年, 都市生活の電力への依存が高まる一方で, 自然災害や事故などの様々な原因による停電被害が発生し, 都市機能に大きな影響を及ぼしている. 停電の影響は, 電力供給システムの構造から, 配電所の供給エリアを単位として相互に影響し合い, しかもエリアごとの「電力需要状況・住民特性・産業構成などの地域特性」「停電の原因となる災害の規模」「停電発生時刻や継続時間などの停電特性」等によって, 大きく変化する. そこで本研究では, 配電所の供給エリアを単位とした地域特性と, 停電の発生時刻・継続時間を考慮した都市生活への停電の影響評価法の研究を進めている. 今年度は, 地理情報システムを用いて, 東京23区の314箇所の配電用変電所の電力需要と地域特性のデータベースの構築とその分析を行い, 供給エリア内の大口需要家の影響を含めた考慮した地域特性と, 停電の発生時刻・継続時間を考慮した停電の影響評価モデルの構築を進めている.

8. 非連続体の挙動シミュレーションに関する研究

助教授 目黒 公郎, 大学院学生 RAVICHANDRAN Nadarajah

 少し離れた位置からは「連続体の挙動」のように見えるが, 実はばらばらなある大きさの運動単位が, 適当な約束(必ずしも物理的な法則のみではない)に従って, 全体として挙動している現象が多く見られる. 砂時計の砂の運動や朝夕の通勤客, 自動車の流れなどはその典型である. これらの「挙動」は, 連続体の運動として近似できる場合もあるが, 適当な大きさの非連続な物体の集合体の挙動として扱わないと, その現象を適切に理解することはできないことも多い. 本研究室では物理的な約束に支配される現象の代表として, 「土石流」や「砂地盤の液状化現象」, 「地震時の家具の動的挙動」を非連続体解析手法を用いてシミュレーションしメカニズムを研究している. 避難行動など人間に絡んだ挙動については, 「災害時の避難行動特性のシミュレーションと空間の安全性評価」を参照されたい.

9. 災害時の避難行動特性のシミュレーションと空間の安全性評価

助教授 目黒 公郎 大学院学生 藤田 卓

 安全な都市空間や構造物をつくるには, 強度的な安全性はもちろん, 日常的にも災害時にも, そこに住んだりその施設を利用する「ひと」の安全性が確保されなくてはいけない. このような「ひと」の安全性を検討するために, 個人特性を考慮した大規模避難行動シミュレーション手法の研究を進めている. このモデルは, ポテンシャルモデルに基づいた人間行動シミュレーション手法であり, これを用いることで, 災害時の「ひと」の安全性の確保を目的として, 建設前の構造物の避難安全性の検討や既存構造物の避難安全性の診断, さらには災害時の避難誘導のあり方などが検討できる. また常時・非常時の災害時の人間行動をモニタリングするシステムを構築し, 人間行動のデータベース化を進めている.

10. 構造物の地震時崩壊過程のシミュレーション解析

助教授 目黒 公郎, 大学院学生 斉藤 康裕・新倉 一郎・西之谷 香奈

 平成7年1月17日の兵庫県南部地震は, 地震工学の先進国と言えども構造物の崩壊によって多数の犠牲者が発生しうることを明らかにした. 本研究は地震による人的被害を軽減するために, 地震時の構造物の破壊挙動を忠実に(時間的・空間的な広がりを考慮して)再現するシミュレーション手法の研究を進めている. すなわち, 破壊前の状態から徐々に破壊が進行し, やがて完全に崩壊してしまうまでの過程を統一的に解析できる手法を開発し, 様々な媒質や構造物の破壊解析を行っている. そして解析結果と実際の地震被害の比較による被害発生の原因究明と, コンピュータアニメーションによる地震被害の再現を試みている.

11. 地下の地震断層変位が地表地盤に与える影響度評価

助教授 目黒 公郎, 大学院学生 RAMANCHARLA Pradeep Kumar

 1999年に発生したトルコ・コジャエリ地震や台湾・集集地震では, 地震断層運動による表層地盤の変状が, 多くの土木構造物や建築構造物に甚大な被害を与えた. 本研究は, 破壊現象を高精度に追跡できるAEM(Applied Element Method)を用いたシミュレーションから, 地下の断層運動が表層地盤に与える影響を分析するものである.

12. 総合的な地震防災対策立案のための「最適な復旧・復興戦略」に関する研究

−ライフラインの復旧活動を対象として−

助教授 目黒 公郎, 大学院学生 秦 康範

 総合的な地震防災対策の立案のために「最適な復旧・復興戦略」のあり方を研究するものである. 阪神・淡路大震災では様々なタイプの被害が発生したが, 「最適な復旧・復興戦略」がなかったことがその後の大きな混乱を生んだことは周知の事実である. 現在研究の第一歩として, 兵庫県南部地震後のライフライン各社の復旧・復興活動を時間・空間的に分析し, 「ライフライン全体としての最善」を実現する復旧・復興活動のための相互協力体制を含めた戦略を探っている. この背景には, 震災後のライフライン各社の活動が「自社の最善」に向けた活動に終始し, 「全体としての最善」になっていなかった反省がある.

13. 電力供給量の変化を用いた地震被害状況と復旧状況の把握に関する研究

助教授 目黒 公郎, 大学院学生 秦 康範

 地震直後の被災地域の特定と被害量の把握は, 防災関連機関の初動を決定する上で極めて重要である. 本研究は地震前後の電力供給データを用いて, 地域ごとの被害推定を試みるものである. すなわち, 配電用変電所の供給エリアを地域単位として, 地震前の電力需要から地域特性を把握するとともに, 地震後の電力供給量の落ち込み具合から供給エリア内の建物被害を推定する手法を提案するとともに, 両者の関係について分析している. 分析結果からは, 地震後の電力供給量の低下は地域の建物被害と高い相関を持つことが確認されるとともに, 提案手法が, リアルタイム評価が可能, 新たな設備投資がほとんど不要, 天候や時刻に左右されない観測が可能, など有利な点を多く有し, 実用に向けて大きな可能性があることが示されている.

14. 効果的な地震対策支援システムの開発に関する研究

助教授 目黒 公郎, 大学院学生 吉村 美保, 高橋 健

 兵庫県南部地震以降, 「雨後の竹の子」的に全国の自治体を中心として様々な「地震防災システム」が生まれた. しかしこれらの多くは, 既存のシステムを(ブラックボックス的に?)違う場所に適用しただけの早期地震被害予測システムであり, 地域の地震防災力を高めることに具体的に貢献するとは思えないものもである. このような状況を踏まえ, 本研究では効果的で投資効果の高い地震対策を講じるための地震対策支援システムの開発を進めている. 地震防災システムが持つべき機能の整理に基づいて, 地域の弱点の抽出や異なる事前対策に対する投資効果の評価が可能であるなどの機能を有する「最適事前対策立案支援ツール」の開発を行っている.

15. 実効力のある次世代型防災マニュアルの開発に関する研究

助教授 目黒 公郎, 大学院学生 浜田 俊介, 大学生 近藤 伸也

 本研究は地域や組織の防災ポテンシャルを具体的に向上させる機能を持つマニュアルを開発するものである. 具体的には, 現状のマニュアルの性能分析機能, 目的別ユーザ別編集機能, 当事者マニュアル作成支援機能などを有したマニュアルである. このマニュアルによって, 災害発生以前に地域や組織が有する潜在的危険性の洗い出し, その回避法, 事前対策の効果の評価などが可能となる. このコンセプトを用いた防災マニュアルの作成を東京大学生産技術研究所や自治体を対象として進めている.

16. 地震予知情報の工学的な活用法に関する研究

助教授 目黒 公郎, 大学院学生 吉村 美保

 我が国では, 1965年以来地震予知研究が行なわれており, 東海地震の危険性が指摘されている東海地域においては, 大規模地震対策特別措置法に基づき地震予知情報を発表する体制が整えられている. しかしこの体制は, 大規模な地震が高い確率で予知されることを前提としているため, 万一予知が空振りに終わった場合にこれらの影響は1日7200億円にものぼると試算されている. 地震予知をとりまくこのような状況は, 結果的に予知の空振りが許容されにくい環境と不確実性の高い情報の公開を困難とする状況を作り出している. 本研究は不確実性を伴った予知情報を防災対策に活用するための考え方, すなわち, 地震発生までの猶予時間とその精度に応じて適正に活用する戦略について研究するものである.

17. 地震災害時の最適人材運用法に関する基礎研究

助教授 目黒 公郎, 大学生 江村 元行

 大規模災害が発生すると, 膨大な業務(災対業務)が発生するにもかかわらず, 対応に当たるべき職員自身が被災すること, また交通事情が悪化するなどの理由で, 実際に対応に当たることのできる人員は限られ, 極度の人材不足の状況に陥る. そのような環境下では, 少人数の対応できる職員による「不眠不休で」とか「寝食を忘れて」的な対応がとられがちであるが,このような状況は職員自身にとって過酷であるばかりでなく, 業務能率を著しく低下させることから, 被災地の人々にとっても受けることのできるサービスの質と量を著しく悪化させることになる. 本研究はこのような状況を改善するために, 適正な休養と人材配置によって作業効率を向上させる人材運用法を研究するものである.

18. 自然災害の現地調査

教授 須藤 研, 客員教授 S. A. Herath, 助教授 目黒 公郎

助手・特別研究員 D. Dutta, 大学院学生 秦 康範・吉村 美保・浜田 俊介・Paola Mayorca

 地震や洪水などの自然災害が発生した場合, 国内, 国外を問わず, 現地調査を行っている. 本年度は, 以下の調査を行い, 災害の様子を記録するとともにその影響を分析している. 最近では, (1)1999年8月トルコ・コジャエリ地震による被害調査, (2)1999年9月台湾・集集地震の被害調査, (3)2000年9月東海豪雨災害, (4)2000年10月鳥取西地震, 等.


previous page

next page