VI. 研究および発表論文


1. 研究課題とその概要
情報・システム大部門

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第49号 2000年度
2001.8.23


1. CED(き裂エネルギ密度)概念による破壊力学の構築(継続)

教授 渡邊 勝彦, 助手・特別研究員 佐藤 裕

 現実のき裂端近傍における現象はほぼ例外なく非弾性現象である. 現在広く行われている破壊力学はこの非弾性現象を弾性き裂の力学により評価しようとして来たものであるといえ, そのため種々の限界, 矛盾が生じている. 本研究においては, CED概念を中心とした非弾性き裂の力学とも呼ぶべきものを構成し, その各種破壊問題への適用を通じて従来の破壊力学における限界, 矛盾を克服し, あらゆるき裂問題に適用可能な破壊力学体系の構築を目指して研究を進めている.

2. 異材界面の破壊と強度評価法に関する研究(継続)

教授 渡邊 勝彦, 助手・特別研究員 佐藤 裕, 外国人客員研究員 李 玉蘭

助手 大平 壽昭, 技術官 土田 茂宏, 大学院学生 半谷 禎彦・上野川 弘通

 異材界面においては, 弾性解における界面き裂端での応力の振動特異性, 界面端部での応力特異性を見ても分かるように, 均質材では見られない特殊な挙動を示し, その強度評価法の確立に向けて解決さるべき問題が多い. 本研究では上の界面き裂と界面端部の強度評価法の開発・確立に向けての理論的, 実験的研究を進めており, 前者においては, 脆性破壊を対象にした応力拡大係数をパラメータとしての研究, また一般にはき裂端近傍での非弾性挙動を考慮に入れる必要があることから, 弾性から非弾性まで統一的に扱うことを可能にするCEDを中心とした界面き裂パラメータに関する検討を行っている. 後者については軸対称問題, さらには熱応力も考慮に入れての特異性について二次元, 三次元問題を対象に研究しており, 今年度においては対象を圧電材料にも広げている.

3. 混合モードき裂の破壊挙動評価に関する研究(継続)

教授 渡邊 勝彦, 研究員 宇都宮 登雄. 助手・特別研究員 佐藤 裕

助手 大平 壽昭, 技術官 土田 茂宏

 き裂の破壊挙動評価は, 混合モードき裂がどの方向に, どのような条件を満たしたときどの破壊モードで起こるかを判断できて初めて完全なものとなる. 本研究ではCEDをパラメータとして用いることにより, 上記の条件を満たす, 脆性破壊から大規模な塑性変形をともなった破壊まで統一的に扱える混合モードき裂破壊挙動評価が可能となることを均質材中き裂について実証してきており, 現在は, 異材界面においては一般に混合モード状態となることから, 本研究での手法の, 降伏応力が異なる同種材料を溶接したときの界面上および界面近傍のき裂問題への適用性について検討を進めている.

4. 非連続モデルの材料強度問題への適用性に関する研究(継続)

教授 渡邊 勝彦, 助手・特別研究員 佐藤 裕, 大学院学生 金 鍾元

 固体材料の力学的挙動の評価にあたっては通常いわゆる連続体モデルが用いられる. 一方現実の材料においては微視的, 局所的に見るとき, 本来連続体モデル化になじまない非連続的な挙動が観察され, これが材料の強度に強く関わって来る. 本研究はこの非連続変形の効果を評価し得る一般性あるモデルを開発し, 強度問題への適用性を検討するものである. 現在, 本モデルによる結晶粒構造を考慮したクリープ問題解析のためのメソスコピックモデルを構成し, 種々の解析を行って, メソスコピック構造の材料クリープ挙動に及ぼす影響について検討, また複合材料中の架橋効果を考慮したき裂のパラメータ評価, また繊維の引き抜け問題への適用性等を研究している.

5. 分子動力学法, 個別要素法の破壊問題への適用性に関する研究

教授 渡邊 勝彦, 助手・特別研究員 佐藤 裕, 大学院学生 張 万石

 本研究は分子動力学法によるシミュレーション, また同法の手法を取り込んだ個別要素法の開発とそれによるシミュレーションを通じて破壊現象の本質に迫り, その理解を深めると共に通常の連続体的強度評価手法の今後の展開に資そうとするものである. 前者においてはbcc Feマトリックス中のCu析出物周りの内部応力評価, 三次元問題を含むいくつかのき裂問題の解析等を進めており, また後者については繊維強化複合材料の衝撃破壊等への適用性についての検討を行っている.

6. 熱応力下応力拡大係数の特性とその構造物健全性評価への応用(継続)

教授 渡邊 勝彦, 研究員 飯井 俊行

 熱サイクルを受ける構造物においては, 熱応力によりいったんき裂が発生, 進展を開始しても, その後停留してしまう場合も多い. これにつき従来, 熱応力下においてはき裂の進展に伴い始め応力拡大係数は増加するがその後減少していくためであろうと概念的に考えられているが, 定量的には殆ど議論されていない. 本研究においては, 各種の熱応力下応力拡大係数を系統的にかつ簡便に評価する手法の開発を行ってき裂停留の本質を明らかにすると共に, 停留現象を構造物のより合理的な, 健全性評価・設計に活かす方法について研究している.

7. 圧電材料の破壊力学に関する研究

教授 渡邊 勝彦, 助手・特別研究員 佐藤 裕

外国人客員研究員 李 玉蘭, 大学院学生 森田 大士

 圧電材料はセンサーやアクチュエーターとして用いられ, 将来の知的材料の構成要素として期待されているが, その破壊力学的強度評価法は未だ確立されるに至っていない. 本研究はその確立を目指すものであり, 本年度は切欠き・き裂における特異性, 力学的効果, 電気的効果のカプリングの現れ方等, 基本的性質の把握を進めている.

8. テキスタイル材料の有限要素モデリング

助教授 吉川 暢宏, 大学院学生 桑水流 理・星野 攻・廣田 直亮

 繊維を織り, あるいは編んで成形したテキスタイル材料, およびそれを強化材としたテキスタイル複合材に関して, 有限要素モデル構築の方法論を検討した. 平織材料に関しては経糸と緯糸の挙動までを評価し得る新たな有限要素を開発した. X線CT装置と材料試験機を複合したシステムを用いて, 画像処理技術を応用した有限要素モデリング技術も開発した.

9. 最悪地震動の特定

助教授 吉川 暢宏, 大学院学生 仁木 学

 耐震設計の合理性を担保するため, 想定される地震動のうち構造健全性に対して最悪の影響を与える地震動を特定する手法を開発した. 地震動のパワースペクトルを先験情報とし, パワースペクトルの特性は保持されるとの仮定の下で, 最悪地震動を特定する手法について, 不確定パラメータの凸包モデルに基づく定式を導き, 数値シミュレーションにより, その手法の妥当性を検証した.

10. FRP複合圧力容器の最適設計に関する研究

助教授 吉川 暢宏, 技術官 佐藤 佳代, 大学院学生 荻布 真也

 天然ガス自動車用高圧燃料容器の最適設計方法を検討した. フィラメントワインディングにより成形する容器に関して, 解析に用いる要素の妥当性を検証し, 積層シェル要素による解析方法を開発した. また, ブレイジングによる成形を想定した最適補強方法について検討し, 最適網目補強構造を探索する手法を開発した.

11. 柔軟構造の最適設計に関する研究

助教授 吉川 暢宏, 大学院学生 李 源培・三宮 康彰

 柔軟性を積極的に利用して構造の高機能化を図る, コンプライアントメカニズム的設計方法論に関して, 計算負荷の低いファーストオーダー設計モデルの検討を行っている. 本年は, 三次元動的問題に対する検討と, 流体との相関を考慮した連生問題について検討を行った.

12. 溶融・半溶融金属の製造・加工に関する研究(継続)

教授 木内 学, 助手 杉山 澄雄

 アルミ合金・銅合金等の小径・異形の棒・線材, 同じく小径・薄肉の管材, 各種機械部品あるいは自動車部品・電気部品等を半溶湯状態のピレットから直接的に製造するプロセスの開発研究を推進している. 具体的には, 押出し・引抜き・圧延等の機能を複合的に実現できる加工試験機を製作し, これを用いて, 半溶融金属材料の直接加工を安定的に実現するのに要する加工上の諸元の解明, 得られた製品特性の検討などを進めている. 更に, ダイガスト加工と半溶融鍛造・熱間鍛造を複合化したダイカストフォージング加工の開発も進めている. (一部委任経理金)

13. ロールフォーミング加工に関する総合的研究(継続)

教授 木内 学, 助手 新谷 賢

 ロールフォーミング加工の技術的体系化および応用技術・関連技術の開発を目指して, 広範な研究を行っている. 素材の変形特性並びに製品の形状不良問題の解明をはじめ, バススケジュールの最適設計法の開発, ロール設計の自動化技術の開発, あるいはまたそれらの中核となる汎用シミュレーションシステムの開発, 製品品質の評価技術の開発などを進めている. その他, 実際加工時の各種問題につき調査・分析・モデル試験などを行い, 技術的改善や新技術の開発研究も進め, 多くの成果を得ている. (一部委任経理金)

14. 高機能管材の製造・加工技術に関する研究(継続)

教授 木内 学, 助手 新谷 賢

 丸管・構造用角管・その他の異形管あるいはフィン付管等のロール成形加工並びに圧延加工を中心とする製造技術, 各種管材の押出し・引抜き・曲げ, 絞り・バルジング等の二次加工技術について広範な研究を進めている. 特に円管を母材とする各種管製品の製造について, 理論的・実験的に研究を進め, この分野の技術的体系化を目指すとともに, 実加工技術の改善ならびに新製品や新加工法の開発についても研究を進め, 多くの成果を得ている. (一部委任経理金)

15. 半溶融加工法の新素材開発への応用に関する研究(継続)

教授 木内 学, 助手 杉山 澄雄

 半溶融状態にある金属材料の変形抵抗・変形能・接合性・攪拌性・混合性等の諸特性を系統的に明らかにするとともに, これらの特性を利用した新素材の製造プロセスの開発を進め, 特にアルミニウム合金・銅合金を基材とする各種複合材料の棒・線・管・板材や各種複合素形材を効率的に製造する半溶融押出し法, 半溶融圧延法, 半溶融鍛造法の開発と応用について研究を進めている. 高強度・高品質の粒子または繊維強化複合材料の他に, 粒子強化積層型複合材料の半溶融製造法等の開発も進めている. (一部委任経理金)

16. 塑性加工の複合数値解析法に関する研究(継続)

教授 木内 学

 

上界法・有限要素法・スラブ法等を複合的に活用し, 各種塑性加工プロセスの中で従来解析が困難とされていた問題の解明, 例えば組み合わせ材の圧延・鍛造・押出し・引抜き加工時の構成素材の変形挙動の解明, 塑性加工時の母材の内部欠陥の発生メカニズムの解明, 粒子強化・繊維強化複合材料の加工限界の解明, 塑性加工時の製品の形状不良の発生機構の解明, などを行う手法の開発を進め, 併せて, それら解析手法を活用して各加工技術の改善と拡張を進めている. (一部委任経理金)

17. 鍛造加工汎用シミュレータの開発に関する研究(継続)

教授 木内 学

 UBET(Upper Bound Elemental Technique)法に基く解析モデルを組合せ, 非軸対称・異形・中空を含む多様な形状を有する製品の鍛造加工について, 加工力・被加工材の流動状態・工具面圧力・型キャビティーへの被加工材の充満過程・加工限界などの総合的解析を可能とするシミュレータの開発を進めている. すでにその中核となる多様な解析モデル・解析プログラムの開発を行い, 実際加工への適用を図るとともに, 解析モデルの一層の拡張を目指している. (一部委任経理金)

18. 押出し・引抜き加工用汎用シミュレータの開発に関する研究(継続)

教授 木内 学

 任意の断面形状・寸法を持つ棒・線・管・形材の押出し加工・引抜き加工について, 加工力, 被加工材の流動状況, 最適工具形状, ダイキャビティーへの被加工材の充満挙動と充満限界, 製品の寸法精度, 等を一般的に解析し予測できるシミュレータの開発を進めている. すでに上記目的を十分に達成し得る理論の構成およびコンピュータプログラムの開発に成功し, 現在, 様々な角度から実際加工への適用を行っている. (一部委任経理金)

19. 複合板材の圧着圧延製造法に関する研究(継続)

教授 木内 学, 助手 新谷 賢

 非対称圧延技術を応用してクラッド板・サンドイッチ板等の複合板材を製造する方法について一連の研究を進めている. 特に, この複合圧着圧延プロセスを総合的に解析し得る数学的モデルの開発に成功し, これを用いて, 所要の複合板材を製造するのに要する圧延条件のあり方について系統的な検討を行い, 多くの有用な知見を得ている.

20. 半凝固処理金属の製造技術に関する研究(継続)

教授 木内 学, 助教授 柳本 潤, 助手 杉山 澄雄

 金属溶湯にせん断攪拌および急速冷却を加えて半凝固スラリーを連続的に製造する新しい方法として, せん断冷却ロール法(SCR法)を提案し, 各種条件下での製造実験を繰り返しつつ, プロセスの特性解明を進め, 所要の半凝固スラリーを得るのに要する加工条件を探索している. 併せて, 得られた半凝固スラリーの内部構造や凝固終了後の機械的特性について調査を進めている.

21. 高機能圧延変形解析に関する研究

助教授 柳本 潤, 受託研究員 岡 義行

 1990年より供用が開始された圧延加工汎用3次元解析システムは, 多くの事業所・大学に移植され広範囲な圧延加工の変形・負荷解析に利用されている. 種々の圧延プロセスの解析を精度良く行うための改良は現在も継続して行われているが, 同時に本年度より, 財団法人生産技術研究奨励会に設置された特別研究会「高機能圧延変形解析研究会」において, 産学共同による利用技術開発を平行して実施している.

22. 高温変形加工時の材料組織変化に関する研究

助教授 柳本 潤, 助手 杉山 澄雄, 技術官 柳田 明

受託研究員 森本 敬治・乗木 尚隆, 大学院学生 劉 金山

 熱間加工においては塑性変形により誘起される再結晶を利用した, 結晶構造制御が行われる. この分野は, 加工技術(機械工学)と材料技術(材料工学)の境界に位置しているため, 重要度は古くから認知されてはいたものの理論を核とした系統的な研究が極めて少ない状況にあった. 本研究室では, 再結晶過程についての実験的研究と, FEMを核とした理論の両面からこの問題に取り組んでおり, 既に数多くの成果を得ている.

23. 共回転定式化による有限変形弾塑性FEM解析に関する研究

助教授 柳本 潤, 受託研究員 王 飛角

大学院学生 川井 孝将・樋口 哲也

 数ある力学解析のうち最も高度かつ精密な理論体系を必要とするのが, 有限変形弾塑性変形理論である. 本研究室では, 客観性のある有限ひずみの導出といった「哲学的」テーマに始まり, 有限変形弾塑性FEMによる変形加工解析に終わる一連の研究を実施しており, 主に冷間圧延を対象事例として検討を行っている.

24. 通電加熱の特性と変形加工への応用

助教授 柳本 潤, 技術官 柳田 明, 大学院学生 浅野 泰則

 通電加熱圧延では均一温度分布を得ることが雰囲気加熱に比べ容易であり, 今後変形加工における温度制御手段として有効に機能していくことが予想される. 本年度はステンレス鋼の組織制御のための温度制御手段の確率を目的として, 通電加熱の特性を実験的に検討し, 圧延と組み合わせた組織制御を実施した.

25. 冷間集合組織創成に関する研究

助教授 柳本 潤, 大学院学生 角田 善稔・渡邊 壮太

 冷間プレス加工による成形性を支配する要因は, マクロな視点では金属材料の面内異方性である. 面内異方性はミクロな視点では結晶方位分布により支配されるため, 塑性変形・再結晶・変態による結晶方位分布の変化の定量化は重要な課題である. 本研究では, 冷間集合組織創成メカニズムの検討と, 集合組織創成のための新たな加工機械の開発を目指している.

26. フレキシブルな素形材製造技術の開発

助教授 柳本 潤, 大学院学生 岩村 信宏

 素形材製造プロセスをより柔軟に…というのは永遠のテーマである. 例えば鋼製造プロセスでは数多くの合金成分を成分調整により造り分けているが, 現実には成分調整は転炉容量を最小単位としておりその量は約200トンと巨大である. 約10トンの1コイル毎に, 自在な機械的特性を創り込む技術の開発を目指しつつ, 実験による検討を行っている.

27. X線光電子回折法・角度分解X線光電子分光法による固体表層解析に関する研究(継続)

教授 二瓶 好正, 助手・特別研究員 石井 秀司

リサーチアソシエイト 大森 真二, 大学院学生 成松 啓博, 田村 理恵

 X線光電子回折(XPED)法・角度分解X線光電子分光(ARXPS)法を用いて, 多岐にわたる固体材料の構造・組成分布・化学状態分析を行っている. これまでに, 実験データのさらなる高精度化を図る目的から高角度分解能2次元XPED測定などの実験を行い, いくつかの新たな知見を得た. また, 従来の理論の高機能・高精度化を目指し, 球面波多重散乱理論計算や固体内点光源からのブラック反射や差分ホログラフィーを用いた新しい構造解析などを行った.

28. X線光電子回折法による薄膜成長初期過程に関する研究(継続)

教授 二瓶 好正, 助手・特別研究員 石井 秀司

リサーチアソシエイト 大森 真二, 大学院学生 成松 啓博, 田村 理恵

 X線光電子回折(XPED)測定装置と分子線エピタキシー(MBE)装置を組合わせた測定装置を用いて, 薄膜成長の初期過程を明らかにすることを目指している. これまでにSrF2/Ge, CuCl/MgO, Ge(111)-c(2x8), Cu/Ge(111)など種々の薄膜系の構造をXPED法により調べ, 球面波多重散乱計算との比較や光電子ホログラフィー法によりその成長の初期過程を明らかにした.

29. シンクロトロン放射を用いた表面構造変化の解析(継続)

教授 二瓶 好正, 助手・特別研究員 石井 秀司, リサーチアソシエイト 白木 将

 本研究においては, 特に酸素・水などの吸着・反応による表面構造・組成・化学状態の変化を, エネルギースキャン光電子回折法などを用いて解析することを目指している. これまでにCaF2(111)面上にエピタキシャル成長したCaO層の構造を, 球面波多重散乱計算との詳細な比較から明らかにした. また同表面上に電子線照射により生じた金属Ca層の構造を調べた.

30. エネルギー・角度分布同時検出型電子分光器の試作研究(継続)

教授 二瓶 好正, 助手・特別研究員 石井 秀司, リサーチアソシエイト 白木 将

 X線励起光電子は, そのエネルギー分布に元素組成・化学状態に関する情報を, また, その角度分布には試料固体表層の構造に関する情報を含む. 従来の測定装置ではその両分布を短時間に精度良く取得することは困難であった. 本研究では, 新たに設計したトロイダル静電型エネルギーアナライザーと2次元位置敏感検出器を組み合わせ, エネルギー・角度両分布を同時かつ精度良く測定できる光電子分光器を試作している. 本年はX線および電子線励起による光電子やオージェ電子測定のための基礎実験を行った.

31. 液体金属イオン源を用いたサブミクロン二次イオン質量分析装置の試作(継続)

教授 二瓶 好正, 教授 尾張 真則, 研究担当 坂本 哲夫

技術官 冨安 文武乃進, 大学院学生 野島 雅

 二次イオン質量分析(SIMS)法は, 深さ方向分析が可能な高感度固体表面分析法である. 本研究ではGa収束イオンビーム(Ga-FIB)をSIMS装置の一次ビームに採用し, 0.1μm以下の高い面方向分解能を実現した. またマルチチャンネル並列検出システムの開発により, 迅速で正確なSIMS分析を可能とした. さらにshave-off分析なる独自の微粒子定量分析法や, Ga-FIBの加工機能を利用した新しい3次元分析法ならびに高精度shave-off深さ方向分析法を確立した. 現在は, 一次イオンビームのナノビーム化に関する基礎的な検討と, その装置化などを行っている.

32. 電子・イオンデュアル収束ビームによる表面・局所分析法の開発(継続)

教授 二瓶 好正, 教授 尾張 真則, 研究担当 坂本 哲夫

リサーチアソシエイト 程 朝暉, 大学院学生 呉 海洲・高梨 和也・小野 直幸・吉田 正樹・田中 祐介

 Ga収束イオンビーム(Ga-FIB)ならびに高輝度電子ビームを協同的に用いた, 新しい表面局所分析法の開発を行っている. 具体的には(1)Ga-FIBの加工機能を利用した精密な試料加工とオージェ定量分析を組み合せた微小領域三次元オージェ定量分析法や, (2)加工用FIBと分析用パルスFIBならびに飛行時間型質量分析計による加工断面の高感度二次イオン質量分析(SIMS)法などを開発している. これまでに微粒子や多結晶金属板などを試料とし, イオン励起オージェ電子放出に関する基礎的検討やイオン励起オージェマッピングなどを行った. また半導体素子やボンディングワイヤ接合部などに対して, 開発した高精度三次元元素分布解析法を適用し, 本法の評価を行った. 現在は, 微粒子表面に吸着した有機物の分析法の開発や, 電池材料微粒子の機能評価などを行っている.

33. 局所分析法を用いた大気浮遊粒子状物質の起源解析(継続)

教授 二瓶 好正, 教授 尾張 真則, 研究担当 坂本 哲夫

技術官 冨安 文武乃進, 大学院学生 金 朋央・野島 雅

 大気浮遊粒子状物質(SPM)は様々な発生源から放出され, 複雑な輸送過程を経て環境場に飛来し長時間浮遊する. SPMの人体影響や環境影響の評価, ならびに発生起源や輸送経路の解明のためには, SPM粒子個々の大きさ, 形状, 化学組成, 粒内元素分布などに関する情報が必要となる. 本研究では沿道や都市人工空間などで捕集されたSPMを, 電子線マイクロアナリシス法ならびに二次イオン質量分析法を用いて粒別分析し, 粒子形状や平均組成と粒内元素分布を観察・計測する手法の開発を行った. また粒別平均組成に関する情報を基にクラスター分析を行い, 発生起源推定法と起源寄与率算出法を確立した. 現在は, クラスター分析手法の改良による本起源解析法の高精度化や, 大気汚染の都市間比較に関する検討を行っている.

34. 化学実験のダウンサイジング(継続)

教授 尾張 真則, 研究担当 坂本 哲夫

大学院学生 金 朋央・鈕 王・東條 洋介・永井 一聡

 研究上行われる化学実験は新たな情報を得るためになされるものであり, 量的生産を目指しているものではない. したがって, 実験に用いる試薬の量は, 必要最小限であるべきである. 本研究は, 従来のリットル, ミリリットル, グラムレベルの試薬を用いた化学実験を, 得られる情報量を損なうことなくその10の分の1から100分の1以下の試薬により行う実験システムの開発を目指すものである.

35. 液相の相変化現象における素過程と熱伝達(継続)

教授 西尾 茂文, 助教授 白樫 了, 大学院学生 白 香蘭・田中 宏明

 蒸発・沸騰や凝固・凍結などの液相の相変化現象は, 相変化分子運動論・界線動力学・界面安定性を媒介として異相核生成・異相成長・界面形態形成により異相構造が形成されるため, 物理的に興味深く, またエネルギー・熱制御・素材製造・食品保存などの工学事象とも関連が深いため熱伝達の解明・制御の観点からも重要である. 本研究では, こうした素過程および熱伝達に関する研究を継続的に行っている. 本年度は, 1)生体・食品の凍結・貯蔵・解凍過程に対する交流電場の影響に関する研究の総括, 2)マイクログルーブ蒸発に関する実験的検討, 3)単結晶サファイアを用いた高熱流束沸騰における固液接触構造の可視化, 4)噴霧冷却における表面活性剤の影響を調べる実験などを行なった.

36. 振動励起熱輸送現象とその応用(継続)

教授 西尾 茂文, 助手 永田 真一, 技術官 上村 光宏

大学院学生 小口 勝弘・李 在皖・馬場 史朗

 固体面に沿って振動する流体や固体では, 1)温度勾配を下る方向の熱移動を増大させる熱拡散促進効果, 2)定在波圧力振動の腹部に向かう熱移動を励起する表面ヒートポンプ効果, 3)進行波により運ばれる仕事の変化に伴う仕事流束効果が現れる. 管内の液体振動流では1)が卓越し熱輸送管が構成でき, 気体振動流では2)あるいは3)が卓越しヒートポンプや冷凍機が構成できる. 本研究では, これらを振動励起熱輸送現象と総称して, 現象の解明と応用機器開発とを行なっている. 本年度は, 1)の効果に重点を置き, a)COSMOS heat pipeの過渡特性に関する実験を行い優れた過渡特性を有することを示すとともに, b)SEMOS heat pipeに関する実験と行いこのheat pipeが細径化に適していることを示すとともに, 顕熱輸送と潜熱輸送との割合を測定した.

37. LSI素子の空冷技術に関する研究(新規)

教授 西尾 茂文, 助教授 白樫 了, 助手 高野 清

技術官 上村 光宏, 大学院学生 本田 真一

 高集積化・高密度実装により発熱密度が急増しているLSIチップについては, notebook PCに代表されるように空冷が基本となるが, 発熱密度は在来の空冷技術で処理できる範囲を超えつつある. そこで, 本研究では, (a)チップからの発熱を再電力化し放熱負荷を低減する要素, (b)放熱面積の拡大要素, (c)高性能なヒートシンク要素, (d)導入空気の低温化要素を総合・統合した冷却技術, すなわち統合熱制御システムを提案し, 要素開発を開始した. 本年度は, 放熱面積の拡大要素として, 1)加振機構を内蔵したCOSMOS heat pipe型ヒートスプレッダーの試作, 2)フレキシブルSEMOS heat pipeの試作とその熱輸送特性の計測, 3)マイクロチャネル型ヒートシンクの最適化計算と熱伝達特性の測定などを行なった.

38. 低温排熱の動力化に関する研究(新規)

教授 西尾 茂文, 大学院学生 中田 大介

 エネルギー問題は, 石油資源の枯渇を中心とした資源制約と, 地球温暖化を中心とした環境制約との両面を有する. 近未来においていずれが主たる制約となるかについては様々な見解があるが, いずれにしても同一の生産過程などにおけるエネルギー消費を押さえる省エネルギー技術と, 未利用のエネルギーを利用する未利用エネルギー利用技術とは, エネルギー有効利用技術の核である. 本研究では, 後者の中で動力化が難しく熱利用として注目されている低温排熱を再動力化するソフトエンジンシステムの開発を目指している. 本年度は, 低温排熱の発生状況調査, 低温排熱を再動力化するための共振型ランキンサイクルシステムに関する基本的検討を行った.

39. 生体凍結保存における前処理過程の最適設計(継続)

助教授 白樫 了, 講師 酒井 康行

 医用の生体組織を凍結することにより, 長期間保存する技術は, 需要と供給のバランスをとる上で望まれている. 組織の大きさに依存しない凍結法としてガラス化が有力であるが, 凍結前に細胞内外の自由水を高濃度の凍害防御剤と交換しておく操作必要がある. この操作は細胞を高浸透圧に曝すことから, 適切なprotocolが細胞ごとに必要になる. 本研究では, この前処理過程のprotocolの最適化設計の手法を開発すると共に, protocolを左右する細胞の細胞膜透過係数の測定法の開発を行っている.

40. 氷スラリーを用いた高効率冷熱利用技術の研究開発

研究員(産業技術総合研究所)稲田 孝明, 助教授 白樫 了, 助手 高野 清

 氷表面への分子吸着効果を持つ環境負荷のちいさい添加物を探索し, これを氷スラリーに加えることにより, 氷の再結晶及び壁面付着を防止する効果を発現させ, 氷スラリーの輸送技術を確立する. また, 交流電場や交番磁場が過冷却水及び氷に及ぼす影響を利用して, 氷に選択的にエネルギーを吸収させる氷の凍結・解凍制御技術を確立する. さらに, これらの要素技術を統合することにより, 氷スラリーの生成・輸送・利用を包括した, 高効率冷熱利用に資する制御性・信頼性の高い氷スラリーシステムを構築し, システムの利用範囲を拡大する.

41. 食品凍結・乾燥における溶液系材料の凍結現象シミュレーションモデルの構築と実証(継続)

助教授(東京大)相良 泰行, 助教授 白樫 了

 食品の凍結乾燥は, 食材本来の品質を維持しつつ保存のきく加工法であることから, 高品位の乾燥保存食品として利用されつつある. しかしながら, 最終的な製品の品質が, 凍結時に生成する氷晶の形態の影響を大きくうけることから, 凍結操作の制御法や氷晶構造の予測がもとめられている. 本研究では, 食材の性状としてコーヒーや果実汁等の溶液系材料を対象として, 凍結速度や凍結方法に依存して変化する氷晶のサイズや分布等を定量的に予測するためのシミュレーションを構築し, 実験により実証することを目的としている.

42. 氷の誘電損失の周波数特性を利用した氷晶の測定・制御に関する研究(継続)

助教授 白樫 了, 教授 西尾 茂文, 大学院学生 白 香蘭

 生体凍結保存において, 凍害防御剤水溶液をガラス化するためには高濃度が必要とされるが, 生体へのダメージを軽減するためにはできるだけ低濃度が望ましい. また, ガラス化した生体を解凍する際には, 昇温時に再結晶をおこし細胞を破壊することがある. 凝固核または氷晶に選択的にエネルギーを与えることができれば, 核生成の抑制や氷晶の選択的解凍ができる可能性がある. 本年度は, 誘電損失スペクトルの時効効果と氷晶の形態の関係を定量化し, そのメカニズムについて言及した.

43. 固定砥粒ワイヤ工具の開発(継続)

教授 谷 泰弘, 元大学院学生((株)リコー)榎本 俊之

 8インチ以上の大口径シリコンインゴットの切断にはこれまでの内周刃切断にかわってワイヤソー切断が採用されている. しかし, ワイヤソー切断は低作業能率, 悪作業環境, 加工後の洗浄が困難という問題を有する. したがって固定砥粒ワイヤ工具の開発が望まれているが, 砥粒をワイヤに電着する電着工程の短縮が問題となっている. これまでレジンボンドダイヤモンドワイヤーの開発に着手してきたが, 今年度はメタルボンドダイヤモンドワイヤーの開発について検討した.

44. 超微細シリカ凝集砥粒を使用した固定砥粒開発工具の開発(継続)

教授 谷 泰弘, 元大学院学生((株)リコー)榎本 俊之

 シリコンウェーハの表面を鏡面化するには超微細シリカ砥粒を使用するのが好ましい. しかし, 超微細シリカ砥粒を固定砥粒加工工具に用いると工具は容易に目づまりする. そこで, 超微細シリカ凝集砥粒を用いた固定砥粒加工工具を開発している. 本年度は, 超微細シリカ凝集砥粒を用いた固定砥粒研磨パッドについて検討を行った.

45. 磁場援用切削加工に関する研究

教授 谷 泰弘, 助手 柳原 聖

 これまでの研究で, 切削工具に磁場を印加すると工具寿命の向上が認められているが, オーステナイト組織を有する金属の切削加工において磁場を印加すると磁場誘起マルテンサイト変態が生じて被削性が向上することがわかった. また本年度は回転工具での検討について着手した.

46. 複合粒子研磨法の開発

教授 谷 泰弘, 助手 柳原 聖, 大学院学生 盧 毅申

 鏡面研磨においては研磨布が一般に利用されている. しかし, 研磨布は目づまりや切れ味の劣化を起こしやすく, 研磨加工を安定させる際の足枷となっている. そこで, 研磨布の代わりにポリマー微粒子を添加することで研磨布を利用しない研磨加工の実現を試みている.

47. 紫外線硬化樹脂を利用した精密切断ブレードの開発

教授 谷 泰弘, 助手 柳原 聖

受託研究員(ノリタケカンパニーリミテド(株))藤井 剛

 半導体ウェーハの精密切断には厚さ数十μmの薄刃の砥石が利用されているが, 熱硬化性樹脂を利用しているために焼成工程に時間がかかってしまう. そこで, 紫外線硬化樹脂を利用して精密切断ブレードを大量に短時間に製造する技術を開発した.

48. 二焦点レンズを利用したシリコンウェーハの厚み計測

教授 谷 泰弘, 技術官 上村 康幸

 シリコンウェーハの製造工程において, その厚み測定には表面と裏面の変位量から算出される手法が用いられており, 片面からの計測で厚みを計測する手法が望まれている. そこで, 赤外線がシリコン単結晶を透過するという性質を利用して, あらかじめ焦点距離のわかった二焦点レンズを用いながらウェーハ表面での反射波と裏面での反射波を捉えることで厚さを計測する方法を開発した.

49. ピエゾ素子を用いたスマート構造による精密機器のパッシブ微振動制振

教授 藤田 隆史, 大学院学生 鈴木 保匡

 本研究では, 分岐回路付きピエゾ素子を用いたスマート構造を精密機器のパッシブ微振動制振へ応用するための研究を行っている. 2000年度は, 主としてFEM解析による本スマート構造の制振性能の予測解析手法を研究した. また, 電子顕微鏡モデルを製作し, 60 mm×60 mm×5Tmmのd31型ピエゾ素子8個を取付けたスマート構造による制振性能を検討した.

50. 超磁歪アクチュエータによる免震された精密生産施設のアクティブ微振動制御

教授 藤田 隆史, 大学院学生 萩原 輝彰

 半導体工場などの精密生産施設には, 建物内部の設備機器をも効果的に地震から守るために, 免震構造の採用が望ましい. 本研究では, 免震構造を採用した半導体工場などの精密生産施設を対象として, 免震層に装備した超磁歪アクチュエータによる建物の三次元微振動制御を行って地盤の常時微動に対する高性能除振を実現するシステムを研究した. 4基の多段積層ゴムで支持された2層建物モデル(22.4×2.4×2.0 Hm, 総質量6t)に水平4基, 鉛直4基の大型超磁歪アクチュエータを装備した実験装置による微振動制御実験を通して, ほぼ満足しうる結果が得られた.

51. ピエゾアクチュエータによる手術顕微鏡のアクティブ微振動制御

教授 藤田 隆史, 大学院学生 服部 高弘

 脳外科手術や眼科手術など細密な手作業を要する手術では, 患部を拡大して見るために最大倍率25倍程度の手術顕微鏡が用いられる. 病院によっては, 空調機器などの機械や人間の歩行などを振動源とする床の微振動が許容レベルを超え, 手術に支障をきたすことがあることは以前から問題になっていた. 2000年度は, 天井懸架型手術顕微鏡を対象として, ピエゾアクチュエータを用いた6自由度アクティブ除振装置を適用する場合の制御側について基礎的研究を行った.

52. 免震された精密生産施設のためのピエゾアクチュエータを用いた総合的アクティブ微振動制御システム

教授 藤田 隆史, 技術官 嶋崎 守

 本研究では, 免震構造を採用した半導体工場などの精密生産施設を対象として, 免震層に装備したピエゾアクチュエータによって地盤振動・風による外来微振動を制御し, 柱・梁に取付けたピエゾアクチュエータによって設備機械による内生微振動を制御する総合的なアクティブ微振動制御システムを開発する. 2000年度はそのための大型実験モデルを設計・製作した.

53. ピエゾアクチュエータを用いた可変摩擦ダンパによる建築構造物のセミアクティブ免震

教授 藤田 隆史, 協力研究員 佐藤 英児

 本研究は, ピエゾアクチュエータを用いた可変摩擦ダンパによって, 免震効果を損なうことなく免震構造特有の大きな相対変位を出来るだけ小さくし得るセミアクティブ免震システムの研究を行っている. 2000年度はシミュレーションによる基礎的検討を行った.

54. 構造健全性モニタリング用最大ひずみセンサに関する研究

教授 藤田 隆史, 助手 大堀 真敬

 大地震による建築土木構造物の杭基礎などの被害は, 外見上から明らかな場合を除いて, 検知することは困難である. 本研究では, 地震後に構造物の健全性を容易に判定できるような最大ひずみセンサを研究している. 2000年度は, ステンレス鋼のTRIP効果を利用した最大歪みセンサの可能性について検討した.

55. 光ファイバセンサによるゴム材料の内部ひずみの計測に関する研究

教授 藤田 隆史, 大学院学生 斉藤 正英

 自動車のより高性能な操縦性・安定性を実現するために, タイヤ・路面間の力やモーメントを計測することが求められており, タイヤに埋め込んだ光ファイバセンサによって接地部のひずみ/変形を直接計測できれば, この要求に答えることができ. また, 免震用積層ゴムは1995年の阪神・淡路大震災を契機に本格的な普及期に入っているが, 免震用積層ゴムに埋め込んだ光ファイバセンサによって, 積層ゴムに作用する軸力やせん断力を計測することができれば, 例え免震された建物/橋梁の不等沈下などが発生したとしても, それら早期に発見する構造健全性モニタリングシステムのセンサとしても用いることができる. 本研究はそのための基礎的研究であり, 2000年度は文献調査を行った.

56. 自由関節を持つマニピュレータアームの制御に関する研究

助教授 鈴木 高宏

 自由関節を持つマニピュレータアームは, その動力学拘束条件式が時間に対して不可積分であり, 2階の非ホロノミック拘束となることが知られている. このような2階非ホロノミック系は従来の制御理論上で扱うのは非常に困難であるが, 一方一つのモータのみで多くの関節を駆動できる可能性を有する大きな特長がある. 本研究では, この自由関節アームの非線形挙動を解析し, またその非線形性を利用した制御法の構築を行っている.

57. 非ホロノミック超柔軟系の解析および制御

助教授 鈴木 高宏

 普通, 柔軟マニピュレータとはリンクもしくは関節に弾性を持つものを言うが, 本研究では非弾性的な「超」柔軟系を考える. 通常の柔軟系では弾性ポテンシャルが最小となる唯一の平衡点にしか制御できないが, 超柔軟系では平衡点が一つに限定されず, あらゆる形状での静止が可能となる利点がある. 超柔軟系のモデルの一つとして自由関節により連結された多リンク系を考えることができる. 本研究では, 駆動関節を1つだけ持つ3R自由関節系について, その動力学挙動の性質を明らかにし, またその性質を利用した制御について研究を行っている.

58. 人工食道のための咀嚼物搬送機構の開発

助教授 鈴木 高宏

 最近, ロボット工学の応用として医療分野が注目されている. 食道癌の手術では原則的に全摘出が行われ胃や大腸の一部でそれを代替するためその侵襲性は高く, よって有効な人工食道の開発の意義は大きい. 本研究では, 食道の蠕動機能を機械的に代替する咀嚼物搬送機構の開発を行っている. 現在の所, 螺旋状の翼が円管内を回転することによって搬送を行う機構を提案, その試作開発を行い, 同時にその動力学的挙動の解析を行っている.

59. 混在交通流の動的挙動を考慮した制御に関する研究

助教授 鈴木 高宏

 自動運転車と手動運転車が混在する交通流において, その挙動の動的様相は非常に複雑なものになる. 本研究においては, 自動運転車, 手動運転車, そしてインフラが物理的/情報的に相互作用を持つ環境(混在交通流)全体を力学的なシステムとして捉え, その動的挙動の性質を明らかにすることで, その性質を踏まえた混在交通流の有効な制御方法の構築を目指している.

60. 流体の多重スケール・ダイナミックスに関する研究

教授 小林 敏雄

 流れにおけるスケールは流れ場の局所パラメータに強く依存し, マクロスケールからミクロスケールまで幅広く分布する. 高精度流体解析手法は流体現象におけるミクロスケールの解明を分担してきた. 本研究ではミクロスケールの現象がどのようにマクロスケールの現象を支配, 影響していくかを解明していく. 本年度はロ-ブノズルによる噴流に着目し, 乱流LESによる数値シミュレーションと高精度画像解析による実験計測によってその3次元非定常的な構造を探る.

61. 粒子画像流速計の開発

教授 小林 敏雄, 助手 佐賀 徹雄, 技術官 瀬川 茂樹

受託研究員 久保田 哲也, 博士研究員 胡 輝

 種々の流れ場の定性的/定量的観察に適する可視化手法の開発およびデジタル画像処理技術の利用による可視化結果の自動解析システムの開発に関する研究である. 今年度は流れ場を約1μmの油滴トレーサ粒子で可視化し, ステレオPIVシステムで高空間解像度の3次元速度ベクトルを抽出するためのソフトウェアの開発を行った. さらにこの手法を高度の3次元計測へ拡張するための研究をすすめており, 4台のダブルパルスYAGレーザと4台の高解像度カメラを用いた多層ステレオPIVシステムを構成し, ローブノズル乱流噴流の拡散過程の解析へ応用した.

62. 流体関連振動の予測と制御に関する研究

教授 小林 敏雄, 助教授 谷口 伸行, 研究員 田中 和博

協力研究員 小垣 哲也, 技術官 伊藤 裕一

 原子力発電プラントなどの大規模エネルギシステムの流体機械設計においては平均的性能の向上と同時に, 流れと構造物とが引き起こす不安定現象の予測や制御が重要な課題である. ここに, 乱流数値シミュレーションを適用して現象解明を図る. 本年度は流れと直角方向に自由に振動する円柱まわりの流れを対象とした乱流LESを試み, 数値予測手法の有効性を検証するとともに, ロッキングイン現象の詳細構造の把握をおこなった. また, 振動する翼まわりの流れ解析を行い, 剥離場の性状の数値予測の有効性を確かめた.

63. 自動車の空気力学的特性に関する研究

教授 小林 敏雄, 助教授 谷口 伸行, 助手 佐賀 徹雄

研究員 鬼頭 幸三, 受託研究員 栗山 宣之, 外国人客員研究員 朴 圓奎

 自動車などの車両の定常・非定常空力特性の解明, 乱流騒音の制御, 車室内冷暖房の空気流動の予測と制御に関する基礎研究を行っている. 今年度は, ITSなどで想定されている高速道路での自動車プラトーン走行に関連して横風が自動車走行に及ぼす影響の乱流数値解析を試みた. また, 乗用車前窓ピラーやドアミラーから発生する空力音の予測解析の可能性について単純なモデルを用いて検討をおこなった.

64. LES実用化に関する研究

教授 小林 敏雄, 助教授 谷口 伸行・大島 まり

協力研究員 坪倉 誠・小垣 哲也・張 会来

 LESを工業・工学の場で利用するためにはサブグリッド乱流モデルの検討, 一般座標系の導入, 境界条件設定方法の確立, 高速計算手法の検討や数値解析精度の把握が必要である. 今年度は, 一般座標系差分スキームの性質, 数値誤差の検討を行い, 高精度, 安定計算可能な一般座標系LESコードを開発した.

65. 熱流動場における温度・速度同時計測法の開発

教授 小林 敏雄, 助手 佐賀 徹雄, 技術官 瀬川 茂樹

博士研究員 胡 暉

 空間的あるいは時間的な温度変化を伴う流れ場において, 温度と速度の間の相関を知るために, 広い領域の温度情報と相関情報を同時刻に採取する手法の開発が必要である. そこで速度に対してはトレーサ粒子を追跡する方法を, 温度に対してはLIFによる蛍光発光の強度変化を画像処理する方法を開発している. 本年度は自動車用ヘッドランプ内の温度分布と気流分布について画像処理による計測結果と数値解析による計算結果とを比較し, 両者の相互補充的融合を試みた.

66. 翼まわり流れの数値解析に関する研究

教授 小林 敏雄, 研究員 松宮 火軍

 翼および翼列まわりの流れの非定常特性を数値的に予測する研究である. 本年度は風力発電用風車に使用される低レイノルズ数型翼について, LESを適用し迎三角を種々変えて詳細計算を施行した. その結果, 今まで実験的に予想されていた迎三角によって翼背面に生じる小剥離泡の存在を数値解析によって消化し, これの翼性能に及ぼす影響を検討した.

67. 超音波振動を利用した超高真空対応・完全非磁性回転導入器の研究

助教授 新野 俊樹, 基礎科学特別研究員(理化学研究所)森田 剛

 超高真空環境を乱すことを無く, また磁性材料と磁気の利用を排し, さらに200℃以上の耐熱性を有するという条件の下に, 角度分解能0.1°以下の分解能を有する回転を発生できるアクチュエータとして, 超音波振動を利用した回転導入器の研究を行う. 本装置は電力の供給を要する圧電素子などを真空容器外部に配置して真空容器外で超音波振動を発生し, その振動を容器内に導き, その振動から超音波モータの原理を利用して, 真空容器内に回転運動を発生することにより, チャンバ内部を完全に無機材料のみで構成することを可能とし, また, 200℃以上の耐熱性を実現する.

68. 3次元電子顕微鏡の研究開発

部長(理化学研究所)岩木 正哉, 助教授 新野 俊樹

研究員(理化学研究所)尾笹 一成・加瀬 究, 主任研究員(日立製作所中央研究所)柿林 博司

主任技師(日立製作所計測器グループ)砂子沢 成人, 教授(名古屋大)田中 信夫

研究員(日本原子力研究所)倉田 博基, 教授(工学院大学)馬場 則男

 ナノメータオーダの3次元微細構造の観察を実現する. 透過型電子顕微鏡を用い試料を多方向から観察した2次元像を取得し, 計算機上にナノメータオーダの分解能を持った3次元モデルを再構築する. 本年度は, 主にこれまでに構築された要素技術のシステム化と試料作成および観察技術の開発を行う.

69. マルチメディアネットワークのための高度情報セキュリティ技術の研究(継続)

教授 今井 秀樹

 学術振興会未来開拓学術研究推進事業の研究プロジェクト. ネットワークにおけるセキュリティ技術の核となるのは, 暗号・認証技術である. しかし, 現在の暗号・認証技術は, 長期間にわたる安全性の保証, 巨大ネットワークへの適用, 多様な情報への対応, 移動通信との親和性, 使いやすさなどの点からみて, 将来のマルチメディアネットワークに適用できものではない. 新たな暗号・認証技術の体系が必要なのである. 新たな暗号・認証技術の体系を構築し, 「安心して使える」マルチメディアネットワークの実現および安心して使えることにより初めて可能となるネットワークの高度利用を推進することを目的とする.

70. McEliece公開鍵暗号の改良方法およびその安全性の評価に関する研究(継続)

教授 今井 秀樹, 助手 古原 和邦

 McEliece公開鍵暗号は, 一般の線形符号の誤りを訂正することの難しさに基づいた公開鍵暗号方式である. この方式の暗号化は, ベクトルと行列との掛け算一回と, ベクトルの足し算一回のみでおこなえるため非常に簡単に行える. しかしながら, 現在までに様々な攻撃方法が提案されているため, オリジナルのMcEliece公開鍵暗号は安全な方式であるとは言えない. これに対して我々は, 非常に簡単な処理を付け加えるだけで, このMcEliece公開鍵暗号を今までに知られている全ての攻撃に対して十分な耐性を持たせる方法を提案した. 現在, この提案方式の安全性を詳細に評価する方法について研究を行っている.

71. グラフィカルモデル上の確率推論の幾何学的解析

教授 今井 秀樹, 技術官 渡辺 曜大

 Turbo符号やLDPC符号の復号アルゴリズムは, ループをもつグラフにおけるBPアルゴリズムに一致することが示されている. そしてこれらのアルゴリズムは, ループをもつグラフ上で動作しているにもかかわらず, 非常に良い性能をもつことが実験的に知られている. 本研究では, グラフィカルモデル上の確率推論問題を解くアルゴリズムについて, 微分幾何学的手法を用いて解析する.

72. 時空間符号化に対する情報理論的評価と符号構成に関する検討

教授 今井 秀樹, 研究機関研究員 井坂 元彦

 従来の時間方向に留まらず, 空間ダイバーシティを考慮した符号化利得を得るための時空間符号化の手法が近年知られるようになり, 大きな分野を形成しつつある. 本研究では, 特に時変通信路及び放送型通信路に対して情報理論的な検討を行なうことで, 具体的な符号化指針を与えるとともに, 不均一誤り訂正能力を有する時空間符号化の具体的な設計について議論を行なうことで, 高速なマルチメディア伝送に寄与することを目的とする.

73. Basing Cryptography on Different Assumptions

教授 今井 秀樹, 外国人博士研究員 Joern Mueller Quade

大学院学生 Anderson C.A. Nascimento

 Most cryptosystems used today might be broken in future. Computers become faster and also algorithmic progress is a serious threat It is difficult to keep data secret for long periods of time.

 Our research focuses on cryptographic protocols that have to be broken within a limited time and cannot be broken later. To this aim we replace the computational assumptions of cryptography by other assumptions such as technological assumptions, noise in the communication channels, behavior of participants of protocols. We assume attackers to be limited in measurement capabilities, storage capabilities, or have limited abilities in manipulating quantum states.

 Especially the following topic were under investigation

:

 * Quantum Multiparty Computations

 * Multiparty Computations with Oblivious Transfer

 * Secret Sharing of Quantum Data

 * Quantum Authentication Protocols

 * Authenticated Data Transmission Over Quantum Channels

 * Quantum Bit Commitment

 * Witnesses Based Cryptographic Systems

 * Applications of Wyner's Wiretap Channel to Data Packet Networks

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74. 楕円曲線暗号に関する研究(継続)

教授 今井 秀樹, リサーチアソシエイト 四方 順司

 楕円曲線暗号は有限体上定義された楕円曲線上の離散対数問題の困難さに安全性の根拠をおくものである. しかしながら, 幾つかの特別な場合に関しては, 楕円曲線上の離散対数問題は十分な困難さが確保できないことが知られている. この事実を考慮した上で, 本研究では安全性の更なる理論的考察を行うことを主目的としながらも, 効率性等の実用的立場からの考察を行うことも目的とする.

75. OFDM信号のピーク変動および非線形伝搬路における通信路容量に関する研究(継続)

教授 今井 秀樹, 大学院学生 落合 秀樹

 OFDM信号は周波数選択性の通信路に強く, 周波数利用効率に優れているため, 無線通信を始めさまざまな分野での適用が検討されている. OFDMの信号波形はガウス状であるため, 線形増幅が困難であり, 電力の利用効率の劣化が大きな問題となっている. 本研究では, OFDM信号のピーク変動の分布を理論的に導出してその特性を明らかにするとともに, 非線形伝搬路における通信路容量を示すことにより, ターボ符号のような強力な誤り訂正符号を適用すれば, 非線形歪みによる劣化を大きく軽減することができることを理論的に明らかにしている.

76. 情報提供者の信頼性に対する仮定を低減した非対称不正者追跡プロトコルの構成法

教授 今井 秀樹, 大学院学生 渡邊 裕治

 PayPerView等の放送型デジタルコンテンツ配信システムの著作権保護方式として有力視されているのが不正者追跡法(Traitor Tracing)と呼ばれている暗号プロトコルである. コンテンツ配布者が利用権限のある利用者に対してコンテンツの復号鍵を配布するとともに, その復号鍵が複製されて他所で発見された場合に誰がその鍵を漏洩したかを特定することを可能にする手法である. 近年, この性質を有する極めて効率的なプロトコルが提案されたが, コンテンツ配布者側の不正も考慮した場合に対して示されたプロトコルは信頼できる第3者の存在を仮定する必要があった. 本研究では, 信頼機関の存在を仮定せずにこの目的を達成する効率的な手法を提案している.

77. 情報量的安全性に基づく暗号系の研究

教授 今井 秀樹, 大学院学生 花岡 悟一郎

 現在利用されているさまざまな公開鍵暗号系のほとんどは, 計算量的な安全性に依存したものである. しかし, 近年, 高速な計算アルゴリズムや, 量子計算機をはじめとするさまざまな技術の進歩により, その安全性は危ぶまれている. そこで, 本研究ではいかなる計算能力をもつ攻撃者による攻撃にさえも安全性が保障される暗号系の研究を行う. 具体的には, 情報量的安全に基づく鍵配送方式であるKPSの効率化を行い, また, 情報量的安全性に基づく電子署名方式の機能の拡張および効率化手法の研究を行う.

78. 超高速データ伝送における誤り訂正符号に関する研究

教授 今井 秀樹, 大学院学生 蓑輪 正

 今日, 映画やTV番組など大容量のデータを瞬時に提供することを目的として携帯電話などの狭帯域の無線系を利用する, ブロードバンド(高速・広帯域)通信が強く求められている. 本研究の目的はブロードバンド通信に伴うさまざまな同期誤りを想定した通信路上での, 通信路符号化と多値変調方式の実用的な観点からの最適なシステム設計を探ることである. 特に本研究の特色は誤り訂正符号を中心としたシステムを提案し, その実用的価値を最大限に利用することで, 無駄のない新しい通信システム設計の確立を目指していることである. 本研究の結果として, 既にこの設計基準の有効性を実証する幾つかの興味深い研究結果を得ている.

79. Interference Cancellation in CDMA Cellular Systems(継続)

教授 今井 秀樹, 大学院学生 Jonas Karlsson

 Code Divison Multiple Access(CDMA)is going to be used in many of next generation of cellular systems. Next generation of cellular system will provide services with a wide range of demands. From low rate voice services to high rate video services. To increase the capacity in these kind of systems, interference cancellation is one promising method. Our research aims to find methods applicable in particular to the next generation of cellular system, based on the so-called Wideband CDMA(WCDMA)standard.

 The current direction of the research is to adopt so-called single-user detectors(SUD)to the WCDMA standard and finding suitable algorithms around the core algorithm. This includes algorithms for channel estimation, rate detection, tracking, and so on.

80. デジタルタイムスタンプに関する研究

教授 今井 秀樹, 大学院学生 金谷 篤郎

 デジタル文書は, その扱いやすさゆえにデータの信憑性の確保が大きな問題となっている. この実現のため, 秘匿性を確保するための暗号技術およびデータの作成者を保証するためのデジタル署名技術に加え, 第三の要素技術としてデジタルタイムスタンプが必要となる. これはそのデジタル文書が過去の一時点に存在していたことをいくつかの暗号プリミティブを利用することで実現するものであり, 電子政府の実現を始めとする今後の本格的なデジタル社会の到来には必要不可欠な要素技術である.

 このデジタルタイムスタンプには, デジタル文書と実世界での時刻を直接結び付ける絶対的タイムスタンプと, デジタル文書間の相対的な順序づけを行う相対的タイムスタンプが存在する. いずれも信頼できる第三者機関が必要となるが, 特に後者においては全ての文書の順序づけを行うためにはこの機関は一つしか存在してはならない. しかし現実的な観点からは, 信頼分散や負荷分散のために複数の機関の存在を仮定するのが自然である. 我々はいかなる相対的タイムスタンプをも複数の機関のもとで動作するよう拡張するための手法を提案している.

81. コンテンツ配信システムにおける不正加入者追跡に関する研究

教授 今井 秀樹, 大学院学生 松下 達之

 近年, 情報のデジタル化に伴い, 様々な形態のデジタルコンテンツ配信が盛んに行われており, それとともにコンテンツに対する著作権保護が深刻な問題となっている. 著作権保護を実現する一つのアプローチとして, 復号鍵を横流しした不正加入者の追跡手法がある. 本研究では, 不正者追跡が不正復号器の実装形態に依存せず可能であり, かつ, 各加入者に復号鍵を再配布することなく, 各加入者のコンテンツへのアクセス権を制御できる効率的な追跡手法を提案している. 提案手法は, 証明可能な安全性を有する.

82. 同報通信路を用いたコンテンツ配信システムにおける不正抑止に関する研究

教授 今井 秀樹, 大学院学生 駒木 寛隆

 payTV等の同報通信路を用いた有料コンテンツ配信システムでは, 非加入者がコンテンツを受信することを防ぐため, システム管理者はあらかじめ加入者にコンテンツ復号鍵を配布しておきコンテンツを暗号化して送信する. このようなシステムでは悪意のある加入者が自分の復号鍵を非加入者に再配布するという不正が考えられる. 本研究では不正者の不正を第3者に立証することが可能で, 不正の自己抑止性を有するシステムの構築を検討する.

83. 音響信号に対する電子透かしの研究

教授 今井 秀樹, 大学院学生 石井 円力

 近年のネットワーク環境の広域化に伴い, 著作者に無断で他人の著作物の配布が自由に行えてしまうという状況がより一般的なものとなっている.

 これに対する対策として, デジタルコンテンツに知覚されない程度に著作権情報や購入者のIDなどを埋め込む電子透かしを行うことで配布元を特定することができると考えられる. 研究では音響信号に特化した電子透かしの手法に関する検討を行っている. その際には音質や各種信号処理・圧縮等に対する頑強性も考慮する.

84. 情報量的安全性をもった鍵事前配送システムに関する研究

教授 今井 秀樹, 大学院学生 野尻 大祐

 情報量的安全性を持った鍵事前配送システムはすでに提案されているが, システムの規模が大きくなった場合, 鍵の配送やユーザの不正の監視にかかるコストが問題となってくる. 本研究では, これらの問題を解決し, また, ユーザに必要なメモリサイズにおいても最適な手法として, 階層構造をもった鍵事前配送システムを提案している. さらに, その安全性・効率性の評価を行い, 実用性を高めるためさらなる研究を行っている.

85. 情報理論的アプローチによる電子入札方式の研究

教授 今井 秀樹, 大学院学生 山根 大地

 インターネット上で公平な電子商取引を実現する手段の一つとして電子入札がある. より安全な電子入札システムの実現のために落札値と落札者に関する情報以外を外部に対し秘匿することが重要である. 本研究では入札値の秘匿に関する安全性を高めることを目的とした情報量的安全性に基づく入札方式の検討を行っている.

86. 安全な電子透かしシステムの開発に関する研究

教授 今井 秀樹, 大学院学生 金 美羅

 電子透かしとはデジタルコンテンツに利用者情報などを埋め込み, 後に不正コピーが発見されたとき, 不正を行った利用者を特定できる方法である. 本研究では, 電子透かし法で考えられるサーバによる不正と利用者らの結託攻撃に安全な電子透かしシステムに関する研究を行っている.

87. 柔軟なセキュリティポリシーを実現するアクセス制御方法に関する研究

教授 今井 秀樹, 受託研究員 工藤 道治

 インターネットにおいてWebサービスや電子商取引を行う場合, 多様なアクセスに対して適切にアクセス制御することがますます重要になってくる. 従来のアクセス制御モデルでは, アクセス制御規則に基づいた評価の結果としてアクセスの許可/拒否の二値を返すものとされてきた. 二値に追加して必須処理という補足情報を追加することで, 従来のアクセス制御モデルの汎用的な拡張を行う. 暗号化や署名検証といった必須処理とアクセス制御規則を結び付けることにより, データの機密性保持などの観点から柔軟で整合性のあるセキュリティポリシーを記述する.

88. 共通鍵ブロック暗号の安全性評価に関する研究

教授 今井 秀樹, 受託研究員 盛合 志帆

 共通鍵ブロック暗号は, データの秘匿のために一般的に用いられている暗号方式である. 2001年に正式に制定される米国標準暗号Advanced Encryption Standard(AES)もこの暗号方式の一つである. 多くの公開鍵暗号が, 計算量的に困難とされている問題に帰着することで, その安全性が保証されているのに対し, 共通鍵ブロック暗号は, 速度や実装性能を重視して設計されることが多く, 統一的な安全性保証理論は確立していない. 本研究では既存の共通鍵ブロック暗号の安全性評価や新しい安全性評価手法の確立に関する研究を行なっている.

89. Wavelet変換に基づく各種攻撃に耐性のある電子透かしに関する研究

教授 今井 秀樹, 協力研究員 盛 拓生

 近年のインタネットの発達により, ネットワークからディジタルコンテンツを入手することは非常に容易になってきている. ディジタルデータは容易に完全に同じものをコピーすることが可能であり, ネットワーク社会におけるディジタルコンテンツの著作権保護は非常に重要な課題である. 本研究ではディジタルコンテンツとして静止画像を考え, 静止画像に対して, Wavelet変換に基づき著作権情報等を人間に知覚できないように埋め込み, 抽出する. JPEG等に代表される非幾何学的攻撃とStirMark3.1に代表される幾何学的攻撃の両方に耐性もつ電子透かしの開発を目的としている.

90. 積み重ね順序を鍵とする視覚復号型暗号方式とその応用

教授 今井 秀樹, 協力研究員 盛 拓生

 1994年にNaor, Shamirらによって, 計算機を用いずに人間の視覚系により復号可能な視覚復号型暗号方式が提案された. 以後, 視覚復号型暗号方式の様々な方式が提案されているが, その多くは画素間のor演算により構成されている. 本研究では, 画素間に新たな演算を定義することで, シェアの積み重ねの順序を換えることで, 異なる情報を復号可能な視覚復号型暗号方式(SVC)を提案している. 本方式は従来型の視覚暗号方式と比較してはるかに多くの情報を暗号化することができる. さらに, 本研究ではこの特徴を利用して, SVCに基づくデジタル署名方式(VDS)を提案している. 現在は, SVCおよびVDSの安全性の検討および方向性を持った暗号方式の一般化に関する検討を行っている.

91. インターネット・プロトコルのセキュリティ

講師 松浦 幹太

 インターネットは, 今やネットワーク社会に欠かせない存在である. インターネット・プロトコルのバージョン6への移行により, セキュリティ機能が標準でサポートされる. その際, 通信プロトコル階層の下位レイヤに負荷の高い作業を組み込むことになるため, 効率化や拡張性に関する要求が格段に厳しくなる. そのような観点から, プロトコル全体としての評価・設計を重視して研究を進めている. 例えば, 要求がもっとも厳しいマルチキャスト通信において, グループ鍵配布時のオーバーヘッド最小化などの成果を得ている.

92. サービス妨害攻撃対策

講師 松浦 幹太

 盗聴やなりすましのような狭義のセキュリティ的脅威だけでなく, ネットワーク社会では嫌がらせも大問題となる. 例えば, 安全な通信のために備えた認証機構を逆手に取り, 「相手を確認する作業」を次から次へと行わせて計算機資源を枯渇させついには動作不能状態に陥れるサービス妨害攻撃は大きな脅威である. また, アプリケーションレベルでも, 電子メール爆弾など身近な問題がある. 我々は, サービス妨害攻撃を抑止するために攻撃者へ負荷を負わせる技術を開発し, 同技術を安全性証明可能な鍵共有プロトコルへ応用することに成功している.

93. 情報ネットワーク倫理関連技術

講師 松浦 幹太

 ネットワークが狭義の技術的課題を克服したとしても, 社会に真に受け容れられるためには, さらに倫理や監査の問題も無視できない. 実際, 設計次第ではパフォーマンス監査すら不可能になる恐れがある. 我々は, ネットワークを介した抜き打ち検査を可能とするプロトコルなど, 社会における制度的選択肢を広げる技術に取り組んでいる. また, 同プロトコル技術を応用し, 前進安全性(秘密鍵が漏れてもそれ以前に完了した通信の秘匿性が保たれること)を確保した上で会員権を一時貸与する方式を開発している.

94. 研究促進技術

講師 松浦 幹太

 従来の共同研究の常識を超越した速度と柔軟性で協調した研究ができれば, 研究の進展が桁違いに促進されはしまいか. そのような希望をもち, 知的所有権やプライバシー保護, 信頼性を考慮した基礎技術に取り組んでいる. デジタルコンテンツを流通させる「ビジネス」のために電子透かしなどの情報セキュリティ技術が重要であることは周知の事実. 我々は視点を変え, 研究用ディジタルデータを流通させる「非営利研究促進事業」に役立つ情報セキュリティ技術, 特に情報埋め込み技術の基礎研究を行っている. 一次評価として, 研究データ配布時に添える研究課題の表現方法によって埋め込み容量がどう変化するかを調査している.

95. セキュリティシステムの不確定性理論と応用

講師 松浦 幹太

 情報セキュリティシステムでは, 本質的に時間的な不確定性を避けることが出来ない. 例えば, 使用する鍵や電子証明書の信頼性は, 一定とはいえない. その不確定性に起因するトラブルによって損害を被った場合, 独自の保険や金融ディリバティブなどで対処する方策が考えられるが, それらの価格付けは自明ではない. 我々は, そのような新しい社会のシナリオを考え, 基本的な価格評価に関する理論式を導いた. また, 実用化には証拠を残す技術が必要であるが, そのために安全なログ生成技術を開発している.

96. 仮想現実感モデルの自動生成

教授 池内 克史, 講師 佐藤 洋一

大学院学生 西野 恒・佐藤 いまり・大石 岳史・佐川 立昌

大学院学生 高橋 徹・宮崎 大輔・(慶應義塾大)斎藤 めぐみ

研究生 増田 智仁・(慶應義塾大)稲熊 伸昭・吉藤 伸幸

 現在, 仮想現実感システムは幅広い応用分野における応用が期待されている. しかしながら, 大部分の仮想現実感システムのモデルはプログラマーが手で入力している. 仮想ショッピング, 仮想美術館散策といった仮想現実感システムの応用例では, 仮想物体, 仮想空間のもとになる現実物体, 現実空間が存在する. こういった応用分野では, このもとになる現実物体, 現実空間を仮想化してモデルが得られればシステム作成の手間が大いに省け, 仮想現実感システムが安価に作成できる. この目標を目指して現実物体(環境)より寸法, 曲率といった幾何形状を得る手法の開発, 反射率, 色といった質感を得る手法の開発などを研究している.

97. 物体認識プログラムの自動生成

教授 池内 克史, 技術官 長谷川 仁則

協力研究員 大場 光太郎, 受託研究員 河村 憲太郎

 計算機が物体を認識するための物体認識プログラムも現在プログラマーが手で書いている. 多くの物体認識の応用シナリオでは, 物体のCADモデルが存在する. このCADモデルから認識プログラムを自動生成する手法についても研究を行っている. 物体モデルから認識に使用できる特徴を選び出す手法, 認識すべき物体間でこれらの特徴がどう異なっているかを比較し, 効果的な特徴を決定する手法, これらの特徴に基づき判断アルゴリズムを生成する手法などが研究テーマである.

98. ロボットプログラムの視覚による取得

教授 池内 克史, 協力研究員 木村 浩・末広 尚士

大学院学生 大野 一・小川原 光一・冨長 裕久・高松 淳

大学院学生 橋本 謙太郎・(電気通信大)佐藤 啓宏

 人間の行動獲得は幼児の例からも分かるように大半が教師の行動を観察して獲得している. この能力を計算機の上に移植できれば, プログラマーがロボット行動プログラムを書くことなく, 単に手本になる行動を見せるだけでロボットがプログラムを自ら獲得する. この様なロボットを開発することを目標として研究を進めている. 主なテーマは連続画像に記録された人間の連続行動を重要な部分列に分解すること, 各部分列を解析し, 動作のプリミティブ抽出すること, これをロボットの行動にマップすることである.

99. 知的交通システム(ITS)

教授 池内 克史, 助手 影澤 政隆

大学院学生 西川 拓, 高橋 拓二, 村尾 真洋, 吉田 達哉

研究生 三枝 旭・(慶應義塾大)上野 信一

 現在まで自動走行ロボットは人間から独立したオートノマスなロボットとして設計されてきた. 一方21世紀に向けて知的交通システムの中でのそれは, ロボット(車), 人間さらにその周辺のロボット(車)が協調しながら知的に行動していく必要がある. このため周辺の人間やロボットの行動を見てその状態を理解し, 周辺の道路環境を比較しながら, さらに上位のコントロール系からの情報にも基づいて, 最適な行動がとれるロボット(車)を開発している. 人間の行動を連続的に観測した画像列から行動を理解する手法, 地図情報と周辺の状況から現在の位置を決定する手法, 位置情報, 地図情報を現在の実画像上に付加する手法などが現在の研究テーマである.

100. 極低消費電力・新システムLSI技術の開拓

教授 桜井 貴康, 技術官 川口 博・稲垣 賢一

 (東京大学国際・産学共同研究センターの項参照)

101. ディープサブミクロン配線のタイミング特性の研究

教授 桜井 貴康, 技術官 稲垣 賢一

 (東京大学国際・産学共同研究センターの項参照)

102. 超低電圧CMOS回路の研究

教授 桜井 貴康

 (東京大学国際・産学共同研究センターの項参照)

103. ディープサブミクロン世代の設計法の研究

教授 桜井 貴康

 (東京大学国際・産学共同研究センターの項参照)

104. 建物周辺の乱流構造に関する風洞模型実験と数値シミュレーションによる解析(継続)

教授 村上 周三・加藤 信介, 技術専門職員 高橋 岳生

協力研究員 飯塚 悟, 大学院学生 李 春絃

 建物周辺で発生する強風や乱れの構造に関して, 風洞実験や数値シミュレーションにより検討している. 建物のようなbluff body周りの複雑な流れ場を予測する場合, 標準k-εモデルは種々の問題を有する. 特に, レイノルズ応力等の渦粘性近似は流れ場によりしばしば大きな予測誤差の原因となる. 本年度は, 境界層流中に置かれた高層建物モデル周辺気流の解析にLK型をはじめ, 各種のk-εモデルや応力方程式モデルによる解析を行い, その予測精度を比較, 検討した.

105. パッシブ喫煙に関する研究(継続)

教授 村上 周三・加藤 信介, 助手 白石 靖幸, 大学院学生 林 立也・朱 晟偉

 室内における受動的喫煙量を室内のCFDによる気流解析から検討している. 人体発熱による熱上昇流及びタバコ煙の熱上昇流が受動的喫煙量の多寡に大きく影響することが明らかになっている. 本年度も昨年に引き続き, 静穏気流下及び混合換気性状下の室内でタバコ煙がどの様な拡散性状をとり, 隣接する人体にどう影響を与えるかを検討した.

106. 室内気流の乱流性状と拡散機構に関する数値シミュレーション手法の開発研究(継続)

教授 村上 周三・加藤 信介, 研究員 近藤 靖史

協力研究員 飯塚 悟・伊藤 一秀, 大学院学生 李 春絃

 本研究は, 室内で発生する汚染質による空気汚染や効率的な空調を行うための気流設計の基礎資料を整備しようとすることを目的としている. 本年度も昨年に引き続き, 温度安定成層内で, 浮力による乱流拡散が抑制される効果を導入した低Re数型k-εモデルを温度変動の分散の輸送方程式を連立して不安定流れ場に拡張し, その効果を検討した. また, 精密模型実験結果と比較し, その精度を検証した.

107. 大空間の温熱空気環境の数値シミュレーションと模型実験による予測, 解析法の開発(継続)

教授 村上 周三, 加藤 信介, 技術専門職員 高橋 岳生

大学院学生 張 賢在

 屋内体育館や劇場, アトリウム等の大空間内部の温熱空気環境を模型実験, 数値シミュレーションにより予測する手法の開発を行う. 本年度も昨年度に引き続き, 自然換気により環境調整される屋内体育館に関してその通風性状を数値シミュレーションにより検討した.

108. 風洞実験・室内気流実験で用いる風速並びに風圧変動測定方法の開発に関する研究(継続)

教授 村上 周三・加藤 信介, 研究員 小林 信行・近藤 靖史

技術専門職員 高橋 岳生, 大学院学生 大津 朋博

 建物周辺気流に関する風洞実験や室内気流実験で用いる平均風速, 風速変動の3次元計測が可能な風速測定器の開発・実用化および変動風圧の測定法等の開発に関し, 研究を進めている. 本年度も昨年に引き続き, PIV流速計により等温室内気流, および非等温室内気流の乱流統計量を測定し, その特性を解析した.

109. 室内気流の乱流シミュレーションとレーザー可視化, 画像処理計測手法の開発研究(継続)

教授 村上 周三・加藤 信介, 助手 白石 靖幸

協力研究員 伊藤 一秀, 大学院学生 太田 直希

 室内気流を対象とした乱流シミュレーション・可視化計測による流れ場, 拡散場の予測, 解析, 制御のための手法の開発を行う. 特に, レーザ光を用いた流れの可視化による定性的な把握とともに, 定量的な計測を行うシステムの開発研究に重点を置く. 模型実験での可視化により得られた流れ性状を数値化してシミュレーション結果と比較し, その精度向上に務めた.

110. 居住環境実験法に関する研究(継続)

教授 村上 周三, 研究員 吉野 博・出口 清孝・赤林 伸一

 住宅などにおける適切な室内環境レベルを明らかにするため, 新たに建設された実験住宅や既存の住宅を用いて各種の居住環境実験を行い, 実験方法を確立すると共に, 適切な環境評価方法と環境水準に関して研究を進めている. 本年度は昨年に引き続き, 自然換気用窓が設置された体育館に関し, 詳細で系統的な実測, 解析を行い, 空間内の総合的な環境予測・制御法について検討した.

111. 室内温熱環境と空調システムに関する研究(継続)

教授 村上 周三・加藤 信介, 研究機関研究員 金 泰延

大学院学生 張 賢在・宋 斗三・中野 亮

 良好な室内環境を得るための最適な空調システムに関して, 模型実験・数値シミュレーションにより研究している. 中でも放射パネルを用いた冷房方式は, 全空気方式に比べ冷風吹出しによるドラフトリスクが軽減される等の有利な点を持つ方式である. 本年度も前年度に引き続き, オフィス空間を対象として, 冷房しながら自然換気を行った場合(自然換気併用ハイブリッド空調)の有効性と理想的な空調拡散のあり方についてCFDにより解析を行っている.

112. 数値サーマルマネキンの開発(継続)

教授 村上 周三・加藤 信介, 助手 白石 靖幸

研究員 田辺 新一, 大学院学生 林 立也・朱 晟偉・梁 禎訓

 本研究は, サーマルマネキン等を用いた実験に基づいて行われている人体とその周辺の環境場との熱輸送解析を, 対流放射連成シミュレーション, さらには湿気輸送シミュレーションとの連成により, 数値的に精度良くシミュレートすることを目的とする. 本年度は室内の様々な位置の汚染源の人体呼吸空気汚染への寄与を評価する指標を新たに定義し, CFDによる解析を行った.

113. 市街地における物質拡散に関する数値シミュレーションと風洞実験(継続)

教授 村上 周三, 研究員 上原 清, 技術専門職員 高橋 岳生

大学院学生 Mohamed Fathy Yassin

 建築物, 自動車から排出されるガスによる市街地の空気汚染に関して, 風洞実験や乱流数値シミュレーションを行い, 市街地内の汚染質の拡散機構, 空気汚染に対する建築分野における対策を明らかにする. 本年度は昨年に引き続き, 風洞実験により, 道路幅と大気安定度の影響によるキャニオン内部の流れの変化についてレーザー風速計を用いて計測した. また, 住居建物屋上から汚染ガスが排出された場合の拡散性状に関する風洞実験を行った.

114. 風工学における数値乱流風洞の開発研究(継続)

教授 村上 周三, 研究員 持田 灯

協力研究員 飯塚 悟, 伊藤 一秀, 大学院学生 李 春絃

 本研究は, 風工学における乱流を対象とする数値風洞の開発を目的としている. 数値風洞は, 現在風洞実験で行っている実験的検討をある程度数値シミュレーションにより代替しようとするものである. 本年度は昨年に引き続きBluff Body周りなどの流れの解析に有効と考えられるLagrangian Dynamic Mixed SGS Modelを2次元角柱周辺気流のLESに適用し, 他のモデルによる結果並びに実験結果と比較した. また, LESで必要とされる流入風の乱れを人工的に簡易に生成する方法に関して検討し, 波数空間の3次元エネルギースペクトルの理論を用いて流入風を生成するシステムを開発した.

115. 都市気候のモデリングに関する研究(継続)

教授 村上 周三, 助手 白石 靖幸, 協力研究員 大岡 龍三・森山 正和・成田 健一

研究員 持田 灯, 研究機関研究員 KIM Sangjin, 大学院学生 吉田 伸治・原山 和也

 本研究は, 現在理工学の様々な分野で行われている都市気候問題の数値シミュレーション手法を吟味し, 都市・建築に関わる種々のスケールに最適なモデリング手法を開発することを目的としている. 本年度は, 昨年に引き続き, 緑地における粗度長の影響に着目し, この違いが地表面付近の温度に与える影響について検討した. また, 開発した数値モデルをタイのバンコクに適用し, 都市化が都市環境に与える影響を解析するとともに都市温熱環境制御のための適切な都市計画手法について検討した.

116. 室内化学物質空気汚染の解明と健康居住空間の開発(継続)

教授 村上 周三・加藤 信介, 研究員 伊香賀 俊治・田辺 新一・近藤 靖史

協力研究員 伊藤 一秀, 大学院学生 朱 清宇・太田 直希

 建築物・住宅内における化学物質空気汚染に関する問題を解明し, 健康で衛生的な居住環境を整備する. 研究対象物質としてホルムアルデヒド, VOC, 有機リン系農薬及び可塑材に着目する. これら化学物質の室内空間への放散及びその活性化反応を含めた汚染のメカニズム, 予測方法, 最適設計・対策方法を解明すること, その情報データベースの構築を目的とする. 本年度は建築生産の現場で頻繁に使用されるペイント類に着目し, ペイントからの化学物質放散性状について検討した. また, 室内居住域の化学物質濃度を健康で衛生的な範囲内に留めるための多岐にわたる建材使用の条件, 室内換気方法, 除去分解方法を具体的に提案する.

117. 高密度居住区モデルの開発研究(継続)

教授 村上 周三・加藤 信介, 研究員 伊香賀 俊治

助手 白石 靖幸, 大学院学生 平野 智子

 人口爆発を止めることは困難であり, 人類は好むと好まざるに拘らず, 都市において高密度居住の道を選ばざるを得ない. 高密度居住を積極的に利用して, 効率的で, 高いサステナビリティ性を備えた, そして環境負荷の少ない居住区モデルを開発する. 本研究では, 都市負荷の最小化を目指して高密度居住区を計画し, その環境負荷削減効果を明らかにするとともに食料生産, ヒーリング等のための耕地地区, 緑地地区と高密度居住地内のバランスのとれた配置計画方法を提案する. 本年度は急激に高密度化が進行し, かつ空調がそれほど普及していない都市の典型例として, ベトナムのハノイにおいて環境実測を行い, 高温多湿気候に適応するための住宅の工夫などについて検討した.

118. 火災煙流動数値解析手法の開発(継続)

教授 村上 周三・加藤 信介, 助手 白石 靖幸

研究員 山田 常圭, 研究機関研究員 KIM Sangjin

 建築物, 地下街, 船舶等における火災時の煙流動の数値解析手法を開発している. 本年度も昨年度に引き続き, 都市気候モデルを用いて, 阪神・淡路大震災発生時の阪神地方の気象条件を用いて, 神戸市のある領域が大火に覆われた場合の広域にわたる熱気流予測を評価した.

119. 環境感性工学の開発(継続)

教授 村上 周三・加藤 信介, 助手 白石 靖幸

大学院学生 林 立也・梁 禎訓

 環境感性工学開発の第一段階として, 空調による室内温熱環境における適用を検討する. 室内の温熱環境シミュレーションシステムに, 環境からの刺激に対して, 環境に対し能動的に反応する人間要素を組み込み, 環境制御のため投入したエネルギー量と人間の環境に対する不満足度を最小化するよう, 環境−人間系システムを最適化する. この検討により, 省エネルギーかつ, 人間の感性に沿った空調システムを発見, 選択することが可能となる. 本年度も昨年に引き続き, サーマルマネキン(人体の放射性状をシミュレートするマネキン)を用いて様々な空間の温熱環境を計測, 評価し, 環境−人間系システムを検討した.

120. 室内の換気・空調効率に関する研究(継続)

教授 村上 周三・加藤 信介, 研究員 吉野 博

研究機関研究員 金 泰延, 協力研究員 伊藤 一秀, 大学院学生 太田 直希

 室内の空気温熱環境の形成に預かっている各種要因とその寄与(感度)を放射および室内気流シミュレーションにより解析する. これにより一つの空調吹出口や排気口, また温熱源などが, どのように室内の気流・温度分布の形成に関わっているか, またこれらの要素が多少変化した際, 室内の気流・温度分布がどのように変化するかを解析する. これらの解析結果は, 室内の温熱空気環境の設計や制御に用いられる. 本年度は暖房室内で開放型灯油ストーブを燃焼させた際の室内空気質の濃度分布性状について検討した.

121. 風力発電の立地選択のためのCFDに基づく風況予測手法の開発と検証

教授 村上 周三・加藤 信介, 研究員 持田 灯

技術専門職員 高橋 岳生, 大学院学生 大津 朋博・Mohamed Fathy Yassin

 風力発電サイトの最適な立地地点を選定するために, 広範な観測を実施することは困難である. そこで, 数値モデルによる風況予測を行わざるを得ないが, 日本の地形は起伏に富んでおり, 既存の線形風況予測モデルの適用限界を超えている. 本研究の目的は, 傾斜勾配が5%を越える地域にも利用でき, 風車立地候補地点近傍の正確な予測を行える局所的風況予測モデルを開発することである. 本年度は, 二次元丘陵周囲の気流性状について風洞模型実験並びにCFDによる検討を行った.

122. 既存鉄骨建物の構造耐力性能の診断と改善(継続)

助教授 大井 謙一, 助手・特別研究員 李 昇宰, 助手 嶋脇 與助

技術専門職員 大塚 日出夫, 大学院学生 Guzman Ruben

 阪神・淡路大震災で観察された鉄骨造文教施設の被害像と耐震診断結果とを整合させるための耐震診断法の改善, 特に建物のエネルギー吸収能力を表現するじん性指標F値の改善についての研究を行っている. また, 既存鉄骨造建物の構造耐力性能を改善する目的で取付けられる軸組筋かい材を対象として, 改修時の施工性を重視した改良型接合形式の開発研究も行っており, 今年度は高変形能高力ボルトによる半剛接接合の変形能力改善を試みた.

123. 鋼構造骨組のハイブリッド地震応答実験(継続)

助教授 大井 謙一, 助手・特別研究員 李 昇宰

助手 嶋脇 與助, 技術専門職員 大塚 日出夫, 大学院学生 崔 宰赫

 多数の構造部材からなる大規模架構全体の破壊挙動を電算機で追跡しながら, 計算された部分構造の変位(または力)を部分構造模型試験体に強制し, また載荷実験で測定された部分構造の挙動情報をリアルタイムで解析にフィードバックさせるというハイブリッド実験システムを開発した. 力学的釣合いを満足させるために試験体の非線形挙動の予測子が必要であるが, 各種の数学モデルの他, 優れた学習機能のあるニューラルネットワーク予測子を試み, その適用性を検討した. 今年度は, 形状記憶合金材料の超弾性を利用した耐震デバイスを有する骨組の地震応答実験を行った.

124. 鉄骨造弱小モデルの地震応答観測(継続)

助教授 大井 謙一, 助手・特別研究員 李 昇宰

助手 嶋脇 與助, 技術専門職員 大塚 日出夫

 中規模の地震でも損傷が生じるように設計された鉄骨造3階建て弱小モデル(模型Iと模型II)の自然地震に対する応答観測を千葉実験所にて継続している. 弾塑性応答8回を含む過去の応答観測データをデータベース化し, 様々な角度から検討している. 模型Iに対しては, 変形性能に優れた極低降伏点鋼製の履歴ダンパを設置して, 起振機による強制振動実験及び応答観測結果に基づいて履歴ダンパによる応答低減効果を実証的に調べている. 今年度はサンプリング周期を可変とするべくデータ収録システムを改善し, 小地震に対してシステムの確認を行った.

125. 鉄骨構造物の複合非線形解析(継続)

助教授 大井 謙一, 助手・特別研究員 李 昇宰, 助手 嶋脇 與助

技術専門職員 大塚 日出夫, 大学院学生 Khandelwal Praveen, 伊藤 拓海

 火力発電所建屋, 体育館, 工場などの鉄骨造架構は, 事務所ビルと異なる形状を有し, 筋かい等も不規則に配置されているため, 大地震時の挙動には未知の部分が多い. それ故, 複雑な部材配置をもつ非整形骨組に対しても設計の段階で容易に用いることのできる非線形解析法が望まれている. 本研究では, 鉄骨部材の塑性化領域を複数の非線形バネ要素の結合体で近似し(マルチスプリング・モデル), この種の架構の弾塑性挙動を解析している. 今年度は, 凸降伏多面体モデルによる骨組の簡略化応答解析法を提案した.

126. 信頼性理論に基く鋼構造物の終局限界状態設計(継続)

助教授 大井 謙一, 助手・特別研究員 李 昇宰, 助手 嶋脇 與助

技術専門職員 大塚 日出夫, 大学院学生 方 沛宇, 森 洋一

 信頼性理論に基く合理的な限界状態設計法の確立を研究目的とし, 鋼構造物の終局限界状態に関して解決すべき種々の問題を研究している. 線形計画法における制約条件を不確定とした確率極限解析法, 複合応力下の部材耐力相関を考慮した極限解析法, 特定の崩壊モードの発生確率を卓越させた鉄骨架構の塑性設計法等の理論的研究を実施しているほか, 鉄骨造架構の損傷度についての専門家の意識調査を行い, 大震災前に実施した調査結果と比較している. また信頼性理論における設計点決定解析と載荷実験とを結合したハイブリッド実験システムを開発し, 今年度は2層鋼構造骨組模型に適用した.

127. ハイパースペクトル計測によるコンクリート劣化評価手法の開発

教授 安岡 善文, 助手 越智 士郎, 大学院学生 遠藤 貴宏, 有田 淳

 トンネルや高架橋などのコンクリート劣化の効率的な診断・評価手法の開発が望まれている. 本研究では, 可視・近赤外・中間赤外波長域におけるハイパースペクトル(超高スペクトル分解能)リモートセンシングにより, 非接触でコンクリートの中性化, 塩化などの劣化を計測, 評価する手法を開発することを目的とする.

128. リモートセンシングによる地球環境の計測・評価に関する研究

教授 安岡 善文, 講師 徳永 光晴, 助手 越智 士郎

大学院学生 ヤン クセラ・竹内 渉・曽根 貢

 地球規模での観測には人工衛星等を利用したリモートセンシングによる広域計測手法の利用が不可欠である. 実際, 近年のリモートセンシング技術の進歩は著しく, 大量のデータが得られるようになりつつある. しかしながら観測の技術開発に比較し, データの利用技術は必ずしも十分に開発されているとはいえない. 本研究では, ハイパースペシャル(高空間分解能)計測, ハイパースペクトル(高スペクトル分解能)計測, マイクロ波計測, スケーリングなどを新たなリモートセンシング技術を利用した環境計測手法を開発し, 地球環境問題解決のための基盤データセットを構築することを目的とする.

129. 3次元都市空間データの自動構築システムに関する研究

教授 柴崎 亮介, 協力研究員 史 中超, 博士研究員 趙 卉菁

大学院学生 Dinesh Manandhar・賀川 義昭・Rong Xie・村田 竜一

 航空機搭載及び車載型のセンサ, 及び可搬型センサを開発し, 建物外形から地下街内空間まで都市の3次元空間データを自動構築できるシステムの開発を行っている.

130. 歩行者用ポジショニングシステムに関する研究

教授 柴崎 亮介, 大学院学生 小西 勇介・北澤 桂

 都市内における人間行動をトラッキングするためのシームレスなポジショニングシステムの開発とそのデータの解析・利用手法に関する研究を行っている. GPSの受信できないような都市内において建物外部から内部まで連続的, 3次元的に位置を決定することのできる自律的なシステムを試作し, 3次元数値地図と組み合わせることで歩行者の軌跡を連続的にトラッキングできることを示した.

131. 世界遺産のデジタルアーカイブの構築手法

教授 柴崎 亮介, 大学院学生 稲葉 和久

 世界遺産に代表される考古学遺跡は開発以外にも発掘作業や経年的な劣化により変化していく. また, 従来からの測量手法, 記録手法は手間もかかる上, 記録できる情報も限られていることから客観的, 完全な記録という観点からはきわめて不十分であった. そうした遺跡を簡便, 正確, 客観的(3次元形状と色彩など)に記録するシステムと手法の開発を目標にレーザとCCDの複合センサシステムを開発し, 同時にデータの処理, 視覚化手法を検討している. 今年度はレバノン・ティール遺跡での実測作業とモデル構築を行った.

132. 空間データ基盤の設計・構築手法に関する研究

教授 柴崎 亮介

大学院学生 榊原 庸貴・神山 清雄・志村 陽子・安藤 恵美

 多くの組織で多量の情報が蓄積されるにつれ, それらを統合してより有効な情報利用を実現し, 組織のパフォーマンスやプロダクト(サービスなど)を向上させることが重要になりつつある. その際, 空間をキーにした情報統合は有力な統合方法の一つである. しかしながら, 空間情報の表現や利用は組織により多様であり, 同じ実体が異なる空間オブジェクトとして認識されたり, 異なる方法で位置が表現, 参照されることも多い. そこで, 各組織における情報の表現・利用方法を調査・分析にその相違点, 共通項目を抽出するとともに, 相違している点をどのように相互変換可能なようにするかなどを検討することが, 情報システムの計画段階では大変重要になる. こうした一連の調査・分析作業を体系的に進め, かつ分析結果, モデル結果を互いに交換・共有化できる方法論と, それに一体となったツールの開発を行っている. 現在までに, 道路の管理, 防災対策本部における調整活動, 企業における環境情報管理などをケーススタディに取り上げ, 手法の改良・実証を進めている.

133. エージェント概念に基づいた人間行動モデル構築と空間環境モデルとの融合に関する研究

教授 柴崎 亮介, 大学院学生 Krishnan Rajan, Guoxin Tan, 和田 由美子, 田中 英人

 センサ技術の発展や多くの組織でのGISをはじめとする情報システムの整備・利用の進展に伴い, 実世界を詳細に表現する空間情報が整ってきている. その結果, 従来であれば統計的な手法で, 相対的にマクロ的にしか表現されなかった人間行動を周辺の空間的, 環境的な状況との相互作用という観点も含んで, 大変ミクロに表現・モデル化することが可能になってきている. 防災における避難シミュレーションからさまざまな施設整備や開発プロジェクトにおける需要予測, 新たな製品やサービスの市場調査, マーケティングの例にあるように, 人間行動のモデル化は多くの工学的な分野で基礎的なコンポーネントであり, 人間行動のより精緻な表現とモデル化はきわめて大きなインパクトを持つ. 本研究では, 地球環境研究をターゲットした土地利用変化モデリング分野と, 都市における歩行者流動解析の分野において, エージェント概念に基づいたミクロな人間行動のモデル化と, 周辺の環境変化モデルとの統合を進めている.

134. 知的制御システムに関する研究

助教授 橋本 秀紀

 知的制御システムは「環境を理解し, それに応じた制御構造を自己組織化する能力を有するもの」と考えることができ, 新しいパラダイムへつながるものである. このパラダイムを確立するために, 柔軟な情報処理能力を有する Artificial Neural Networks, Fuzzy 等の Computational Intelligenceの利用および数理的手法に基づいた適応能力の実現による制御系のインテリジェント化を進めている.

135. 分散されたデバイスと相互作用し賢くなる知的空間

助教授 橋本 秀紀

 人間を観測し, その意図を把握して適切な支援を提供する人工的な空間の創造を目指す.

 具体的には, その空間内に分散配置された多数のデバイスがネットワーク化され, 人間から得られる多様なデータの取得手法と, その情報化および知能化を検討し, データの持つ意味を抽出して適切な支援を発現する仕組みを提案する.

136. 移動ロボットと環境知能化に関する研究

助教授 橋本 秀紀, JSPS特別研究員 李 周浩, 大学院学生 安藤 慶昭

 現在盛んに行われている移動ロボットに関する研究は, 移動ロボット自身の知能化, および人間による遠隔操作による操作性の向上に大別される. 人間介入による移動ロボットの操作は現在の技術で実現が可能であるのに対し, 移動ロボットに高度な状況判断可能な知能を持たせるには数多くのハードルがある.

 本研究では, 分散知能化ネットワークデバイス (DIND: Distributed Intelligent Network Devices)を用い, 環境自体を知能化することにより, 人間とのインタラクション, 環境との協調によって, 現在の移動ロボットの限界を超える機能を実現する.

137. 自律型移動体のプラットフォームに関する研究

助教授 橋本 秀紀, JSPS特別研究員 李 周浩

 本研究では, 全方向移動可能な移動体プラットフォームをベースに, 内部センサと外部センサを搭載した自律型移動体プラットフォームを実現する. 内部センサとしてロータリーエンコーダとジャイロセンサ, 外部センサとして超音波センサ, レーザセンサ, CCD カメラを搭載し, 障害物を回避し正確な動きでゴールへ到達する.

 天井のグレーコードランドマークをCCDカメラで読み取る画像処理により精密な自己位置推定を行う. また, レーザセンサ, 超音波センサにより障害物とその動きを認識・予測しながら安全な経路を生成する. 移動における自律性に関する研究を通して, 知的ロボットシステムの構築を行っている.

138. 分散配置された知能センサによる環境知能化に関する研究

助教授 橋本 秀紀, JSPS特別研究員 李 周浩

大学院学生 安藤 慶昭・秋山 尊志・森岡 一幸

 21世紀には少子高齢化が進むため, 人手がかかる福祉労働需要が高まるが, 労働人口の減少で十分な労働力を割くことが困難になると考えられる. 工学にはこの問題を解決するために福祉労働の代替システムの開発が求められる. 現在では生活環境の構築として主にロボット開発が盛んに行われている. その一方, 空間内を把握するセンサシステムも必要不可欠である. 環境を監視する画像センサなどはもっとも重要な部分で, 人間の監察と判断による処理を用いることで最終的な管理, 防犯システムとして成り立っている. 人間行動認識とデータベース化の研究ではセンサシステムのインテリジェント化により室内状態の推定を行い, 人を介さない価値情報の自動生成を狙っている.

139. インテリジェントスペースにおける人間位置同定に関する研究

助教授 橋本 秀紀, JSPS特別研究員 李 周浩, 大学院学生 秋山 尊志

 空間にカメラやマイクなど様々なネットワーク化されたセンサを分散させ内部の人間やロボットなどの情報を取り込み, その情報を用いて人間の生活をより快適にする空間, インテリジェントスペースの研究を行っている.

 空間内部の人間の情報を的確に取り込み, 適切なサービスを提供することを考えた場合, 人間の位置情報, 動作情報などを知るために位置同定技術が非常に重要となってくる. 主として, 画像情報や電波, 超音波等を用い, 対象とする人間や物体の位置同定方法に関する研究を行っている.

140. Web Robotを用いた新しいコミュニケーションに関する研究

助教授 橋本 秀紀, JSPS特別研究員 李 周浩

大学院学生 安藤 慶昭・森岡 一幸

 近年のネットワークの発達により, ロボットのネットワーク応用が進んでいる. そこで次世代のサービスロボットには, 人間同士がロボットを介することで, 現在の電話のような音声だけではなく, 様々な情報をやり取りするコミュニケーション支援ツールとしての可能性も期待できる.

 現在研究を進めているインテリジェントスペースにおける物理エージェントの一つとして, Webブラウザや携帯端末などからの操作が可能なWeb Robotに関して研究を行っている. また, Web Robotを介して, 空間内の他のロボット類, 及び人間とのコミュニケーションをとる手段ともなる. 今後は, 認知工学的な理論も手がかりとして, Web Robotを用いてインテリジェントスペース, 人間, ロボットを結ぶ新しいコミュニケーション方法について検討する.

141. Networked Robotics に関する研究

助教授 橋本 秀紀, 大学院学生 安藤 慶昭

 人間中心の機械システム実現のため, 「人間自身の理解」と「人間と機械の双方が理解する, 共通概念の構築」を目指し, 高速広域ネットワークを利用した人間機械協調系:Networked Roboticsの構築を目標に研究している. ネットワークを介して分散しているロボットが, システムとして高度な機能を実現するには, ロボット間の知的ネットワーク通信が必須の条件であり, そのためのネットワーク, プロトコルの開発が重要となる. 本研究では, ロボットのためのプロトコルの研究を通して, Networked Roboticsの問題へアプローチする. さらに, ネットワークを介したテレオペレーションに関して, ネットワーク特有の時間遅れ問題に関し, 遅延に対する人間の特性を認知心理学の観点から究明し, 遅延が生じる場合のテレオペレーションに有効なインターフェースの開発を行っている.

142. ハプティックインターフェースを用いた遠隔微細作業支援システムの開発

助教授 橋本 秀紀, 大学院学生 安藤 慶昭・権田 晃平

 マイクロロボットの製作や微細部品の加工, 検査を目的とした遠隔微細作業支援システムの構築を中心に研究を行っている. 本システムは微細作業を行う独自の6自由度パラレルリンクマニピュレータと, オペレータが操作するハプティックインターフェース, および視覚インターフェースにより構成されるバイラテラルテレオペレーションシステムである. オペレータに対し微細作業環境を視覚的, 力覚的に拡大提示することによりストレスフルかつ高コストである微細作業の作業効率を高めることを目指す. 本システムはさらに近未来に想定されているマイクロファクトリにおいても人間の知性を介在させることができるツールとしてとらえることができる. 今後ネットワーク利用により人間の知性と情報世界との融合を図り, 高付加価値マイクロ生産システムを提案していく.

143. マイクロテレオペレーションのVRシミュレータに関する研究

助教授 橋本 秀紀, 大学院学生 権田 晃平・安藤 慶昭

 ハプティックインターフェースを用いたマイクロテレオペレーションのための, VRシミュレータに関する研究を行なっている. マイクロテレオペレーションを行う際, 遠隔地での微細作業は通信遅延による操作性の低下, 作業時間の増加といった作業効率の低下を招く. その問題を解決するために, 3次元グラフィックスを用いた視覚フィードバック及びハプティックインターフェースを用いた力覚フィードバック可能なVRシミュレーションシステムにより, 遠隔の作業環境を想定したVR環境を操作者側において構築し, 操作者に与える視覚, 力覚フィードバックの影響を, 人間を含めた系で検討し, その効果を検証している.

144. マイクロ/ナノ世界でのマニピュレーションに関する研究

助教授 橋本 秀紀, 大学院学生 進谷 浩明・Baris Aruk

JSPS特別研究員 MinKee Park, 大学院学生 安藤 慶昭

 近年, フラーレン, カーボンナノチューブなどのナノスケールの新素材の発見に伴って, 超微粒子を位置決めする技術の需要が高まっている. そのため, 微小物体の力学的挙動の解明やそれに基づいたツールの開発が行われており, さまざまな操作手法や機構が提案され研究レベルで用いられている. 本研究では, テレオペレーション及びロボット制御技術を核として, 原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope: AFM)をスレーブマニピュレータとして使用した, 10〜100 nmサイズのナノ粒子操作を行うシステム構築を目指す. AFMをスレーブに使用する場合はマニピュレータとビジョンセンサの役割をプローブが担うため, AFMに特化したユーザインタフェースが必要となり, 現在開発を行っている. この研究によって, ナノ世界の物理学の理解を深めることができ, 最終的にはマイクロデバイスの組み立てといった産業応用や遺伝子操作といった自然科学研究への応用も期待できる.

145. 走査型プローブ顕微鏡技術を用いた, ナノマニピュレーションおよびナノアセンブリ技術に関する研究

助教授 橋本 秀紀, 大学院学生 平原 清隆

 SPMに代表される, 高精度なナノプローブ技術に対しては, 材料の表面・界面分析のみならず, ナノメートルスケール対象物のマニピュレーションへの寄与が期待され, それらのマニピュレーションの工学的研究は, その有効性と問題点を明確にし, 分子素子やMEMS部品のアセンブリ技術の確立を促進する. 本研究では, ウィスカータイプやナノチューブ・カンチレバーを用いたAFMによる, 直径10 nmから100 nmのナノ粒子のマニピュレーション法を実験的に検証する.

 また, SPM技術, 電子・イオンビームによる微細加工技術や低ノイズな微小信号計測技術などを活用した, STMとAFMの機能を併せ持つ, 双探針型ナノ・マニピュレータを構築する.

 これらの成果を踏まえ, カーボンナノチューブやDNAのマニピュレーションおよびアセンブリ技術を実験的に確立することを目指す.

146. 高精度車両状態変数推定技術の研究

助教授 橋本 秀紀, 大学院学生 ワダ マサキ

 自動車運動制御や知的ナビゲーションにおいて, 車両の車両状態変数を実時間で推定することは非常に重要となる. また必要なセンサ融合のために, 各センサのサンプリングレート, 精度, キャリブレーションに対し十分な配慮がなされなければ成らない.

 本研究では, D-GPS(Differential Global Positioning System), 慣性センサ, オドメトリー等のセンサ融合システムにおいて必須であるフィルタおよびモデルの研究を行っている.

 また, システムを実験車両に実装し, 駐車運転時のドライバ支援システムへの応用など目指し, 研究・開発を行っている.

147. 駐車におけるドライバ支援に関する研究

助教授 橋本 秀紀, 外国人博士研究員 Kang Sup Yoon, 大学院学生 ワダ マサキ

 自動車運転において駐車操作は, 後進動作を主体としているため, 特に運転の不慣れな初心者や高齢者にとっては非常に困難な操作の一つである. このようなドライバに対して, 運転操作を誘導するような情報を提供する支援システムは極めて有効であると考えられる.

 本研究は, D-GPS(Differential Global Positioning System)等を用いた実時間位置・姿勢同定と駐車場の地図情報に基づき, 初心者にとって操作追従が容易な駐車経路を生成するアルゴリズムにかんする研究を行っている. さらに, これら全てを実際の駐車場システムとして構築し, 誰にでも容易に駐車可能な駐車支援システムの開発を行っている.

148. 流体およびプラズマ乱流のモデリングと統計理論の研究

教授 吉澤 徴, 助手・特別研究員 横井 喜充

 流体乱流の非一様性に焦点を当て, 現象論モデリングと統計理論の比較検討を行い, 天体磁場ダイナモ研究との関連性を調べた. また, 流体乱流モデリング, 統計理論との関連性を念頭におき, 核融合プラズマ乱流におけるモデリングと統計理論的手法の包括的な比較検討を行った. なお, 本課題はPlasma Physics and Controlled Fusion誌(英国物理学協会)の要請により, 伊藤早苗教授(九州大学), 伊藤公孝教授(核融合科学研究所)との協同研究として行われた.

149. 変分法による旋回乱流の研究

教授 吉澤 徴, 助手・特別研究員 横井 喜充, 技術官 西島 勝一

 モデリング, 数値計算のいずれの方法でも解析が困難な旋回流, 特に円筒内旋回流を変分法を用いて調べた. ヘリシティ(速度と渦度両ベクトルの内積)を拘束条件とすることにより, 平均流の主要特性が解析的に再現されることが示された. 本手法は, 乱流モデリングにおける現象論的, 統計理論的手法に加えて第3のモデリング法となることが期待される.

150. 非線形渦粘性乱流モデルの研究

技術官 西島 勝一, 教授 吉澤 徴

 変形速度テンソルと渦度テンソルに関する2次, 3次の非線形渦粘性乱流モデルは, 溝乱流における乱流強度の非等方性, 矩形管内乱流の二次流の再現, 一様剪断乱流の乱流エネルギー急騰抑制に有効であることが示されている. このモデルは, 外壁が回転している回転円管内乱流の主特性も再現することが確認されている. さらに, ヘリシティ(速度と渦度両ベクトルの内積)効果を付加する等の拡張を行い, 直円管内旋回乱流へ適用可能な乱流モデルの構成を試みている.

151. 統計理論による乱流残留ヘリシティ方程式のモデル化

助手・特別研究員 横井 喜充

 ゆらぎの運動エネルギーと磁場のエネルギーの差で定義される乱流残留エネルギーはプラズマ乱流を特徴づける重要な量である. 電磁流体乱流の統計理論的研究によって乱流残留エネルギーを支配する方程式をモデル化した. 運動エネルギーと磁場のエネルギーの差が顕著に観測されている太陽風などの宇宙・天体現象にこのモデル方程式を適用することで新しい知見が得られることが期待される.

152. 圧縮性乱流の数値計算とモデリング

助教授 半場 藤弘, 大学院学生 熊谷 幸浩

 超音速航空機のエンジン内の高速流や火災の高浮力流では流体の圧縮性効果が重要となる. 本研究では圧縮性乱流の数値計算により圧縮性効果の機構を調べ, 統計理論によって導いた乱流モデルの検証と改良を行っている. 本年度は一様剪断乱流の直接数値計算と乱流混合層のラージ・エディー・シミュレーションを行い, それぞれ圧縮性によって成長率が減少する現象を再現した. 特に圧力分散の収支式に着目して成長率減少の物理的機構を考察し, 圧力分散を用いる3方程式乱流モデルの改良を試みた.

153. 非線形渦粘性モデルの研究

助教授 半場 藤弘

 乱流場の非等方性をより正確に表すために非線形渦粘性モデルが開発されている. 本研究ではレイノルズ応力の三つの実現性条件に着目し非線形渦粘性モデルの性質について考察した. レイノルズ応力の対角成分が非負であるという第一の実現性条件を満たすように2スケール統計理論を改良し, 任意の流れ場でその実現性条件を満足する非線形渦粘性モデルを導出した. またこのモデルが同時に他の二つの実現性条件も満たすことを示した. このモデルを一様剪断乱流, チャネル乱流, 平面衝突噴流に適用しモデルの検証を行った.

154. 二つの乱流モデルの融合の研究

助教授 半場 藤弘

 ラージ・エディー・シミュレーションとレイノルズ平均モデルを組み合わせることにより, 計算可能なレイノルズ数や計算精度が上がることが期待される. 本研究では物体の壁近くでは前者のモデルを, 壁から離れたところでは後者のモデルを用いて, 二つのモデルの結合を試みた. この方法をチャネル乱流に適用し, 平均速度場, 乱流エネルギーや散逸率の空間分布を求め検証した. また, 乱流粘性率が急激に変化する点で平均速度場の段差が生じる原因を探るため, 直接数値計算によりチャネル乱流を解析している.

155. 乱流熱対流の直接数値計算

技術官 小山 省司, 助教授 半場 藤弘

 地球磁場は地球外核の溶融鉄の熱対流運動によって維持されていると考えられている. このような電磁流体乱流ではヘリカルな乱流運動がどのように生成され, 磁場にどのような影響を及ぼすかを調べることが重要である. 本研究ではその第一歩として, 浮力によって駆動される乱流場の解析を直接数値計算を用いて行っている. 回転系におけるレイリー・ベナール対流を計算し, 乱流エネルギーや熱フラックス, それらの収支などの分布を求め, 熱対流の機構を考察した. 特に乱流ヘリシティーが生成される機構および系の回転が増すと乱流エネルギーが減る原因について調べた.


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