VI. 研究および発表論文


1. 研究課題とその概要
物質・生命大部門

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第49号 2000年度
2001.8.23


1. 輸送機能を持つ分子システムの構築(継続)

教授 荒木 孝二, 助手・特別研究員 務台 俊樹, 技術官 吉川 功

大学院学生 渡邉 潤也・藤田 幸介

 選択性の高い分離・輸送系や光エネルギー変換系の構築を目的とした研究の一環として, 光やpH差を利用してキャリア分子の基質親和性のスイッチングをおこない, 高効率かつ高選択性の能動輸送系を実現する研究を進めている. 本年度は, 酸化還元応答性を示す新しいキャリア分子として各種フェロセンアミン誘導体を設計・合成し, 酸化還元駆動型プロトン能動輸送に向けた基礎的な知見を得た.

2. 光電子機能性有機材料に関する研究(継続)

教授 荒木 孝二, 助手・特別研究員 務台 俊樹

大学院学生 赤坂 哲郎・本田 加代子・湯川 博

 光機能性分子素子の開発に向けた研究の一環として, アゾ基で架橋したビステルピリジル化合物を配位子とするヘテロ二核Ru(II)Os(II)錯体を合成し, Ru錯体部位からOs錯体部位への光励起エネルギー移動が, アゾ基の酸化還元によりスイッチされることを明らかにし, 酸化還元応答型分子スイッチとして作動することを確認した. また, 光励起エネルギーの供与部位および受容部位の最適化に向けた探索をおこない, 供与部位としてはフェニル置換ビピリジンおよびジピリドフェナジンを配位子とするRu(II)錯体が優れた光特性を有することを見い出した. 一方, 受容部位としては, 希土類イオンを励起エネルギー受容中心とする新規なテルピリジン系錯体について検討を行った.

3. 機能性金属錯体に関する研究(継続)

教授 荒木 孝二, 助手・特別研究員 務台 俊樹

大学院学生 川口 聖司

 遷移金属触媒による配位性アミド化合物からの効率の良いアミノ酸エステル生成反応について, 生体モデル反応という観点からの研究を行っている. 本年度は, テルピリジル配位部位を持つ新規な配位性アミド化合物のCu(II)触媒によるアミド加溶媒反応について, 活性種となる錯体の同定, 反応機構の検討などを行い, 常温で極めて効率よく進む要因を考察した.

4. 分子系超構造の設計と作製(継続)

教授 荒木 孝二, 技術官 吉川 功

大学院学生 高澤 亮一・佐藤 崇郁

 分子間相互作用の階層化という新しい方法論に基づく高次組織構造構築を目指した研究を進めている. 本年度は, 各種のアルキルシリル置換ヌクレオシドを対象とし, 核酸塩基間の多重水素結合で形成される一次元テープ状を中心とした検討をおこない, 一元テープ状ユニットの集積化構造が分子構造因子で整理できることを明らかにした. また, テープ状ユニットの集積過程にさらに階層性を導入すると, 新規な超分子液晶およびゲルの形成および相互変換の制御が可能となり, 階層的集積構造に基づく超分子機能材料となることを見出した.

5. 機能性有機蛍光材料の開発(継続)

教授 荒木 孝二, 助手・特別研究員 務台 俊樹

大学院学生 玉沢 純一

 機能性有機材料に蛍光性を付与するための分子設計をおこない, 機能性の高い新規な蛍光性有機材料の開発を行う研究であり, すでに多点分子間相互作用部位を持つポリピリジル化合物に蛍光性を付与した新規な機能性蛍光物質群の設計・合成に成功している. 本年度は, 新規な蛍光性ポリピリジル化合物としてフェニルおよびアミノ置換テルピリジル誘導体を対象とし, 置換位置と蛍光特性との関係などを検討した結果, 4’位へのフェニル基置換, もしくは6−位, 6, 6”位へのアミノ置換が蛍光性付与に最も有効であること, フェニル基とアミノ基を同時に導入することは有効ではないことなど, 蛍光性テルピリジルの分子設計に有用な知見を得た. また, フェナジン-N-オキシド誘導体が新規な機能性蛍光物質となることを見いだし, 各種誘導体の合成と蛍光特性を解析した.

6. 固体触媒を用いた新しい有機合成反応に関する研究(新規)

助手・特別研究員 山川 哲, 技術官 大西 武士, 教授 荒木 孝二

 ゼオライトをはじめとする各種固体酸および固体塩基触媒を用いた新しい有機合成反応の開発を目的とし, メタノール, アリルアルコールなどを原料とする各種の有機合成反応について, 触媒の種類や反応条件などの最適化に向けた基礎的な検討をおこなった.

7. ポリアニオンによる線維芽細胞増殖因子の活性制御

助教授 畑中 研一, 大学院学生 奥田 章博

 線維芽細胞増殖因子(FGF)はグリコサミノグリカンなどの硫酸化多糖によって活性化される. 本研級では, 精密に合成した硫酸化糖質高分子(硫酸化O−グルコシルエチルメタクリレートポリマー)とFGFとの相互作用を分子レベルで調べることによって, 化学構造と生化学的機能の相関を明らかにしている.

8. ヌクレオシドを有するポリマーと細胞膜表面の糖転移酵素との相互作用

助教授 畑中 研一, 大学院学生 谷地 義秀

 糖転移酵素は糖ヌクレオチドの糖鎖部分を受容体糖鎖上に転移する. 本研究では, 細胞膜表面のガラクトース転移酵素を利用して, ウリジン, ガラクトース, N−アセチルグルコサミンを有するポリマー上への特異的な細胞接着および細胞移動などに関して調べている.

9. シーケンスを精密制御したヘテロ多糖の合成

助教授 畑中 研一, 助手・特別研究員 鬘谷 要, 技術官 奥山 光作

 天然多糖にはグリコサミノグリカンやプルランのようにオリゴ糖単位の繰り返し構造を持つものがある. 本研究では, 酵素の力を借りない化学反応のみでシーケンスを精密制御したヘテロ多糖を合成している. 位置特異的な保護基の導入と重縮合反応を組み合わせることにより可能となるが, 高分子量の多糖を得ることが課題である.

10. 糖鎖プライマーを用いた細胞による糖鎖生産

助教授 畑中 研一, 大学院学生 小林 雅樹

 長鎖アルキルアルコールのグリコシド(糖鎖プライマー)を培地中に添加して細胞を培養すると, 糖鎖プライマーは細胞の中に取り込まれ, 糖鎖伸長を受けた後に培地中に出てくる. 本研究では, 長鎖アルキルの末端にアジド基や二重結合などの官能基を導入した糖鎖プライマーを用いて, 細胞内における糖鎖伸長を観察し, 糖質高分子の構築を試みている.

11. 生分解性プラスチックの設計と合成

助教授 畑中 研一, 助手・特別研究員 鬘谷 要

 目的に合った物質特性を有する高分子材料に生分解性を付与していこうとする積極的な立場で新素材開発に取り組んでいる. 本研究では, 種々の高分子材料の分子鎖中にオリゴ糖鎖を組み込み, 材料本来の物性を損なうことなく分解性を付与していくことを目標としている.

12. 液体のガラス転移現象と水の熱力学異常の理論的研究(継続)

教授 田中 肇

 液体はこれまで密度という秩序変数のみにより記述されると信じられてきたが, 我々は, 液体が局所的にエネルギーの低い構造(局所安定構造)を形成することを記述するために, 新しい秩序変数(ボンド秩序変数)の導入が必要であることを主張している. この液体の2秩序変数モデルは, 水の様々な熱力学異常を説明できるばかりでなく, 液体のガラス化とランダム磁性体のスピン・グラス化の間にアナロジーが成り立つことを示唆しており, 現在, 理論・数値シミュレーションの各面から研究を行っている.

13. 計算機シミュレーションを用いた複雑流体の相分離現象(継続)

教授 田中 肇, 助手 荒木 武昭

 当研究室において, 高分子溶液系などの動的に非対称な系特有の全く新しい相分離様式が観測されることが実験的に見出され, それを粘弾性相分離現象と名付けた. この現象の起源や相分離メカニズムを明らかにするため, 粗視化した濃度場に対する相分離モデルを作成し, 数値シミュレーションを行った. その結果, 実験的に観測された相分離パターンの時間発展を定性的に再現することに成功し, その時間発展機構を明らかにした. その他, コロイド分散系や液晶系等に対する数値視ミュレーションも行っており, 複雑流体を用いた材料開発において, 有益な知見を与えるものと期待している.

14. 位相コヒーレント光散乱法を用いた複雑流体の動的物性(継続)

教授 田中 肇, 助手 荒木 武昭, 研究機関研究員 高木 晋作

 媒質中に励起された様々なモードの熱ゆらぎによって散乱された光を分光する従来の動的光散乱法では, 熱励起ゆらぎの位相がランダムなためパワースペクトル(強度の情報)しか得られず, 位相の情報は失われる. 我々の開発した位相コヒーレント光散乱法では, 熱励起揺らぎに代わる様々なモードをレーザー光によってコヒーレントに励起し, 散乱光を位相も含めて検出するため, 実部と虚部からなる複素スペクトルを観測することができる. この手法を用いて, 液体二硫化炭素において, 7.6GHzという高周波の超音波を励起し, この超音波からの複素ブリュアン・スペクトルを観測することに成功した. この励起原理は他のモードにも容易に応用が可能で, 干渉縞にコヒーレントな温度分布の励起, あるいは偏光方向の変化による異方性分子の配向のコヒーレントな制御から, 対応するモードの複素スペクトルを観測できる.

15. 高分子混合系相分離現象における粘弾性効果(継続)

教授 田中 肇, 助手 荒木 武昭, 大学院学生 小山 岳人

 これまで, 高分子混合系における相分離現象は, 流体モデルに属するものと言われてきた. しかしながら, 相図上深く温度クエンチした場合など, そのモデルでは説明できない相分離様式が現れることを新たに発見し, それが二つの成分間の粘弾性的性質の違い(動的非対称性)に起因するものと考え粘弾性相分離現象と名付けた. 現在, その相分離パターンの時間発展の分子量依存性やクエンチ温度依存性を中心にその構造形成の機構の解明を行っている. 実験手段としては, 顕微鏡像に対するデジタル画像解析法, 時分割光散乱法などを用いている.

16. リオトロピック液晶相転移における外場効果と動的相図(継続)

教授 田中 肇, 助手 荒木 武昭, 大学院学生 礒部 衛

 希薄な両親媒性分子水溶液の形成するリオトロピック液晶では, 格子定数が数100 nmにもおよぶ1次元の秩序を持つ状態を形成する. この系は, 非常に弱い相互作用により保持されているため, 流動場等の外場を加えることにより, 簡単に液晶相が融解したり, 構造が不安定化される. 本研究では液晶相間の相転移点近傍で, 流動場を1つの軸とした動的相図を作成した. 流動場下にある物理系は本質的に非平衡状態であり, 熱平衡状態で決定される静的相図と, この動的相図は物理的に全く異なる意味を持つ. すなわち, 動的相図を決定する要素には, 本来の静的相図においては意味のない, 粘性率・拡散定数・熱伝導率等の, 系の持つ動的な性質が本質的に重要になる.

17. レーザトラッピング法を用いた局所物性測定法の開発と応用(継続)

教授 田中 肇, 助手 荒木 武昭, 大学院学生 岩下 靖孝

 生物分野で知られるレーザーピンセットの原理はレーザーが屈折率の異なる微粒子を通過する際の運動量変化を反映した放射圧が微粒子に働く現象を利用したものである. 本研究ではこの技術を用いて高分子・液晶などのソフトマテリアルの局所的な力学的性質を探索するシステムを構築することを目的としている. 例えば, トラッピングビームのスキャンを用いて, 試料中に置かれた微粒子を振動させることにより, 試料のローカルなずり弾性率の測定を行うことができる. さらには2本のビームをコントロールすることにより, 界面張力, クーロン力などの測定等も試みる予定である.

18. 複雑流体の相分離現象における外場効果(継続)

教授 田中 肇, 助手 荒木 武昭, 大学院学生 日下 雄介

 2成分系の相分離現象は, 第三の物質(気体・固体など)が存在する場合には, 第三物質の表面エネルギーの影響を強く受ける. 本研究では, ぬれが相分離ダイナミクス, パターン形成にどのように影響を及ぼすかを, 動的側面に焦点をあてて研究している. この他, 温度勾配や交流電場などの外場が, 相分離現象にどのように影響を及ぼすかについての研究も行っており, これらの外場下では全く新しい動的な相構造が発現することも予測される. これらは, 複合材料の構造制御に基礎的知見を与えるものと期待され

る.

19. 高分子溶液の動的臨界現象における粘弾性効果

教授 田中 肇, 助手  荒木 武昭, 大学院学生 田久保 直子

これまで二成分流体における動的臨界現象は, 静的な臨界現象と同じく構成物質の個性によらず普遍的なものであると考えられてきた. しかしながら我々は, 高分子溶液のように系を構成する二つの成分間の動的性質が大きく異なる場合には, その粘弾性的性質の差によって動的臨界現象の普遍性が破れるものと考え, 高分子分子量依存性を中心に, 動的光散乱法を用い研究を行っている.

20. 過冷却液体におけるドメイン形成

教授 田中 肇, 助手 荒木 武昭, 大学院学生 又木 裕司

 Triphenyl Phosphiteは, 融点19〜23℃, ガラス転移点−90℃前後の物質である. この物質を−60〜−50℃に急冷し過冷却状態にし放置すると, Glacial phaseと呼ばれる相が形成される. この相に関しては, アモルファス相説や微結晶説などの様々な説があるが, いまだ解明されていない点が多い. 我々は, 顕微鏡観察や透過光強度測定により, この相が光学的異方性を持つことをから, アモルファス相ではないことを示した.

21. 電気的手法による構造信頼性評価法の提案および高信頼化法の開発

助教授 岸本 昭, 大学院学生 新川 高見

 セラミックス材料は, 高温強度, 耐腐食性などに優れる反面, 強度のばらつきが大きいという欠点を持つ. 強度分布を部材使用前に把握するために, 従来は煩雑な力学測定を行う必要があった. 当研究室では, 絶縁性セラミックスの電気的破壊が, 機械的破壊源と同種の欠陥に左右されることを見出し, 機械強度分布の簡便代替評価法としての絶縁試験法を提案している. この方法を種々の組成, 微細組織を有する絶縁性セラミックスに適用し, 評価法としての妥当性を検証した. また, 機械強度分布幅を小さくして信頼性を向上させるため, 従来は製品に対して応力を印加し, 脆弱部材を取り除いていたが, 上記評価法を応用して, 高強度部材のみを電気的に選別するスクリーニング法の開発も試みている. これらは, 従来法に比べ, 簡便で資源を有効活用する手法といえる.

22. 自己破壊検知機能を有するセラミックスの設計

助教授 岸本 昭, 大学院学生 豊口 銀二郎, 外部研究生 沼田 喜光

 複合材料作製の主要な目的は力学特性の向上であり, 種々の物質間の組み合わせが試みられている. 複合材料に使われる個々の物質にはそれぞれ固有の電磁気特性を有しており, 複合化により新しい特性の出現が期待されるにも関わらず, ほとんど省みられることはなかった. 当研究室では, 異種物質複合という一つの手法で力学特性向上と機能性付与という複数の利点を構造材料に与えるための研究を行っている. 特に後者が力学特性に対応して変化する系では, 材料自身が破壊や損傷の検知機能を有するインテリジェントな材料となりうる. 具体的には, 添加物の相対位置変化に伴う電気抵抗変化によりセラミックスに生じた歪みを検出できる材料の開発を行っている. また, 無負荷時の残留抵抗変化による損傷検知が可能な系を提案している.

23. トータルパフォーマンスに優れたセラミックス材料の開発

助教授 岸本 昭, 大学院学生 佐藤 尽・下川 幸正・中村 乃梨子

外部研究生 増田 優子

 多様な電磁気特性を有するセラミックスを機能材料として利用する際, 化学的および熱的安定性はその利用域を広範なものとしている. しかしながらこれらの利点は, 製造に高温を必要とする, 不使用時の解体が困難, 等の問題点につながる. セラミックスを実用化するには, その物理的および化学的安定性を高め利用域を更に広げるとともに, 製造からリサイクルまでを考慮した総合的な材料設計が必要となる. これを考慮した研究として, 隔壁とイオン伝導層を兼ね備えた用途に適合するよう, イオン伝導度を低下させないセラミックスの強化法を開発している. また, 比較的低温で大気中成膜できる自己制御ヒーター(PTC材料)の作製に成功している. 更に, 供用時には高い信頼性を有し, 不要時には強度を低下させることができるリサイクル性に優れた材料の提案を行っている.

24. 新規遷移金属反応場の高効率分子変換への利用

教授 溝部 裕司, 助手 清野 秀岳, 客員研究員 葉 文彦

大学院学生 加藤 紘子・國方 誠

 有機金属錯体はその金属の種類や酸化状態, 金属中心を取りまく配位子の立体的および電子的効果などにより, その金属サイト上で多彩な化学反応を促進できる. 本研究では, 単核から多核にわたる様々な金属錯体について新規に設計・合成を行い, これら錯体上で進行する高効率・高選択的反応を検討することにより次世代の触媒の開発を試みる.

25. 遷移金属−カルコゲニドクラスターの合成と利用

教授 溝部 裕司, 助手 清野 秀岳

大学院学生 五十田 智丈・長尾 正顕・高城 総夫・藤井 俊平

 カルコゲン元素(第16族元素)配位子により架橋された強固な骨格をもつ遷移金属クラスターは, 生体内酵素活性部位モデル, 高活性触媒, 高機能性材料などとして幅広い学術的および工業的用途が期待される. 本研究では, 多様な遷移金属-カルコゲニドクラスターの一般性ある合成法を確立するとともに, 得られた新規化合物の詳細な構造と反応性の検討を行い, その高い機能の利用法を開発する.

26. 水中溶存オゾンの吸着を利用する新しい水処理技術の開発

教授 迫田 章義・鈴木 基之, 技術官 藤井 隆夫

大学院学生 藤田 洋崇

 シリカ系吸着剤には水中溶存オゾンに高い吸着性を有するものがある. しかも, 吸着されたオゾン分子は自己分解が抑制されることから, バルク水中よりもはるかに高密度で長時間の貯蔵が可能である. また, 有機物とオゾンが高濃度に濃縮されて共吸着する場合には, バルク水中に比べて非常に大きな有機物の酸化速度となる. これら現象の基礎と水処理への応用の検討を行っている.

27. バイオマスリファイナリーをめざしたフルフラールの分離精製

教授 迫田 章義, 技術官 野村 剛志

日本学術振興会特別研究員 望月 和博, 大学院学生 清水 健介

 物質資源として再生可能資源であるバイオマスで石油の代替を行おうというバイオマスリファイナリー構想においてフルフラールは中心的な物質となろう. その分離精製法に関して現状の材料とプロセスの全体像を把握すると共に, その理解に基づいてエネルギー消費を現状に比べて大幅に削減することを可能にする独自の分離精製法を開発することを最終的な目的として, パーベーパレーションによる省エネルギー型の同時反応分離プロセスの開発を行っている.

28. 新しい水処理のためのCarbon Whisker膜の開発

教授 迫田 章義・鈴木 基之, 技術官 野村 剛志

日本学術振興会特別研究員 李 元堯, 大学院学生 べー 尚大

 Whisker膜(CWM)の開発を行っている. この新規の機能性炭素系膜は, セラミックス等の単体の上に炭素の膜が形成され, さらに設計した面密度で直径数ミクロンの炭素のヒゲを有している. このような構造から, 例えば水中の揮発有機物(VOC)の除去や微生物分離等の新しい水処理技術への応用が有望と考えられ, 材料とプロセスの同時開発を進めている.

29. 活性炭膜を用いた小規模分散型浄水処理法の開発

教授 迫田 章義, 技術官 野村 剛志

 今日一般に行われている排水処理および浄水処理は, いずれも多種の汚染物質を除去対象とするため, 複数の単位分離操作(沈澱, 濾過, 吸着など)を組み合わせる必要があり, このことにより水処理装置・設備は大規模にならざるを得ない. そこで, 小形で簡便な一括処理の実用化を念頭に置いて, これを可能にすると思われる活性炭膜とそれを用いる新しい水処理プロセスの開発を行っている. これまでに, 独自の技法である微粒子凝集法による活性炭膜を試作・開発している.

30. 吸着式天然ガス貯蔵のための技術開発

教授 迫田 章義, 技術官 藤井 隆夫

 エネルギー供給の効率化や石油代替エネルギーの利用が重要となっており, 簡便かつ有効な新規のエネルギー環境技術の開発が急務となっている. 本研究の目的は, 天然ガス導入を促進するために, 従来の天然ガス貯蔵方法よりも高密度かつ安全な貯蔵方法を提案・開発することである. 本年度, 吸着剤を利用した天然ガスの吸着貯蔵を提案し, 小型実験装置による実験と簡便な数理モデルを用いた計算機シミュレーションによる検討を開始した.

31. 高温高圧水処理による未利用素材の資源化

教授 迫田 章義・鈴木 基之, 技術官 鶴 達郎

日本学術振興会特別研究員 望月 和博・申 鎭壽, 大学院学生 高山 卓

 生産活動から環境への汚濁負荷の削減と資源の有効利用の観点から, 廃棄物を「ごみ」として処分するのではなく「未利用素材」として有効に利用する技術の確立が望まれている. ここでは, 各種未利用素材からの有用物質の合成・抽出に対し, 水熱反応に代表される高温高圧(超/亜臨界)水反応の利用を目的として, 種々の原料および反応条件に対する生成物・素反応に関するデータベースの構築を行ない, 反応残滓を含めた用途開拓を試みることでトータルとしての再資源化に関する検討を行なっている. また, 水熱反応と物理的な粉砕の双方が期待できる蒸煮爆砕処理の導入や大量処理を念頭に置いた超/亜臨界水連続処理プロセスの開発を連携することで, 未利用素材の資源化プロセスの設計・構築に資する知見の集積を行なっている.

32. キノコを利用した未利用素材の資源化

教授 迫田 章義・鈴木 基之, 技術官 藤井 隆夫

日本学術振興会特別研究員 王 殿霞, 大学院学生 井原 之偉

 今までの人間活動, 生産活動による資源・エネルギーの消費と, それに伴って排出された物質によって地球規模での環境問題が深刻化している. ここでは, キノコの優れた生物分解能力を着目し, 食用あるいは薬用キノコを植物系バイオマスや食品加工業等から排出される未利用物質を基質として培養した場合の物質変換や物質収支を検討している. さらにキノコ培養に使われた残さ(廃床)は優れた飼料・肥料として, あるいは有害物質除去材等としての活用も注目されている. 物質循環の定量的理解と工学的なプロセスとしての位置づけが当面の課題である.

33. 産業連関表に基づく産業ネットワーク設計手法の開発

教授 迫田 章義

 産業連関表を活用して産業系における物質の移動, 蓄積, 排出等をデータベース化し, それに基づいて我国からの総エミッションをどこまで削減できるかの可能性と限界を明かにしたうえで, 地域単位で産業ネットワークを設計する手法を開発した. この手法は基本的に産業連関表にのみ基づいているので, 都道府県レベルの地域に限定したりアジア圏等へと拡大したりすることが可能であり, また, 有害性や希少性等の観点から塩素等や特定の金属等の物質収支についても含有原単位を変えることで比較的容易に対応できる.

34. 生態系における物質循環の数理モデル化

教授 迫田 章義・鈴木 基之, 日本学術振興会特別研究員 林 彬勒

 生態系における物質の循環を定量的に把握することは, 生態系の保全という立場から非常に重要である. 特に数理モデルによって生態系を表現することで, 人為的な外乱が生態系に与える影響を予測することが可能となる. 本年度は, 土地利用と気候変動による生態系への影響の予測が可能な窒素循環モデルの構築を開始した. このモデルによって, 生態系を持続させるための人間活動のあり方が提案できよう. また湖沼における藻類の異常増殖, いわゆる水の華の発生における生態学的機構の解明や, 生態系構成生物を利用した効率のよい増殖抑制方策の提案のための湖沼生態系数理モデル化の構築も行っている.

35. 化学物質による生物・環境負荷の総合評価手法の開発

教授 迫田 章義・鈴木 基之, 講師 酒井 康行

 肝細胞などの動物細胞系に有機塩素化物, 重金属, 農薬などの環境汚染物質を負荷し, その増殖阻害や機能阻害などを指標として毒性評価を行っている. 本研究は様々な研究機関との共同研究であり, 本邦では類を見ない大規模な培養細胞による化学物質毒性データベースを構築しつつあり, バイオアッセイによる水環境管理に大きな指針を与えることになろう.

36. 浄水処理評価のためのバイオアッセイ

教授 迫田 章義・鈴木 基之, 講師 酒井 康行

技術官 藤井 隆夫, 大学院学生 金 範洙

 今日の環境水(河川, 湖沼など)は多種多様の微量化学物質で汚染されているのが一般的である. そこで, これを水源とする水道水が水質基準にリストアップされている個々の物質についてその基準を満たしていても安全と言いきるのは疑問である. そこで, 様々な時定数で発現する複合的な人体影響を動物細胞などの生体応答から予測し, 総括的な毒性という視点で浄水処理を評価する手法を構築すると共に, このような新しい指標に基づいた浄水処理法の提案・開発を目指している.

37. 化学物質影響評価のための培養ヒト細胞を用いる人体システム再構築に関する研究

講師 酒井 康行, 教授 迫田 章義・鈴木 基之

大学院学生 富田 賢吾・福田 理

 既存の単一培養細胞からなる毒性評価系では, 吸収・代謝・分配といった人体内での毒性発現に至までのプロセスが考慮されない. そこで, これらを考慮する実験系として, 膜上に培養された小腸上皮細胞, 同じく膜上に培養された肺気道・肺胞上皮細胞, 担体内に高密度培養された肝細胞および標的臓器細胞(腎臓・肺など)などの個別のモデル臓器コンパートメントを開発すると共に, これらを生理学的な培養液灌流回路で接続する新しい毒性評価システムを開発し, 毒物経口摂取後の血中濃度と毒性発現を速度論的に再現することを目指している.

38. 新規多座配位子を用いた触媒的有機合成反応(継続)

助教授 工藤 一秋, 大学院学生 小川 源

 我々は, 酸素, 窒素, リンの3種の異なる元素を配位座として持つような新規不斉配位子の設計・合成を行い, その不斉触媒反応への適用を行ってきている. これまでは, 合成上の制約により, 炭素ならびにリンの2つの不斉中心を有する配位子のみしか得られていない. このため, 触媒反応の結果からそのメカニズムを一義的に推定することが困難であった. 今回, 配位子の合成ルートについてさらに検討を重ねた結果, 炭素上のみに不斉点をもった類縁体の合成に成功した. それを用いることで, 本触媒反応のメカニズムを明らかにし, より高い選択性を与えるような配位子の再設計の可能性が示唆された.

39. 光学活性ビナフチル化合物を配位子とする不斉合成反応

助教授 工藤 一秋, 大学院学生 川村 真人・高光 泰之

研究生 清武 亮祐

 軸不斉なビナフチル骨格に適当な配位座と光異性化可能なアゾベンゼン部位の両者を導入した化合物を合成し, 不斉触媒反応における配位子として使用することで, 外部からの光刺激によって選択性を変化させることができるような系を構築することを試みた. その結果, 反応によってはアゾベンゼン部位の光異性化により多少選択性が変化することが見出された.

40. イタコン酸類の合成化学的利用に関する研究(継続)

助教授 工藤 一秋, 大学院学生 李 軍・野々川 大吾

 イタコン酸誘導体とシクロペンタジエンとのDiels-Alder反応生成物から容易に得られる三環性スピロ二酸無水物の合成素子としての利用を検討している. 昨年までに, この二酸無水物を用いて作られた脂環式ポリイミドが高い耐熱性を示すことを報告してきた. 本年は, この二酸無水物の構造上の特徴がポリイミドの物性とどのように関連しているかを明らかにするとともに, この二酸無水物の位置特異的な反応性を利用して, 高分子主鎖中のモノマーの向きに規則性のある定序性ポリマーを作り分けることに成功した. また, 本二酸無水物の光学活性体を得て, 光学活性ポリイミドへと展開することも試みた.

41. 機能性ペプチドの創製を目指したα-ヘリックスペプチドライブラリの作製

助教授 工藤 一秋, 大学院学生 千葉 晋哉

 ある特定の構造をとり, その結果何らかの機能が発現するようにペプチドを分子設計することは, これまでにいくつか試みられているが, 機能の観点から成功したと言える例はほとんどない. これは, ペプチドという分子が本来持っている柔軟さを考慮に入れた動的な分子設計が困難であるためと考えられる. 機能性ペプチドの新しい設計方針として, 構造がある程度確定していて, かつ分子会合性の期待されるいるようなペプチドのライブラリを作り, それらの会合体の中から目的にあったものを取り出すという, コンビナトリアル化学的手法を考案した. 本研究では, タンパク質の基本的な2次構造であるα-ヘリックス構造をもったオリゴペプチドのライブラリを作り, その中でどのようなα-ヘリックス同志に高次構造の形成能があるかを見出すことを目的とする. 本年はヘリックスペプチドライブラリのサブライブラリとなるペプチドフラグメントの合成を行った.

42. クロスカップリングによる2,2'-ビピロール類の合成(継続)

助教授 工藤 一秋, 教務職員 高山 俊雄

 導電性高分子の基本的物性の解明のためには, 鎖長の異なるオリゴマーを合成して, 鎖長と物性の関係を調べる方法が有効である. 導電性高分子の1つにポリピロールがあるが, 段階的な合成法がないため, これまではオリゴマーを得るにはピロール骨格を持たない全く別の化合物からの誘導化が必要であった. これに関し, 我々は昨年, ピロール環同士の直接クロスカップリング法でビピロールを合成するルートを見い出した. これは, ピロールオリゴマの簡便な合成に応用できる可能性がある. 本年は, このクロスカップリングについて, 基質依存性, 反応条件, 副製生物の構造などを詳細に検討することで, 本反応の適用可能範囲を明らかにした.

43. 射出成形における型内樹脂流動計測システムの開発(継続)

教授 横井 秀俊, 技術官 増田 範通

 (東京大学国際・産学共同研究センターの項参照)

44. 可視化加熱シリンダによるスクリュ設計システムの開発(継続)

教授 横井 秀俊

 (東京大学国際・産学共同研究センターの項参照)

45. 射出成形における溶融樹脂温度分布の計測(継続)

教授 横井 秀俊, 助手・特別研究員 村田 泰彦, 博士研究員 金 佑圭

 (東京大学国際・産学共同研究センターの項参照)

46. 射出成形過程シミュレーション結果検証のためのベンチマークテスト用データベースの構築(継続)

教授 横井 秀俊, 助手・特別研究員 村田 泰彦

 (東京大学国際・産学共同研究センターの項参照)

47. 共押出成形現象の可視化計測(継続)

教授 横井 秀俊

 (東京大学国際・産学共同研究センターの項参照)

48. 超高速射出成形現象の実験解析(新規)

教授 横井 秀俊, 客員教授(東京大)頼 芳雄

助手・特別研究員 村田 泰彦, 技術官 増田 範通

博士研究員 金 佑圭, CCR協力研究員 瀬川 憲・長谷川 茂

大学院学生 山田 健央・渡辺 順

 (東京大学国際・産学共同研究センターの項参照)

49. セラミックス粉末射出成形の可視化観察(新規)

教授 横井 秀俊, 博士研究員 金 佑圭, 受託研究員 渡辺 義信・渡辺 剛

 (東京大学国際・産学共同研究センターの項参照)

50. 超格子界面からの電界電子放射に関する研究

教授 岡野 達雄・榊 裕之, 助教授 福谷 克之, 技術官 河内 泰三

 半導体超格子界面に局在する二次元電子系からの電界電子放射現象の研究を進めるための装置開発を行った. 前年度に開発した試料の超高真空劈開機構の欠点を改善した試料作成機構を設計した. GaAs/AlAs超格子を試料として電界放射の観測を試みたが, Fowler-Nordheimの理論式に合致する放射特性は得られなかった. この原因と考えられる表面酸化層の形成を低減するための真空系の改良も進めた.

51. 放射光励起による内部転換電子放射の研究

教授 岡野 達雄, 助教授 福谷 克之・小田 克郎, 助手 松本 益明, 技術官 河内 泰三

 表面構造の判った試料表面を用いて放射光励起内部転換電子放射の研究を行うために必要な実験装置を新たに開発した. 製作された装置は, 反射型高速電子線回折装置, 蒸着モニタ, ミニチュア蒸発源を内部転換電子計測用の電子分光装置と一体化したものである. 内部転換電子の捕集効率の向上を目指して, 球面グリッドを使用した収束電子レンズシステムの製作とテストを行い, 幾何学的な精度にさらに改良の余地があるものの実用可能なレベルにあることを確認した.

52. 表面吸着水素の拡散と非局在化に関する研究

助教授 福谷 克之, 教授 岡野 達雄

助手・特別研究員 Markus Wilde, 助手 松本 益明

表面に吸着した水素の拡散と非局在性について, 窒素イオンと水素との共鳴核反応を利用した研究を進めている. 測定の分解能を向上させるため, 斜入射条件で実験が可能なように試料ホルダーとイオンビーム光学系の改良を行った. 半導体―金属界面の水素を対象として実験を行い, 単原子層の深さの違いを見分けられることを実証した. またチタン表面を対象として表面水素化物形成過程の研究を行った.

53. 共鳴イオン化法による水素のオルソ・パラ転換過程の研究

助教授 福谷 克之・教授 岡野 達雄

助手・特別研究員 Markus Wilde, 技術官 河内 泰三

大学院学生 鳥居 裕二・吉田 康一

 固体の表面では水素分子の核スピン状態が1重項から3重項へと転換することが知られており, 本研究ではその微視的な機構の解明と新たなスピン計測法の開発を目指して研究を進めている. 本年度は多結晶銅表面への水素分子吸着とオルソ・パラ転換の研究を行った. またこれまでより測定感度を向上させるため, 従来に比べて大強度レーザーシステムと2つのBBO結晶を用いた波長変換システムの整備を行った.

54. 単結晶クロム酸化超薄膜の作製とその物性

助教授 福谷 克之, 教授 岡野 達雄

助手・特別研究員 Markus Wilde, 助手 松本 益明

大学院学生 高野 照久・小屋 茂樹

 単結晶クロム基板上に膜厚を制御した単結晶超薄膜を作製し, その電子的・光学的性質に関する研究を進めている. 昨年度発見した相転移の膜厚依存性を調べるために酸化条件を変化させて膜厚の制御を試みた. 酸化過程に関する解析を進め, 試料温度が高すぎると基板からのクロムの供給が過剰になるため表面にクラスターが形成されることを考察した. また相転移前後でのフォノンスペクトルを測定するための準備を進めた.

55. 絶縁膜/Si基板における水素挙動の研究

助教授 福谷 克之, 助手・特別研究員 Markus Wilde・助手 松本 益明

 SiO2/Si界面およびSiO2膜中に存在する水素がSiデバイスの特性に大きな影響を持つことが知られている.本研究では, 核反応を利用して界面水素量を定量しデバイス特性との関連を明らかにすることで, デバイス特性の向上を目指している.本年度はSiO2/Si試料を水素中で加熱処理できるように装置の改良を行い, これを用いて実験を行った. 水素処理を行うことで界面近傍に水素が蓄積することを見出した.

56. フォノンスペクトロスコピーと物性研究

教授 高木 堅志郎, 助教授 酒井 啓司

助手・特別研究員 坂本 直人, 大学院学生 小俣 一由

 光散乱法, パルス法などの手法を用いて物質中のフォノンの位相速度と減衰を測定し, 液晶・溶液・ゲル・生体系など複雑流体のダイナミックな物性の研究を行っている. 本年度は当研究室で独自に開発した光ビート分光ブリュアン散乱装置を応用して, 新しい分子緩和測定手法の開発に着手した. ひとつは熱平衡状態におけるサーマルな波動に特有の非対称スペクトルの検証である. フォノンの寿命が小さくなる高周波領域におけるスペクトルの詳細な解析の結果, エルゴード性に基づく非対称成分が観察され, これが理論的な予想とよく一致することが確認された. さらに弾性歪みと分子内自由度とのカップリングに伴なう分子緩和スペクトルを一時に観察できるマウンテンスペクトロスコピー法の開発を行った. 現在, 大きな音波緩和を示す溶液系でのスペクトルの解析を進めている.

57. リプロンスペクトロスコピーと液体表界面の物性研究

教授 高木 堅志郎, 助教授 酒井 啓司, 助手・特別研究員 坂本直人

研究機関研究員 細田 真妃子, 大学院学生 立花 啓悟

 液体表面を伝搬する高周波表面波の挙動を広い周波数帯域にわたって測定することにより, 表・界面の動的な物性を調べることができる. この技術をリプロンスペクトロスコピーと呼んでいる. 本年度はサーマルリプロンを測定する広帯域リプロン光散乱法をさらに高性能化し, 純水などの単純液体表面で20MHzを超える周波数領域でのリプロン測定を可能にした. これは我々自身が持つ記録を3倍以上に拡張する世界最高性能の装置である. さらに流動場においてリプロン散乱測定を行うことにより, 液体表面の生成後の時間と表面状態を同時にモニターできるリプロンフローセルを開発した. 現在これを用いて界面活性剤の動的吸着過程の精密測定を行なっている.

58. 音響位相共役波の研究

教授 高木 堅志郎, 助教授 酒井 啓司, 技術官 小久保 旭

日本学術振興会特別研究員 山本 健

 弾性波と電場の非線形相互作用を利用した音響位相共役波の発生, およびそのデバイスへの応用の研究を行っている. 位相共役波とは, 任意の入射波に対して周波数と位相を保存し, 伝搬方向を逆転させた波である. 光学における位相共役波の研究は非常に盛んであるが, 超音波の位相共役波についての研究はまだ例が限られている. 我々はセラミック圧電材料を用いることにより音響位相共役波を高効率で発生させることに成功している. 本年度は, 音響位相共役波への変換効率と物質の非線形圧電性の関係を定量的に解析し, 新たな位相共役材料の設計に成功した. さらに位相共役波を超音波映像系に応用し, 観察物体の表面形状に起因した波面歪を補正する無歪走査型映像系の作製に成功した.

59. 超音波精密計測に関する研究

教授 高木 堅志郎, 助教授 酒井 啓司, 技術官 小久保 旭

日本学術振興会特別研究員 山本 健

 液体および固体中の超音波に関する新しい計測法と映像法の研究を行っている. 薄膜中の音波伝搬測定のために, 新しい計測法であるパルス・スペクトラム法の開発を行った. またゼロクロス追尾法を利用して, 細管に用いる超音波微小流量計を開発している. さらに水中を伝搬する波動の構造・屈折・反射の振る舞いをシュリーレン法により観察している. また位相差法に基づく精密超音波測定システムをレーザー検出型に改良する試みに着手した.

60. X線発光分光法による遷移金属化合物触媒の電子状態の研究(新規)

教授 七尾 進, 大学院学生 小路 博信

 X線照射によって誘起される発光は二次光学過程であり固体の電子状態に対する詳細な情報を得ることができるので, 物質の電子状態の新しい研究手法として期待されているが, 実際の材料評価への適用例は殆ど存在しない. 本研究ではX線発光分光を反応中の触媒の電子状態の研究に適用することを目的としている. 本年度は, V205/SiO2によるメタノールからホルムアルデヒドへの選択酸化反応におけるVの発光スペクトルを測定し, 反応中のVの価数を求めることに成功した.

61. 白色X線磁気回折法による強磁性体SmFe2の磁気形状因子の導出(継続)

教授 七尾 進, 助手 渡辺 康裕, 大学院学生 宮川 勇人

 白色X線磁気回折法は, 強磁性体の全磁気モーメントL+2Sの軌道成分(L)とスピン成分(2S)とをそれぞれ独立して評価することが可能であるので, 大変有力な磁気構造解析手法である. しかし, これまで用いてきたSSDによるエネルギー分散型の検出では, 低次反射(5〜10keV)と蛍光(遷移金属のK発光や希土類のL発光など)とが重なるため精度良いデータを得ることが難しい. 本研究ではアナライザ結晶による角度分解型の検出システムを導入することにより, 従来の方法では測定できなかったSmFe2の低次反射を測定し正確な磁気形状因子を求めた.

62. 準結晶の高分解能コンプトン散乱測定(新規)

教授 七尾 進, 助手 渡辺 康弘, 大学院学生 田村 純平

 コンプトン散乱測定は物質中の伝導電子の運動量分布に関する定量的な測定が可能な唯一の測定手法である. 特に放射光を用いたコンプトン散乱測定では高精度な情報を得ることができるので, 我々はSPring-8, BLO8Wにおいて準結晶の伝導電子に関する測定を行ってきた. これまでに, 1. d-AlNiCo準結晶はHume-Rothery則から外れる合金系であること, 2. [11000]入射及び[00002]入射のコンプトン散乱プロファイル間に異方性が現れ, これがフェルミ面と擬ブリルアンゾーンの相互作用から理解できること, 明らかにしている.

63. 準結晶のBreak Junctionによるトンネル分光測定(新規)

教授 七尾 進, 助手 渡辺 康裕, 大学院学生 田村 純平

 準結晶中の伝導電子は, 準周期的な原子配列を反映して1. 弱局在化傾向にある伝導電子の存在, 2. 電子状態密度のフェルミ準位付近に幅数百meV程度の擬ギャップ存在, などの準結晶特有の状態が存在すると考えられている. しかしながら, これらの準結晶特有の電子状態は微細であるため測定が非常に困難である. Break Junctionとは液体ヘリウム中で試料を破断させ, その破断面をトンネル接合としてトンネル分光測定を行う手法である. この測定手法の利点は, トンネル接合作製から測定にいたる一連の操作を液体ヘリウム温度で行うため, 試料表面の汚染を避けた測定が可能であることである. これまでに, 1. 幅数meV程度の擬ギャップの存在, 2. 幅約60meVの擬ギャップの存在, の観察に成功している.

64. Al-Mn-Fe-Ge系2次元準結晶強磁性合金のX線磁気ニ色性(継続)

教授 七尾 進, 助手 渡辺 康裕, 大学院学生 田村 純平

 Al-Mn-Fe-Ge系2次元準結晶は強磁性を示す準結晶で唯一安定なものであるが, その原子配列, 磁気構造についてはほとんど解明されていない. 本研究では, Mn, Fe, Geなどの構成元素のK吸収を用いたEXAFSを測定して局所構造に関する情報を得た. 同時に, X線磁気二色性を測定しMnとFeの局所環境は非常に良く似ていること, このスペクトル強度がほぼ同じ程度であり, 同程度に磁性に寄与していることを明らかにした. また, 磁気EXAFSによる磁気構造の解明を試みた.

65. X線発光分光法を用いた準結晶の特異な電子構造の解明(継続)

教授 七尾 進, 助手 渡辺 康裕, 大学院学生 小路 博信・田村 純平

 X線発光分光法は, 入射X線によって内殻電子を励起させて正孔が形成された後に, 外殻電子が遷移する際に輻射するX線を分光することによって, 電子構造を調べる新しい実験手段である. 本研究では, Al-Pd-Mn, Al-Mn-Si, Al-Mn-Fe-Geなどの準結晶を対象として, MnのKβ1, 3の発光を測定した. Al-Pd-Mn系では他の物質では見られないサブピークを発見した. まが, Mg-Zn-RE(RE:Ho, Dy)系ではLa, Lbのスペクトル構造から, 四重極遷移の入射エネルギー依存性を見出した.

66. 3次元準結晶合金のX線構造解析(継続)

教授 七尾 進, 助手 渡辺 康裕, 大学院学生 田村 純平・宮川 勇人

 Al-Cu-Ru系F型3次元準結晶の単結晶を作成し, これを用いて放射光によるX線構造解析を行った. Ru吸収端におけるX線異常錯乱実験を行い, 通常の散乱の数%しかない異常散乱効果を精度良く測定した. その結果, Al-Cu-Ruの1/1近似結晶と準結晶は局所構造が類似していることを実験的に検証した.

67. 転位の基礎的性質に関する研究

教授 鈴木 敬愛, 助教授 枝川 圭一

助手 上村 祥史, 研究員 小泉 大一

 結晶転位の芯構造や動力学的性質に関する計算機を用いた研究を引き続いて行っている. 今年度は, 以下の研究を行った. 1)ダイヤモンド型結晶中のらせん転位の運動を2次元パイエルス・ポテンシャルを仮定して扱うことにより実験で得られている降伏応力の温度依存性を定性的に説明することに成功した. 2)転位のパイエルス機構による運動を遷移経路計算法を用いて調べることにより, パイエルス・ポテンシャルを仮定して外応力の効果をwork-done項の形で取り込む従来の扱い方の妥当性を検討した. 3)運動する転位がフォノンを放出する過程を調べた.

68. 半導体の塑性変形機構

教授 鈴木 敬愛, 助教授 枝川 圭一, 助手 上村 祥史

技術官 橋本 辰男・片倉 智, 大学院学生 山内 聡

 昨年度までに高圧下での変形実験により閃亜鉛鉱型III-V族化合物半導体結晶の低温における塑性変形が拡張していないらせん転位により支配されていることを明らかにした. これは部分転位の運動が変形を支配している室温以上の場合と異なる機構である. 本年度は, さらにII−VI族化合物半導体であるCdTeで同様な実験を行った. III-V族の場合のように降伏応力の温度依存性に明確なhumpはみられなかったが, すべり線の観察から低温における変形機構がIII-V族と同様である可能性が高いことがわかった.

69. 準結晶のSTMおよびSTS

助教授 枝川 圭一, 助手 上村 祥史, 技術官 橋本 辰男

 特殊な構造秩序をもつ準結晶表面について走査トンネル顕微鏡観察(STM)および走査トンネル分光(STS)を行った. これまで準結晶構造を直接観察する方法としては高分解能電子顕微鏡法が使われてきたが, この方法は電子線入射方向の平均構造を反映した像となるためその解釈に難点がある. この点STM法では表面一層の原子配列を観察できるため有利である. 本年度は昨年度に引き続きAl-Ni-Co正10角形準結晶について10回対称面, 2回対称面のSTMおよびSTSを行った. 両面とも原子分解能の像を得ることに成功した. 2回対称面の観察から層間のフェイゾン欠陥が極端に少ないことを初めて明らかにした. またSTSにより表面電子状態を調べた.

70. 準結晶のフェイゾン弾性

助教授 枝川 圭一, 助手 上村 祥史, 技術官 橋本 辰男

 準結晶にはその特殊な構造秩序を反映してフェイゾンとよばれる特殊な弾性自由度が存在する. 準結晶のフェイゾン弾性は, そもそも準結晶構造秩序がなぜ安定に存在しうるかといった基本的な問題と深く関係しており, また準結晶の電子物性, 熱物性, 力学物性の特殊性の源とも考えられている. 従ってその性質を明らかにすることは重要である. 本年度は, 準結晶中のフェイゾンの熱的ゆらぎを初めて高分解能電子顕微鏡を用いて直接観察することに成功した. また, 昨年度に続きフェイゾン弾性に起因した比熱の変化をDSC法により実験的に調べた.

71. 巨大磁気抵抗効果を示すペロブスカイト型酸化物の電磁気特性

助教授 小田 克郎, 大学院学生 山本 晃生

 ペロブスカイト型結晶構造を持つLaMn系酸化物は磁場を印加することにより巨大な磁気抵抗(GMR)効果を引き起こす. このGMR効果は電子のスピンによるキャリアーの散乱に関連したものであるため, 電気伝導を磁場でコントロールできる. この特性から次世代のMR素子や磁場制御機能性材料への応用面に期待をもたれ, 同時に基礎物性の面では3d遷移金属酸化物における磁性と伝導の複合した物質として注目を浴びている. LaMn系酸化物における伝導バンドのフィリング制御にはMn4価はキャリアーを担う重要なファクターであると考えられる. LaMn系酸化物中の既存の研究の多くはLaサイトを他の2価金属イオンで置換したもので行われている. それに対して本研究ではBサイトのMnをNiで一部置換した試料を作製しMn4価量と電気的性質の相関を調べた.

72. 巨大磁気抵抗効果を示すペロブスカイト型Mn酸化物薄膜の作製

助教授 小田 克郎, 大学院学生 中村 進一

 本研究ではヘリコンスパッタ法を用いて結晶配向性の揃った[RE](Mn,Met)O3ペロブスカイト型Mn酸化物薄膜[RE:希土類金属, Met:3d金属]を作製してそのGMR効果を調べることを目的とする. 特に, 薄膜を作製する際に酸素のアシストガンを併用した“基板上反応性スパッタ法”を用いて, 高品質の結晶配向性の揃った薄膜の作製を狙うのが独創的な点である. この方法では複数のヘリコンガンでメタルのターゲットをたたいて酸化物を校正する金属イオンを基板へ跳ばし, 基板上に別のアシストガンからラディカルな酸素原子を入射して基板上で酸化反応を起こさせるガンへの投入エネルギーと酸素の入射エネルギーを調節してペロブスカイト型構造の結晶配向性を制御する.

73. 磁性強誘電体薄膜の作製とその物性

助教授 小田 克郎, 大学院学生 瀬田 崇

 強誘電体の磁気特性についてはバルク材について少し調べられているが, 薄膜についてはほとんど調べられてきていない. 本研究ではこのような強磁性と強誘電性を組み合わせた新しい電磁気機能性を持つペロブスカイト型結晶構造の薄膜の作製し, その薄膜の強誘電, 強磁性特性を調べることを目的とする. 薄膜の作製方法としては優れた強誘電特性を得るためには必要不可欠な結晶配向性のそろった薄膜を作製するのに適したイオンビームスパッタリング法を用いる.

74. リラクサー型強誘電体薄膜の作製とその評価

助教授 小田 克郎, 大学院学生 瀬田 崇

 強誘電−常誘電相転移をする際に散漫相転移をするリラクサー型強誘電体は通常の強誘電体であるチタン酸バリウムやPZT等と比較して室温において高い誘電率, 圧電係数, 焦電係数を持つ. これらの特性より多層膜セラミックスキャパシター, 多層膜電歪アクテュエーター, 赤外線センサーなど様々な機能素子材料として期待できる. 本研究では基板上反応性イオンビームスパッタ装置を用いて構造欠陥の少ない高品質のリラクサー型強誘電体薄膜を作製する. 作製した薄膜の評価は強誘電性と結晶性を調べる. 特に, 鉄を含む系ではメスバウアー分光法を用いて散漫相転移において結晶中の極微細構造がどのような役割を果たすかを調べる.

75. 焼結硬質材料の破壊靭性を破面面積と曲げ強さから求める新方法の開発(継続)

教授 林 宏爾, 技術官 簗場 豊

 焼結硬質材料については, 曲げ破壊試験によって生じる破片の破面面積(Smf)および曲げ強さ(σm)は, 破壊靭 性(KIC)との間に, σm=Y・KIC・Smf1/2の関係式が成り立つことを理論的に導出すると共 に, 本式は各種の硬質材料に対して適用しうることを実験的検証してきている. 本年度は, 破壊靱性が著しく低い材料であるガラスに対しても本式が適用出来ることを明らかにした.

76. 新炭窒化物W(C, N), Mo(C, N)および(W, Mo)(C, N)の粉末合成の研究(継続)

教授 林 宏爾 , 技術官 田中 和彦

 硬質材料の原料粉として期待されるMo(C, N), W(C, N)および(W, Mo)(C, N)粉は従来合成されたことが無い. これは, MoNとWNは原 子の拡散が活発となる高温では常圧下で不安定な化合物であることに基づく. Le Chatelierの原理, Virtual pressure conceptおよびOstwald's step rule for chemcal reactionに基づくと, W(C, N)とMo(C, N)は, W+C, Mo+C混合粉末の高圧窒素ガス加熱およびW, MoのCH4+NH3混合ガス中加熱により合成可能であると予測し, 実際合成可能であることをこれまでに明らかにしている. 本年度は, これらの新炭窒化物粉の窒素量に及ぼす昇温時の雰囲気と昇温速度などの影響を調べた.

77. 包析反応の遅滞現象に対する新仮説「核ー縁組織の核内の原子空孔枯渇」の提唱(継続)

教授 林 宏爾, 大学院学生 谷口 信人

 高温型熱電変換素子用のMnドープしたFeSi2は, 高温相で ある FeSiおよびFe2Si5との包析反応およびFe2Si5の分解によって生じたSiとFeSiとの包析反応によって生じるとされているが, いずれの包析反応も極めて遅く50時間程度の高温加熱でもほとんど進行しない. 類似組織の他の合金系でも同様な現象が見られる. そこで本研究室では, 包析反応速度の遅滞の機構として, 新仮説「核−縁組織の核内の原子空孔枯渇」を提唱しており, 本年度は, 一つの実験的証拠を得た.

78. 粉末の基板付着の機構に関する研究(新規)

教授 林 宏爾, 大学院学生 桜林 太郎

 粉末は, 条件如何によっては, それが置かれている基板に付着することがあり, 粉末の取扱いに当って支障を来すことがある. 付着の原因は, 粉末と基板間の静電気力であるとされているが, 必ずしもそれだけでは付着の有無を説明できず, 詳細な付着条件は分かっていないのが現状である. 本年度は, 第一段階として, 銅粉末に生じる静電気量に及ぼす基板材種, 雰囲気の湿度と温度などの影響を調べた.

79. 高配向性板状WC粒からなる新型超硬合金の研究(継続)

教授 林 宏爾

 WC-Co, WC-TiC-TaC-Co系切削・耐摩超硬合金におけるWCの結晶形は六方晶であることに基づいて, 三角柱の粒形となる傾向にあるが, 通常は, そのc/a軸比はほぼ1に近い. しかし, 原料粉として, 通常のWC粉の代わりにW+C混合粉を用いると, c/a軸比が約0.3の板状三角柱となり, かつその板面がかなり一方向に配向した合金が得られる. このような合金の室温機械的性質は, 通常の合金に比べて優れることを明らかにしている. 本年度は, このような板状WCの形成機構を明らかにした.

80. Al2O3-Ti(C, N)新複合セラミックスの開発(継続)

教授 林 宏爾

 現用のAl2O3-TiC切削複合セラミックスのTiCを, Ti(C, N)に置換すると機械的特性が向上すると期待される. 本年度は, 通常の無加圧焼結体とホットプレス体と間で諸特性を比較検討し, 両者間で大差無いことを明らかにした.

81. コンクリートのひび割れへの樹脂注入効果に関する検討(継続)

教授 魚本 健人, 技術官 星野 富夫

 コンクリート構造物の鉄筋腐食に関する研究については, その劣化のメカニズムや防食方法などが検討している. しかし, 実際の構造物に発生したひび割れの補修方法や耐久性に関する検討は殆どなされていない. そこで, 品質の異なるコンクリート梁に発生させたひび割れに, 注入深さの異なる樹脂注入を行った試験体を作製し, 強度特性を明らかにするとともに促進炭酸化や模擬海水浸漬繰り返しなどによる長期の耐久性に関する検討を行う. また, 実物大のコンクリート梁への注入実験も行い, 注入樹脂の粘度と注入の関係なども明らかとする研究を行う.

82. 養生過程の違いによるコンクリートの内部組織構造に与える影響(継続)

教授 魚本 健人, 大学院学生 伊代田 岳史

 コンクリート構造物では打設後, 養生を行うことにより十分な水和を進行させ, 所定の強度・耐久性を得ることができる. しかし, 現状では工期短縮や型枠転用のため早期脱型を行うことが多く, 十分な養生を行われていないという報告が多数ある. また, 近年では数多くの混和材を混入したセメントを用いた多種のコンクリートが使用されている. そこで, 各種セメントにおける養生不足による水和阻害と内部組織構造を明らかにした上で, 一度乾燥を受けたコンクリートに水分の再供給を行ったときの再水和反応と内部組織構造を明らかにし, 養生の大切さを検討するとともに多様な養生過程の提案を行うために実験を行っている.

83. 硫酸によるコンクリートの腐食劣化(継続)

教授 魚本 健人, 大学院学生 蔵重 勲

 温泉地, 下水道施設, 酸性雨中に存在する硫酸はコンクリート中のセメント水和物と反応し, 環境的, 材料的, 構造的な要因が複雑に絡み合って, さまざまな形態でコンクリートの劣化を引き起こす.

 本研究では, 硫酸濃度やコンクリートの性質といった基礎的要因が劣化に与える影響の検討から, 内部鉄筋の腐食劣化形態の解明など, 色々な角度からこの問題の解決に向けて取り組んでいる.

これまでにpH0.5〜1.0程度の高濃度の硫酸中にコンクリートを浸漬すると水セメント比が小さいほど腐食劣化が進むといった注目すべき結果が得られた. 現在はそのメカニズムについて詳しく調査しており, セメント水和物量および細孔空隙量がコンクリートの腐食劣化に大きな影響を及ぼすことなどが明らかになっている.

84. 欠陥を有するコンクリート構造物の耐久性評価に関する検討(継続)

教授 魚本 健人, 大学院学生 塚原 絵万

 コンクリート構造物の耐久性を評価するとき, 最も影響を及ぼす因子として“欠陥(ひび割れ等)”の存在が考えられる. なぜなら, 欠陥は構造物の耐久性能の低下を引き起こす侵入物質の侵入速度を加速する効果があるためである. 本研究では, 欠陥を有するセメント硬化体を対象に, その物質移動を定量的に解明することを目的とする.

 配合条件, 欠陥(直接引張試験, 疲労試験)の有無を要因として透気・透水試験を行いその影響度を定量的に表現する. 研究の特色は, 欠陥の付与方法として実構造物を想定した引張挙動とした点, 表面ひび割れおよび表面ひび割れが生じる前の内部損傷を対象としている点にある. 現状では, 疲労等の構造的要因により生じた内部欠陥の結果として生じる耐久性能低下の加速に関する評価は皆無である. これに対して, 本研究では損傷度(応力度)に応じた物質移動性状を定量的に算出することが可能となる. そのため, 本研究の成果と構造解析との連成解析(本研究の対象外)を行うことにより, 実現性に近い状態でコンクリート構造物の耐久性能を評価することが可能となる.

85. コンクリートのコールドジョイント発生防止・抑制を目的とした合理的施工システムの提案(継続

教授 魚本 健人, 大学院学生 許 賢太郎

 コールドジョイントは1999年6月のトンネルコンクリート片の落下事故で大きな話題になった. 本研究では施工条件と配合がコールドジョイント発生後のコンクリートの強度と耐久性に与える影響を把握した上で, コールドジョイント発生防止・抑制策を, 材料・施工の両面から検討し, 提案することを目的とする. 特に施工の自由度が高い自己充填コンクリートを用いた構造物のコールドジョイント防止・抑制策を中心に検討する. また, コールドジョイント発生後のコンクリートについて, 欠陥部分の補修策についても検討を行う.

86. 裏込め注入材料の充填性 (新規)

教授 魚本 健人, 大学院学生 小森 大育

 土質基礎構造物は地盤土に接して造られるので, 元々相互に作用しながら一体となって機能するように設計されているが, 施工上の都合や施工後の地盤土の動きによって構造物と地盤土との間に背面空洞が生じることがある. そのため, 裏込め注入により空洞を充填する必要があるが, 実施工ではその効果の確認は非常に困難であり,空洞充填に対する基礎的な研究が必要であると考えられる. そこで本研究では空洞充填実験により問題点を明らかし, 完全に充填させるために満たすべき条件を検討している.

87. 床版防水工がコンクリート床版に及ぼす影響(新規)

教授 魚本 健人, 大学院学生 野村 謙二

 高機能舗装の採用, 凍結防止剤として塩化ナトリウムの散布の増加など, 道路橋の鉄筋コンクリート床版は以前よりも一層過酷な環境に置かれるようになってきた. 鉄筋コンクリート床版の耐久性向上の有効な対応策として床版防水工がある. アスファルトとコンクリート床版に挟まれた箇所に敷設される床版防水工の効果についての研究は極めて少ない. このため, 現行の床版防水工の効果はどの程度なのか, 要求する性能を満たすためにはどのようにすればよいのかを明らかにすることを目的として研究を行っている.

88. コンクリート表面保護材料(塗膜)の耐疲労性に着目した実験的研究(継続)

教授 魚本 健人, 技術官 西村 次男, 研究実習生 飯塚 康弘

 コンクリート構造物は, 多くの立地条件のもとで様々な劣化現象が現れる. 主にコンクリートの劣化に大きな影響を与えるCl−やCO2の外的要因を防御する対策, またコンクリート表面に現れるひび割れに対する簡単な延命対策として, コンクリート表面保護材料(塗膜)が使用されている. これら塗膜には, 様々な要求性能が存在しているが, その性能を評価する方法としては化学的な性質に着目されたものが多いのが現状である. 物理的な評価としては, 「ひび割れ追従性試験(静的引張試験)」があるが, 疲労荷重がかかる構造物を考慮した場合のひび割れ追従性は非常に重要な要因となってくる. 本研究では, 一般的に使われている塗膜材料をモルタル試験体に塗布し, 塗膜の耐疲労性に着目し疲労試験を行い, 新たな材料の評価方法を検討する.

89. マルチスペクトルを用いたコンクリート構造物劣化診断に関する基礎的研究(新規)

教授 魚本 健人, 研究実習生 佐藤 大輔

 コンクリート構造物の劣化診断を行う場合, 表面の状態が非常に重要である. 逆に表面の状態を知ることができれば, ある程度の劣化原因が特定できることになる. このマルチスペクトルという手法は構造物からの反射エネルギーを測定し, 物質特有のスペクトルを得ることにより, その構造物の表面に存在する元素の特定をするものである. 本研究ではコンクリート表面に付着した幾つかの元素の有無をスペクトルから判断することを目的とする.

90. 非接触状態での電磁波レーダ法によるコンクリートの内部探査に関する研究(新規)

教授 魚本 健人, 研究実習生 宮本 一成

 近年のコンクリート剥離事故の発生等から, トンネル構造物のライニングの全断面検査が望まれている. 現状の検査手法としては, 電磁波レーダによりライニング厚さ, コンクリート内部の性状, 背面空隙を測定する非破壊検査が挙げられる. しかし, この手法は測定装置をコンクリート表面に接触させて測定するものであり, 検査効率が悪く, 広大な範囲を測定する方法として実用的でないことから, より実用性に富んだ測定手法が求められている. そこで本研究では, 測定装置をコンクリート表面から離した状態でライニング厚さや内部性状を探査し, その際の測定装置とコンクリート表面の間隔や測定に最適な周波数についての検討を行い, 非接触状態における電磁波レーダの適用性を検討している.

91. 温度解析とサーモグラフィーによるコンクリートの斜めひび割れ状態の推定(新規)

教授 魚本 健人, 研究実習生 高羅 信彦

 近年, サーモグラフィー法を適用したコンクリートの内部評価試験が注目されている.

 特にコンクリート部材に斜めひび割れが存在する場合, 投光機をあてると部材の薄いところから順に吸熱することが知られており, 経験的にその部分に欠陥があると推定することができる. しかし, 表面での温度分布は投光機の電圧やひび割れの状態に大きく影響を受けるため定量的な評価ができないのが現状である. そこで本研究では, 斜めひび割れコンクリートの表面を投光機で加熱し, 深さ方向での温度分布状態をサーモグラフィーと温度解析により求め, 一致させることを目的とした. また最終的には, これを利用し表面の温度分布状態のみでコンクリートの斜めひび割れ状態の推定することを目的とした.

92. 位置と劣化度を考慮したレーザドップラー変位計を用いた構造物の診断手法の開発(新規)

教授 魚本 健人, 大学院学生 Nathan Chiristianto

 構造物の劣化診断における方法について近年主に考えられている. ここに研究開発したのはレーザドップラー変位計で構造物の振動情報を測定し, タイムドメインシステムのアルゴリズムでその値を出力し, ひずみエネルギーで構造物の内部にある, 隠れた劣化の量と位置を推定するものである. それらの方法を組み合わせることでほかの非破壊検査方法を用いることなく部分的な劣化情報を得ることができるのである.

 開発した方法の適用性を確かめるためにいくつかの劣化した(コンクリート)構造物での測定と実験的なコンクリート梁を用いて実験している.

93. DEMと実験を用いた吹付けコンクリートの解析(継続)

教授 魚本 健人, 大学院学生 Quoc Huu Duy Phan

 吹付けコンクリートは1907年以来100年近く用いられてきた高圧で吹付けるコンクリートである. 吹付けコンクリートの品質は様々な施行や材料によって左右される. 過去において本研究室で吹付けコンクリートの二次元数値解析は行われてきた. 本研究は貴重な研究の拡張として三次元個別要素法(DEM)を用いて, 異なった吹付け条件, 物質, 配合, 加速度を考慮した吹付け過程をモデル化するものである. シミュレーションの結果, DEMは定量的にも定性的にも吹付け過程をシミュレートする道具として優れていた. 一方で耐久性や強度, リバウンド率なども含めて実験により吹付け条件や材料の様々な要因の影響を明らかにしている.

94. 高温履歴を受けた低水セメント比コンクリートの水和進行に関する研究(新規)

助教授 岸 利治, 研究実習生 伊藤 一聡

 コンクリート構造物の高機能化に伴い, 自己充填コンクリートや高強度コンクリート等の低水セメント比配合のコンクリートを使用する事例が増えている. 一方, 性能照査型の設計体系への移行に伴い, 設計耐用期間におけるコンクリート構造物の挙動を精度良く予測し, 構造物の健全性を確実に担保することが求められている. 特に, 低水セメント比のコンクリートにおいては, 水和発熱による温度変化等に起因するひび割れを勘案する必要があり, セメント系材料の水和進行を任意の温度履歴に対して正確に予測することが重要である. しかし, 低水セメント比配合におけるセメント系材料の水和は, 液状水が十分に存在する状態での反応とは, 特に反応末期における拡散律速・移動抵抗, 空隙組織形成, 自由水保持形態などに関して大きく異なると考えられる. そこで, 本研究では, 解析と実験の両面から微視的機構の解明を試み, 構成モデルの高度化による数値解析手法の一般化を図ることを目的としている.

95. 量子井戸フォトリフラクティブ素子(継続)

教授 黒田 和男・荒川 泰彦, 助教授 志村 努・福谷 克之

講師 染谷 隆夫, 助手 西岡 政雄, 大学院学生 岩本 敏, 武富 紗代子

 高速かつ高感度な量子井戸フォトリフラクティブ素子の実現とその応用を目指して研究を進めている. 今年度は, 昨年開発した波長1064nm(Nd:YAGレーザーの波長)に感度を持つ素子(Franz-Keldysh配置)を用いた適応型振動計測を行った. 現在, 5nm程度までの微小振動の測定に成功している. 低周波ノイズを効率よく除去した測定が可能であること, また通常の干渉計では計測困難な粗面の計測も可能であることも実証した. 一方, Stark配置素子の高機能化のための研究も行った. 低温成長半導体層をキャリアトラップに用いることで, 従来の酸化シリコンを用いた場合に比べ素子の空間分解能を5倍近く向上させることに成功した. また低温成長層と量子井戸部分のバンドギャップ差が空間分解能を決定する要因であることを見出した.

96. 偏光暗号化によるセキュリティーホログラフィックメモリシステム

教授 黒田 和男, 助教授 志村 努, 助手・特別研究員 的場 修

技術官 千原 正男・小野 英信, 大学院学生 譚 小地

 近年, ランダム位相マスクによる光暗号化技術を用いた個人認識システムや光メモリシステムの研究が行われている. 本研究では, 偏光情報を用いたセキュリティーホログラフィックメモリシステムを提案し, その原理確認実験を行った. 提案するメモリシステムでは, 入力信号を偏光情報として表示し, 複屈折ランダムマスクにより画素ごとに入力偏光状態をランダム化する. この暗号化された偏光状態をホログラムとして記録する. 原信号を再生するためにベクトル位相共役再生を用いる. 暗号化時のランダムマスクを用いた場合にのみ, ランダムマスクによる複屈折変調が補償され, 元の偏光状態が回復する. ホログラム記録材料としてバクテリオロドプシンを用いた暗号化・復号の実験を行い, 良好な結果を得た.

97. カスケード2次非線形光学効果を用いたフェムト秒光パルス圧縮

教授 黒田 和男, 助教授 志村 努, 助手 芦原 聡

大学院学生 仁科 潤

 カスケード2次非線形光学効果を用いたフェムト秒光パルスの圧縮を目的として研究を行っている. これは2次非線形効果の多段過程により3次の効果に類似した非線形位相変調を得る, というユニークなアプローチであり, 潜在的に従来の3次非線形効果よりも数段大きな効果が期待できる. また, この効果特有の負性位相変調を利用すると, 正常分散媒質と組み合わせた, コンパクトなパルス圧縮システムが実現可能である. 本年は, 15 mm BBO非線形結晶と光学ガラスBK7を用い, 120 fsパルスから約半分の67 fsへの圧縮に成功した. 疑似位相整合素子の開発, 時間ウォークオフの低減, および高次分散の補償により, パルス圧縮システムの高性能化を目指す.

98. フォトリフラクティブ効果を用いた不揮発性ホログラフィック光メモリの研究

助教授 志村 努, 教授 黒田 和男, 助手・特別研究員 的場 修

技術官 千原 正男・小野 英信, 大学院学生 藤村 隆史・丁 景福

 フォトリフラクティブ効果を用いたホログラフィック光メモリは読み出し時に記録した情報が消えていくという大きな問題がある. 我々は, ダブルドープ2波長記録方式における不揮発記録のメカニズムの解明と高効率化を目的とし, 2準位モデルによるシミュレーションを行っている. 今年度は, 読み出しに外部電場印加を印加することで, 上準位の位相を制御し, 下準位とconstructiveに足し合わせるという記録方法を提案し, 実験的にこの方法で残留回折効率が向上することを確認した.

99. リラクサー系材料の光学的特性(継続)

助教授 志村 努, 教授 黒田 和男, 助手 芦原 聡

技術官 千原 正男・小野 英信, 大学院学生 藤島 丈泰

 リラクサー系材料は散漫相転移を示す材料であり, 光学材料としては未だ未開拓の材料であるが, 大きな圧電効果を利用することで有用な電気光学材料になると考えられる. このリラクサー系材料の中でも圧電定数が大きい0.91Pb(Zn1/3Nb2/3)O3-0.09PbTiO3単結晶を使い分極の配向をそろえた試料を作製した. 一次電気光学定数を測定したところ r33-(no/ne)3r13=487pm/Vという大きな値を示した. また屈折率の測定を行い可視域で複屈折が0.01程度と見られた. QスイッチYAGレーザーを基本波として用い第二高調波が現れることを確認した.

100. フォトリフラクティブ効果を用いた微小振動計測システムの研究(継続)

助教授 志村 努, 教授 黒田 和男, 助手・特別研究員 的場 修

助手 芦原 聡, 技術官 千原 正男・小野 英信, 大学院学生 岩本 敏・武富 紗代子

 フォトリフラクティブ結晶を用いてサブナノメートルオーダーの微小振幅の振動計測を行った. 二通りのシステムについて研究している. 一つは面内方向の振動に感度を持つ, スペックル相関フィルターによる検出システムである. 粗面から反射光により結晶内に作られるスペックルパターンの振動に応じた出力偏光の偏光状態の変化を検出した. これにはGaP単結晶を用いた. もう一つは面外方向の振動に感度を持つ, 2光波混合による検出システムで, 新たに開発した1.06μmで動作する半導体多重量子井戸デバイスを用いている. いずれも適応型の計測システムで, 低周波のノイズを除去することができ, 外乱に強い. 粗面のサブナノメートルオーダーの振幅の振動を計測できることを実験的に検証した.

101. 半導体ナノ構造の研究(1)−電子状態と物性の解明と制御−

教授 榊 裕之・荒川 泰彦, 助教授(東京大)平川 一彦・高橋 琢二・秋山 英文

助手 野田 武司, 技術官 川津 琢也, 博士研究員 金 勲・M. Lachab

大学院学生 津田 倫延・近藤 直樹・入沢 準也・山端 徹次・高田 泰彦

協力研究員 井下 猛・田中 一郎・小柴 俊・Ph. Lelong・山内 美如

教授(カリフォルニア大)S.J. Allen, ディレクター(仏CNRS-ENS)G. Bastard

 10ナノメートル級の半導体超薄膜を積層化したヘテロ構造やSiMOS構造内の極薄チャネルでは, 電子の量子的波動性が顕在化し, 新しい物性や機能が現われるので, 種々のデバイスの高性能化や高機能化に利用できる. 本グループは, これら超薄膜に加え, 量子細線や量子箱(ドット)構造を対象に, 電子の制御法の高度化と新素子応用の探索を進めている. 特に, 超薄膜の端面に形成するエッジ細線や, 結晶の微傾斜面上の原子ステップを活用した量子細線に加えて, 自己形成法で得られるInAs量子箱やナノ探針で誘起したドットなどを中心に, 電子の量子状態を解析するとともに, レーザ分光・フーリエ分光・電圧依存コンダクタンス分光・サイクロトロン共鳴による解明を進めた. 低次元の電子や励起子の量子状態, 電子の散乱・拡散・トンネル通過・緩和などの過程や, 電子正孔対の束縛・解離・再結合過程の特色と制御法に関し, 新しい知見を得ている.

102. 半導体ナノ構造の研究(2)−高性能ヘテロFET・超微細MOSFETと新電界効果素子−

教授 榊 裕之, 助手 野田 武司, 技術官 川津 琢也

博士研究員 金 勲, 大学院学生 津田 倫延・高田 泰彦

 AlGaAs/GaAsなどのヘテロ構造を用いた超高速FETとSiO2/Si 構造を用いたMOSFETは, 電子工学の最重要素子のひとつである. これらの10nm級の伝導層を用いたFET素子の高機能化と高性能化の研究を進めている. 特に, ヘテロ系FETに関しては, チャネル近傍に電子を捕縛する量子箱を埋め込んだ素子のメモリー機能や電子散乱の解明, 傾斜基板上のステップに沿う結合量子細線をチャネルとするFETの開発, さらにInGaAsやGaAs系ダブルヘテロ系FETの容量・電圧特性や移動度に関する研究を進めた. また, 絶縁基板上の Si 超薄膜をチャネルとするSi MOSFETや窒化物を用いたFETについても, 電子や正孔の量子状態や界面凹凸散乱などを明らかにする研究を行っている.

103. 半導体ナノ構造の研究(3)−トンネル素子と単電子素子−

教授 榊 裕之, 助手 野田 武司, 技術官 川津 琢也

大学院学生 入沢 準也, 博士研究員 金 勲

教授(カリフォルニア大)S. J. Allen

 トンネル障壁が2重に設けられた素子構造では, (1)特定波長の電子波が共鳴的にトンネルする効果や(2)2枚の障壁間に蓄積される電子の静電的な作用で伝導が抑制される現象などが生じる. 特に, 自己形成InAs量子箱を埋め込んだGaAs/AlGaAs二重障壁ダイオードでの零次元電子の関与した共鳴トンネル伝導やヘテロFETのチャネルの近傍にInAs量子箱を埋め込んだ素子構造における単一の電子の捕捉とそのメモリー応用の検討を進めた. また, 単一電子素子におけるフォトン支援トンネル伝導や20 nm程の周期凹凸を含む量子ポイント素子での特異な弾道伝導現象を見出した. さらに, 静電界の作用で量子井戸中に零次元や一次元電子状態を誘起した時の電子状態の特色を明らかにした.

104. 半導体ナノ構造の研究(4)−光学的性質とフォトニクス素子応用−

教授 榊 裕之, 助手 野田 武司

大学院学生 津田 倫延・近藤 直樹・入沢 準也・山端 徹次, 助教授(東京大)秋山 英文

博士研究員 M. Lachab, 協力研究員 井下 猛・小柴 俊・天内 英隆

教授(カリフォルニア大)S. J. Allen, ディレクター(仏CNRS-ENS)G. Bastard

 先端的な光エレクトロニクス素子用の材料として注目されている量子井戸, 量子細線, 量子箱について, その光学特性を調べ, その素子応用を探索している. 特に, 10 nm級の寸法のInAs量子箱に赤外光を照射した時の電子の占有状態の変化を調べ, 光書き込みメモリーや光検出器としての機能を調べた. また, 各種の量子箱の光吸収や蛍光スペクトルとその電界依存性を解析し, 変調器への応用可能性を探るとともに, 箱内の準位間のフォノンによる緩和過程を明らかにした. さらに量子井戸の端面に形成したGaAs/AlGaAs系のT型量子細線やステップ型量子細線の光学計測により, 一次元励起子の特色や光学異方性を検討した.

105. 半導体ナノ構造の研究(5)−形成技術と構造評価−

教授 榊 裕之, 助教授 高橋 琢二, 助手 野田 武司

技術官 川津 琢也・島田 祐二, 大学院学生 近藤 直樹・山端 徹次

協力研究員 小柴 俊・田中 一郎, 教授(カリフォルニア大)P. Petroff

 10 nm級の超薄膜に加えて, 量子細線や量子箱構造を分子線エピタキシーや先端リソグラフィ法で形成し, その構造を原子スケールで評価し, 新材料としての可能性を探索している. 特に, (1)結晶主軸から傾斜した基板上での原子ステップの制御とその10 nm級のGaAs/AlGaAs量子細線の形成への活用, (2)量子井戸の端面上への細線の成長, (3)メサ(台地)構造を刻んだ基板上での細線構造の選択成長とそれらの構造評価を進めた. また, (4)GaAs結晶上にInAs系のアイランドを堆積させ, 10 nm級の量子箱を形成し, FETメモリーや光素子への応用可能性を示している. これらの構造評価には, 原子間力顕微鏡(AFM)に加えて, 蛍光線の拡がりの解析や電子移動度および磁気抵抗振動解析が有用であることも明らかにしている.

106. テラヘルツ電磁波バーストを用いた半導体中の超高速現象サンプリング技術の研究

助教授 平川 一彦, 助手 島田 洋蔵

協力研究員 S. Madhavi, 大学院学生 阿部 真理

 半導体にフェムト秒レーザパルスを照射すると, 様々な機構により半導体からテラヘルツ光のバーストが放射される. このテラヘルツ光バーストは, 半導体中でおきる超高速現象の情報を含んでおり, それらの理解には, 超高速にこのバーストをサンプリングする技術が重要である. 我々は, 超高速・広帯域テラヘルツ電磁波検出技術の開発を目標に研究を行っている. 本年度は, ZnTeやGaPなどの電気光学結晶を用いることにより, テラヘルツ電磁波の振幅と位相を検出できるシステムを構築した. また, おおよそ10テラヘルツの広帯域を達成した.

107. 時間分解テラヘルツ分光法を用いた半導体中のキャリアダイナミクスの解明

助教授 平川 一彦, 助手 島田 洋蔵

協力研究員 S. Madhavi, 大学院学生 阿部 真理

 フェムト秒レーザパルスを用いた時間分解テラヘルツ分光法を用いて, 半導体中の電子の超高速運動が放出するテラヘルツ電磁波を実時間領域で検出することにより, 電子のダイナミックな伝導現象を解明することを目的に研究を行っている. 本年度は, (1)電気光学結晶を用いた広帯域テラヘルツ電磁波検出系を用いて, 半導体空乏層を伝導する電子が放出するテラヘルツ電磁波を検出することにより, 電子の過渡速度を実験的に決定するとともに, モンテカルロ計算との比較を行った.

108. 半導体超格子中の電子のミニバンド伝導とその応用

助教授 平川 一彦, 助手 島田 洋蔵, 協力研究員 S. Madhavi

 フェムト秒レーザパルスを用いた時間分解テラヘルツ分光法を用いて, 半導体超格子中のミニバンドを伝導する電子が放出するテラヘルツ電磁波を実時間領域で検出することにより, 超格子中のダイナミクス, およびブロッホ振動を用いたテラヘルツ電磁波の発生・増幅・検出の可能性について探索を行っている. 本年度は, (1)電子の散乱による通常のバンド伝導から, ブロッホ振動を伴う伝導への移行の様子を明らかにした. (2)従来, ブロッホ振動が起きないと思われていた, 光学フォノンエネルギーよりも広いミニバンド幅を有する超格子においても室温でブロッホ振動する様子を確認した. (3)放射されたテラヘルツ電磁波と電子の伝導度に関する考察を行った.

109. 自己組織化量子ドットを用いた超高感度赤外光検出器の開発

助教授 平川 一彦, 教授 榊 裕之, 助手 島田 洋蔵

協力研究員 李 承雄, 大学院学生 広谷 仁寿・藤本 真一・(国立台湾大学)Ph. Lelong

 自己組織化InAs量子ドット構造の特異な電子状態を利用して, 超高感度の赤外光検出器を実現することを目的として研究を行っている. 特に, 自己組織化量子ドットと高移動度変調ドープ量子井戸を組み合わせた横方向伝導型量子ドット赤外光検出器を提案・試作し, その評価を行った. 本年度は, (1)量子ドット中のサブバンド間遷移に現れる特徴が, 遷移における量子干渉効果によるものであること, および(2)その干渉効果において, 量子ドットのサイズと濡れ層の存在が大きな影響を与えていること, (3)量子ドットのサイズと量子準位のエネルギー位置の関係, (4)ドットサイズと光検出における量子効率の関係を明らかにした.

110. III-V族希薄磁性半導体の強磁性転移機構に関する研究

助教授 平川 一彦, 教授(東京大)家 泰弘

助教授(東京大)勝本 信吾, 教授(東京工業大)宗片 比呂夫

教授(ポーランド大学)A. Twardowski

 III-V族希薄磁性半導体は, 半導体の性質と磁性体の性質の両方を兼ね備えた物質として, 近年大きな注目を集めている. 一方, テラヘルツ光(赤外光)は, そのフォトンエネルギーがちょうど数〜数十meVに, また周波数がフェムト秒領域に対応するため, 新電子材料のバンド構造やダイナミックな伝導現象の解明に有効なツールである. 我々は, テラヘルツ光を用いて, III-V族希薄磁性半導体の強磁性転移機構の解明を目標に研究を行っている. 本年度は, (1)III-V族希薄磁性半導体の吸収スペクトルの温度依存性より, 二重共鳴効果と呼ばれる機構が強磁性転移に深く関与していることを見出した. (2)似た性質を持っているであろうと予想されているInMnAsとGaMnAsについて, その吸収スペクトルの形状および温度依存性を比較検討し, 類似点, 相違点を明らかにした.

111. 半導体量子ナノ構造の超微細加工プロセス

助教授 平川 一彦, 助手 島田 洋蔵

協力研究員 川口 康, 大学院学生 李 承雄・広谷 仁寿

 量子ナノ構造電子材料系は, 超高速・電子デバイスの根幹となる材料系であり, ますますその重要性を増しつつある. 我々は, 半導体表面・ヘテロ接合界面におけるミクロな電子構造の解明と制御, また原子レベルでの超微細加工プロセスの研究を行っている. 本年度は, 結晶格子定数の違いによりガリウムひ素上に形成れるインジウムひ素量子ドットを分子線エピタキシー法により作製し, 成長条件と作製される量子ドットのサイズ, および電子状態の関係を検討した. 特に, 成長時の基板温度や照射するひ素のフラックス, シークエンスと量子ドットの形状, サイズ, 均一性の関係を明らかにした.

112. 半導体量子ドット構造の形成技術の開拓(継続)

教授 荒川 泰彦, 講師 染谷 隆夫

助手 西岡 政雄・石田 悟己

大学院学生 橘 浩一・館林 潤・宮村 信

 有機金属気相成長成長技術(MOCVD)および分子線エピタキシ技術(MBE)を用いて量子細線, 量子ドット構造の形成技術の確立をはかっている. 特に窒化物半導体ナノ構造の形成に重点をおいて研究を推進している. 主要研究成果としては, (1)サファイア基板上に窒化物InGaN/GaN量子ドットを形成するとともに室温光励起レーザ発振に成功した. (2)SiC基板上へのGaN/AlN量子ドットの形成に成功した. (3)SiO2上へのMOCVD選択成長によりInGaN量子ドットの形成に成功した. (4)InAs量子ドットにおいて1.5μm帯での発光を達成した. (4)MBEによりタイプIIGaAs/GaSbの形成に成功するとともに, 時間分解蛍光測定によりタイプIIの特徴を確認した.

113. 単一量子ドットおよび半導体ナノ構造の物性研究(継続)

教授 荒川 泰彦, 講師 染谷 隆夫, 助手 石田 悟己

助教授(北海道大)戸田 泰典, 大学院学生 加古 敏・杉本 岳大

 低温近接場光蛍光分光装置(NSOM)および低温トンネルル蛍光分光(STL)システムを確立し, 量子ナノ構造のナノメートルスケール光・電子物性の究明, 特に単一量子ドット分光の研究をすすめている. NSOMによりInAs/GaAs単一量子ドットからの蛍光分光, 磁気光学分光, 蛍光励起分光を行い, その結果, 量子ドット中に連続的状態密度が存在することを示した. 更に, 時間相関分光によりLOフォノンを介在した励起子のコヒーレント効果を観測し, 4.2Kにおける位相緩和時間を測定した. また連続状態と高次サブバンドにおいてFano共鳴と解釈できる現象を観測するのに成功した. μ−PLによる単一窒化物InGaN量子ドットからの蛍光の観測に成功した.

114. 量子ドットの電子状態の理論的研究(継続)

教授 荒川 泰彦, 講師 染谷 隆夫, 助手 斎藤 敏夫・尾崎 政男

 量子ドットの電子状態およびフォノンや光との相互作用について理論的な研究を行っている. これまで, 量子ドットレーザにおけるLOフォノンと電子の相互作用について理論的に議論した. 特に量子ドットに閉じ込められたLOフォノンと外のバルクLAフォノンとの結合を考慮しながら, 電子の緩和過程を明するとともに, 窒化物InGaN量子ドットの電子状態について, 歪みの効果を取り入れながら強結合法を用いて計算を行った. 更にピエゾ効果も考慮して計算を進め, 10 nm程度の横寸法でも6角ピラミッド状量子ドットにおいて, 十分基底準位にのみ電子を存在させることが可能であることを明らかにした.

115. 窒化物半導体の結晶成長, 光電子物性およびデバイス応用(継続)

講師 染谷 隆夫, 教授 荒川 泰彦, 助手 西岡 政雄

研究機関研究員 星野 勝之, 日本学術振興会特別研究員 J. Harris

大学院学生 加古 敏・橘 浩一・有田 宗貴・宮村 信・トラン チャング

 青色光デバイス, マイクロメカニカルデバイス, 高温電子デバイスなどへの応用を目的として, 窒化物半導体の結晶成長, 光電子物性およびデバイス応用の研究を行っている. これまでMOCVD装置を用いてGaN/InGaN/AlGaNからなるヘテロ構造を作製し, 成長条件の最適化をはかるとともに, 下記の成果を達成してきた. (2)InGaN自己形成量子ドットを活性層とした青色レーザを試作し, 室温においてレーザ発振の観測に成功した. (3)2・3nmの量子井戸において3μm帯におけるサブバンド間遷移の観測に成功した. (4)GaN/AlGaN変調ドープ構造を形成し, FET構造を作製し高移動度を達成するとともに, 量子伝導特性を明らかにした.

116. 量子ドットレーザの研究(継続)

教授 荒川 泰彦, 講師 染谷 隆夫

助手 西岡 政雄・石田 悟己

大学院学生 橘 浩一・館林 潤・岩本 敏

 量子ドットレーザの基礎研究をすすめている. 本年度は(1)窒化物InGaN量子ドットを活性層に組み込んだ青色レーザの光励起室温発振に成功した. スペクトルや偏波依存性から室温発振が確かめられた. (2)フォトニック結晶を有する量子ドットレーザを作製する際有効である量子ドットの形成領域を選択成長で制御することを提案しその実証を行った. まずInAs量子ドット自己形成のための条件を明らかにし, その結果を踏まえてSiO2パターン上への選択成長を行った. また, GaAs上のInAs量子ドットをInGaAs量子井戸で埋め込むことにより, ピーク波長1.52μm, 半値幅22meVで室温発光を確認した. さらにフォトニック結晶形成技術の確立をRIEを用いて図った.

117. フォトニック結晶およびフェムト秒フォトニクスの研究(継続)

教授 荒川 泰彦, 講師 染谷 隆夫

助手 西岡 政雄・石田 悟巳

大学院学生 加古 敏・館林 潤・クラグリア コジモ

 微小共振器などにおける光子制御について基礎研究をすすめている. これまで(1)微小共振器型量子ドット−レーザからのピコ秒光パルスの生成に成功した(2)フォトニックバンド結晶の理論計算を行い, 特に2次結晶における不純物効果を明らかにした. (3)2次元V溝構造からなるフォトニック結晶構造を形成し, 自己形成InAsの量子ドットをV溝の底に形成し, 格子に屈折率の虚部が非零な領域を有する構造を実現した. (4)窒化物半導体におきて微小共振器において自然液出制御効果を観測することに成功した. さらに, 電流注入型窒化物面発光レーザ実現のための基礎実験を進めた.

118. マイクロメカニカル半導体光デバイスの研究(継続)

教授 荒川 泰彦・藤田 博之

講師 年吉 洋・染谷 隆夫, 助手 西岡 政雄

日本学術振興会特別研究員 アリ ムサ, 外国人客員研究員 フィリップ グイ

 大容量光伝送システムや超高密度光メモリーを支える光デバイスの開発を目指して, マイクロマシーニングの光デバイス応用を進めている. 特に, 静電アクチュエータによって共振器長をコントロールして, 半導体レーザや光ディテクタにおける波長を可変にした素子の開発を進めている. また, 半導体レーザ, 光ディテクタ, 近接場光プローブを一体化して, 超高密度光メモリーの読み取りアセンブリを超小型化することを目指した研究も推進している. さらに, 有機半導体とマイクロマカニカル構造の融合を図っている.

119. 窒化物半導体変調ドープヘテロ構造の電子物性とFET応用(継続)

教授 荒川 泰彦, 講師 染谷 隆夫

客員研究員 沈 波, 研究機関研究員 星野 勝之

大学院学生 トラン チャング

 次世代のユビキタス情報機器として有用な携帯端末で用いられると期待されている窒化物半導体電子デバイスの基礎研究を開始した. 本年度は, GaN/AlGaN変調ドープヘテロ構造を作製し, 電子物性の解明とFET応用に向けたプロセス開発について展開を図った. 特に高い移動度を得るためにAlGaN層の厚さ等の最適化を図り, その結果室温で世界最高水準の移動度を達成することに成功した. 更にFET試作のために構造設計, プロセス技術の開発を行った. さらに, 量子伝導物性を明らかにし, SdH振動におけるビート効果やWeiss振動の観測に成功した.

120. 量子ナノ構造におけるサブバンド間遷移現象とデバイス応用に関する研究(継続)

教授 荒川 泰彦, 助教授 平川 一彦

講師 染谷 隆夫, 研究機関研究員 星野 勝之

 サブバンド間遷移現象は, 電子デバイスと融合した次世代光デバイスにおいて, ユニポーラ光デバイスの実現に応用できる可能性があるため, 極めて重要である. 本研究室では窒化物半導体を中心にして, サブバンド間遷移現象とデバイス応用について基礎研究を開始した. 本年度は, 窒化物GaN/AlGaN量子井戸構造を中心にして特に原子層オーダの界面ゆらぎを有する良質な量子井戸をMOCVD法で形成することに成功するとともに, 遠赤外分光法により波長1.3μm帯において, サブバンド間遷移を観測することに成功した.

121. 有機半導体エレクトロニクスの研究

教授 荒川 泰彦・藤田 博之, 講師 染谷 隆夫

助手 西岡 政雄, 研究機関研究員 北村 雅季

 将来のプラスチックエレクトロニクスをめざし, 有機半導体の研究を開始した. 特に, 有機半導体レーザーおよび可変波長有機LEDの作製を目指して研究を進めている. 有機半導体レーザーを実現するためには十分な反射率を得る必要があるが, 有機半導体ではへき開が困難であり分布帰還型共振器が有望である. 我々は分布帰還構造を有する有機LEDを作製し, 分布帰還構造に起因したスペクトルのナローイングと発光パターンの異方性を確認した. 可変波長有機LEDは有機LEDの広いスペクトルとSiマイクロマシン技術を利用し実現できる. これまでに, 微細加工したシリコン上に有機LEDを作製し発光を確認した.

122. 非線形ディジタル信号処理とそのLSI化に関する研究(継続)

教授 荒川 泰彦・(明治大学)荒川 薫, 大学院学生 渡部 宏明

 マルチメディア通信環境において求められる多機能性とリアルタイム性を重視し, かつ既存のハードウェアとの適合性を有する非線形ディジタル信号処理の研究を, 明治大学理工学部と共同で行っている. 本年度は, 非線形信号処理プロセッサの一般化をはかるとともに, 成分分離型非線形ディジタル信号処理を提案し, その有効性を実証した. また, 本研究で開発した非線形ディジタル信号処理方式を, 実際の信号処理プロセッサに搭載することに成功した.

123. 高速性と超低消費電力を両立させた新デバイス・回路方式に関する研究(継続)

助教授 平本 俊郎, 教授 桜井 貴康, 客員教授 生駒 俊明

大学院学生 犬飼 貴士

 集積回路の微細化および低電圧化が進むと, MOSFETはもはや理想的なスイッチとしては動作せず, オフ時のリーク電流が増大するという問題がある. 低しきい値電圧によるサブスレッショルドリーク電流や極薄ゲート酸化膜によるトンネル電流である. そこで, 超低リーク特性と高速性を両立させるために, リーク電流は大きいが微細化により超高速を達成できるデバイスと, 高速性は劣るがリーク電流を抑え理想的なスイッチとして動作するデバイスとを組み合わせた新しいデバイス・回路形式を提案している. 両デバイスでゲート酸化膜厚や印加電圧をかえることで, スタンバイ電力を抑えつつ超高速性を達成することが可能である. また, 本方式はしきい値制御デバイス等と組み合わせると極めて効果的であることを示した.

124. 0.5V動作超低消費電力VLSIデバイスに関する研究(継続)

助教授 平本 俊郎, 教授 桜井 貴康, 客員教授 生駒 俊明

博士研究員 任 玄植, 大学院学生 犬飼 貴士

 携帯機器の普及により, VLSIチップの低消費電力化は必須の課題である. 本研究は, 0.5Vという低電圧で動作し, 超低消費電力と高駆動力を両立させるデバイスを実現することを目的とする. そのため, しきい値電圧をダイナミックに制御できるデバイスを検討している. これまでに, しきい値制御デバイスにおける基板バイアス係数の役割を定量的に評価し, 通常のMOSFETでは基板バイアス定数が小さい方が有利となるが, しきい値電圧制御デバイス(VTCMOS)においては大きな基板バイアス定数が高性能化のために有利であることを明らかにしている. 本年度は, VTCMOSのスケーラビリティについて考察した. 本デバイスは, 現在の電源電圧(約1.5V)では超低消費電力デバイスとして有効であるが, 電源電圧が低減するとリーク電流を抑制することが困難となることを示した. また, 低電源電圧下でVTCMOSは高速デバイスとして利用できることを明らかにした.

125. 微細MOSFETにおける短チャネル効果の研究

助教授 平本 俊郎, 客員教授 生駒 俊明

大学院学生 犬飼 貴士・後明 寛之

 MOSFETをスケーリングする際に最も重要な課題は短チャネル効果の抑制である. 本研究では, チャネル中の不純物濃度に分布を持たせて短チャネル効果を抑制する方法について最適化の検討をシミュレーションにより行っている. 一般に短チャネル効果抑制と電流駆動力はトレードオフの関係にあるが, 不純物濃度を縦方向あるいは横方向に分布を持たせると, 電流駆動力を損なわずに短チャネル効果を抑制することが可能であることを示した. 総合的には, 両者を組み合わせた二次元分布が最も有利であることを明らかにし, 特にチャネル長が短い場合に本手法が効果的であることを示した.

126. サブ0.1ミクロンSOI MOSデバイスの評価に関する研究(継続)

助教授 平本 俊郎, 客員教授 生駒 俊明, 技術官 更屋 拓哉

大学院学生 齋藤 俊樹, 研究実習生 大澤 淳真

 薄膜SOIデバイスは従来のバルクMOSデバイスと異なり, 様々な問題点を有している. 本研究では, SOIデバイス特有の種々の問題点を実際の測定により明らかにし, その結果をサブ0.1μm SOIデバイスの設計にフィードバックすることによりSOI構造の実用性を実証することである. 本年度は, SOI基板上の高密度細線構造をチャネルとするMOSFETで, 短チャネル効果が効果的に抑制できることをシミュレーションにより示し, 実際にデバイスを試作してその効果を実証した. 本デバイス構造はゲート電極をチャネル直下に設けなくとも短チャネル効果が抑制されるのでプロセスが極めて簡便であり, 将来の微細MOSFET構造として有望である.

127. 極微細シリコンMOSFETにおける量子力学的効果の研究(継続)

助教授 平本 俊郎, 客員教授 生駒 俊明

大学院学生 間島 秀明, 研究実習生 齋藤 裕太

 シリコンMOSFETは性能向上のため微細化が続いているが, そのサイズがナノメートルオーダーになると量子効果が顕著に特性に影響を及ぼす. 本研究では, 極めて細いチャネルをもつMOSFETにおける量子力学的効果を実験とシミュレーションにより検証している. 実際にチャネル幅が10 nm以下のMOSFETを試作し, しきい値電圧が線幅の減少とともに上昇する量子力学的狭チャネル効果を観測することに成功している. また, シュレディンガー方程式を考慮したデバイスシミュレーションを行い, この効果の線幅, 膜厚, 面方位依存性などを定量的に評価している.

128. シリコン単電子トランジスタにおける物理現象の探究

助教授 平本 俊郎, 客員教授 生駒 俊明, 大学院学生 齋藤 真澄

 シリコンにおける単電子帯電効果を明らかにすることは, VLSIデバイスの性能限界を決める上で必須であるとともに, 新しい概念をもつデバイスを提案する上でも極めて重要である. 本研究では, Siにおいて極微細構造を実際に作製し, 単一電子現象の物理の探究を行っている. これまでに, VLSI互換プロセスを用い室温でクーロンブロッケード振動を示す単電子トランジスタの作成に成功している. 本年度は, シリコンドット中の量子準位が伝導特性に及ぼす効果と, 微細チャネル中にシリコンドットが自然形成されるメカニズムについて研究を行った. チャネル中のシリコンドットが極めて小さい場合には共鳴トンネル現象により室温においても負性微分コンダクタンスが観測されることをシミュレーションにより明らかにした. これらの現象を積極的に利用したデバイスについても検討を進めている.

129. シリコン微結晶を用いた単一電子メモリにおける電子数制御

助教授 平本 俊郎, 客員教授 生駒 俊明

大学院学生 王 海寧, 研究実習生 永田 英次

 現在, 不揮発性の半導体メモリとしては, フラッシュメモリが主流であるが, 書込み回数が限定され, しかも書込みが遅いという欠点を有している. 本研究では, フローティングゲートにシリコン微結晶を用いる単電子メモリについて検討している. CVDの初期過程で形成したドット径約8nmの微結晶を有するMOSFET構造を作製し, 室温でしきい値電圧がシフトしメモリとして動作することを確認している. 本年度は, 本メモリ構造において, ドット中の電子数がクーロンブロッケードにより正確に制御可能なことに着目し, 電圧ゆらぎやサイズ揺らぎに依らず電子数が制御されるためのデバイスパラメータに関してシミュレーションを行った. その結果, 室温ではでこの効果を観測するには, ドットサイズのばらつきを10%程度以下にしなければならないことを明らかにした. この結果は, 本デバイスの設計および試作の指針となるものである.

130. 表面近傍量子ナノ構造の走査トンネル分光

助教授 高橋 琢二, 技術官 島田 祐二, 大学院学生 屋鋪 大輔

 表面近傍に二重障壁や量子ドット構造などの量子ナノ構造を埋め込んだ半導体試料において, 走査トンネル顕微鏡/分光(STM/STS)計測を行い, 二重障壁による共鳴電流や埋め込み量子ドットを介して流れる電流などをナノメートルスケールの分解能で測定して, それらナノ構造に起因する電子状態変調効果を調べている. さらに, 5K程度の極低温, 10T程度の強磁場中でのSTS計測を通じて, ナノ構造中の電子状態を明らかにすることを目指している.

131. 表面近傍量子ドット構造における走査プローブ分光

助教授 高橋 琢二, 大学院学生 山本 洋

 表面近傍量子ドット構造の諸物性の解明を目指して, 光照射走査トンネル顕微鏡(STM)や走査容量顕微鏡(SCM)による電子分光計測を行っている. これまでに, InAsの電子蓄積効果による表面空乏層の低減効果や, InAs/GaAs界面のショットキー障壁高さの低減と量子ドットのサイズの関係などを明らかにした. また, 量子ドットへの単電子帯電効果の観測も試みている.

132. 導電性探針を有する原子間力顕微鏡による静電引力測定

助教授 高橋 琢二, 大学院学生 川向 貴志・小野 志亜之

 導電性探針を有する原子間力顕微鏡(AFM)において, 探針−試料間に電圧を印加した際に働く静電引力を測定する. 特に交流電圧を印加すると両者間の容量性結合の大きさについて調べることができる. この手法によって, GaAs表面近傍の空乏化が最表面に置かれたInAs量子ドットによって変調されることを見いだした. また, 静電引力の印加電圧極性依存性がなくなるように直流バイアスを重畳することによって試料表面ポテンシャルを計測する, いわゆるケルビンプローブフォース顕微鏡(KFM)モードを利用して, InAs薄膜・細線の表面ポテンシャルの計測も行っている.

133. レーザ光照射走査トンネル顕微鏡による半導体表面電子状態の評価

助教授 高橋 琢二, 大学院学生 山本 洋・高田 幹

 半導体表面にレーザ光を照射するとフォトキャリアが生成され, これによって表面付近の電子状態は変調される. これとSTMによるナノ領域電流計測を組み合わせることによって, 電子状態の局所的な変調現象を測定することが可能となる. これまでに, 最表面InAs量子ドットによるGaAs表面空乏化現象の抑制効果などを明らかにした. また, 組成の違いから来るバンドギャップ差を利用したGaAs微傾斜基板上InAs量子細線の可視化なども試みている.

134. 海洋波の方向スペクトルならびにその中での海洋構造物の挙動に関する研究

教授 前田 久明, 研究員 増田 光一, 助教授 林 昌奎

助手 居駒 知樹, 大学院学生 藤田 尚毅

 海洋波の方向スペクトルならびにその中での海洋構造物の挙動の計測法, 解析法, 試験水槽での実験法の確立を目的とする. 今年度は, 実験開始時に所定の海洋波スペクトルを有する不規則波となる造波信号の作成法を開発し, 2方向不規則波中での長時間実験に可能性を開いた. また2方向不規則波中での超大型浮体の理論計算を検証するための実験法を開発した.

135. 海洋構造物の安全性に関する研究(継続)

教授 前田 久明, 研究員 増田 光一

助手 居駒 知樹, 技術官 鈴木 博文

 海洋構造物の安全性を復原性と環境外力の観点から検討を加え, 新しい安全性の考え方を確立することを目的とする. 今年度は浅海域でカテナリー係留された大型浮体の係留張力につき実験ならびに時間領域理論計算を行い, スナップ荷重がかからない係留索の展張方法として, 中間シンカーを用いることが有効であることを明らかにした. また端部に波浪発電装置を取り付けることによる運動制御に検討を加えた.

136. 浮体・ライザー管付・係留索の相互干渉を考慮した全体システムの挙動解析法の開発

教授 前田 久明, 研究員 増田 光一, 助教授 林 昌奎

大学院学生 加納 裕三, 大学生 山田 秀一郎

 大水深域で使用されるフレキシブルライザー管の付いた係留浮体の浮体・ライザー管・係留索の相互干渉を考慮した全体システムの風, 波, 潮流中での挙動を時間領域で解析する計算プログラムを開発することを目的とする. 今年度は, ライザー管の2次元断面に作用する剥離流れに基づく流体力学の時間領域計算プログラムを用いて, ライザー管を強制振動させた場合の挙動を解析し, 実験結果と比較することにより, 本プログラムの有効性と検討課題を明らかにした.

137. メガフロートの安全性に関する研究

教授 前田 久明, 研究員 増田 光一, 助教授 林 昌奎

助手 居駒 知樹, 大学院学生 藤田 尚毅, 大学生 西尾 元宏

 24時間開港の国際空港やごみ処理施設等は海上に建設せざるを得ないのが現状である. これら海洋空間利用施設を超大型浮体式構造物(メガフロート)で実現させることを目的に本研究を開始した. メガフロートは長さ数kmに及ぶこれまでにない超大型浮体であり, 平面的サイズに比べ高さが相対的に小さいため超柔軟構造物となる. そこに社会基盤としてのコンセンサスを得るためには, その挙動推定はもちろん, 安全性についても十分検討する必要がある. 本年度は, 防波堤無しで沖合いに設置できるように, 超大型浮体の動揺を軽減し, 漂流力もあわせて軽減する装置の開発を行った.

138. 衛星計測による海洋環境情報の解明に関する情報

助教授 林 昌奎, 教授 前田 久明, 教授 木下 健

 衛星によるリモートセンシング技術の発達と共に, 地球規模の計測が可能になり, 衛星計測データを用いた様々な方面からの地球環境に関する研究が行われている. 衛星計測の利点は, 言うまでもなく, 広領域の情報を持続かつ安定的に取得できることであろう. 本研究では, 衛星計測による持続かつ安定的な波浪, 海氷などの海洋環境情報の取得ための解析法開発を目指して研究を進めている.

139. 衛星海氷データを用いた海氷移動・分布の数値予測システムの構築に関する研究

助教授 林 昌奎, 教授 前田 久明

 北極海のような氷海域を開発・利用するためには, 海氷の分布・移動に関する正確な情報が必要になる. 海氷の移動距離は1日で, 50 kmを越える場合もあり, 氷海域を航行する船舶ならびに海洋構造物には脅威的な存在である. 本研究では, 氷海域の氷の分布及び移動を, 衛星によるリモートセンシングデータから得られた海氷の状況に関する情報と気象情報を用いて, 数値的に予測し, ネットワークなどを通して得られた情報を提供する総合システムの開発を行っている. 本年度は, 開発した海氷運動シミュレーションモデルを用い, オホーツク海及び北極海など実海域での氷況変動予測を行った.


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