生研リーフレット No.291
1997年12月1日  東京大学生産技術研究所発行

鋼構造物の高速載荷実験システム
Dynamic Loading Test System for Steel Structures

大井 研究室

はじめに
 阪神淡路大震災やノースリッジ地震(米国)では鉄骨造建物の柱梁溶接継目に様々な形式の破断現象が見られた。 破断現象に影響を与える要因としては@部材の断面形状による変形の拘束効果(形状効果)、A部材を構成する大きい板厚の効果(寸法効果)、B高速の載荷による高歪速度の効果(載荷速度効果)の3つが考えられる。従来、準静的載荷時における復元力特性を地震時にそのまま採用できると仮定として、準静的載荷実験を用いて要素の変形能力や復元力特性を検討してきた。しかし破断現象を対象とする場合、上述の3つの要因を考慮する必要がある。現在まで鉄骨構造の研究報告は載荷速度を考慮した実験は行われているがその多くは材料レベルの実験であり、実際の構造に近い部材レベルの実験例は余り行われていない。千葉実験所・動的破壊実験設備を高速載荷実験を行えるシステムに増強したので増強された実験機器の概要と本載荷試験機による柱梁溶接部試験体の高速載荷および温度による破壊じん性の変化に注目した実験の報告をする。

システム概要

 試験機 ジャッキ部  島津・高性能アクチュエータ(EHF−JD300KN形)
            荷重:動的時20ton,静的時30ton, ストローク:±20cm
     制 御 部  島津・4880形制御装置(使用言語 Basic,C言語 等)
     制 御 法  ストローク制御,荷重制御
 油圧源 油圧ポンプ(2基) : 高圧アキュムレータ(210kg/cm2 :150g×15台)

供給油圧は油圧ポンプからと高圧アキュムレータに貯蔵された油圧の2系統から供給することができ、 高速載荷時(最大速度100cm/sec時,連続20秒間)と低速載荷時(連続運転)の選択が可能。

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確認実験
 柱梁接合部における梁端部の接合を模擬するために一端を溶接接合部、他端を自由とした片持ち梁を製作し接合部は柱のフランジ表面としてのエンドプレートに溶接して他端に載荷する実験を行った。
試験体は図1に示す梁部分は60キロ級鋼材(SA440)板厚25oと19oの鋼板を用いた溶接H形鋼である。
 柱フランジとエンドプレートの溶接方法で内側から溶接した(FWタイプ)と外側から溶接した(DWタイプ)の試験体を作製した。各試験体に載荷速度(準静的,動的)と温度(室温10℃,−80℃)をパラメータとして部材角(0.005,0.017,0.037,0.055,0.07)の各3サイクルSin波繰返し載荷実験を溶接部が破断するまで行った。

実験結果
 歪ゲージから測定された最大歪速度は0.3sec−1となり現実の地震応答において最大級の歪速度であると考えられる。 繰返し載荷実験の材端部の曲げモーメント−回転角の関係を図2,3に示す。
 従来の研究では軟鋼などの場合、歪速度の影響で、降伏応力が上昇することが確認されているが本実験では降伏耐力の上昇の差異はほとんど見られなかった。
 また材料レベルでは破壊じん性の遷移温度が歪速度によって上昇することが報告されており、部材レベルでも動的荷重に対して脆性破壊が生じやすくなることが予想される。本実験でも低温の破壊じん性に乏しい状況では動的載荷実験は準静的載荷実験に比べて破壊時期が早かった。

まとめ
 60キロ級鋼の柱梁接合部試験体の高速載荷実験を行うことで実験システムが十分な動作性能があることが確認できた。これからは様々な試験体に対して高速載荷実験を行うことによって載荷速度による性状特性を把握していくことが可能となった。
(執筆担当 近藤日出夫)

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