生研リーフレット No.289
1997年6月2日  東京大学生産技術研究所発行

太陽電池用シリコン素材の製造プロセス
Processing of silicon for solar cells

前田(正) 研究室

はじめに
 太陽電池は、太陽放射エネルギーを直接電力に変えるため、クリーンなエネルギー変換方法である。地上で使用されている太陽電池としては、シリコン系が主なものであり、電力用としては単結晶、多結晶シリコンが使用されている。しかし、コストが高いため一般家庭の電力用としては普及していないのが現状である。その原因としては、太陽電池用シリコン専用の製造プロセスがなく、コストの高い半導体用シリコンの製造プロセスに依存しているからである。半導体用材料として使用される高純度シリコンは、純度が10から11ナインであり、現在そのほとんどは、Siemens社が開発したSiemens C法によって製造されている。このプロセスは、純度98〜99%程度の金属シリコンを出発材料として、塩化処理の後、蒸留し、水素還元することにより高純度シリコンを得ている。今後、半導体産業がさらに伸びた場合には、太陽電池用に使用できるシリコンはさらに減少し、価格が上昇することも予想できる。
 現在の太陽電池に関する研究は、主に結晶化、スライス、セル化、モジュールの開発、薄膜技術等に向けられており、肝心な出発原料に関する研究は多くない。太陽電池の普及を考えた場合、低コストであることが不可欠であり、大量生産に向いた太陽電池用シリコン専用の製造プロセスが必要になる。本研究では、最も経済的で、規模の拡大も比較的容易であると考えられる冶金的な製造精製プロセスを用いて、金属シリコン(MG-Si)を直接精製して低コストの太陽電池用のシリコン(SOG-Si)を製造することを目的としている。
実験方法
本実験では、ルツボとして水冷の銅るつぼ、熱源としてプラズマアークおよび電子ビームを用いて、シリコン中の不純物の気化精製、凝固精製を行い不純物を除去する方法を提案した。 プラズマアーク溶解は、高い運動エネルギーにより試料を強攪拌できるため実質的な反応界面の増加が期待できる。 電子ビーム溶解法は、10-3Pa程度の真空で溶解するため不純物の気相への除去を強化することも期待できる。 また、加熱点を自由に選ぶことができるために酸化物などを分解除去することが容易である。 シリコン中の不純物として、比較的蒸気圧の高いCa、Al、Pの除去、Cの除去、蒸気圧の低いFe、Ti、Bの除去について調査した。
実験結果
実験に使用した、金属シリコンの不純物濃度を表1に示した。

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 プラズマアーク溶解実験の結果、シリコン中の不純物のうち60kPa程度の減圧下でCa, Bの減少傾向が認められたが、他の不純物の顕著な除去は認められなかった。水蒸気添加プラズマ溶解の結果、Bを除去することが可能となり、30分の溶解で12ppmから1ppm以下まで低下することがわかった。
 電子ビーム溶解による気化精製実験の結果、10-2Paの減圧下ではFe, Ti, Bは、蒸発による除去はほとんどなされなかったが、Ca, Al, P, C等の元素は十分に蒸発除去され、それぞれ初期濃度の1/100,1/1000,1/10,1/10程度まで低下できることがわかった。Fe, Ti等については、図1に示したように凝固精製の結果、トップ付近 (l/h=1に近い部分)では、初期濃度の10倍まで濃縮していた。 逆にボトム付近では1000分の1程度まで精製されることがわかった。溶融温度が高いほど精製効果は高く、製造速度が遅い方がより精製効果が高いことがわかった。

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 小型実験の結果をもとに、本プロセスの実用化を目指した大型実験設備による実験を行った。図2は、千葉実験所内に設置した大型電子ビーム溶解装置である。この装置では、直径80cm以内のインゴットを連続鋳造することができる。 本装置は、2本の電子銃(100kWx2)を備えており、ハース溶解を行うことができるため、小型実験よりも精製効果をあげることが期待できる。 また、電子ビームの照射時間、場所等を制御することもできる。図3は、大型シリコンインゴットである。本プロセスの大型化も比較的容易であることがわかった。 (執筆担当、池田 貴、前田正史)

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