生研リーフレット No.288
1997年6月2日  東京大学生産技術研究所発行

Nb-Si系金属間化合物の耐高温酸化性の評価
Evaluation of High Temperature Oxidation Resistance of Intermetelic Compouds Nb-Si

前田(正) 研究室

はじめに
 金属間化合物は従来の金属材料よりはるかに高い耐熱性、耐衝撃性、比強度、比剛性、耐環境性を持つ構造材料の候補の一つである。Nb-Si系金属間化合物は耐熱材料として有望である。特に高温材料として金属間化合物を評価するとき高温における耐酸化性は重要な要素であり、高温における酸化機構を速度論的、熱力学的に解明することが必要である。これらの機構が解明できれば第三元素の添加や表面処理を行うことにより耐酸化性の改善が可能になる。本研究では、NbSi2系金属間化合物について、酸化速度を測定しその機構を明らかにすることを目的とした。
実験方法
Nb-37.7wt%Siになるようにプラズマアーク溶解炉、電子ビーム溶解炉を用いて作製した。それを、約10×10×2(mm)に切断し全面をエメリー紙で#1000まで研磨後アセトン洗浄した。なお化学組成はICP(高周波誘導プラズマ発光分光分析)によって分析した。
 酸化実験は図1に示した熱天秤を用いて、実験温度を1200〜1400℃、サンプリング時間間隔10秒で行った。実験温度に加熱するまでは反応管にArガスを流し酸化を防止し、実験温度到達後にArとO2混合ガスを流し酸化を開始した。また反応ガスの密度変化は試料の見かけの重量に影響を及ぼすので、ガスの切り替えに伴う浮力変化を押さえるためにHeガスを密度が一定になるように混合した。 また、酸化後の試料のX線回折、光学顕微鏡、SEMにより試料表面に形成された酸化物の同定を行った。

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実験結果
1)温度依存性
図2にNb-37.7wt%Siの熱天秤を用いた高温酸化実験(酸素分圧0.4atm)による酸化時間と重量変化の関係を示す。1250℃以下ではほとんど重量変化せず、1300℃以上では放物線的に増加して、その後質量増加が止まっている。また温度が高くなるほど、酸化速度が大きくなった。
2)酸素分圧依存性
図3に温度一定(1673K)にして酸素分圧を変化させた場合の時間と重量変化の関係を示す。酸素分圧0.3ではほとんど酸化せず、それ以上の酸素分圧では放物線則にしたがって、重量変化が認められた。酸素分圧が高いほど酸化による重量変化が大きいこともみとめられた。
3)酸化皮膜について
酸化後の試料表面のX線回折の結果から、いずれの組成においても酸化生成物はSiO2のみであり、複合酸化物、ニオブ酸化物の生成は認められなかった。また酸化が進むにつれて樹枝状のSiO2が成長するのが認められた。
光学顕微鏡、SEMによる酸化皮膜、酸化断面の観察から酸化開始後、短時間でSiO2の酸化膜が生成し、その後樹枝状の酸化皮膜が成長することが確認できた。また温度、酸素分圧が高いほど酸化皮膜が厚いことも確認できた。
4)酸化速度について
図2、図3において酸化の初期では放物線則にしたがって重量変化が見られるので、次の式が成立すると仮定する。
(ΔW/A)2=k”t
ΔW:重量変化量(g)
A:試料表面積(m2)
k”:酸化速度定数(g2m-4sec-1)
上の式で求められたk”と温度との関係を図4、 k”と酸素分圧の関係を図5に示す。 (執筆担当 加瀬 睦史、前田 正史)

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