生研リーフレット No.287
1997年6月2日  東京大学生産技術研究所発行

リサイクラブルTi-Al合金の材料開発
Materials Design of Recyclabe Ti-Al Alloys

前田(正) 研究室

[はじめに] チタンは室温で耐食性に優れているが、高温または溶融状態では非常に活性であり、酸素との親和力が強く脱酸が困難である。そのため再溶解する際、系内に持ち込む酸素濃度の高いチタンスクラップをリサイクルすることは難しい。チタンスクラップからの不純物、特に酸素の除去を行うことはこれまで不可能であった。この除去方法を開発することは、リサイクルを考慮した材料設計に必須の要素技術である。そこで本研究室ではチタンアルミ合金に着目し、Ti-30mass%Al、Ti-25mass%Al、Ti-10mass%Alについてアルミニウムによるチタン中からの脱酸に関する基礎的な試験を行い脱酸方法を開発してきた。
本研究ではその技術を生かし、より実用合金であるTi-6Al-4Vについて調査する。プラズマアーク溶解装置、電子ビーム溶解装置を利用して、その組成、酸素濃度を制御し、機械的性質との関係を明らかにすることを目的としている。

[実験方法] プラズマアーク溶解装置は、最大出力30kWでトランスファータイプを使用した。トーチ自体が昇降、旋回することで広範囲の均一溶解が可能である。プラズマアーク溶解装置を用いて酸素濃度と溶解時間の関係を調査した。供試材を約240s溶解したものを溶解時間0sとしてその後の溶解を行った。
 電子ビーム溶解装置は最大出力8kWで、水冷銅るつぼ内の試料を溶解する。チャンバー内部は圧力10-2Paで溶解可能である。Ti-6Al-4VにAlを過剰添加し真空中で再溶解し、溶解時間に伴う酸素とAlの濃度変化を調査した。
 Ti,Al,Vの組成変化の分析には高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP)、O,Nの分析には酸素窒素同時分析装置を用いた。
 Ti-6Al-4Vの酸素が機械的性質に及ぼす影響を調査するため、プラズマアーク溶解法および電子ビーム溶解法を用いて酸素濃度の異なるTi-6Al-4Vを作製しビッカース硬さ試験、圧縮試験を行った。

[実験結果及び考察]
プラズマアーク溶解の結果

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アルゴンガス雰囲気中のAlと酸素の濃度変化を図1に示す。Alの組成はほぼ一定に保たれているが、チャンバー内のわずかなリークにより溶解時間1620sで酸素濃度1000ppmから3000ppmへ汚染されている。
電子ビーム溶解の結果
図2に真空中で連続溶解したときの濃度変化を示す。Alの過剰添加によりAl亜酸化物の気相種として酸素が除去されていると考えられ、溶解時間の経過に伴い直線的なAlの蒸発による減少が見られ、それとともに酸素濃度が1300ppmから650ppmに減少した。酸素の除去速度はAlの添加量に依存していると思われる。またプラズマアーク溶解、電子ビーム溶解ともに Vの濃度変化は認められなかった。この結果からTi-6Al-4VにAlを過剰添加して再溶解すると、酸素濃度はAlの添加量で制御可能であることが分かった。

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ビッカース硬さ試験の結果
 横軸に酸素濃度、縦軸にビッカース硬さをプロット したものを図3に示す。酸素濃度の異なるTi-6Al-Vのビッカース硬さは酸素濃度の増加に伴い硬くなる傾向を示した。これは酸素が混入することによってすべりが妨害され硬さが上昇したものであると考えられる。
圧縮試験の結果
酸素濃度の異なるTi-6Al-4Vの常温圧縮試験の結果を図4に示す。酸素濃度の低下とともに圧縮0.2%耐力は減少し、圧縮歪は増大している。210ppmOでは耐力840MPa、歪16%となっていた。酸素濃度上昇による圧縮0.2%耐力の増加は酸素などの不純物が多量に混入することにより、すべりが発生し難しくなり伸びを妨げたものであると考えられる。破断面のSEM観察においても酸素量の少ない試料にはディンプルが見られ延性的破面となっており、酸素量の多い試料には粒界からのへき界破面となっていた。
(執筆担当:小笠原 義仁、三ツ井 崇、前田 正史)

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