生研リーフレット No.286
1997年6月2日  東京大学生産技術研究所発行

Nbシリサイドのプロセッシング
Processing of Nb-Silicide

前田(正) 研究室

はじめに
 航空機の超高速化による機体表面温度の上昇、また、スペースプレーンの機体材料として、1500℃近傍の超高温領域での使用に耐え得る材料の開発が必要とされている。中でも、セラミックスの耐熱性と、金属の靭性を併せ持つ金属間化合物が候補の一つである。その様な材料として、高融点遷移金属とSiの化合物、すなわちシリサイドが有力な候補に挙げられが、耐熱材料としてのシリサイドにおいて、そのバルク材の製造プロセス、高純化に関する報告は殆どされておらず、いまだ製造法が確立していない。
 本研究では、特に、Nbシリサイドについて溶融法による製造プロセスを開発し、その性質を評価する事を目的とする。

実験方法
 Nbの融点は2470℃と極めて高温であり、また比重がSiと大きく異なるため、両者を均一に溶解することは困難である。そこで、まず予備溶解を行い、Nbシリサイドを形成させることで液相線の温度を下げる。予備溶解には、攪拌力に優れ、溶解雰囲気・圧力を比較的設定できるプラズマアーク溶解装置を用いた。装置のプラズマトーチは、昇降・旋回が可能で、試料に均等にアークを噴射させることができる。また、るつぼには水冷銅るつぼを用いており、るつぼからの汚染は極めて少ない。被溶解材には、高純度Nb(99.9% :40g)と、高純度Si(99.999%:30g)を用い、圧力:Ar雰囲気60kPa、溶解時間:90sec、出力:12kW(70V-170A) の条件で溶解を行った。 次に、偏析を避けるため、その試料を直径3mm以下に粉砕し混合、電子ビーム溶解装置を用いて溶解した。プラズマアーク溶解では作動ガス流により粉末試料が飛散してしまうが、電子ビーム溶解ではその湯面を静かに溶かすことができる。圧力:4×10-2Pa、溶解時間:600sec、出力:5kW(13.5kV-0.4A)の条件で溶解し、ボタン状試料を作製した。
 作製した試料のNb質量濃度を、誘導結合型プラズマ発光分光分析装置(ICP)により測定し、組成の確認を行った。また、同じ試料についてX線回折により相を同定した。
 作製した試料について、マイクロビッカース硬さ試験(荷重:0.98N、負荷時間:20sec)を行い、組成の違いによる硬さの変化を調査した。

実験結果
 プラズマアーク溶解及び電子ビーム溶解により作製した Nb-40mass%Siボタン試料を写真1に、X線回折像を図1 に示す。

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  溶解による試料の重量変化は、溶解前後の重量差及びICPによるNb濃度測定により、Siの蒸発によるものと考えられる。プラズマ溶解では、溶解時間に殆ど影響なく、損失は0.1g前後である (図2)。また、電子ビーム溶解における、溶解時間(sec)と重量損失(g)の関係を図3に示す。
 これらの結果をもとに、溶解時間及び初期Nb、Si重量をコントロールして、Nb-31mass%Si、Nb-40mass%Si、Nb-41mass%Si、Nb-82mass%Siを作製した。試料の組織写真を写真2に示す。溶解装置のるつぼには水冷銅るつぼを用いているため、これらの試料は急冷されたas cast材である。 組織写真では、それぞれの組成比から40、41、82mass%Siにおいては、白く見える部分がNbダイシリサイド相、その他の部分がSi相であると思われる。また、30mass%Siでは、細かい部分がNb5Si3相、白い部分がNbSi2相であると思われる。
 それぞれの相についてマイクロビッカース試験を行った結果、NbSi2相では770Hv、Si相では1060Hv、Nb5Si3相では1120Hvとなった。 (執筆担当:小倉 健、小笠原 義仁、前田 正史)

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