生研リーフレット No.285
1997年6月2日  東京大学生産技術研究所発行

Ti-Al金属間化合物のプロセッシング
Processing of Ti-Al Intermetanics

前田(正) 研究室

はじめに
 Ti-Al金属間化合物は、Ti-Al融体が活性であり酸素や窒素等に汚染されやすい。化学成分、特にこれまで考慮されてない酸素が化合物の組織に影響を及ぼすと予測される。またその結果、機械的性質に及ぼす影響も懸念される。
 本研究では電子ビームを熱源とする真空溶解により、酸素及びAl分率を精密に制御しTi-Al金属間化合物を製造した。試料中の酸素をAl亜酸化物として除去し、含有酸素量を制御した。また常温圧縮試験をおこない、このプロセスにより作製した試料の材料評価を行なった。

実験装置
 本研究では電子ビームを熱源とする真空溶解装置を用いた(Fig.1)。チャンバー内はターボ分子ポンプにより排気され、溶解中においても10-3〜10-2Paに保たれている。るつぼには水冷銅製のものを使用し試料の汚染を防いでいる。また垂直フィーダー、水平フィーダー、インゴット引抜き装置、四重極質量分析装置が取り付けてある。

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実験結果
1.溶融率、溶融温度の測定
 溶融Tiに垂直フィーダーをもちいてZr1gを添加した。溶解終了後、EPMAにより元素分析を行なった。Zrが分布している液相部分とTiだけの固相部分に区別し溶融率を求めた。出力と溶融率に比例関係が見られ、出力6.5kWでは約85%の溶融率を得た。電子ビーム出力の増加に伴い表面温度が上昇した。表面温度は計算値(表面全体の平均温度)と測定値はほぼ一致した。電子ビームによる真空溶解中では自由蒸発(理想蒸発)に近い状態である考える。

2.Ti-Al金属間化合物の脱酸
 脱酸反応による含有酸素量、Al分率の影響を調査した(Fig.2)。溶解時間の経過とともにAlはほぼ単調に減少した。また、特に酸素量は減少がはやく、初期試料に含まれる50ppmから2分の溶解で減少し、その後の増加は見られなかった。計算結果から溶融Ti-Al中の酸素はAlOガスまたはAl2Oガスとして除去している可能性が高いことがわかった。質量分析装置によるガス種同定ではAlOガスが確認できた。

3.室温圧縮試験
 インストロン型試験機により常温で圧縮試験を行なった。試験片は4×4×12mmに加工した。圧縮による破壊は、すべての組成で脆性的であった。割れは圧縮方向に入る傾向があった。
 圧縮試験により得られた応力-ひずみ曲線にははっきりとした降伏点が見られないので、0.2%耐力を用いた(Fig.3)。弾性変形域の直線の傾きからヤング率を測定した。その値はおよそ180GPaであり、これは一般的な報告値(174GPa)とほぼ一致した。 含有酸素量の影響を調査した(Fig.4)。含有酸素30ppm試料の圧縮の0.2%耐力は230MPaであった。酸素含有量が増加すると0.2%耐力が増加し、3600ppm試料では440MPaとなった。圧縮の破断ひずみについては減少傾向にはなかったが、含有酸素量の影響ははっきりしなかった。
 Al分率の影響については、圧縮の0.2%耐力や破断ひずみはAl分率に依存せずほぼ一定値であった。しかしAl分率の増加により圧縮の破断ひずみは低下した。 (執筆担当:宇佐見 隆行、前田 正史)

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