生研リーフレット No.284
1997年6月2日  東京大学生産技術研究所発行

快適通勤車両の座席位置
Seat Arrangements of Railway Commuter Vehicles

須田 研究室

 今後ますます高齢化社会が進む我が国では、鉄道車両の快適性・利便性の向上が是非とも重要である。 ところが、従来、鉄道車両とりわけ通勤輸送車両の快適性を工学的に評価することはほとんど試みられ ていなかった。そのため本研究室では、車内の座席配置の最適化という点に着目し、路線ごとの利用実 態を考慮した、快適性・乗降性の両面から車内レイアウトを工学的に評価することを、東急車輛製造(株) と共同で検討してきた。その結果、乗客密度・乗車時間を入力とし、乗降性評価値及び快適性評価値を 出力とする座席配置の客観的評価法(座席配置評価シミュレータ)を構築し、様々な座席配置に対して、 快適性と乗降容易性の定量的な評価が可能となった。
 好ましい座席配置の要件は次の3つである。快適性の観点から座席数が多いこと、乗降容易性の観点 からは、最も降車し難い座席からの降車時間(最遠座席一人降車時間)を短縮すること。最後に多様な 乗客の座席に対する好みを満足すべく、多種のシートを含んでいることである。これらの知見を基に、 快適通勤を目指した新しい座席配置を提案し、座席配置評価シミュレータ及び実験により、快適性・乗 降性の両面から高い評価結果を得た。図1に提案する座席配置を含めて、今回評価する座席配置とその 名称を示す。図1中の括弧内の数字は、1車両あたりの座席数を表している。
 提案する座席配置は、ロングシートとクロスシートを左右に配置した、ハーフボックスタイプあるい はハーフクロスタイプを拡張し、背中合わせに着席する3人掛けのクロスシートを利用するものである。 平均乗車時間に応じて、3扉、4扉、6扉について、それぞれ図1に示すものが考えられる。
 図2に、乗客密度を立ち席を含むほぼ定員乗車(20m車では1車両あたり120名)とし、平均乗車時 間60分の場合のシミュレーションによる評価結果を示す。横軸は快適値であり、縦軸は最遠座席一人降 車時分である。よって、最適な座席配置は図の右下に位置する。提案する座席配置と比較するために、 これまでの評価結果で比較的評価の高かったハー フボックスタイプ、セミボックスタイプ、セミク ロスタイプ、さらに現在主流のオールロングシー トの座席配置、あらゆる方式を組み合わせた方式 (デモ配置)の結果も示してある。図の直線は、 異なる扉数に対して、同じ配置系列の座席配置を 結んだものである。実線は提案するハーフクロ ス・ボックス配置、点線は左右対称のボックス・ クロス配置、一点鎖線はオールロング配置を示す。

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 提案する3人掛けクロスシートを含む非対称系 の座席配置(HB3t,HB4t,HC6t)は、これまでの研究 で最も良好な値を示したSB4p,AC6よりも右下に 位置している。よって、これらの提案する座席配 置は、快適性、乗降性ともに非常に良好であるこ とが立証された。
 本所千葉実験所にある座席配置可変の実物大モ ックアップを用いて、4扉、6扉車両を想定した新 提案の座席配置及びデモ配置RB4pに対して評価 実験を行った(写真)。乗車時間、混雑率等の実 験条件は解析条件と同様である。乗降性評価値で ある最遠座席一人降車時間は、いずれの座席配置 においても解析結果と実験結果は一致した。また 図3に、実験結果及びシミュレータにより求めた、 提案する座席配置に含まれる一方に3人掛けシー トを用いた5人掛けボックスシート部分の着席順 序を示す。図中の番号が座席の埋まる順番であり、 矢印は進行方向を表している。Aについては完全 に一致し、Bについてもほぼ一致する。シミュレ ーションの着席順序が実験結果に一致することは、 快適性評価手法の妥当性を示すものである。
 本提案の5人掛けシートは、写真1に示すよう にボックスシートの入口に当たる3人掛けシート の中央座席は最後に埋まり、4人掛けボックスシ ートでよく見られる、窓側のシートへの着席行動 が困難になるという、ブロッキング現象が生じて いない。従って、座席を増加するとともに、着席 時の行動がスムーズに行われ、座席の有効利用が 図られる効果も持つことになる。 (執筆担当 西村 隆一)

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