生研リーフレット No.283
1997年6月2日  東京大学生産技術研究所発行

振動エネルギーを利用するアクティブサスペンションの開発
Development of Active Suspension using Regenerated Vibration Energy

須田 研究室

 本研究室では、ダンパで吸収したエネルギーのみを利用してアクティブ振動制御を行なうシステム(ア クティブ・エネルギー回生ハイブリット制御)を開発した。アクティブ制御は良好な制振性能を持つが、 制御に外部エネルギーを必要とし、その消費エネルギーがアクティブ制御を振動制御に応用する際に問 題となることがある。例えば,自動車や鉄道にアクティブ制御を応用することを考えると,アクティブ 制御に使用するエネルギーのために燃費やエネルギー効率を著しく悪化させることが考えられる.今回 開発したシステムでは、ダンパが吸収した振動エネルギーのみを利用してアクティブ制御を行なうため、 外部エネルギーを供給することなくアクティブ制御を行なうことが可能である。図1に本システムの概 念を示す。振動エネルギーを有効なエネルギーとして取り出すダンパ(エネルギー回生ダンパ)とアク ティブ制御を複合させれば、エネルギーを消費することなく制振性能を向上させることができる。 ハイブリット制御のサスペンションモデルを図2に示す.ばね下にエネルギー回生ダンパを置き,ば ね上にアクチュエータを置く.エネルギー回生ダンパとアクチュエータは,リニアDCモーターを利用 することによって作製した.ばね下のエネルギー回生ダンパが振動エネルギーを回生し,そのエネルギ ーをコンデンサに貯え,ばね上のアクチュエータがそれを利用してアクティブ制御を行なう.
 本研究のハイブリット制御では、アクティブ制御に使用するエネルギーを抑えることが重要になる。
 通常のアクティブ制御則(最適化制御など)を利用した場合、エネルギー消費量が多すぎてダンパで吸 収したエネルギーのみを利用してアクティブ制御を行なうことは難しい。そこで本研究室では、新たに 消費エネルギーの少ないアクティブ制御則を考案し、アクティブ・エネルギー回生ハイブリット制御を 可能にした.

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実験装置の写真を写真1に、概略図を図3に示す.実験装置は振動台の上に配置されており,加振機 によって上下方向の振動が与えられる.ばねの中にリニアDCモーターがあり、これがエネルギー回生 ダンパやアクチュエータとなる。また、制御はリレースイッチによって回路を切り替えることにより行 われる.ばね上質量と振動台の振動伝達率を図4に示す.エネルギー回生ダンパやアクチュエータの代 わりに通常のダンパを配置したパッシブ制御と比較した.参考までにアクチュエータの位置にダンパを 配置しなかったパッシブ制御(Soft)も記載した.低周波の領域ではパッシブ制御と同様の制振性能を 保ち,高周波の領域では制振性能が向上している.高周波の領域では,Softのものよりも制振性能が向 上しており,パッシブ制御よりも良好な制振性能が得られていることがわかった.高周波になると振動 のエネルギーが大きくなり,回生されるエネルギー量が多くなる.このことが,高周波において制振性 能が向上する理由である.
 通常の外乱はランダム波であり,高周波と低周波の振動が不規則に重なりあっている.このような振 動では,高周波の振動によって回生した振動エネルギーが低周波の制振に使用されることが考えられる. ランダム波を加えた実験では,低周波の領域でも制振性能が向上していることが確認でき,このハイブ リット制御は低周波の制振も可能であることがわかった.
 今後は,低周波の領域(1次の共振点付近)における制振性能の向上を目標に,ハイブリット制御の 改良を行なっていく予定である.なお,本研究は平成7・8年度科学研究費補助金(基盤研究((A) (2))を使用した.関係各位に感謝します.(執筆担当 中野公彦)

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