ソフトウェアベース No.43
1996年12月2日  東京大学生産技術研究所発行

交通運用策評価のための街路網シミュレーションシステム:AVENUE
A Network Simulation Model for Evaluation of Traffic Management : AVENUE

桑原 研究室

研究開発の目的と経緯

 本稿では,都市部における道路ネットワークを対象とした交通シミュレーションシステム -AVENUE(an Advanced & Visual Evaluator for road Networks in Urban arEas)- を紹介する.AVENUEは信号制御方式や交差点形状の改良,交通規制の見直し,駐車場整備,交通情報の提供,といった短・中期的な交通運用策の評価に汎用的に適用されることを目的としており,すでに実用システムとして運用されている.1993年にプロトタイプが発表された後,改良が加えられ,現バージョンは2.0となっている(図1).

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図1 AVENUE画面イメージ

1.AVENUEの特徴
 AVENUEではオブジェクト指向モデリングが採用され,リンクやノードだけではなく信号やレーン,バス停や横断歩道などの詳細な要素までがオブジェクトとして定義される.車両は目的地や車種などの属性が定義されたオブジェクトとして表現されるが,その移動ロジックには交通現象の再現性に優れたハイブリッドブロック密度法という手法を用いている.車両には個別に経路選択挙動を指定することができ,情報端末からの交通情報を利用して動的に経路を選択する車両の動きを再現することもできる.
 システム化に際しては,実用性を高めるために,グラフィックユーザインターフェース(GUI)を全面的に採用している(図2).また,専門家以外へのプレゼンテーションを意識し,アニメーションによってシミュレーション結果の交通状況を表示することができる.

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図2 AVENUEのGUIによる操作例

2.システムの構成
 システムはUNIXまたはWindows-NT上で稼働する汎用エキスパートシステムG2(米Gensym社製品)上に構築されている.G2は洗練されたオブジェクト指向プログラミング環境とGUI作成ツールを提供する.これにより短期間でシステム開発を行うことが可能になった.またシステム本体の他に,アニメーション画面をビデオテープに録画するプレゼンテーションシステムや,ディジタイザを用いた道路地図入力システムなどが付属する.

3.シミュレーションの作業手順
 図3にシミュレーションの作業手順を示す.シミュレーションへの入力としては,1)ネットワークデータ,2)交通制御データ,および3)時間帯別OD交通量の3つがある.1)は幾何形状やリンク容量,リンク速度などの静的なもの,2)は信号パラメータや時間帯によってかわる交通規制などの動的なものである.3)はネットワークの主要ノード間の車種別・利用者層別の交通量であり,任意の時間間隔で変化させることができる.
 シミュレーション作業は3段階で構成される.最初のネットワーク編集モードでは上記の3種類のデータを入力・編集する.次の経路編集モードは,路線バスなどの経路の指定や各ODペア間の配分対象経路の追加・変更を行う.最後のシミュレーション実行モードでは,並行して交通状況がアニメーション表示される.
 評価指標としては,時間帯ごとのリンク交通量,リンク渋滞長,リンク旅行時間,経路旅行時間といった集計されたデータと,プローブ車両による走行経路と所要時間が出力される.また,遅れ時間や停止回数,任意の位置での感知器情報なども得ることが可能である.

4.実ネットワークへの適用例
 これまでに国道14号線の東京・錦糸町周辺地域や,金沢市駅前周辺地域,および豊田市トヨタ自動車本社周辺地域において,AVENUEの実用性検証のための適用例がある.また実業務での応用例として,地下駐車場出入口位置の検討や,ショッピングセンター来場車両の誘導方式の検討などの例も報告されている.

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図3 シミュレーションの作業フロー