生研リーフレット No.282
1996年12月2日  東京大学生産技術研究所発行

移動するカメラで撮影したビデオ画像上の車両走行軌跡の自動計測
A Vehicle Tracking System on Video Images for Traffic Survey

桑原 研究室

1.まえがき
 交通流の解析を行うために、数百メートルの長さを持つ対象道路区間において、各車両の2次元的運動軌 跡をトラッキングする必要がある。その方法の一つとして、対象区間を上空から撮影したビデオ画像を利用 する方法が考えられるが、画像から車両軌跡をトラッキングすることには様々な技術的困難があり、とくに 空中連続撮影する場合には、気球やヘリコプターに搭載したカメラの位置が固定できないため、各瞬間での 画像が変化し、連続した車両走行軌跡を抽出することが非常に困難である。そこで、本研究室では、「空中 に移動するカメラで撮影した車両の重なりのないビデオ画像上の車両走行軌跡の自動計測アルゴリズム」を 開発し、実際の観測ビデオ画像を用いたアルゴリズムの検証を行った。

2.自動計測アルゴリズム
 本自動計測アルゴリズムでは、各画像と背景画像の差画像から運動車両を抽出する方法を採用している。 画像から車両をトラッキングするプロセスを図1に表す。このプロセスは大きく分けて2ステップあり,第 1ステップは各画像を指定したモデル画像へ変換する、第2ステップは車両の認識、トラッキングを行うと いうものである。以下、このプロセスについて簡単に説明する。

fig

1)基準点の入力によるモデル画面の作成
 自動計測を開始する前に、操作者によって、ビデオ画像(以下データ画像)の中から、垂直に撮影され、 道路画像方向と走査線がほぼ平行の画像をモデル画像として抽出し、この画像上及び対応の地図上に、四つ 以上の基準点を設定し、入力する。続いて、処理する連続ビデオ画像の最初の画像上に、基準点に対応する 位置を入力する。以下はコンピュータの自動計測処理部分に入る。
2)自動背景画像の作成
 数十枚のデータ画像について、各画像上の基準点を認識し、モデル画像を基準として射影変換を行い、変 換された画像について、画像上の各画素ごとに輝度の最頻値をとり、この値を利用して背景画像を生成する。
3)基準点の認識
 各データ画像をモデル画像へ変換するために、各画像上での基準点位置を認識しなければならない。本研 究は基準点の近傍の画像の特徴をパターンとして記録し、各画像上でこのパターンを探索、認識することに より自動的に基準点位置を認識する。
4)画像の標定および変換
 標定とはデータ画像と地図を照合し、両空間座標系の関係を求めることであり、データ画像の射影変換と は画像の各画素毎にモデル画像の座標空間へ変換することである。変換された画像は、モデル画像と同じ部 分を同じ角度から撮影した画像となっており、以後の車両認識過程が可能となる。
5)背景画像の更新
 時間や天候の変化などが理由で、背景の輝度は時々刻々変化するので、背景画像を更新する必要がある。 そこで、背景画像は逐時更新する。
6)車両の認識とトラッキング
 変換画像と背景画像との輝度の差を示す差画像上では背景部分はなくなり、車両とノイズが残っている。 この差画像に、閾値Tをあたえることにより二値化を行い、二値化差画像を作成し、この二値化差画像を用 いて車両の存在領域を抽出する。さらに、一度認識された車両については、次の画像上で前画像における位 置の近くで、過去の走行履歴(位置,速度,加速度)を利用しながら、その車両の位置を探索し、マッチン グ及びトラッキングを行う。

3.システムの検証
1)システムの機器構成
 全体システムの構成を図2に示す。連続的なビデオ画像を1フレームづつ処理するため、あらかじめビデ オ画面の各フレームを安定的に再現できる光ディスクに記録する。画像処理を行う際には、ワークステーシ ョンはRS232Cインタフェースを通したコントロールにより、光ディスクレコーダは希望画像フレームを選 び、画像アナログ信号をタイムベースコレクター通して画像フレーム装置に送る。画像処理プロセスを実行 する際には、ワークステーションから画像フレームメモリにアクセスする。

2)検証結果
 検証には、1991年7月28日、東名46.64キロポスト地点において、気球に積載したカメラで撮影した連 続画像を用いた(図3参照)。四車線の道路上に、26個の基準点を設定して標定し、10フレーム/秒の間 隔で5000フレームを処理した。その結果、車両が認識できたのは100%の555台、また対象区間全域に渡っ てトラッキングできた台数は97%の538台であった。さらに、マニュアル計測と比較した結果、車両位置の 計測誤差は、平均1.97[pixel] (=0.47m)であった。