生研リーフレット No.281
1996年12月2日  東京大学生産技術研究所発行

広域ネットワーク交通流シミュレーションモデル〜SOUND〜
A Dynamic Traffic Simulation Model for Urban Road Networks : SOUND

桑原 研究室

1.はじめに
 道路の新設や交通規制の変更、あるいは車両の誘導を行った場合に、交通状況がどの様に変化するのかを評価するために、交通状況の変化を精度良く予測することが求められている。そこで本研究室では、広域な道路網を対象として、時間的に変化する交通状況を精度良く再現できるシミュレーションモデルSOUND(a Simulation model On Urban road Networks with Dynamic route choice)の開発を行った。

2.モデルの概要
 モデルは、経路選択サブモデルと車両移動サブモデルの2種類のサブモデルから構成され、図1に示すようにこの2種類のサブモデルを繰り返し適用する構造になっている。経路選択サブモデルでは、車両移動サブモデルによって計算されたリンク旅行時間をもとに、各ODごとの経路選択率をある一定時間間隔で改定し、車両移動サブモデルでは、経路選択サブモデルによって求められた経路選択率をもとに各車両の経路を決定し、ネットワーク上のすべての車両についてそれぞれの経路上を移動させることによりリンク旅行時間を決定するという構造である。本モデルは厳密な意味での利用者均衡状態を再現するものではなく、シミュレーションと確率配分(Dial 配分)による経路選択を繰り返すことにより、近似的な均衡交通流の時間変化を得ようとするものである。

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図1 SOUNDモデルの構造

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図2 S−V関係

 このうち、車両移動サブモデルとは、車両を数台まとめたパケットを単位として、ネットワーク上のすべてのパケットをスキャンインターバル毎に離散的に移動させるシミュレーションモデルであり、対象とするネットワークの違いによって交通流の性格も異なるため、高速道路ネットワークと一般街路ネットワークでは違うロジックを用いて車両の移動を行う。
 具体的に説明すると、高速道路では各リンクごとに図2のような車頭距離(S)と速度(V)の関係を定めておき、この関係を用いて、リンク上のすべてのパケットを下流側より順次移動させる。すなわち時刻に、あるリンク上にパケットA、Bが存在した場合に(図3)、スキャンインターバル後の時刻では、まず下流側のパケットAの移動が完了した状況を考え、このときパケットBがL(= V)だけ移動したとすると、時刻におけるA,B間の車頭距離はSとなるので、Lに対応する速度Vと車頭距離Sとの関係が、先に定めたS−V関係に従うように移動距離Lを決定し、パケットBを移動させるのである。
 一方、一般街路では1台1台を追従移動させるのではなく、FIFO(First In First Out) を原則とした待ち行列モデルを採用し、図4のようにパケットをリンク内走行車両群と流出可能車両群の2つの車両群に分けて、車両の移動を表現する。すなわち、リンクに流入したパケットは、まずこのリンク内走行車両群にFIFOで積み上げられる。その後、予め設定した当該リンクの自由走行時間が経過すると流出可能車両群に移動し、リンクの容量に従ってリンクから流出させる。なお、リンクの容量は、左折・直進・右折の方向別に、その方向の飽和交通流率と信号スプリットの積で与えており、流出条件も各方向別に判定する。

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図3 パケットの移動方法(高速用)

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図4 パケットの移動方法(一般街路用)

3.モデルの適用
 高速道路ネットワークとしては、首都高速道路ネットワークを、一般街路ネットワークには東京都南西部の地域を対象として、スキャンインターバルΔt=3秒,1パケット=3台でモデルを適用したところ、良好な再現性を得ている。

最後に、シミュレーションが再現する交通状況をグラフィック表示した画面の一例を図5,図6に示す。

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図5 首都高速道路への適用例

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図6 東京南西部の一般街路への適用例