生研リーフレット No.280
1996年12月2日  東京大学生産技術研究所発行

AEを利用したFRPロッド用繊維のクリープ試験方法
The Experimental Method for Creep of the Fiber Using Acoustic Emission

魚本 研究室

1. はじめに
 FRPロッドは、高強度、耐腐食性、非磁性、軽量、と種々の長所を備えた新材料であり、鉄筋の腐食 が問題となる海洋構造物あるいは、リニアモーターカー等の磁力を用いる新交通システム、等々に極め て有効なコンクリート用補強材料として注目されている。またFRPロッドは、塑性域がほとんどない ほぼ完全な弾性体であり、この変形特性を利用して、プレストレス用緊張材としての適用も検討されて おり、現在これらの適用に関する研究が精力的に進められている。しかし、緊張材として用いる場合に 最も重要となる、クリープ特性あるいは疲労特性に関しては未だ不明な点が多いのが現状である。これ まで当研究室においては、FRPロッドののロッド全体としてのクリープ特性あるいは疲労特性等の実験 的検討を行っており、いくつかの所見を得ている。しかしながら、FRPロッドは繊維とマトリックスか らなる複合材料であるため、ロッドの変形あるいは破壊機構の定量的な把握には、個々の構成材料、す なわち繊維単体およびマトリックスの特性をまず把握する必要である。ところがFRP用の繊維は、直 径が10〜20μmと非常に小さいうえに、繊維強度の個体間のばらつきが大きい。したがって、繊維の クリープ試験のように実験に長時間を要し、しかも多数のデータ収集を必要とする場合、実験に適当な 載荷装置および測定装置等が殆どないため、データー収集は極めて困難である。そこで、本研究室では 繊維のクリープ試験をアコースティック・エミッション(AE)測定器を利用して行うことを試みた。実 験は現在も進行中であるが、ここでは、本実験の手法とおよび途中経過を報告するものである。

2. 実験手法の概要
 本実験では、繊維を張り付けた台紙を試験台に取り付け、分銅を用いて繊維にクリープ荷重を与えて いる(図−1および写真−1参照)。試験台は、載荷の際に繊維に衝撃荷重が生じないように考慮し、 東京大学生産技術研究所の試作工場で制作したものである。測定はAE測定器を用いて各繊維のクリー プ破壊までの時間を計測している。以下にその概要を説明する。
 本来AEとは、個体が塑性変形もしくは破壊するときに発生する弾性波のことで、普通は超音波の領 域を扱うことが多い。本実験で用いているAE測定器は、この弾性波を音響パルスとして観測し記録す るものである。この測定器の特徴は、連続測定中でも設定したしきい値以上のAE信号が発生しない場 合は記録を行わないことで、そのため適切なしきい値の設定により、対象物のAE信号を長期間にわた り連続的測定することが可能であることにある。本実験は、このAEおよびAE測定器の特徴を利用し て、繊維の破断により分銅が試験台のテーブルに落下したときに生じる衝撃弾性波をAEとして測定し ている(図2参照)。

fig

図1 AE測定法の概要

fig

写真1 クリープ試験状況

3.実験結果の例
 本実験方法を用いて、行ったクリープ試験の測定結果の例を以下に示す。まず、AE測定器に記録さ れるデータを、時間−AEイベント率として検出する。ここでイベントとは、ある単位時間内に生じた AEの発生数を示している。そのデータから分銅によるAEの発生時刻、すなわちクリープ破壊までの 持続時間を算出し、繊維の応力度と破壊時間として示したのが図−3である。なお、図はアラミド繊維 の場合の例である。図のように応力度が小さくなるに従い、繊維のクリープ持続時間は対数的に増加し ていることがわかり、ロッドの場合と同じような傾向が見られた。しかしながら、繊維の場合は引張強 度のばらつきが大きいため、クリープ持続時間のばらつきもロッドの場合よりも大きくなっている。今 後、これらの実験結果を用いて、確率的な検討を含めたFRPロッドのクリープ特性の定量的な把握が 望まれる。

4. まとめ
 東京大学生産技術研究所試作工場の御協力によりクリープ試験台を作成するとともに、データの収集 にAE測定装置を利用することにより、FRPロッド用の繊維単体のクリープ試験を、一度に複数の試験 体に対して行うことが可能となった。今後データが集まり次第、その結果を報告する予定である。

(執筆担当:山口明伸・西村次男・加藤佳孝・魚本健人)

fig

図2 繊維のクリープ試験結果