生研リーフレット No.279
1996年12月2日  東京大学生産技術研究所発行

耐アルカリ性を向上させた新AGFRP緊張材
The New Aramid -Glass Fiber Reinforced Plastic (AGFRP) Rods for Improving Alkali-Resistance -

魚本 研究室

1. はじめに  一般に、アラミド繊維や炭素繊維の場合は化学的安定性に優れているためその耐化学薬品 性が問題になることは非常に少ない。しかし、ガラス繊維は安価で経済性に優れている反面、アルカリによっ て耐久性が著しく低下することが知られている。そこで本研究では、高アルカリ環境下でも高耐久性を有する と思われる、ガラス繊維とアラミド繊維からなる新しいFRPロッド(AGFRP)を開発し、従来一般に使用 されている各種FRPロッド(AFRP、GFRPおよびCFRPロッド)との力学的特性について比較検討した ものである。 また、アルカリ溶液で劣化促進させたAGFRPロッド断面のアルカリ分布状態を電子線マイク ロ分析装置(EPMA)を用いて測定し、ロッドへのアルカリの浸透を明らかにした。

2. 実験概要  実験に使用したFRPロッドの材料特性を表−1に示す。写真−1にアルカリ溶液に浸漬し たAGFRPロッド浸漬試験体の一例を示す。ロッドの浸漬は静的引張試験において引張区間(20cm)となる部 分のみとし、定着部はアルカリの影響を受けないようにした。浸漬条件は、温度40℃、アルカリ溶液として 1.0 mol/lのNaOH溶液を用い、材令はロッドにより30、60、90および120日間とした。また、AFRPお よびCFRPについてはより厳しい条件として2.0 mol/lのNaOH溶液に浸漬したものについても検討を行っ た。なお、引張試験は1条件で10本〜19本の試験体について実施した。

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写真1 AGFRPロッドの耐アルカリ性試験装置

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表1 各種FRPロッドの材料特性

3. 実験結果および考察  図1は、各種ロッドの浸漬前および温度40℃の1.0 mol/lのNaOH溶液 (AGFRP、GFRP)、2.0 mol/lのNaOH溶液(AFRP、CFRP)に30および90日間浸漬後の静的引張強 度を示したものである。また図2は、GFRPロッドとAGFRPロッドで温度40℃の1.0 mol/lNaOH溶液 に浸漬した結果を浸漬材令と引張強度低下率との関係で示したものである。これらの図より、AFRPおよび CFRPロッドは、2倍の濃度で劣化促進試験したにも関わらず強度低下は認められず耐アルカリ性に優れて いることが改めて確認された。それに対してGFRPロッドは、浸漬前の強度と比較すると浸漬材令30日間 で約45%以上、90日間では約70%近くの大幅な強度低下が見られ、アルカリによって劣化することが認め られる。一方、 AGFRPロッドの場合、30日間で約5%、90日間で約10%程度の強度低下を示すに留まり、 120日間の長期でも約18%程度の強度低下しか認められないことが明らかとなり、外層部のアラミド部分が 有効に機能していることがわかる。
 以上のことから、新たに開発した二層構造のAGFRPロッドは耐アルカリ性に対してGFRPロッドより強 度低下が少なく、高アルカリ環境下でも十分に耐久性を改善することが確認できた。今後は同一の繊維等で比 較検討していく必要があろう。写真−2は、浸漬前および40℃のNaOH溶液に60日間浸漬したAGFRP ロッド断面をEPMAを用いてNaを測定した結果を示す。写真の白い部分がNaのカウント領域である。浸 漬前および浸漬後の測定結果より、40℃の環境下で1.0 mol/lのNaOH溶液に浸漬しても外部からのNaの 浸透はほとんど認められなかった。以上のことから、本研究で新たに開発したAGFRPロッドは、高アルカ リ環境下でも耐久性に優れたロッドであるということができよう。

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図1 各種FRPロッドのアルカリ溶液浸漬前後の引張強度

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図2 アルカリ溶液浸材令と引張強度低下率との関係

4. あとがき  本報告では、高アルカリ環境下において耐久性に優れた特性を有するAGFRPロッドを開 発し、従来一般に使用されている各種FRPロッドと比較検討した結果、新たに開発した二層構造の AGFRPロッドは、高アルカリ環境下においてGFRPロッドに比べ強度低下が少なく耐久性に優れてい ることが明らかとなり今後期待がもたれる。

(執筆担当:山口明伸・西村次男・魚本健人)

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写真2 AGFRPロッド断面のNa分布測定結果