生産研究

第５５巻・第３号（２００３年）　

目次

特集　文部科学省ITプログラム「戦略的基盤ソフトウェアの開発」

特集に際して

知のstock and　fｌow
西尾茂文

論説

文部科学省ITプログラム「戦略的基盤ソフトウェアの開発」の目指すもの
小林敏雄

 わが国を支えるシミュレーション技術と産学連携
中村道治

研究解説

次世代量子化学計算システム
佐藤文俊

 タンパク質－化学物質相互作用解析システム「ABINIT-MPBioStation」の開発
谷森奏一郎・佐藤智之・中田琴子・福澤　薫・大河内郁雄・小谷野和郎・北浦和夫・青木孝造・.阿部行伸・愛澤昌宏・甘利真司・小野寺賢司・張　軍衛・岩澤義郎・加藤昭史・雨宮克樹・山口貴史・中野達也

 ナノシミュレーション・システム
大野隆央

 次世代流体解析システム
谷口伸行・.加藤千幸・寛　雅行・張　会来

 次世代構造解析システム“NEXST”
矢川元基・三好昭生

 統合プラットフォーム
小池秀耀・松原　聖

 HPCミドルウェア
奥田洋司・中島研吾

論説

戦略的基盤ソフトウェアの普及と事業化
小池秀耀

一般投稿

研究速報

Automatic Real-time Segregation and Classification of Multiple Vocalizing Sperm Whale(英文）
Rajender BAHL・Tamaki URA

損傷評価プログラムDAMAGE90の適用性について
－その1:金属材料の単軸引張および片振引張疲労－
都井　裕・岡田和三

 コンクリートの熱特性を活用した既設構造物の品質評価に関する研究(2)
－赤外線法による硬化コンクリートの水セメント比の判定法の提案－
加藤佳孝・小根澤淳志

 熱・損傷・脆化の連成を考慮した有限要素法による溶融亜鉛めっき中の鋼構造部材の損傷解析
高垣昌和・都井　裕

 原産国の異なる普通ポルトランドセメントを用いた養生方法の違いによる物理特性
伊代田岳史・魚本健人

 若材齢時の乾燥履歴を受けたセメント硬化体の内部組織構造のモデル化
伊代田岳史・魚本健人

調査報告

全国の都道府県・政令指定都市における民間住宅の耐震診断助成制度に関するアンケート調査
小檜山雅之・石原祐紀・山崎文雄
　

アブストラクト

知のstock and　fｌow
西尾茂文

文部科学省ITプログラム「戦略的基盤ソフトウェアの開発」の目指すもの
小林敏雄

わが国を支えるシミュレーション技術と産学連携
中村道治

次世代量子化学計算システム
佐藤文俊

　当グループは，タンパク質の精密な量子シミュレーションが実行できる次世代量子化学計算システムを開発している．ベースとなるソフトウエアは，密度汎関数法プログラムProteinDFで，これを用いて104残基の金属タンパク質シトクロムcの全電子波動関数計算に世界で初めて成功した実績がある．本研究の目的はProteinDFを基に，ポストゲノム時代のタンパク質研究，ならびに産業界における応用に必要な機能を追加・拡張し，インフラを整備し，これを汎用レベルにまで完成させることである．本稿では，ProteinDFの解説を中心に，次世代量子化学計算システムの骨子を紹介する．

タンパク質－化学物質相互作用解析システム「ABINIT-MPBioStation」の開発
谷森奏一郎・佐藤智之・中田琴子・福澤　薫・大河内郁雄・小谷野和郎・北浦和夫・青木孝造・.阿部行伸・愛澤昌宏・甘利真司・小野寺賢司・張　軍衛・岩澤義郎・加藤昭史・雨宮克樹・山口貴史・中野達也

　タンパク質－化学物質相互作用解析グループでは，量子論に基づいたタンパク質と化学物質との分子間相互作用をin silicoで解析するシステムの開発を行っている．このシステムは4つのサブシステム 1) In silico 詳細スクリーニングシステム 2) Ab initio FMO法による相互作用解析 3) 標的データベース 4) Javaによる統合システムから構成され，分子間の相互作用エネルギーを高精度で予測することにより効率的な分子設計を可能にすることを目指している．

ナノシミュレーション・システム
大野隆央

　次世代半導体ナノデバイス開発を実現するためには，ナノスケールに微細化された表面・界面に関する抜本的な技術的ブレークスルーが必要とされる．特に，ナノスケールに薄膜化された界面構造の形成・制御，ゲート絶縁膜に用いる高品質な高誘電体薄膜の材料探索，ナノ界面構造での電気伝導特性の解明は，シリコンナノデバイス発展の鍵を握っている．また，シリコンナノデバイスの他にも，様々なナノ構造で初めて発現する新奇な機能の探索，その機能を実現するためのナノ構造制御に関する知見が必要である．我々は，第一原理計算手法を主な解析手法として用いて，ナノ構造の形成・構造・物性・機能を高精度に解析・予測できるシミュレーション・システムを開発することを目指している．

次世代流体解析システム
谷口伸行・.加藤千幸・寛　雅行・張　会来

「次世代流体解析システム」では，時間平均解析が主であった工学乱流場の予測に対して，ラージ・エディ・シミュレーション（LES）法を基礎とする非定常解析法の実用化を図る．1億格子点相当の非定常流れ数値計算を実現することで機器開発においてCADデータと同程度の解像精度をもった流れ場の予測と先行設計が可能となる．また，流れの非定常性の適切なモデル化によって，従来予測設計の困難であった複雑系の問題，たとえば，燃焼流・混相流，流体音や流れと構造干渉などの数値予測法を実用化する．本稿では，「次世代流体解析システム」の基本設計および，そこで開発されるべき主な要素技術について解説する．

次世代構造解析システム“NEXST”
矢川元基・三好昭生

統合プラットフォーム
小池秀耀・松原　聖

　ネットワークと並列コンピュータを活用した大規模で複雑な応用ソフトウェアを開発する環境と複雑な解析を実行する環境の確立することを目的として，タスクフローと呼ばれる新しいアーキテクチャーに基づいて，戦略的基盤ソフトウェア用統合プラットフォームを開発する．タスクフローとは，プログラムやデータを部品としてより複雑なソフトウェアを構築するための言語であり，複雑な解析の実行条件や手順等を記録でき，複雑な解析を正確に再現できる．本ソフトウェアにより，大規模で複雑なソフトウェアの開発の画期的な進歩が期待できる．

HPCミドルウェア
奥田洋司・中島研吾

戦略的基盤ソフトウェアの普及と事業化
小池秀耀

コンピュータ・シミュレーション等の計算科学技術は科学技術および産業技術の共通基盤として重要な役割を担っている．わが国においては，大学等における計算科学技術研究は世界的水準にあるが，産業界で使用されている実用ソフトウェアに関しては，そのほとんどが欧米製である．大学等の研究成果を普及し，事業化につなげるには，計算科学技術用ソフトウェア開発に関する国の戦略と，その戦略を実現するための体制の構築が必要である．大学と民間企業の連携と研究開発型ベンチャー企業の創出が，その鍵を握っている．

Automatic Real-time Segregation and Classification of Multiple Vocalizing Sperm Whale(英文）
Rajender BAHL・Tamaki URA

損傷評価プログラムDAMAGE90の適用性について
－その1:金属材料の単軸引張および片振引張疲労－
都井　裕・岡田和三

　本報告では，損傷評価プログラムDAMAGE90を各２種類の鋼材およびアルミニウム材の単軸引張挙動および片振引張応力下の疲労計算に適用し，実験結果との整合性について論じた．その結果，以下のことが判明した．計算された応力･ひずみ曲線は，総体的には実験結果と近いが，DAMAGE90では弾／完全塑性体近似を行っているため，定量的な一致度は必ずしも十分ではない．計算されたSN曲線は，高サイクル疲労の実験結果とほぼ良好に対応した．低サイクル疲労についての定量的議論は次報で行う．

コンクリートの熱特性を活用した既設構造物の品質評価に関する研究(2)
－赤外線法による硬化コンクリートの水セメント比の判定法の提案－
加藤佳孝・小根澤淳志

　コンクリートの物質移動特性は耐久性能を支配する重要な要因であり，これまで多くの研究がなされている．しかし，既設構造物のコンクリートの品質（例えば水セメント比など）を定量的に把握することが難しいため，既設構造物の物質移動特性を予測する手法が無いのが現状である．そこで，我々は非破壊試験を活用して既設構造物の物質移動特性を定量的に評価する手法を開発することを目的としている．本研究は，赤外線法によりコンクリートの水セメント比を予測することを目的として行った．検討の結果，放熱温度比と放熱時間比の関係を用いることで水セメント比が予測可能であることがわかった．

熱・損傷・脆化の連成を考慮した有限要素法による溶融亜鉛めっき中の鋼構造部材の損傷解析
高垣昌和・都井　裕

　鋼構造物の耐腐食性を高める手段のひとつに溶融亜鉛めっき加工があるが,加工時に熱負荷を受けることにより熱ひずみが生じ,さらに脆化金属である亜鉛による液体金属脆化の重畳によりき裂が生じる事例が報告されている.一方,このような環境下における力学的データを実験により正確に測定することが困難なうえ,さまざまな条件に対する実験を繰り返し行うことは,多大な労力を要する.そこで,熱,損傷,および脆化を考慮した連成解析手法を開発し,数値シミュレーションを実施した.本研究では,実際に頻繁にき裂が発生することが報告されている鋼構造部材を解析モデルとして用い,本解析手法の有効性について検討した.

原産国の異なる普通ポルトランドセメントを用いた養生方法の違いによる物理特性
伊代田岳史・魚本健人

若材齢時の乾燥履歴を受けたセメント硬化体の内部組織構造のモデル化
伊代田岳史・魚本健人

全国の都道府県・政令指定都市における民間住宅の耐震診断助成制度に関するアンケート調査
小檜山雅之・石原祐紀・山崎文雄

　都道府県・政令指定都市を対象に，平成15年1月現在の民間住宅耐震診断の助成制度実施状況を把握する目的で，アンケート調査を行った．その結果，３割の都道府県，６割の政令市において助成制度が実施されていることが明らかとなった．神奈川県・横浜市・静岡県・兵庫県ではすでに数千棟から１万棟を超える木造住宅が診断されている．また，インターネットを活用した耐震診断システムの導入も進んできている．既存不適格建築物の問題を解決する必要から，今後助成制度を行う自治体が増えていくと予想される．本報告はその制度設計の参考として役立つものと考えられる．

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