- 金属素形材の製造技術の可能性
―圧延技術を中心として―
木内学 技術創造立国」が叫ばれ、「先導的研究開発」の推進が求められているが、従来型の思考の枠を破り、真のブレークスルーを実現するのは容易ではない。本解説では、素形材製造技術として最も重要な役割を果たしている「圧延加工」対象として、従前技術の限界を突破し得る革新的技術やプロセスの可能性について、具体的な例を示す。本稿に示す新技術・新プロセスは、いずれも筆者独自の着想によるものであり、それぞれ今後の大きな技術開発課題となり得るものである。一見、無謀とも思われる事例が含まれているが、大胆な発想と取り組み無くしては、現在各分野に満ちている閉塞感や飽和感を打破することは出来ない。「創造性」や「先進性」は常に一定のリスクを内包しており、また或る種の「非常識性」を含むものと云えよう。かかる見地からまとめた本稿が革新を目指す技術者に役立てば幸いである。
- 金型加工用高速ミ−リング
中川威雄 ボールエンドミルによる切削加工において、工具回転速度が増せば加工時間を短縮すると共に表面の平滑さを増すことができる。このことは自由曲面をもつ金型製作の迅速化につながり、高速ミ−リングとして注目されている。高速ミ−リング技術は実際の金型工場でだんだんと使用されるようになっているが、耐熱性の優れたcBNを工具として用いれば切削速度が1,000m/min又は主軸回転数50,000rpmを越すような超高速領域の超高速ミ−リングも可能であることがわかってきた。最近では各所で工作機の開発も活発に進められているので近い将来鉄系材料の超高速ミーリングの時代が到来しよう。
- 超音波加工のマイクロマシニングへの応用
江頭快・増沢隆久 超音波加工は、硬脆材料に対して機械的な加工が行え、かつ材料の導電性を選ばない有用な加工法であるが、今までマイクロマシニングへは応用されていなかった。本報では、その応用を妨げている問題点を考察し、それを解決することにより考案された新しい超音波加工法について述べるとともに、その加工法の加工特性や実験結果を紹介する。
- 放電加工による微細キャビティの形成
余祖元・増沢隆久 放電加工で加工精度に影響を与える要因のうち、最も大きいのは電極消耗による誤差である。特に、微細放電加工の場合、電極消耗が大きく、成形された電極形状が加工中に変化してしまう。単純形状の電極を用いると、この変形現象を単純化できるので、三次元形状の加工を高精度に行える可能性がある。本研究では、正確な形状を形成するため、電極消耗の問題を二つの部分に分けて解決した。これは電極先端形状を維持することと電極消耗を補正することである。本稿ではこれらについて紹介する。
- 砥粒加工における技術革新
谷泰弘 超精密加工の代名詞のように言われてきたシリコン基板や磁気ディスク基板の加工工程が,複数の加工工程にわたって最近大きく変わろうとしている.その変革はこれらの基板の寸法変化に伴うスループットの低下を防止することが主目的となっているが,加工の不安定性などの技術的な問題がその変革の理由となっているケースもある.本解説ではこれらの変革の内で,砥粒加工に関連するものを取り上げ,どういう理由でどう変わろうとしているのか,またその時の技術的な問題や開発の主眼点が何であるのかについて解説する.
- 半導体パッケージング過程の実験解析動向
佐藤正博・横井秀俊 半導体の多くは,熱硬化性樹脂を用いてトランスファ成形によってパッケージングが行われる.近年の半導体素子の高機能化,実装の高密度化は,入出力ピン数の増大や狭ピッチ化,そしてパッケージの薄肉化を促している.そのために,様々な不良現象が従来よりも起こりやすい状況にあり,現場レベルのみでの不良対策が一層困難になってきたことから,系統的な研究に基づく不良現象対策が強く望まれている.本稿では,熱硬化性樹脂を用いた半導体パッケージング技術における樹脂流動および不良現象について,最新の実験解析の動向を解説する.
- 数値圧延機CORMILL Systemの展開
柳本潤圧延加工時の塑性変形を対象とした汎用解析システムCORMILL Systemは開発開始後8年が経過し、現在も各企業との共同研究を通し、解析機能の向上・解析範囲の拡張がはかられている。本稿では、CORMILL Systemの現在の姿を理論的背景・解析事例の両面より述べ、さらに今後の動向について論ずる。
- 半溶融接合に関する基本特性
木内学・柳本潤・杉山澄雄 本報では、半溶融接合法の基本的特性(接合強度、接合界面の内部組織)について、アルミニウム合金のバルク材にステンレス線を接合する事例を取り上げ、検討した。実験結果から、(1)接合強さは10〜20MPaの範囲であること、(2)A2011バルク材温度が高くなるほど接合強さが低下すること、(3)A2011バルク材温度が高くなるほどバルク材組織が粗く、かつ反応相の生成が促進されること、などが分かった。これらの結果を総合し、半溶融接合法は、溶接やろう付けなどと異なり、極めて単純化されたプロセスで複雑な組立品の接合を実現できる可能性のあることが判明した。
- パウダーキャスティングによる高精度転写金型製造法
野口裕之・中川威雄 金型製作には、長い製作時間と高いコストが必要である。しかし、デザインの変更などで金型を何度か作りなおす必要もある。 ラピッドツーリングは迅速に金型を作る方法として注目されはじめた。金属粉末を使用したラピッドツーリングでの金型製作が試みられている。金属粉末スラリーを用いて成形する方法や、金属粉末にレーザー光線を照射して積層造形して金型を製作するものであるが、いずれも寸法変化があり、実用化に当たって金型精度に問題を残している。 本研究では、パウダーキャスティング法を考案し、成形体の密度を高めるととにより金型の寸法精度を高めた。
- 光造形モデル転写によるステンレス溶射金型
張海鴎・中川威雄 ラピットプロトタイピングの型製作への応用として,光造形モデルから量産射出成形のための耐久性を持つ金型を溶射法により製造する方法を開発した。溶射によりテンレス又は超硬合金の金型表層を創製し,金属材料の鋳造によるバックアップを実現したため,積層造形モデルからステンレス又は超硬表層を持つ射出成形用溶射金型が製造可能であった。表面に天然シボ模様を持つ射出成形加飾型への適用できることも確認された。他のラピッドツーリングに比べて多くの利点をもつ溶射金型であるため,今後この成果が広く活用されることを期待している。
- 射出形成における流れ急変部フローマーク生成現象の解析
横井秀俊・本橋滋夫・増田範通 射出成形における代表的な外観不良の一つにフローマークがある。フローマークは、流動過程で生じる現象であり、フローフロント挙動と密接に関連している。本研究では、段差部の裏側において段差部から流動方向に弧を描くように生成するフローマーク、およびキャビティ面に垂直に樹脂を導入する2次ランナ飛び出し近傍において発生する三日月状のフローマーク生成機構について検討した。流れ急変部において発生するフローマークについては、ゲート着磁法およびフローフロント拡大観察によりフローマーク発生原因を明らかにし、2次ランナのフローマークでは、段差型と共通の概念に基づきフローマーク発生モデルを提案した。
- 大型三次元可視化金型による型内樹脂流動挙動の実験解析
横井秀俊・櫛田茂美・松阪茂・松田元 射出成形品に発生するウェルドライン、フローマークなどの成形不良は、金型内の三次元樹脂流動挙動と密接な関係があり、上記流動挙動をパーティング面およびキャビティ側面の両方から同時観察できる二方向同時可視化金型(三次元可視化金型)を提案することが重要と考えられている。本研究では、大型で機能的な三次元可視化金型を新たに試作し、各種リブを有するキャビティにおける樹脂流動挙動の観察実験を行った。そして、縦リブキャビティにおいて、リブ厚さに対して平板部厚さが小さくなるほど平板部よりもリブ部に対する分流効果が大きくなり、リブ部のフローフロントがより先行した充填パターンとなることなど、本金型の有効性を実証する結果が得られた。
- 大負圧浮上工具方式による硬脆材料の延性モード切削
上村康幸・谷泰弘・佐藤壽芳・山口ひとみ 大口径光学部品や大口径化が進められているシリコンウェーハ等の硬脆材料の加工において、それらのポリシングの前工程として延性モード切削の適用の可能性が検討されている。
筆者らは工作機械の運動誤差の影響を受けない加工技術として、負圧により工具を常に工作物に吸着させて浮上高さを常に一定に保つとともに、その時負圧を発生させている真空吸引により切り屑を排除する新しい加工方法、負圧浮上工具方式による加工技術を考案した。この加工技術を用いて、0.1μm程度の運動精度を有する旋盤上で、光学ガラスと単結晶シリコンのクラックフリー切削が可能となった。
- 光散乱法を用いた加工面の識別
邱暁明・谷泰弘 工業製品の製造技術に関する特許侵害の防衛や製造技術の推定及び発掘などを行う際,製品を表面観察することによりその表面の製造方法や製造条件を推定する技術が重要である.本研究では,この技術を確立する一手法として光散乱法を用いることを考案し,加工面の識別を試みた.散乱光強度分布は加工面のフーリエ変換像だと言われている.その結果,表面の波長成分を反映する散乱光強度の減衰特徴パラメータAhと加工面の異方性を示す特徴パラメータArを用いて加工面の識別できることを明らかにした.
- ナノメートルオーダの機械振動子の作成方法と特性測定
川勝英樹・佐谷大輔・ミッシェル ド・ラバシェルリ・ムサ ウマディ ナノメートルオーダの機械振動子は、その質量が非常に小さく、固有振動数ならびにQ値が高いことが期待される.そのため、ナノメートルからサブナノメートルオーダでの力や質量の検出素子として魅力がある.本速報では、金属探針を真空中で加熱することによって得られる振動子について、その作成方法、機械特性測定の手法について報告する.
- 結晶格子を用いた段差測定
藤井透・今堀克彦・ハネス プロイレル・川勝英樹 本速報では、段差測定器の探針の動きを走査型トンネル顕微鏡と基準結晶を用いて常に観察・校正する方法について報告する.黒鉛の原子ステップを同じく黒鉛結晶の表面の原子配列を用いて評価することが可能となった.薄膜等の厚さ評価に有効な手法であると考えられる.
- 結晶を基準に用いた2次元位置決め制御
川勝英樹・ロシャ・エリック 走査型トンネル顕微鏡を用いて試料台上の結晶格子を観察することによって、試料台のxy方向の動きを結晶を基準として制御することが可能となった.2次元での位置決め制御が可能となったので報告する.
- 熱間仕上げ圧延におけるスタンド間の温度解析
−圧延加工の温度解析 第4報−
木内学・柳本潤・若松英士 温度変動の特徴から圧延工程にある被圧延材を二つの領域に大別すると、主にロールとの接触によって生じる抜熱、摩擦による発熱ならびに塑性変形によって生じる加工発熱による温度変化であるロールギャップにある領域と、ロールとの接触終了後の復熱とスタンド間の冷却によって生じる温度変化であるスタンド間にある領域に分けられる。次スタンド入口における被圧延材の温度分布を予測するためにはこの両者の解析は欠かすことが出来ない。本報においてはオイラー表示による非定常3次元上流有限要素法を用い、主に後者に焦点を当てて解析を行なった。
- 形鋼圧延FEM解析に対する適応型自動要素生成手法
(形鋼圧延汎用解析システムの自動化・高精度化に関する研究 1)
柳本潤・久保田寛 多パス形鋼圧延の3次元有限要素法による変形解析を自動化、高精度化するためには、C断面内の要素を自動的に生成する必要がある。本報では、被圧延材の断面形状、ロールプロフィルの補間誤差をもとに導かれた表面要素密度をもとに、入口側要素分割を自動的に生成する、適応型自動要素生成手法を示す。さらに、計算しようとするパスの変形を予測することにより、高精度な有限要素解析が可能な要素を生成する方法を示す。
- 形鋼圧延FEM解析システムの構築とユーザインタフェイスの開発
(形鋼圧延汎用解析システムの自動化・高精度化に関する研究・2)
柳本潤・久保田寛 形鋼圧延のための3次元変形解析システムが、孔型設計・工程設計の実務に広く利用される様にするためには、入力データを常に可視化して表示できる対話型のデータ入力を可能とし、さらに非線形有限要素法に特有の収束条件等の入力を不要としなければならない。本報では、Visual C++により作成したGraphical User Interfaceに重点を置きつつ、解析システムの構成を示す。さらに、本システムによる非対称形鋼圧延の解析例を示す。