- 望み道りに分子を並ばせる
−分子化学から超分子化学へ−
大月 穣・荒木孝二 化学−特に有機合成化学−は、原子と原子の組み合わせに関する膨大な知見を集積してきた。
今、化学は分子と分子の組み合わせの研究の段階に入った。分子間相互作用部位を分子内に配列することによって、分子は特異的な相互作用をする。その結果、超分子組織構造が得られ、また、コンフォメーション制御、輸送、電子移動などの高度な機能が発言する。
- コンビナトリアル化学
工藤一秋 最近の製薬化学の分野では、リード化合物を発見したりそれを最適化したりするための簡便な方法として、コンビナトリアル化学への関心が急速に高まってきている。コンビナトリアル化学とは、類似構造を持つ化合物の集合体である化学ライブラリを合成し、活性を調べ、構造を解析する方法論についての化学である。ここでは、ペプチドおよび非ペプチド低分子のライブラリに関する研究から、製薬化学以外の分野へのコンビナトリアル化学の展開までを、いくつかのトピックスを交えて解説した。
- フォトリフラクティブ光導波路を用いた
光学習可能ニューラルネットワークモデル
的場 修・志村努・黒田和男 学習能力を有する光ニューラルネットワークモデルの一つとして,フォトリフラクティブ光導波路を用いた光接続法をニューロン間の接続に適用したニューラルネットワークモデルを紹介する.フォトリフラクティブ光導波路を用いた光接続は,接続経路の形成と状態更新を光のみで行うことが可能である.学習アルゴリズムとして,局所的な信号のみで重みの修正量を計算することが可能なアルゴリズムを用いる.本稿では,実験結果に基づく重みの変化モデルを示し,モデルの学習能力を計算機実験で検証した結果を紹介する.
- 生体の凍結保存プロセスに関する研究
白樫 了・棚澤一郎 本稿は生体の凍結保存プロセスの設計法について,熱物質輸送の立場から考察した研究の紹介である。凍結保存プロセスは凍結過程と,それに先立つ前処理過程に分けられる。前処理過程においては,凍結によってもたらされる損傷を避けるため,凍害防御剤水溶液に生体を浸漬させるが,生体中の細胞が高い浸透圧に曝されるのを避けるため,凍害防御剤水溶液の濃度は細胞の最小体積分率と体積緩和時間により決められたプロセスで徐々に高められて目的濃度に到る必要がある。一方,凍結過程では冷却速度と凍害防御剤水溶液の濃度を,凍結に伴う力学的損傷と高浸透圧による細胞の過濃縮を避ける様に決定する必要がある。
- バクテリオロドプシンの機能解析と工学応用
佐賀佳央・渡辺 正 バクテリオロドプシン(bR)は最も単純な光駆動型プロトンポンプであり、その機能の解明はイオンポンプを始めとするタンパク質の動的挙動の理解に大きく役立つ。筆者らは、光変換デバイス化も念頭に置いてbRの光電気化学特性を調べている。本稿では、bRの基本的性質とこれまで行われた光電応答に関する研究を概観したのち、当研究室で得られた成果の一部を紹介する。
- ヒト細胞の代謝活性に着目した環境汚染物質の迅速毒性評価
鈴木基之・庄司 良・酒井康行・迫田章義 河川水細胞毒性変動に追随できるような迅速細胞毒性評価法を開発した。迅速評価のためにヒト肝臓癌由来細胞の Hep G2 を用い、LDL(低分子リポタンパク質)の代謝活性に着目した。これを用いて環境汚染物質や多摩川河川水の細胞毒性を評価したところ、4時間で細胞毒性が評価できることがわかった。また比較のために細胞増殖阻害を指標とする AP assay を同時に行い、ここで新たに開発した手法の性能を評価した。
- フミン物質のトリハロメタン生成挙動とその抑制
栗原英紀・三浦勇治・故篠塚則子・渡辺 正 フミン物質は抗菌作用、有機汚染物の分散作用など、環境中で有用な働きをする反面、浄水過程で生成するトリハロメタン (THM) の前駆物質となる点が問題となっている。この問題への対処を目的に、フミン物質水溶液への光照射を試みたところ、陸成のフミン物質については THM 生成の低減に有効であることが判明した。また、フミン物質の光分解生成物は未処理のフミン物質に取り込まれて、後者によるTHM生成を抑制することも明らかにした。
- 硫酸化アルキルオリゴ糖の合成とその抗エイズウィルス活性
かつらや要・石川慎一・市川剛・後藤和博・瓜生敏之 生体親和性で注目される2−アミノ糖を用い、抗エイズウイルス活性の期待される、硫酸化アルキルキトオリゴ糖を合成した。合成は、キトオリゴ糖をフタルイミド化・アセチル化した後に、チオフェニル化・グリコシル化を行い、脱保護後硫酸化を行った。
本化合物の抗エイズウイルス活性を評価し、中程度の抗エイズウイルス活性を示すことが分かった。
また、3次元構造を計算により求め、構造と活性の相関についても考察した。