- 知らしむべし、由らしむべからず
片山恒雄 いくつもの最近の外国の震害を見ていながら、わたしたち日本のエンジニアは、「日本の構造物は、あんなふうには壊れない」と信じ込んでいた。1995年兵庫県南部地震の経験を通して、大自然の前では人間の営みなど小さなものであり、最善の努力を尽くしても限界があることを知った。エンジニアは、率直な意見を述べることによって、このことを社会に対して説明してゆく必要がある。しかし、地震後のいろいろな組織の対応をみると、「由らしむべし、知らしむべからず」という体質は大きくは変わっていない。
特集
- 鉄骨造体育館の耐震診断法の改善について
大井謙一・高梨晃一・張 旋 阪神・淡路大震災前から鉄骨造体育館の耐震診断法については、官庁や地方自治体が独自の診断基準を準備しているが、鉄骨造の被災例自体が大震災前は十分ではなかったため、診断法と実被災例との整合性については十分検討されていない。本稿では、観察された鉄骨造文教施設の被害像と耐震診断結果とを整合させるための耐震診断法の改善、特に建物のエネルギー吸収能力を表現するじん性指標の改善を試みた。
- 履歴ダンパー付き鉄骨構造骨組の振動性状に関する研究
大井謙一・林暁光・西田明美・近藤日出夫 極低降伏点鋼を使用した制振ダンパーは、小さな地震入力レベルで降伏し始め、建物 への入力エネルギーを吸収する履歴減衰型の弾塑性ダンパーであり、地震による建物 の損傷を低減することを目的として利用されている。本論文では、極低降伏点鋼製せん断型履歴ダンパーを間柱形式で組み込んだ実地盤上に建つ鉄骨造骨組に対して起振 機による強制振動実験を実施し、その動的特性を検討した。また、履歴モデルおよび等価線形化モデルを用いて数値解析を行い、履歴ダンパーのエネルギー吸収量の予測を行った。実験の結果と比べ、両モデルとも実験値と良い対応を示すことが確認された。
- ASI法によるRC骨組構造体の地震崩壊挙動の有限要素解析
磯部大吾郎・都井裕 本速報では、骨組構造の静的・動的崩壊問題に対して高精度の解を与える順応型shifted Integratlon法(ASI法)を地震崩壊解析に応用している。本手法では、数値積分点をシフトすることにより特定の要素断面に仮想ヒンジを発生させ、それと同時にその要素の断面力を解放して破断を表現する。この操作により、地震崩壊のような強非線形性・不連続性を伴う問題も、変位型有限要素法による解析が可能となる。本速報では、U.L.F.に基づく支持点加振による陰的非線形解析アルゴリズムについて述べ、ASI法の理論を記述している。
- 兵庫県南部地震で被災した鉄道擁壁の逆解析
古関潤一・龍岡文夫・舘山勝 擁壁の耐震設計手法を合理化することを目的として、兵庫県南部地震で被災した数種類の擁壁について、震度法と極限釣合い解析に基づく現行の設計手法において外部安定と内部安定の計算を実施した.その結果、計算上最も小さい安全率を与える破壊モードは、実際の挙動とおおむね対応した.また、計算上の安全率が1.0となる限界水平震度と、最大水平加速度の予測値との関係について検討した。
- 兵庫県南部地震による単柱高架橋の崩壊シミュレーション
目黒公郎・佐藤唯行・片山恒雄 兵庫県南部地震は,地震工学の先進国と言えども構造物の崩壊被害による犠牲者が多数生じうることを再認識させた.地震による人的被害の軽減には,構造物の動的破壊メカニズムの解明が不可欠である.本研究では連続体から非連続体に至る挙動を統一的に解析できる拡張個別要素法を用いて,兵庫県南部地震で甚大な被害を受けた単柱高架橋の破壊解析を試みた.特に今回は,計算時間の短縮化のため,大規模で複雑な形状の構造物を低自由度のモデルで解析できるように,任意形の矩形要素を扱えるプログラムを開発して用いた.解析結果は実際の被害と同様な崩壊モードを示し,その崩壊メカニズムも推定された.
- 液状化解析への3次元個別要素法の適用
目黒公郎・片山恒雄 本研究では,3次元個別要素(3D-DEM)モデルを対象に,間隙水の挙動を仮想ブロックごとに扱うことにより,簡単なアルゴリズムで間隙水の効果をDEMに取り込む手法を提案している.すなわち要素の移動による間際の変化をブロック単位で追跡し,複雑な間隙の形状変化と体積変化を筒単に取り扱う方法である.
本手法を用いると,液状化による過剰間隙水圧の上昇と逸散過程,ならびに要素骨格の再構築過程が忠実に再現され,従来の手法では十分に解析できなかった液状化にからむ様々な現象の解析と解明に大きな可能性を持つことが示された.
- 兵庫県南部地震の被害分析 −その2 宝塚市の建築物被害−
杉浦正美・山崎文雄 兵庫県南部地震に関する詳細な被害データを収集し、被害原因の分析を行っている。
本報告では、宝塚市において、構造種別や建築年代などのデータと、被害との相関について検討を行い、また、建物被害の地理的分布の特徴を考察した。その結果、前回報告した芦屋市と同様に、いずれの構造種別でも建築年代が古いほど被害率が高い傾向が見られた。木造建物の被害率の空間的分布については、主に山麓の扇状地に沿って集中する傾向があり、地震動の強度、地盤特性、建物物特性などが影響しているものと思われる。
- 地震動強さ指標と新しい気象庁震度との対応関係
童 華南・山崎 文雄 気象庁は震度計によって震度7まで自動的に計測する新しい震度階を1996年2月15日に正式に決めた.これにより,完全に自動化した震度の速報システムの構築が可能となった.今後新たに整備される地震観測網は,計測震度を基本観測指標とするものが多くなると思われ,既にある観測網とは互いに参照できない指標を使用することになれば大きな問題である.したがって,計測震度と従来よく用いられている最大加速度,最大速度,スペクトル強度(SI)値などの地震動強度指標との関係を明らかにすることは緊急の課題である.本文では,気象庁の新しい計測震度と従来の地震動強さ指標の最大加速度,最大速度およびSI値との関係について検討した.まず計測震度の定義から他指標との物理的関連を論じた.次に日米205地点の強震記録を用いて,これらの関係式を回帰分析により求めた.従来の観測網の地震動指標さえあれば,本研究で得た関係式から計測震度を精度よく推定することができ,逆に計測震度から最大加速度とSI値も推定できる.本研究の結果は各機関の地震観測網の共同運用に貢献できると考えている.
- 鉄筋コンクリート造柱のサブストラクチャ・オンライン実験
楠浩一・中埜良昭・岡田恒男 直地震動が建物の応答性状に与える影響を検討するため、2スパン12層建物を対象にサブストラクチャ・オンライン実験を実施した。サブストラクチャ・オンライン実験とは注目する部材のみ加力実験を行い、その他の部材には数学モデルを用いて数値計算と実験をオンラインで結び動的弾塑性解析を行う実験手法である。本実験では水平1方向・鉛直方向を考えており、その為、2軸3自由度制御可能な加力システムを開発し、その有効性も併せて確認した。実験の結果、鉛直地震動は部材の弾塑性挙動に影響を与えることが分かった。
- 既存鉄筋コンクリート造建物の耐震性能に関する研究
李 康碩・中埜良昭 本報告はある地域の168棟の既存鉄筋コンクリート造公共建物についての耐震診断基準による耐震診断結果を用いて,その耐震性能を分析するとともに,本地域および他地域の既存建物の構造耐震指標値分布と地震被害率との関係を地震被害を受けた建物の耐震性能とも比較しながら,信頼性理論による耐震安全性評価を実データによる検証に基づいて示したものである。なお,分析手法としては静岡県における被害率想定時と同手法を用いた。
- 振動台とアナログ電子回路を用いた地盤と構造物の動的相互作用の新シミュレーション手法
小長井一男 構造物を支える地盤のインパルス応答は、指数減衰関数、および指数減衰する余弦、正弦関数を、有限個数重ね合わせることで精度よく再現できる。これらの応答関数はいずれも一つのアナログ電子回路で再現できるので、この回路の出力の線形和をとることで、多様な基礎の時刻暦応答をシミュレートすることが可能になる。この報告では振動台模型実験で、構造物の基礎の反力を計測し、その信号をこの電子回路に入力し、さらにその出力を振動台の制御部にフィードバックさせ、実時間で構造物と地盤の動的相互作用を再現する実験手法を提案する。
調査報告
- アメリカ光学会年会参加とドイツ、フランスの研究機関訪問
志村努 三好研究助成金によりポートランドで行なわれた1995年アメリカ光学会年会に参加し,さらにオルセー(フランス)の理論応用光学光学研究所,ベルリン工科大学,オスナブルック大学,ダルムシュタット工科大学のフォトリフラクティブ効果に関する研究者を訪問したので報告する.フォトリフラクティブメモリーに関する関心がアメリカおよびヨーロッパで再び盛り上がっていることが実感された.
- 超大型浮体式構造物に関する研究の最新の研究動向の調査
宮島省吾 財団法人生産技術研究奨励会より三好研究助成金の援助を得て、英国のサザンプトン大学を訪れるとともにとイタリアのフローレンスで行われた海洋工学の国際会議 (OMAE96)に参加して超大型浮体式構造物の流力弾性応答や構造解析、係留方式等に関する研究の英国及び世界的な研究動向を調査した。サザンプトン大学では研究に関して意見交換を行い、超大型浮体式構造物の研究状況と研究の問題点が確認できた。
国際会議では海洋工学研究の最新情報を入手することができた。また超大型浮体式構造物に関する研究に関しては日本及び米国が中心に行っており、他の国からの研究論文は少ない。
- VLSI用薄膜SOI CMOSデバイスに関する研究動向調査
平本俊郎 将来のVLSIデバイスとして有望な薄膜SOI MOSデバイスの米国における研究動向を調査した.Device Research Conference(DRC)で発表された関連の論文,及びカリフォルニア大学バークレー校,エール大学におけるSOI関連の研究について報告する.また,米国の大学におけるクリーンルーム運営方式に関しても報告する.