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【共同記者発表】タケ、北日本で分布拡大のおそれ~里山管理の脅威になっているモウソウチクとマダケ(産業管理外来種)の生育に適した環境は温暖化で拡大し、最大500km北上し稚内に到達~(東北大学)

○発表のポイント
◆里山における生態系・生物多様性への脅威となっているモウソウチクとマダケの生育に適した環境が、温暖化の進行と共に拡大することが気候モデルで予測された。
◆パリ協定に準じて温暖化を1.5℃以下に抑えると、4℃昇温した場合に比べてタケの生育に適した環境の増加が緩やかだった。こうした影響評価は、現在とりまとめが進められているIPCC 1.5℃特別報告書などに貢献することが期待される。
◆気候変動・温暖化を抑制する緩和策と同時に、外来種予防三原則に基づいた生態系管理などの「適応策」を進めることも重要。

○発表概要
長野県環境保全研究所、東北大学、森林総合研究所、気象庁気象研究所、筑波大学、東京大学、国立環境研究所及び総合地球環境学研究所の研究グループは、産業管理外来種として里山管理の脅威となっているモウソウチクとマダケの生育に適した環境が温暖化によってどれくらい拡大するか予測しました。本研究は、竹林の分布を、広域の現地調査に基づいて予測すると共に、気候変動の影響を推定した日本で初めての報告です。
本研究結果は、10月18日にEcology and Evolution誌(電子版)に掲載されました。
本研究は、文部科学省気候変動リスク情報創生プログラム、気候変動適応技術社会実装プログラム(SI-CAT)、環境省環境研究総合推進費(S-15-2)及び日本学術振興会科研費(17H03835)の支援を受けて行われました。

<研究の背景>
モウソウチク(孟宗竹)は18世紀に、マダケ(真竹)は竹取物語が書かれた10世紀より以前に中国から日本に移入され(注:かぐや姫が入っていたのはハチク(淡竹)とする説や、マダケやハチクは日本原産とする説もあります)、伝統的な食料や竹材として利用されてきました。現在日本には15万9千ヘクタールの竹林があり、その99%がモウソウチクとマダケで構成されています。1970年代以降にはタケノコの輸入自由化や農家の高齢化に伴って竹林の管理放棄が進みました。特に成長の早いモウソウチクはタケノコから約1か月で20mもの高さに達し、周りの植物を日陰にして枯らしてしまいます。放棄竹林は年に最大3~4mの速さで拡大し、周りの植生を飲み込んでいくことから、里地里山管理の上で最大の問題点とも言われています。
現在、モウソウチクを始めとするマダケ属のタケは、環境省と農林水産省が作成した生態系被害防止外来種リストで産業管理外来種(産業又は公益的役割において重要であるが、利用上の留意事項が求められるもの)に指定されています。マダケ属は温かい地域が原産だと考えられており、放棄竹林は現在では主に西日本で問題となっていますが、気候変動・温暖化が進むと、東日本や北日本でも竹林が定着し、分布地域が拡大することで、地域の生態系・生物多様性や里山管理に悪影響を及ぼす可能性があります。

<研究の内容>
そこで、髙野宏平(東北大学大学院生命科学研究科 研究員、森林総合研究所 特別研究員、現 長野県環境保全研究所 技師)、日比野研志(気象庁気象研究所、筑波大学、東京大学生産技術研究所 特任研究員)、沼田絢香(東北大学理学部 卒業生)、小黒芳生(東北大学生命科学研究科 研究員、森林総合研究所 特別研究員)、饗庭正寛(東北大学大学院生命科学研究科 助教)、塩竈秀夫(国立環境研究所 主任研究員)、高薮出(気象庁気象研究所 環境応用気象研究部 部長)、中静透(東北大学大学院生命科学研究科 教授、総合地球環境学研究所 特任教授/プログラムディレクター)の研究グループは、2012年に東日本のアメダス145カ所の半径5km以内で竹林の有無を調べ、アメダスの気象データや周辺土地利用データから複数の統計モデルを検討し、モウソウチク・マダケの生育に適した環境を推定しました。その結果、年平均の気温と日射量によってタケの分布を93%の正答率で推定することができました。
さらに、気象庁気象研究所の大気気候モデル(MRI-AGCM)と、特に対策が取られなかった場合の温室効果ガス排出シナリオ(RCP(代表的濃度経路)8.5)を用いて、現在から21世紀末にかけてタケの生育に適した環境の分布がどのように変化するか予測しました。その結果、1980-2000年には東日本(北緯35度以北、東経136度以東:図2の範囲)でモウソウチクとマダケの生育に適した土地の割合は35%であったのに対し、日本の平均気温が産業革命前に比べて1.5℃上昇した場合には46~48%、2℃上昇では51~54%、3℃上昇では61~67%、4.0℃上昇した場合には77~83%まで増加し、北限は最大500km進んで稚内に到達すると予測されました。

<結論>
これらの結果は、地球温暖化を1.5℃に抑制するパリ協定の目標が、温暖な生育環境を好む外来種の分布拡大を抑制するために、一定の効果を持っていることも示しています。一方で、モウソウチクもマダケも種子から定着して竹林になった報告はなく、人が植えなければ新たな土地に定着することはないと考えられます。そのため、温暖化がある程度進んでしまった場合にも、外来種被害予防三原則である、入れない・捨てない(管理放棄しない)・拡げない(タケを新たな土地に定着させない)といった管理と対策を、地域住民と行政が一体となって進めることが重要です。このように、気候変動対策においては、温暖化そのものを抑制する温室効果ガスの削減(緩和策)と、気候変動が進んでしまった場合の適応策の両方を進めていく必要があります。

○発表雑誌
雑誌名:Ecology and Evolution
論文タイトル:Detecting latitudinal and altitudinal expansion of invasive bamboo Phyllostachys edulis and P. bambusoides (Poaceae) in Japan to project potential habitats under 1.5°C-4.0°C global warming
著者:Takano KT, Hibino K, Numata A, Oguro M, Aiba M, Shiogama H, Takayabu I, Nakashizuka T.

○発表機関
東北大学 大学院生命科学研究科
長野県 環境保全研究所
森林研究・整備機構 森林総合研究所
気象庁 気象研究所
東京大学 生産技術研究所
国立環境研究所
総合地球環境学研究所

○問い合わせ先
<研究に関すること>
(論文全体に関すること)
長野県 環境保全研究所 自然環境部
髙野 宏平(たかの こうへい)
Tel:026-239-1031

(タケの生態・適応策に関すること)
東北大学 大学院生命科学研究科 総合地球環境学研究所
中静 透(なかしずか とおる)

(生態系モデリングに関すること)
東北大学 大学院生命科学研究科
饗庭 正寛(あいば まさひろ)
Tel:022-795-6696

森林総合研究所
小黒 芳生(おぐろ みちお)

(気候モデルに関すること)
東京大学 生産技術研究所
特任研究員 日比野 研志(ひびの けんし)
Tel:03-5452-6382
研究室URL:http://hydro.iis.u-tokyo.ac.jp/~kei/lab/

国立環境研究所・地球環境研究センター
塩竈 秀夫(しおがま ひでお)
Tel:029-850-2252

気象庁気象研究所 環境応用気象研究部
高薮 出(たかやぶ いづる)

資料

 fig1.png

図1 里山の雑木林に侵入していく竹林(神奈川県逗子市)

 
fig2.png

図2 竹林の生育に適した環境だと予測された地域(着色部分)

動画 モウソウチクとマダケの生育に適した環境が拡大する様子(生産技術研究所 日比野研志氏提供)

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