ニュース
ニュース
トピックス
ブロックチェーン技術のオープンな国際産学連携グループBASEアライアンスを設立

東京大学 生産技術研究所 ソシオグローバル情報工学研究センターおよび慶應義塾大学 SFC研究所は、今後の情報システムの技術基盤として期待されるブロックチェーン技術のオープンな国際産学連携グループである、「BASEアライアンス」を設立しました。

ブロックチェーン技術は、暗号通貨Bitcoinの誕生により生まれ、さまざまなデジタル通貨を生み出すだけでなく、公開された分散型台帳という特性を活かした応用が多様な分野で検討されています。ブロックチェーン技術を基盤として用いるためには、オープンな議論の元、改善されていく必要があります。また、研究開発や実験実証をする場が必要です。
このような見地から、ブロックチェーンの研究を、オープンな議論・研究開発・実証実験により、国際的な産学連携によって推進する事を目的とした、BASEアライアンスを設立いたしました。
BASE という名前は、Blockchain Academic Synergized Environment の頭文字をとったもので、ブロックチェーンの学術研究環境における産学連携のシナジーを意図したものです。

■ BASEアライアンスの活動概要
BASEアライアンスでは、大学の教員・研究者を中心とする学術系のメンバーと、ブロックチェーン技術に興味を持つ企業を中心とする企業会員が、相互に連携しながら、研究開発・実証実験・コミュニティ醸成を推進します。
BASEアライアンスでは、今後の具体的な活動として、下記の項目を中心に研究活動を実施する予定です。
- ブロックチェーン技術全般についての研究開発
- ブロックチェーンを用いたアプリケーションの研究開発
- 既存および実装したブロックチェーン技術を用い、実験実証するテストベットの構築、運用、および、その研究
- 国際的産学連携コミュニティの醸成
これらの活動を中心とし、個別のテーマごとにグループを設置する予定です。
また、必要に応じて、各標準化団体とも協調し、相互にフィードバックを行うことにより、世界的な標準化活動への寄与・貢献も進めてまいります。

■ アライアンス構成メンバー(順不同)
(運営・研究メンバー)
伊藤 穰一 慶應義塾大学 SFC研究所 主席所員 / MIT メディアラボ所長
松浦 幹太 東京大学 生産技術研究所 教授
村井 純 慶應義塾大学 環境情報学部 教授
松尾 真一郎 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授 /
東京大学 生産技術研究所 リサーチフェロー /
MITメディアラボ 所長リエゾン(金融暗号)
岸上 順一 室蘭工業大学大学院 教授 / 慶應義塾大学 訪問教授 / W3Cアドバイザリーボード
鈴木 茂哉 慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科 特任准教授
林 達也   慶應義塾大学SFC研究所所員 ブロックチェーンラボ 研究員

■ 発起人からのBASEアライアンス設立におけるメッセージ
<慶應義塾大学 SFC研究所 主席所員 / MIT メディアラボ所長 伊藤 穰一>
The internet transformed telecommunications, computation and, eventually almost every industry in the world using a wholly new architecture built on layers of standards like the Ethernet, TCP/IP and HTTP/HTML that work together and fall under no one's control. That architecture allowed an unbundling that didn't exist before the Internet, when telecommunications companies had monolithic control over everything from the wires and hardware to software and content.
It gave entrepreneurs and companies the ability to build products and services at each layer, creating an explosion of innovation among and between the protocols that required no "permission" from a teleco or government. Innovators could freely participate in that ecosystem, and they created businesses and tools that no one had ever imagined before.
A similar open architecture is now emerging with the blockchain, which is unlocking the layers of protocols controlled by the financial industry, and entrepreneurs are already building previously unimagined services and businesses among those layers. As with the Internet, the standards that govern the blockchain will best be developed by multiple stakeholders and centered in academic institutions and research labs. My hope is that BASE becomes one of the key players building an architecture for the blockchain that is as free and flexible as the architecture of the internet.

(日本語訳)
インターネットは、Ethernet、TCP/IP、HTTPとHTMLのような標準のレイヤーの上に構築された全く新しいアーキテクチャを使い、全体をコントロールする人がいないようにすることで、通信、コンピューティング、そして最終的には世界中のほぼ全ての産業の形を変えました。このアーキテクチャは、通信会社が通信路、ハードウエアからソフトウエアとコンテンツまでの全てを統一的に管理していたインターネット以前には存在しなかった技術のアンバンドリングをもたらしました。
インターネットは起業家と企業にそれぞれのレイヤーにおいてプロダクトとサービスを構築する機会を与え、通信会社や政府の「許可」なしに、複数のプロトコルを介したイノベーションの爆発を作り出しました。イノベーターはこのエコシステムに自由に参加することができて、以前には誰も想像ができなかったビジネスと道具を作り出しました。
同じようなオープンアーキテクチャがブロックチェーンによって新たに出現しようとしています。ブロックチェーンは、金融産業によってコントロールされていたプロトコルのレイヤーを解き放ち、起業家は、以前では想像もできなかったサービスとビジネスを、これらのレイヤーの間にすでに作りつつあります。インターネットがそうであったように、ブロックチェーンを統治する標準は、一番には複数のステークホルダーによって開発され、学術機関と研究機関がその開発の中心となるでしょう。インターネットのアーキテクチャと同じくらい自由で柔軟性のあるブロックチェーンのためのアーキテクチャの構築を行うキープレーヤーの1つに、BASEアライアンスがなることが私の願いです。

<東京大学 生産技術研究所 教授 松浦 幹太>
情報セキュリティの確保とは、そもそも何でしょうか。それは、これまで、情報セキュリティの基本要素である秘匿性・完全性・可用性に関する品質管理を徹底することとして概ね理解できました。しかし、今、それぞれのアプリケーション固有の信頼関係を守ることが強く求められるようになっています。精査を経ない技術も、持論の押しつけに過ぎない運用も、真の守りにはなりません。BASEの指向する研究開発と実証実験体制が、情報セキュリティ分野に必要とされる所以です。
信頼関係を左右する人や組織の行動原理、とくに情報セキュリティに関するそれを科学的に探求するアプローチとして、情報セキュリティ経済学があります。その国際的な研究コミュニティが結成されてから、15年ほどが経過しました。ブロックチェーンに期待される信頼関係基盤の技術を支えるインターネット工学や暗号学等に比べれば歴史は浅いですが、技術と異なる層でも地に足のついた研究をできるようにしたインパクトは大きいと言えるでしょう。仮想通貨への応用を考える場合には、情報セキュリティ経済学の役割はさらに大きくなります。BASEの指向する研究開発と実証実験体制の中で、情報セキュリティの総合的な研究にかかる期待が大きい所以です。
ブロックチェーンのような基盤を持続的に活用するためには、情報セキュリティへの取り組みが、疲弊するばかりの消耗戦と見なされる状態であってはなりません。正当な利用者の生産性を高め、社会の活力を増し、幸福をもたらすべきものです。関心のある当事者が集うBASEというアライアンスを我が国で始めるにあたり、この理想を現実的な目標として意識せずにはいられません。

<慶應義塾大学 環境情報学部 教授 村井 純>
誰にでも使われ、どこでも使われるような社会の基盤となるテクノロジーは、関心のある当事者によってオープンに議論をすすめ、開発される必要があります。また、開発されたシステムは運用され続け、冷静で公平な評価を行い、改善されていく必要があります。
インターネットが社会の基盤となった現在、インターネット上に分散するデータの信頼できる流通の仕組みを形成するプラットフォームが必要です。BASEは、ブロックチェーンのような基盤が、多様な応用のためのデータプラットフォームとなるための研究開発と実証実験を国際的な産学ネットワークで推進する体制です。
このような体制は、インターネットの黎明期に活発に推進されていました。WIDEプロジェクトは産学のエンジニアを有する組織が連携し技術標準と研究開発を行い、実証実験としてインターネットの運用を担いました。また米国で発祥したInteropというイベントは、分散して行われた開発の相互運用性試験を通じた開発者と運用者のコミュニティの形成を担いました。ブロックチェーンから発展する新しい情報流通基盤への要求と期待を多様なサイエンティストやエンジニアを交えて実現するために、BASEとしての活動体制を開始しました。ここでの活動が未来のインターネット社会に貢献することを期待しています。

月別アーカイブ