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【記者発表】2つの機能を併せ持つ新しい触媒材料の合成に成功

○発表概要
公立大学法人大阪府立大学(理事長:辻洋)の研究チーム(山田幾也テニュア・トラック講師、池野豪一テニュア・トラック講師、塚崎裕文研究員、森茂生教授ら)、国立大学法人東京大学(総長:五神真)生産技術研究所の八木俊介准教授、公益財団法人高輝度光科学研究センター(理事長:土肥義治)の河口彰吾研究員、冨士ダイス株式会社(代表取締役社長:西嶋守男)の和田光平氏らは、酸素の還元・発生という2つの電気化学反応に対して優れた触媒特性を示すマンガン酸化物の合成に成功しました。酸素の還元・発生は、次世代蓄電池として開発が行われている金属・空気二次電池の充放電を担う電気化学反応です。金属・空気二次電池の実用化にあたり酸素の反応を効率的に制御することは不可欠であり、将来の材料開発の指針構築へ繋がる成果となります。

○発表のポイント
◆安価なマンガンの酸化物が、金属・空気二次電池の充放電を担う2つの電気化学反応(酸素の発生と還元)において優れた触媒特性を示すことを明らかにしました。
◆四重ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造において、従来のマンガン酸化物と比べて性能(酸素発生反応に対する触媒活性)が最大で約30倍に向上することが分かりました。
◆酸素の還元・発生という両方の電気化学反応に対して高い触媒性能をもつため、金属・空気二次電池の実用化に大きく貢献します。

1.研究の背景
次世代蓄電池の一つとして現在開発が行われている金属・空気二次電池では、放電・充電プロセスにおいてそれぞれ酸素の電気化学反応(酸素還元・酸素発生)注1が起こります。いずれの反応も触媒を用いることで高い効率でのエネルギー変換が可能となりますが、現在利用されている触媒材料では、高価な貴金属元素(白金、イリジウム、ルテニウムなど)を主成分としています。また、酸素の還元反応と発生反応に対してそれぞれ有効な触媒材料が異なるため、通常は2種類以上の触媒材料を必要とします。このため、安価な原料から構成され、なおかつ酸素の還元・発生の両方の反応に対して高い性能を持つ触媒(二機能性触媒)注2が求められており、世界中で研究・開発が進められています。マンガンの酸化物の多くは酸素還元反応に対して高い触媒作用を持ちますが、酸素発生反応に対してほとんど触媒作用を示しません。マンガンの酸化物に、酸素発生反応の触媒特性を付与することができれば、安価な二機能性触媒材料としての応用の可能性を見出すことができますが、そのような酸化物はこれまでに見つかっていません。

2.研究の内容
本研究では、さまざまな構造を持つマンガン酸化物の触媒特性を調べたところ、四重ペロブスカイト酸化物注3の一種であるCaMn7O12とLaMn7O12図1・結晶構造参照)が、酸素還元・発生のいずれの反応においても高い触媒性能を示すことを発見しました。酸素還元反応に対してはマンガン酸化物に共通して高い触媒活性を示しましたが、酸素発生反応に対して高い触媒特性を示したのは、上記の四重ペロブスカイト酸化物だけでした(図2)
酸素発生反応に対する高い触媒活性の起源を調べるために電子状態を理論的に解析したところ、従来型のペロブスカイトと四重ペロブスカイトで電子状態に大きな違いは見られませんでした。そこでSPring-8注4のBL02B2ビームラインで放射光X線回折データを収集し、リートベルト解析によって精密化した結晶構造に着目して反応メカニズムを検討したところ、四重ペロブスカイトでは吸着物の酸素原子同士が近づくことによって、従来型のペロブスカイトでは起こらないタイプの反応メカニズムが生じている可能性があることが分かりました(図3)。実際に、結晶構造中の隣り合うMn原子間の距離と触媒活性に強い相関があることを示し、結晶構造を変化させることで材料の特性を劇的に向上させることが可能であることを実証しました(図4)

3.今後の展開
今回の成果に基づき、現在、産学協同でエネルギー変換材料の研究開発を進めております。四重ペロブスカイト酸化物の多くは合成・製造において数万気圧の超高圧が必要なため、通常の合成法に比べてコストが高いという難点があります。一方、CaMn7O12は大気圧条件でも合成できることから、安価で大量に製造することができます。今後さまざまな関連化合物の探索と合成手法の開発を進めることで、実用材料としての展開可能性を検証する予定です。

4.研究助成資金等
本研究は、科学研究費補助金・基盤研究(B)(研究代表者:山田幾也、八木俊介)・新学術研究「ナノ構造情報のフロンティア開拓-材料科学の新展開」(研究代表者:池野豪一)、東レ科学振興会(研究代表者:山田幾也)、文部科学省・若手研究者の自立的研究環境整備促進「地域の大学からナノ科学・材料人材育成拠点」プログラム(大阪府立大学)からの支援を受けて行われました。

○発表雑誌
雑誌名:Advanced Materials
論文タイトル:Bifunctional oxygen reaction catalysis of quadruple manganese perovskites (四重マンガンペロブスカイトの二機能性酸素反応触媒作用)
著者: 山田幾也1,藤井央2,高松晃彦2,池野豪一1,和田光平3,塚崎裕文2,河口彰吾4,森茂生2,八木俊介5
 (1大阪府立大学 ナノ科学・材料研究センター、2大阪府立大学 大学院工学研究科、3冨士ダイス株式会社、4高輝度光科学研究センター、5東京大学 生産技術研究所)
DOI番号:10.1002/adma.201603004
アブストラクトURL:http://dx.doi.org/10.1002/adma.201603004

○問い合わせ先
公立大学法人大阪府立大学
21世紀科学研究機構 ナノ科学・材料研究センター
テニュア・トラック講師 山田 幾也
TEL: 072-254-9817

東京大学生産技術研究所 持続型エネルギー・材料統合研究センター
准教授 八木 俊介
Tel:03-5452-6327
研究室URL:http://www.yagi.iis.u-tokyo.ac.jp/


資料


 
図1

図1 四重ペロブスカイトAMn7O12と従来型ペロブスカイトAMnO3の結晶構造 (A = Ca, La)。四重ペロブスカイトではA'・Bの両方のサイトにMn原子が存在し、従来型ペロブスカイトとは異なる反応メカニズム(図3)を生じると推測されます(結晶構造描画プログラムVESTA-3を用いて作製)。


 
図2

図2 酸素発生反応における触媒活性の比較。四重ペロブスカイト酸化物CaMn7O12・LaMn7O12は、従来型ペロブスカイト酸化物CaMnO3・LaMnO3と比べて過電圧が低く、かつ同一の電位における電流密度が高いため、高い触媒活性を有していることがわかります。


 
図3

図3 四重ペロブスカイト酸化物の結晶表面における酸素発生反応のメカニズム。隣り合うMn原子間の距離が近いため、酸素-酸素間の結合(O-O結合)が形成され活性化エネルギーの低い反応経路をたどると推測されます。


 
図4

図4 隣り合うMn原子間の距離と酸素発生触媒活性の相関。四重ペロブスカイト酸化物では適切なMn原子間距離(約0.32 nm)を持ち、図3の反応メカニズムが支配的になるため、活性が高まると推測されます。

用語解説

注1) 酸素発生反応・酸素還元反応
燃料電池などの充電・放電において生じる反応の一部であり、酸素発生反応と酸素還元反応は互いに逆の反応です。いずれの反応においてもエネルギー損失の原因となる過電圧が存在するので、高効率で反応を進行させるためには、触媒を用いて過電圧を下げる必要があります。充放電可能な燃料電池、金属・空気二次電池では同一の電極で両方の反応が交互に起こるため、それぞれの反応に適した触媒を必要とします。

注2) 二機能性触媒
酸素発生反応と酸素還元反応の両方に対して高い触媒特性を持つ材料を二機能性触媒(bifunctional catalyst)と呼びます。通常は2種類以上の触媒材料を合わせて使用する必要がありますが、二機能性触媒では1種類の触媒が両方の反応を促進します。電極構造の単純化・コスト削減などの利点があるため、現在世界中で精力的に開発が進められています。

注3) 四重ペロブスカイト酸化物
ペロブスカイト酸化物(従来型のペロブスカイト酸化物・化学式:ABO3)は、金属酸化物で広範に見られる結晶構造です。A・B(Aサイト・Bサイトと呼ばれます)にそれぞれ異なる種類の金属元素が存在し、主にBサイトに含まれる遷移金属元素が機能の発現を担っています。四重ペロブスカイト酸化物はAA'3B4O12の化学式で表記され、単純ペロブスカイトの4倍の化学式で表記されることが、名称の由来となっています。四重ペロブスカイトCaMn7O12、LaMn7O12は、A'・Bサイトがいずれもマンガンで占められた化合物です。

注4) 大型放射光施設 SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある、理化学研究所が所有する放射光施設で、その運転管理はJASRIが行っています。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来します。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことです。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究を行っています。

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